17 羊の群れ
ヒドイシーンが続いてます。
私は言いたい。
誰かて自分がかわいいやん。幸せになりたいやん。と……。
わたしの右隣りの女の子は今の状況にパニくっていて、髪で拘束されているにも関わらず、もがき逃げようとしていた。
だから私が髪を切って拘束を解いてやると、「うえっ」とか声を漏らしつつ、弾かれるように転がった。
おそらく、何が起きたのか理解できていないのだろう。
暗いのでその表情までは確認できないが、私の手で自由を得た彼女が身を起こす気配がして、柱に響くずんどこ音が止まった。
「ほう」
感心したような少年の声。
「自分の髪を切り裂いて逃れるとは潔いな。気に入った」
「ヒッ」
動く。
ここからでは、彼女が何を見たかはわからないが、息を呑むような悲鳴は恐怖に彩られ、弾けるように地を蹴った。
「フッ……面白い」
動く気配はもう一つ。
少年は逃げた彼女を追って、ゆっくりと歩きだした。
やっぱりこういう場合、動く者があったら追いかけるよね、とか頷きながら、生贄ヒツジとなってくれた彼女に軽く感謝する。
これで少しは時間が稼げるだろう。
私は、少年の気配が離れるのを待って行動した。
あの少年はもちろん、他の拘束された女子たちにも気取られないよう慎重に、自分を拘束している髪を切り落とし、少し自由になった状態で、モーションを最小に留めながら、他の女の子たちの髪を切り落としていく。
できるだけすばやく、犯人が特定されないような順番で。
え? 髪は女の命?
ははっ、それってどこの宗教用語?
自分一人が自由になったのでは、今野獣に追いかけられている彼女みたいに、標的にされるだけだ。
私は全員を自由にしてから、そのままの体勢で誰かが動くのを待った。
「ひぇ……なん……」
「髪が……もういやぁーーーーーっ、ああああーーーーーー、助けてー助けてー」
「あっち、出口かも……い、行こうよ」
混乱する者、パニックを起こす者、明かりの差し込む場所に気付いて建設的な意見を出す者。
反応は人それぞれだけれど、建設的な意見に私も賛成だ。あれがそのまま出口である可能性は低いだろうが、罠であったとしても、確かめる価値はある。
パニクっている子はともかく、少しでも冷静さのある子たちは出口と思われる光を目指し、私もそれに従った。
弱い草食獣が群れるのは、自分の身を守るためである。
わかりやすく言うと、隣のヤツが喰われている間は自分は喰われないという法則だ。こんな状況で群れから逸れるなど、あり得ない。
ほとんどの者が右へ倣えで光の方へ向かって、その扉らしきものに突進した。
ガィン。
返ってきたのは金属が張りつめ震える音。
見ると、鉄製扉の取っ手に極太のチェーンが絡みついて、ガチガチに繋ぎとめられている。
「そんな……」
先頭をきって扉を目指した子が、愕然と呟いた。
カツ、カツ、カツ、カツ、カツ、カツ、カツ、カツ。
そこへ、足音が近づいてくる。
全員の髪を切り裂いて、誰かが動くのを待って、扉まで移動して、それなりに時間がかかっていた。
生贄ヒツジで稼いだ時間は、もう使い果たしたということだ。
「残念だったな」
光に照らされて確認したその姿は、まだ幼い少年だった。
予想した通り年は5、6歳。
深淵を思わせる闇色の髪に、射るように鋭いラピスの瞳、幼いその顔には酷薄な笑みを貼りつけて、その服装は、上質な生地を金糸銀糸で飾り立てた、眩い王族の着るような衣装だった。
なのに……。
戦慄するしかない。
その下半身は何もつけておらず、その中心は情欲にまみれ、たぎっていた。
まだ幼い小さな体にあって、なんという異質だろう。
どこからともなくアンモニア臭がして、ゾッっとした私は、その場に崩れ落ちた。
主人公は結構鬼畜です。だってビッチだし。




