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第27話 残された一人

B2F・最深部へ続く通路。


俺と和臣は走っていた。


後ろでは――。


ゴゴゴゴゴ……。


崩落した通路を、久我先生が《固定》で支えている。


さらにその向こうでは、鈴音と紬が瓦礫を食い止めている。


そして中枢ホールには、能力を使い果たした透花。


六人で入ったはずの敵拠点。


今、東雲を追っているのは――。


俺と和臣。


二人だけ。


「朔!」


「ああ!」


俺たちの前に、巨大な扉が見えてくる。


みつきが潜入した時に発見した――。


最深部の研究室。


「この先だな」


――ザザッ。


『二人とも聞こえるか?』


無線機から結人の声。


「聞こえてる!」


『通信良好。研究室に設置した三基も全部生きてる』


続いて、澪。


『中にいるのはたった1人』


僅かな間。


『……あの男だけ』


『気をつけろ』


律の声が続く。


『追い詰められているとはいえ、まだ何を持っているか分からない』


「分かってる」


「だったら――」


和臣が拳を握る。


ボッ!!


炎が灯った。


「さっさと終わらせようぜ」


俺も電撃警棒を握る。


――バチッ。


「……ああ」


二人で扉を開けた。


◇


最深部・研究室。


巨大な空間。


無数の機械。


モニター。


薬品。


そして、みつきが設置した三基の中継端末。


その中央に――。


東雲雅人がいる。


「…………」


先ほどとは様子が違う。


口元には、久我先生に殴られた傷。


透花の《罹患》によって、身体にも力が入っていない。


そして両拳は――


未だに固く握られたまま。


「追いついたぞ」


「もう逃げ場はねぇぞ」


「…………」


東雲は自分の両拳を見る。


「厄介な能力だ」


「久我先生の《固定》は簡単には解けねぇよ」


「そうらしいな」


そう言って。


東雲が研究室の奥へ歩き出した。


「……?」


「何する気だ」


巨大な機械の前で立ち止まる。


そして。


操作盤へ腕を押し当てた。


――ピッ。


ヴゥゥゥゥゥン……。


「おい……」


機械が起動する。


光が東雲の身体を包んだ。


「まさか――」


ヴゥゥゥゥン……。


やがて。


光が消える。


機械が停止した。


「…………」


東雲がゆっくりと立ち上がる。


さっきまで力の抜けていた脚。


そこに――。


力が戻っている。


「……透花が与えた弱体化が消えてる」


「状態異常は解除した」


「チッ……」


和臣が舌打ちする。


「だからここに逃げ込んだのかよ」


「…………」


東雲は両手を見る。


だが――。


拳は握られたまま。


グッ……。


力を込める。


それでも。


開かない。


「……だが」


東雲が眉を僅かに動かす。


「こちらは解除できないか」


「久我先生の能力か」


「ハッ」


和臣が笑う。


「ざまぁねぇな」


炎を纏った拳を構える。


「これじゃレーザーも撃てねぇだろ」


「…………」


「今度こそ終わりだ」


ボッ――!!


和臣の全身が一気に燃え上がり、身体能力が限界まで強化される。


「全力で行くぞコラァァァァァァ!!」


床を蹴る。


一瞬で東雲に近づく。


「おおりゃぁぁぁぁぁ!!」


ゴォォォォォォォ!!!


最大火力。


炎を纏った和臣の拳が、東雲へ迫る。


東雲も。


開かない右拳を突き出した。


拳と拳。


激突する。


ドゴォォォォン!!


「うおおおおおお!!」


炎が一気に膨れ上がった。


そして――。


グシャッ!!


ジュゥゥゥゥゥ……!!


「ぐああああああっ!!」


東雲が初めて叫んだ。


「和臣!?」


焼けた臭い。


東雲の右拳が。


至近距離から炎に焼かれ、潰れている。


「レーザー撃つには指が必要なんだろ!?」


「…………!」


「だったら、その手ごと使えなくしてやるよ!!」


「…………」


東雲が焼け潰れた右手を見る。


「クク……」


「……?」


「クククククッ……!」


不気味な笑い声。


「何笑ってやがる」


東雲が呟く。


「《再生》」


ジュウウウウ……。


「……は?」


焼け潰れた拳が。


再構築されていく。


骨。


肉。


皮膚。


そして――。


指。


「……!」


「は……?」


完全に再生した右手を。


東雲がゆっくりと開く。


「なるほど」


「《固定》されていた部位そのものを作り直せば――」


指を動かす。


「問題ないらしい」


「ふざけ――」


東雲の人差し指が和臣へ向いた。


指先へ。


光が集まる。


「和臣!!」


ビビビッ――!!


「グァァァァッ!?」


レーザー光線が和臣の左肩を貫いた。


「和臣!!」


その衝撃で身体ごと吹き飛ぶ。


ドゴッ!!


背後の壁へ叩きつけられた。


「ぐっ……!」


ズルッ――。


そのまま床へ崩れ落ちる。


「和臣っ!」


俺は駆け寄った。


「おい! 和臣!」


「チッ……」


僅かに目を開ける。


「あんなん……ありかよ……」


「和臣!」


ドサッ。


「…………」


「おい!」


返事がない。


「和臣!!」


「…………」


「クッソオォ!!」


俺は立ち上がった。


電撃警棒を構える。


――バチッ!!


「東雲ぇぇ!!」


一気に距離を詰める。


振り抜く。


スカッ。


「っ!?」


当たらない。


東雲が身体を僅かに傾けただけで、警棒が空を切った。


そのまま蹴り。


俺は咄嗟に身体を捻る。


ドッ!!


「ぐっ!」


掠っただけ。


それでも身体が揺れる。


(体調が回復したせいで、動きが良くなってる……)


再び警棒を構える。


(どうする……)


その時。


――ザザッ。


『朔!』


律の声。


『5秒後、後ろだ!』


「!」


5秒。


俺は東雲を見る。


4。


東雲が動く。


3。


姿が視界から外れる。


2。


背後。


1。


「ナイス! 律っ!」


振り向きざまに――。


電撃警棒を振るう。


バチィッ!!


「グァァァァッ!?」


背後から俺を蹴り飛ばそうとしていた東雲。


その脚へ。


電撃警棒が直撃した。


「ぐっ……!」


東雲が膝をつく。


「おのれ……」


――ザザッ。


『朔! 3秒後、右に飛べっ!』


「!」


東雲が俺を睨む。


右手を向けた。


手のひらが――。


赤く光る。


「《爆破》」


「っ!!」


俺は思いっきり右へ飛んだ。


次の瞬間。


ドカァァァァァァァァァァァァァン!!


「ぐぁっ!!」


爆風で身体が吹っ飛ぶ。


床を転がる。


「ぐっ……!」


痛ぇ。


でも。


動ける。


さっきまで俺が立っていた場所を見る。


床が。


大きく抉れていた。


(爆発した!?)


俺は東雲を見る。


(こいつ、一体いくつ能力を持ってやがるんだ……?)


「…………」


東雲が俺を見る。


僅かに目を細めた。


(妙だな……)


(さっきから随分とガキの動きが良くなった)


(まるで俺の攻撃を分かっていたような……)


――ザザッ。


「今のは危なかった……」


俺は通信機へ手を当てる。


「助かったぜ、律」


「…………」


東雲の視線が俺へ向く。


(何か呟いている……?)


「《聴覚――増幅》」


「…………」


東雲の耳に。


俺たちの声が届く。


『ギリギリだったな。怪我しなかったか?』


「ああ」


俺は立ち上がる。


「おかげさまで軽傷で済んだよ」


「…………」


東雲が周囲を見回す。


そして。


研究室の最奥。


そこに設置された見慣れない端末へ。


視線が止まった。


「……そういうことか」


「……?」


東雲の口元が僅かに歪む。


人差し指が上がる。


指先へ光が集まった。


「まさか――」


ビビビッ!!


「やめろ!!」


ボカァン!!


研究室の最奥に設置された中継端末が吹き飛んだ。


――ザザッ!!


『第3中継端末、ロスト!』


結人の声。


「なっ!?」


「ククククク……」


東雲が笑う。


「どうした?」


俺を見る。


「顔色が悪いぞ?」


――ザッ……ザザッ……。


『朔……大丈……夫……か?』


「律!?」


通信が乱れている。


まだ聞こえる。


だが。


明らかにさっきより遠い。


「…………」


東雲が目を細める。


「《視力――増幅》」


視線が研究室内を走る。


そして――。


中央付近。


機械の陰に設置された端末で止まった。


「そこか」


「やめろ!」


ビビビッ!!


ボカァン!!


「くっ!」


二基目。


レーザー光線が中継端末を貫いた。


――ザザザザザザッ!!


『第2……切れ……!!』


「やめろ!!」


俺は走った。


電撃警棒を振るう。


「遅い」


「《反射――増幅》」


スッ。


かわされた。


直後。


ドゴッ!!


「がっ!?」


蹴りが腹へ突き刺さる。


身体が吹き飛ぶ。


ドサッ!!


「ぐっ……!」


「《聴覚――増幅》」


――ザザーザーピーザザッ!!


『朔……? 大……夫……何……った?』


「まだあるな」


「《視力――増幅》」


東雲が入口側を見る。


最後の一基。


第1中継端末。


「…………!」


「《瞬発――増幅》」


シュン――!!


姿が消える。


次の瞬間。


東雲は。


第1中継端末の前にいた。


「なっ――」


端末を手に取る。


「こいつで仲間と連携していたわけか」


「…………」


「なら――」


東雲が俺を見る。


「これで終わりだ」


「待て!!」


――ザーザーザーザー!!


『朔……聞こえ……!』


「やめろぉ!!」


バキッ。


プツン。


「…………」


音が。


消えた。


「…………」


静寂。


「律?」


返事がない。


「澪?」


…………。


「結人!!」


「みつき!!!」


…………。


何も。


聞こえない。


◇


ARC臨時指揮所。


「…………」


結人が通信機器を見つめる。


モニターに並んでいた無線機のオンライン表示。


三つ。


その全てが――。


消えている。


「……全中継端末、ロスト」


「そんな……」


澪が呟く。


律は何も言わない。


ただ、朔のウェアラブルカメラから送られてくる映像を睨んでいた。


◇


最深部・研究室。


「…………」


俺の通信機からは。


何も聞こえない。


東雲が。


ゆっくりと俺を見る。


「これでもう――」


「…………」


「お前は一人だ」


「…………」


第27話 END

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