13 記憶
何が気持ち悪いのか。
私にはよくわからなかったが、エルスは即座にピンときたようだった。
「だから……俺たちだと?」
「まぁね。百歩譲って前世の記憶を持つ人間が、たまに誕生するのはいいとして、自分の子供が知っているヤツってのはどう考えてもおかしいだろ? さらに前世の記憶を持った人間が現れて、それが二人セットで自分のよく知っている連中を思いださせる行動をとっている。おかしいと思うのが普通だろ?」
私達と番長の距離は近い。幼稚園の頃から知り合いで、それからずっと死ぬまで、友達、からの、親友だったから、ストーカーとそのツレってだけで私たちに直結するのは無理からぬことだろう。
最終的に私は、ストーカーに殺されて散ったわけだし、印象度はきっと高い……。
「とはいっても、ここに来た理由の半分は、単身乗り込もうとするユウシャを止めるためだから、確信とまではいかなかったんだけどね、ま、二人の顔見たらスルッと迷いがなくなったよ。いつも傍で見てた二人の距離感が、そのままだったからね」
私とストーカーの距離感は独特だ。
ストーカーがまとわりついてくるから肉体的な距離は0に近いのに、二人の心には壁がある。私は殺されたくないし、ストーカーは、私をまったく信じていない。
それが、ふとした動作や、表情の中に出るのだろう。
「それでさ、どうせ何も考えてないであろうリオナはいいとして、エルスは思うところあるだろ?」
ちょっ、
「何も考えてないって、何がよ」
さっきからちょこちょこ意味のわからない言葉をはさむけど、なんなのよ。
「…………答え、言ってもいい?」
っ!
「いや、待って! 今考えるから」
ヤバイ。エルスはわかっているみたいだし、このまま答えを聞いたら、私が何も考えていないことが証明されてしまう。
「いいんだけどさ、アンタがそんなだから、エルスも救われてるんだろうし」
「ビッチはバカだから」
くぅ、今はバカを否定できない。
がんばれ私の灰色脳みそ!!
えーと、だから、長く生きてても前世の記憶を持つ人間には滅多に会えないって話よね。
それがよりによって、知り合いばかりっていうのは……。
「魂の距離が近いから、何度転生しても知り合いになるってこと?」
怪しい怪奇系雑誌で読んだような知識を披露してみる。
「お、新説きたね」
「記憶全然関係ないし」
番長がからかい、エルスが吐き捨てるように突っ込んだ。
ひどいよ、二人とも。
うらみがましく番長を見つめると、番長は苦笑して、ヒントをくれた。
「あのさリオナ、アンタ輪廻転生をどう思う?」
「え?」
輪廻転生って、今の状況のことよね?
死んでも魂が消えなくて、新しい命になって新しい体に転生する、みたいな。
「洗脳や催眠術と比べて、どっちが現実的だと思う?」
洗脳? 催眠術?
「蝶になった夢を見た男がいた。
目覚めた男は考えた。
俺は蝶の夢を見た人間なのだろうか。
それとも、人間になった夢を見ている蝶なのだろうか」
エルスがますますややこしいことを言う。
蝶になった夢を見た。
夢の中の自分は、それが夢だと気付かない。
前世のことは遠い記憶として思いだしたけれど、それが赤ん坊の頃に見た夢なのだと言われれば、否定するのは難しい。
また、この記憶にある科学知識を信じるなら、輪廻転生なんていうオカルトより、洗脳や催眠術といった外的要因で植えつけられた記憶と考えた方が、現実的だ。
「つまり、前世の記憶を前世の記憶だと妄信するのは、おかしい……てこと?」
「それもあるけど、アタイらがまとめて前世の記憶を取り戻したってことには、作為的な何かを感じる、ってことさ」
作為。
それが催眠術や洗脳なら、それを仕掛けた人間の思惑が存在する。
それが夢なら、夢を見ているもの、あるいは夢を見せているものが、ストーリーを組みたてる。
「……たとえそうだとして、それで、誰が得するってんだよ」
「アタイにそれを聞かれてもねえ」
ただ、と番長は続けた。
「アタイ的にはこれが本当に前世の記憶であるのは、ちょっと嫌な感じがするよ。輪廻転生があって、転生時にそんな小細工をできる存在が実在する、ってことになるからね」
それは神か、あるいは、悪魔かもしれない。
「だからアタイとしては、おかしな魔法師だかの遊びとかってオチがいいと思うんだけど、アンタらはどう思う?」
たしかに神様とか、眉つばすぎる気がした。
押井守監督作品は大好きです! 「何が本当で……」




