12 姫
番長。
それは前世における私の親友だ。
小さい頃から女ガキ大将だった彼女は、中学に上がって不良どもをのし、番長と呼ばれるようになった。
当然最初は嫌がっていたが、そのうちすっかり定着してしまって諦めた。というか、『勇者』とかいうあだ名の人間もいたような環境で、『番長』程度は我慢しようというになったらしい。
「しかし、ユウシャから聞いた時はまさかと思ったけど、本当に『姫』と『ストーカー』だったんだね」
『姫』というのは私のあだ名で、『ストーカー』はストーカーのあだ名だ。
当時、あだ名は悪意のスパイラルで、みんなとんでもなかった。
自分のあだ名がとんでもないもので、他の人についた不名誉なあだ名も逃さないスパイラル。
『番長』『勇者』『姫』『ストーカー』、普通に酷い。
ちなみに私の『姫』は、小学校の運動会の時、100メートル走でこけた私を、ストーカーが競技無視して駆け付けて、お姫様だっこして救護ブースに運んだことに由来する。
「ってゆうか、ユウシャ……からって……え?」
なんで番長の口からユウシャの名前が……。
それにユウシャから聞いたってことは、ユウシャも私達に気づいて……。
「ああ、ユウシャは私の息子だからね」
「んな!!!」
サラッと言われた言葉に絶句する。
「ああ、あと、ユウシャはアンタらのことに気付いちゃいないよ。ただ、前世の記憶を持っているらしい姉弟に会ったとか、そんな話を聞いただけ」
番長が説明を続けて、その内容事態は、真実なら好ましい話ではあるんだけれども、それより前に、ユウシャが番長の子供だってのが、まだ飲み込めない。
「なんで……『勇者』と親子になんか……」
「産んじまったもんはしょうがないだろ」
いや、まあ、そりゃそうなんですが……。
「アタイだって、あんなのが子供とかカンベンしてほしいケドさ、まあ、旦那と二人で頑張った結果、死に急ぎ癖は少しマシになってるし、今回も聞き分ける程度の分別はあったから、それなりにわが子として見れるようにはなってんだ。
……って、そんなことはいいんだけどさ、エルス、アンタ沈黙が恐いよ」
番長はさっきから押し黙っているエルスに話を振った。
私も、動転してエルスの沈黙に気付かなかったことに冷や汗しながら、エルスの言葉を待つ。
仕方なくというように、エルスが口を開いた。
「……ユウシャって、誰なのかな?」
笑顔だった。恐かった。
うん、そういえばあの時は、名前を名乗るとかなかったよね。
といってもたぶん察しはついているんだろうけど、私の口から言わせたいのか。
「えと……あの、町でその……」
「ああ、ビッチが宿屋に連れ込んでたアレか」
「いや、連れ込んだとか連れ込まれたとかじゃないからね!」
「で、それが誰だって?」
「…………」
「さっき、発音がおかしかったよね。勇者?」
耳ざとい!
「そうだよ。アタイの息子のユウシャは勇者だ。アンタらと同じ、前世の記憶を持っている」
番長が簡単に肯定してのける。
ここは誤魔化そうよ! 発音ひとつのことなんだし、誤魔化せるよ、ねえ!
「ちなみに、アタイは勇者に会うまで、前世の記憶を持ったヤツに会ったことはない」
番長が言葉を続ける。
「どうだい? 気持ち悪いだろ」
うん?
不思議なことに、エルスは怒気を放ったりはしていなかった。
そのかわり底暗い、沈むような冷たい空気が場を満たして、私は理由もわからず不安になった。
主人公も呼び名がないと不便だったので急きょつけました。まあ主人公が『姫』とか、わかりやすいかなぁ、って感じで。




