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第7話 チーム任務


 ARC本部。


「今日は紹介する人がいるわ」


 美琴さんがそう言った。


「また新人?」


 炎場が言う。


「……俺や紬が入ってから、まだそんなに経ってねぇぞ」


 俺は美琴さんを見る。


「スカウトする頻度、高くね?」


「いい人材は、見つけた時に声をかけるの」


「そういうもんなのか……」


「すっかり先輩だな」


 横から結人が口を挟む。


「どこがだよ」


「後輩増えてるだろ」


「…………」


 全然そんな気しねぇ。


「入って」


 美琴さんが声を掛ける。


「はい」


 扉が開いた。


 入ってきたのは、俺と同じくらいの年の女の子だった。


 淡い桃色の長い髪。


 柔らかい雰囲気で、少し緊張しているようにも見える。


「紹介するわ。少し前から私が声をかけていた子よ」


 女の子が俺たちを見る。


 そして、小さく頭を下げた。


「初めまして」


 一度、息を吸って――


「守谷鈴音(もりやすずね)です。よろしくお願いします」


「よろしくな!」


 真っ先に炎場が答える。


「声でけぇよ炎バカ」


「誰が炎バカだコラ!」


「初対面くらい静かにできねぇのかよ」


「元気に挨拶して何が悪い!」


「元気すぎるんだよ!」


「ふふっ」


「……?」


 鈴音が小さく笑っていた。


「仲いいんだねぇ」


「「よくねぇ!!」」


 声が重なった。


「息ぴったりじゃねぇか」


 結人が笑う。


「うるせぇ!」


「……で」


 俺は美琴さんを見る。


「守谷の能力は?」


「《防壁》よ」


「防壁……?」


「ええ」


 美琴さんが鈴音を見る。


「詳しいことは、本人の能力を見た方が早いでしょうね」


「…………?」


 どんな能力なんだ?


 名前から、なんとなく想像はつくけど――。


     ◇


 それから数日後。


 俺たちはARC本部に集められていた。


 正面のモニターには、一人の男の写真が映し出されている。


「今回の対象よ」


 美琴さんが説明を始める。


「数日前から、街中で能力を使った破壊行為を繰り返しているわ」


「破壊行為?」


「建物や道路を壊したり、周囲の人間を能力で威嚇したりね。今のところ重傷者は出ていないけれど、このまま放置するわけにはいかない」


 モニターの映像が切り替わる。


 砕けた道路。


 大きく陥没した地面。


 建物の壁には、巨大な岩が突き刺さっている。


「対象は能力に目覚めてから、自分を特別な存在だと思い込んでいるようね」


「……能力手に入れて、調子乗ったってことか」


「簡単に言えば、そういうことね」


 炎場が拳を鳴らす。


「分かりやすくていいじゃねぇか」


「お前、嬉しそうだな」


「分かりやすい相手は好きなんだよ!」


「そうかよ」


 美琴さんがモニターへ視線を戻す。


「確認されている能力は――《岩石操作》」


「岩石……」


「地面や周囲にある岩石を操る能力よ。岩を飛ばすだけじゃない。地面から岩石を引き抜くところも確認されている」


「…………」


 俺は画面を見る。


 《岩石操作》。


 名前だけなら分かりやすい。


 だけど――。


『見えている現象だけで判断するな』


 宗一さんの言葉が頭をよぎる。


 岩を操る。


 それだけだと決めつけない方がいい。


「今回の目的は、対象の確保」


 美琴さんが俺たちを見る。


「任務に向かうのは、朔、和臣――それから鈴音」


「……私も?」


 鈴音が少し驚いた顔をする。


「ええ」


「…………」


 鈴音は一瞬だけ黙る。


 それから――


「分かりました」


 鈴音は小さく頷いた。


 俺は隣を見る。


 鈴音は少し緊張しているように見えた。


 ARCに入って数日。


 これが初めての実戦任務になる。


「大丈夫か?」


「え?」


「いや……緊張してるみたいだから」


「あぁ……」


 鈴音は自分の手に視線を落とす。


「うん。ちょっとだけねぇ」


 そう言って笑った。


「でも、大丈夫よぉ」


「…………」


「ちゃんと、みんなを守るからねぇ」


 ――《防壁》。


 まだ、どんな能力なのか俺は知らない。


 だけど――


 その言葉だけは、妙に迷いがなかった。


     ◇


 数十分後。


 ARCの車両が道路脇に停まった。


「この辺りか」


 俺たちは車を降りる。


 美琴さんから聞いた情報では、対象が最後に確認されたのはこの付近だった。


「で、どうする?」


 炎場が周囲を見回す。


「まず見つけねぇと始まらねぇだろ」


「そりゃそうだけどよ」


「……あ」


 鈴音が少し離れた場所を見る。


「あの人じゃない?」


「……!」


 俺たちもそちらを見る。


 一人の男が立っていた。


 体格のいい、大柄な男。


「……あいつか?」


「たぶんな」


 俺たちは男へ近づいていく。


「おい、そこのごっつい兄さん」


「……あ?」


 男が振り返る。


「近頃、街で暴れてるってのは、あんただな?」


「……なんだ? お前らは」


 俺は男を見る。


「特異能力社会調整機構《ARC》の御影朔だ」


 一歩、前へ出る。


「あんたを確保させてもらう」


「…………」


 男の表情が変わる。


「ちっ……ARCかよ」


 次の瞬間――


 男が地面へ手を向けた。


 ゴゴゴゴゴ……!!


「――ッ!」


 地面が隆起する。


 巨大な岩が飛び出し、俺たちとの間を塞いだ。


「――!」


 男が背を向けて走り出す。


「あっ、待て!」


 俺たちもその後を追う。


     ◇


 しばらく追ったところで、男が足を止めた。


「…………」


 俺も立ち止まる。


 周囲を見回した。


 切り立った岩壁。


 積み上げられた砕石。


 大小さまざまな岩が、そこら中に転がっている。


「……採石場?」


「なんでわざわざこんな場所に……」


 岩。


 岩。


 岩。


「……なるほどな」


 炎場がニヤッと笑う。


「あいつにとっちゃ、ここが全部武器ってことか」


「ククッ……」


 男が笑った。


「ここなら――」


 片手を上げる。


 ゴゴゴゴゴ……!!


 周囲の岩石が震え始めた。


「俺の邪魔できる奴なんかいねぇ」


「…………」


 逃げたんじゃない。


 こいつ――


 最初から、ここへ誘い込むつもりだったのか。


「ARCだろうが何だろうが――」


 男が腕を振る。


「ここじゃ俺の方が上だ!!」


 ドドドドッ!!


 周囲の岩石が一斉に浮かび上がる。


 そして――


 ヒュン! ヒュン! ヒュン! ヒュン!


 大量の岩石が俺へ向かって飛んでくる。


「――ッ!」


 避けようとした瞬間――


 ガキィィィン!!


「……!?」


 目の前で岩石が砕け散った。


「鈴音……!?」


 鈴音が片手を前へ出している。


 その前には――


 透明な壁が浮かんでいた。


「大丈夫?」


「……ああ」


「なら、前お願い」


 鈴音は柔らかく笑う。


「後ろは私が守るからねぇ」


「…………」


 足元には、砕けた岩石が転がっている。


 ――《防壁》。


 こんな能力もあるのか……。


 こいつが後ろにいるなら――


 背中、預けてもいいかもな。


「俺の岩石を防いだだと?」


 男が鈴音を見る。


「なら、これはどうだ?」


 ゴゴゴゴゴゴ……!!


 そこら中の岩石が、男の腕へ集まっていく。


 次々と岩が張り付き――


 男の腕を、巨大な岩の塊が覆っていく。


「ぶっ潰してやる――岩石拳!!」


 男が俺へ突っ込んでくる。


「――!」


「させるかよぉ!!」


 炎場が横から飛び込んできた。


 ゴォッ!!


 炎を纏った拳を振り抜く。


「オラァァァ!!」


 ドゴォォォン!!


 巨大な岩の腕を、炎場の拳が横から殴りつけた。


 衝撃が周囲へ広がり、足元の砂埃が舞い上がる。


「……!」


 男がよろめく。


「おい、朔! 何ボサッとしてんだ!」


「わりぃ。助かった」


「舐めやがって……!」


 男が後ろへ跳ぶ。


 ゴゴゴゴゴゴ……!!


「……なんだ?」


 周囲にある大量の岩石が、一点へ集まり始める。


 岩が岩を巻き込み――


 みるみるうちに、巨大な岩塊と化していく。


「……!」


 鈴音が息を呑む。


「デケェな……」


 炎場が巨大な岩塊を見上げる。


「まとめて潰れろや!!」


 男が両腕を振り下ろす。


 巨大な岩塊が、俺たちの頭上へ飛んでくる。


「私がなんとかする」


 鈴音が俺たちの前へ出ようとする。


「いや」


「……?」


「鈴音、和臣」


 二人を見る。


「お前らのおかげで――」


 迫ってくる岩塊へ視線を戻す。


「あいつの能力はもう十分、分かった」


「…………」


「こいつは俺がやる」


 巨大な岩塊が迫る。


「終わりだぁぁぁ!!」


 岩を操る。


 飛ばす。


 なら――


 やることは同じだ。


 右手を前へ出す。


「……返すぜ」


「反転!!」


 巨大な岩塊が――


 グォン!!


 男の方へ向きを変える。


「…………は?」


 男が目を見開いた瞬間――


 ドゴォォォォン!!


 巨大な岩塊が、男の目の前へ叩きつけられる。


「うわぁぁぁッ!!」


 岩塊が砕ける。


 崩れた岩石が男へ雪崩れ込み、下半身を挟み込んだ。


「ぐっ……!」


 男が身体を動かそうとする。


「くそっ……動けねぇ……!」


 俺は男へ近づく。


「これで――確保だな」


     ◇


「最後だけいいとこ持ってくんじゃねぇ!」


 炎場が絡んでくる。


「勝ったんだからいいだろ」


「俺があの岩野郎止めなかったら、勝てなかったかもしれねぇけどな!」


「はいはい」


「おい、扱い雑じゃねぇ!?」


「ふふっ」


 横で鈴音が笑う。


「……なあ、鈴音」


「?」


「さっき、ありがとな」


 少し照れ臭かったが――ちゃんと言っておきたかった。


「……うん」


「お前の能力……いいな」


「そう?」


「ああ」


「なんていうか……」


「安心して前を向ける」


「…………」


 鈴音は一瞬、驚いたように俺を見た。


 それから、柔らかく笑う。


「じゃあ、ちゃんと守らないとねぇ」


     ◇


 ――数年前。


「やめなよ!」


 一人の少女が、子供の前に立っていた。


「なんだよ、お前」


「その子、嫌がってるでしょ」


 足元には、いくつもの石が転がっている。


 後ろでは、小さな子供が頭を抱えてうずくまっていた。


「関係ねぇだろ!」


 一人が石を投げる。


「……っ!」


 鈴音は目を閉じた。


 それでも、退かなかった。


 子供を庇うように、両手を広げる。


 ――その瞬間。


 キィン――


「……?」


 石が、鈴音に届く直前で止まっていた。


 目の前に浮かんでいたのは――


 小さな、透明の壁。


「…………」


 鈴音自身も、何が起きたのか分からない。


 ただ――


 その小さな壁は、


 鈴音と、後ろの子供を守っていた。


     ◇


「鈴音ー! 帰るぞー!」


 炎場の声が聞こえる。


「はぁい」


 鈴音がそちらへ向かっていく。


 その足元には――


 粉々に砕けた岩石が転がっていた。


――第7話 END

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