第4話 模擬戦
「俺の炎と、お前の能力」
燃え盛る拳を俺へ向けた。
「どっちが強ぇか試してみようぜ」
「…………」
「は?」
何言ってんだ、こいつ。
「ちょっと、和臣。やめなさい」
美琴が呆れたように口を挟む。
「今の話を聞いて、どうしてそうなるのよ」
「……いい」
「え?」
宗一だった。
「やらせてみよう」
「ちょっと、宗一?」
「実際に能力を使った方が分かることもある」
宗一が俺を見る。
「御影」
「……何だよ」
「お前自身、まだ自分の能力を理解していないと言ったな」
「…………」
確かに言った。
「ちょうどいい機会だ」
「いや、俺はまだやるって――」
「よっしゃ!!」
和臣が拳を打ち合わせる。
「決まりだな!」
「人の話聞けよ!!」
……なんで入った初日に、こんなことになってんだ。
◇
――訓練室。
「…………」
広い。
さっきまでいた講義室とは違い、余計なものはほとんど置かれていない。
学校の体育館のような広いホール。
その中央で、俺と和臣は少し距離を空けて向かい合っていた。
「おいおい、マジでやるのかよ?」
結人が不安そうな顔で俺たちを見る。
「ちょっと、和臣! あまり新人をいじめるんじゃないわよ!」
透花が横から声を飛ばした。
「うるせぇ! 外野は黙ってろ!」
和臣が俺を見て、ニヤリと笑う。
「なぁに、ちょっとこいつの能力を見せてもらうだけだ」
「……面倒くさい奴だなぁ。暑苦しいし」
「誰が面倒くさくて暑苦しい奴だゴラァ!!」
「静かに」
宗一の声で、和臣が黙る。
「今から双方の能力を使った模擬戦を行う」
宗一が俺と和臣を順番に見る。
「ただし、あくまで模擬戦だ。どちらかの身に危険が及ぶと判断した場合は、俺が止める」
一度言葉を切る。
「俺が勝負ありと判断した場合も同様だ」
「お互い、自分の能力で何ができるのかを考えながら戦ってみろ」
「おうっ!」
和臣が気合十分といった様子で答える。
「ああ」
こうなっては仕方ない。
この模擬戦に付き合うしかなさそうだ。
宗一が片手を上げる。
「では――始め!」
「よっしゃあ!!」
開始と同時に、和臣の右手が燃え上がった。
ボッ――!
「まずはお手並み拝見ってとこだな」
和臣が燃え盛る右手を俺へ向ける。
「これでも喰らってみろや!」
ゴゥゥゥッ!!
右手から炎の球が撃ち出された。
一直線に俺へ向かってくる。
和臣の能力が《炎》であることは、もう分かっている。
あのイカれた兄弟――《衝撃》や《空気》の拳を返したときの感覚を思い出す。
俺も右手を前へ出した。
集中する。
ゴゥゥゥッ――!
火球が迫る。
「反転!」
その瞬間――
グンッ!!
俺に向かってきた火球が、空中で軌道を変えた。
「おわっ!?」
そのまま和臣へ。
和臣が咄嗟に身体を傾ける。
火球がその横を抜け――
バァン!!
背後の壁へ激突した。
「…………?」
炎が広がらない。
壁も焦げていない。
不思議に思っていると、美琴が口を開いた。
「この部屋は壁も床も特殊な素材でできているの」
美琴が壁を指す。
「和臣がどれだけ炎を出して暴れようが、火事にはならないから安心して」
「なるほど。すごい訓練室だな……」
「そういうことだ!」
和臣の両手に炎が灯る。
「どんどん行くぜぇ!!」
ゴウッ! ゴウッ! ゴウッ!
次々と火球が撃ち出される。
「反転!」
一発。
「反転!」
二発。
「反転ッ!」
三発。
飛んでくる火球を、すべて和臣へ返す。
だが――
「へっ!」
和臣が身体を傾ける。
一発目をかわす。
「ほっ!」
二発目。
「おっと!」
三発目。
返した火球が次々と和臣の横を通り過ぎていく。
「ハッ! やっぱその程度か!」
「チッ……!」
「返されたって避けりゃいいだけじゃねぇか!」
「…………」
図星だった。
確かに、返すことはできる。
だが――避けられれば意味がない。
「……もういい」
和臣の声色が変わった。
「そろそろ決めるぞ」
「……?」
和臣がゆっくりと腰を落とす。
「俺が――」
床を踏みしめる。
拳を握る。
「能力の使い方ってやつを教えてやるぜ!!」
ボォッ!!
両手から炎が噴き上がった。
「……!」
炎が腕を伝う。
肩へ。
背中へ。
そして――全身へ。
ボォォォォッ!!
和臣の身体が炎に包まれる。
熱気がここまで届く。
俺の前髪が、熱風に揺れた。
「俺はな――」
和臣が拳を握り直す。
炎がさらに激しく燃え上がった。
「燃え上がれば燃え上がるほど、身体能力そのものを上げられる!」
ギシッ――。
踏み込んだ足元から、鈍い音が響く。
「これで終わりだあっ!!」
ドンッ!!
「――ッ!」
一気に距離を詰めてくる。
速い。
さっきまでとはまるで違う。
炎を纏った和臣が、一直線に俺へ迫る。
その瞬間――
さっきの宗一の言葉が、頭をよぎった。
『能力そのものに強弱があるわけではない』
『能力者が自身の能力をどこまで理解し、どのように解釈するか――』
『それによって同じ能力でも、その可能性は大きく変化する』
――考えろ。
能力の……使い方。
俺は今まで、何をやってた?
飛んできたものを――逆向きにする。
衝撃波も。
空気の拳も。
火球も。
全部、飛んできたものの向きを変えて、相手へ返してきた。
でも――
俺の能力は……。
軌道変更じゃない。
「…………」
そうだ。
俺は最初から、自分でそう呼んでいた。
俺の能力は――
《反転》だ。
「オラァァァァ!!」
和臣が迫る。
全身が、燃えている。
――燃えている?
「…………」
待て。
今、あいつは――発火している。
発火――
「…………試してみるか」
俺は和臣を見る。
「オラァァァァ!!」
燃え盛る拳が迫る。
右手を向ける。
発火している状態。
それを――反転するなら。
「――反転ッ!!」
――フッ。
炎が、消えた。
「…………」
「…………」
「…………は?」
さっきまで全身を包んでいた炎が、跡形もなく消えている。
勢いだけが残った和臣が、そのまま俺の目の前まで来る。
振りかぶっていた拳が――ピタッと止まった。
「な……なんで……?」
和臣が自分の身体を見る。
「俺の炎が……」
「…………」
俺も自分の右手を見る。
「……できた」
「テメェ……何しやがった?」
「発火を――反転させた」
「発火を……?」
「ああ」
和臣を見る。
「発火の反対なら、鎮火だろ」
「…………」
「…………」
「……マジかよ」
和臣が俺を見る。
そして――笑った。
「お前の能力……思ってたよりヤベぇな」
「そこまでだ」
宗一の声が飛ぶ。
「勝負は御影の勝ちとする」
「はぁ!? まだやれんだろ!」
「お前の能力は、たった今消されただろう」
「まだ殴れる!!」
「能力の勝負じゃなかったのか?」
「…………」
「お前が言ったんだろう」
「…………チッ」
和臣が頭を掻く。
「分かった分かった。冷めちまったぜ」
そう言って、和臣が俺から離れていく。
「…………」
俺は、さっき突き出した右手を見つめていた。
火球を返したわけじゃない。
何かの軌道を変えたわけでもない。
俺が反転させたのは――
発火そのものだ。
『自分の能力を、自分自身で決めつけるな』
宗一の言葉が、もう一度頭に浮かぶ。
俺は今まで、自分の能力を分かっているつもりだった。
飛んできたものを返す。
それが《反転》だと。
でも――違う。
「反転……か」
もう一度、自分の右手を見る。
どうやら俺はまだ――
自分の能力の使い方を、何も分かっていないらしい。
――第4話 END




