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第26話 最終決戦

B2F・中枢ホール。


重い扉が開く。


俺たち六人は、その先へ足を踏み入れた。


広いホール。


高い天井。


そして、その中央に――。


黒いロングコートを着た男が一人。


男は俺たちを見る。


「…………」


「来たか」


「…………」


隣で、和臣が僅かに身構えた。


「こいつが……」


――ザザッ。


『間違いない』


無線機から律の声。


『俺が《過去視》で視た男だ』


俺は一歩前へ出た。


「東雲雅人。お前が荒城岳を殺した男だな」


「…………」


東雲は否定しなかった。


「そうだ」


あまりにもあっさりと認める。


「……ずいぶん簡単に認めるんだな」


「隠す必要がない」


「てめぇ……!」


和臣が前へ出ようとする。


「待て」


久我先生が制した。


「…………」


和臣が足を止める。


久我先生は東雲を真っ直ぐに見た。


「特異能力社会調整機構《ARC》だ」


「殺人、収容施設の破壊、および犯罪組織形成の疑いで、お前を確保する」


「確保……」


東雲が小さく呟く。


「大人しく来てくれるなら、こっちとしても助かるんだけどな」


「…………」


東雲は俺たち六人を見渡した。


「ここまで来たということは――」


周囲へ軽く視線を向ける。


「上の連中は全員やられたか」


「ああ」


俺は答える。


「全員生きてるけどな」


「…………」


「俺たちは、お前とは違う」


一瞬の沈黙。


「……そうか」


東雲がロングコートへ手を掛けた。


ゆっくりと脱ぎ。


床へ落とす。


――バサッ。


「なら――」


構える。


「やってみろ」


「……来るぞ」


久我先生の声。


和臣の拳に炎が灯る。


ボッ――!!


俺も電撃警棒を構えた。


――バチッ。


鈴音。


紬。


透花。


全員が、それぞれ構える。


「行くぞ!!」


俺たち六人が一斉に駆け出した。


「オラァ!!」


最初に飛び込んだのは和臣。


炎を纏った拳を叩き込む。


だが――。


スッ。


「なっ!?」


かわされた。


「遅い」


ドゴォッ!!


東雲の拳が和臣の腹へ突き刺さる。


「グハッ!?」


和臣の身体がくの字に折れる。


「和臣!」


俺も踏み込んだ。


電撃警棒を振り抜く。


――スカッ。


いない。


「っ!?」


次の瞬間。


膝が腹へ突き刺さった。


ドゴッ!!


「ガハァッ!?」


身体が浮く。


そのまま床へ崩れ落ちた。


「朔!」


久我先生が前へ出る。


振り抜かれる拳。


それを受け流し。


打ち返す。


東雲がかわす。


さらに拳。


蹴り。


拳。


互いの攻撃が、目の前で激しく交差する。


「…………」


東雲が拳を握った。


グッ――。


ミシッ。


腕の筋肉が膨れ上がる。


「《筋力――増幅》」


「!」


ドゴォォォッ!!!


久我先生が両腕で防ぐ。


それでも。


凄まじい威力に、その身体が後方へ吹き飛ばされた。


「久我先生!!」


「……待て」


和臣が腹を押さえながら立ち上がる。


その表情が変わった。


「今の……」


俺も気づいた。


「《増幅》……?」


荒城岳の能力。


間違いない。


「そんな……なんで?」


透花が呟く。


俺は東雲を見る。


「お前……なんでその能力を使える?」


「《増幅》の荒城岳は死んだはずだ」


「…………」


東雲は淡々と答えた。


「死んだからだ」


「……何?」


「俺の能力は《継承》」


「俺が殺した能力者の能力を――」


「継承する」


「……!」


だから――。


「だから……荒城岳を殺したのか」


「そうだ」


何の迷いもなく答える。


「優秀な能力だった」


「だが、奴は捕まり、収監された」


「もう使うこともできない」


「なら、俺が使えばいい」


「……そのためだけに殺したのか?」


東雲の目が、僅かに細くなる。


「そのためだけ?」


「能力は、使われて初めて価値を持つ」


「使えない者が持っていても意味がない」


「使わない者なら、なおさらだ」


「違う」


気づけば。


言葉が出ていた。


「能力を使うかどうかも、どう使うかも――」


俺は東雲を睨む。


「持ってる本人が決めることだ」


「…………」


東雲は俺を見る。


「甘いな」


「力がありながら使わず――」


一瞬。


その目に、何かが宿った。


「守れたはずのものを失うとしてもか?」


「……何の話だ?」


「…………」


東雲はしばらく黙っていた。


「俺には、かつて親友がいた」


「そいつは、“ある能力”を持っていた」


「ある日、俺の母親が強盗に襲われた」


「そいつが“ある能力”を使えば、母親は助けられた」


「俺は使えと言った」


「だが――奴は使わなかった」


東雲の目が細くなる。


「その結果、母は俺の目の前で殺された」


「…………」


「力を持っていたにもかかわらず、奴は使わなかった」


「そこで俺は理解した」


「使わない力に、価値などない」


「だから――」


東雲は淡々と言った。


「俺が親友を殺し、その力を継承した」


「…………」


「……なるほどな」


俺は東雲を見る。


「けど、少なくとも俺ならそこで親友を殺そうだなんて思わないね」


「…………」


「母親が目の前で殺されたら、そりゃあ誰だってブチギレるさ」


「俺だってそうなるだろうよ」


「でもな――」


東雲を真っ直ぐに睨む。


「その怒りをぶつけるのは、その強盗だろ?」


「やり方がズレてんだよ、お前は!」


「…………」


東雲は俺を見つめる。


「……これ以上語ったところで、お前には分かるまい」


東雲が右手を上げる。


人差し指が、俺へ向いた。


その指先へ――。


光が集まる。


「っ!?」


次の瞬間。


ビビビッ――!!


「朔くん、危ないっ!」


鈴音が咄嗟に俺の前へ飛び出した。


「《防壁》!」


透明な防壁が展開される。


直後。


ビシィィィィッ!!


レーザー光線が防壁へ直撃した。


「んっ……!」


「鈴音!」


防壁に亀裂が走る。


(《増幅》以外にも持ってる……!?)


《継承》。


こいつは、殺した能力者の能力を引き継ぐ。


ということは――。


(能力を複数持ってるとなると、迂闊に《反転》は使えねぇ……)


まだ全部を見たわけじゃない。


(まだ他にも能力を持ってるかもしれねぇ)


ビビビッ!!


ビビビッ!!


ビビビッ!!


東雲が無言で指先からレーザー光線を放ち続ける。


ピシッ。


ピキキッ。


「ん〜〜〜っ!」


鈴音が両手を突き出し、防壁を維持する。


「鈴音!」


「まだ……大丈夫だよぉ……!」


だが。


バキキッ――!!


パリーン!!


「きゃっ……!」


防壁が砕けた。


レーザー光線が鈴音の右肩を掠める。


「鈴音ちゃん!」


透花がすぐさま駆け寄った。


「大丈夫!?」


「ちょっと……痛いかもぉ……」


「じっとしてて!」


透花の手に淡い光が灯る。


その瞬間。


「はぁっ!」


久我先生が東雲との距離を詰めた。


再び始まる接近戦。


拳。


蹴り。


それをかわし。


受け流し。


打ち返す。


そして――。


東雲が右拳を振り抜こうとした瞬間。


久我先生の目が鋭くなる。


「《固定》」


ピタッ。


「……む?」


東雲の右拳が。


握られた状態のまま止まった。


「……手が開かない?」


ドゴォッ!!


拳が東雲の顔面を捉える。


「ぐっ……!」


東雲が数歩よろめく。


口元から血が流れる。


「…………」


左手の親指で血を拭う。


「《固定》……か」


久我先生を見た。


「厄介な能力だ」


東雲が左手を上げる。


人差し指が久我先生へ向いた。


ビビッ――!!


「!」


久我先生が首を傾ける。


レーザー光線が頬のすぐ横を通り抜けた。


ビビッ!!


ビビッ!!


続けざまに放たれるレーザー光線。


久我先生は紙一重でそれをかわしながら、一気に距離を詰める。


ドゴッ!!


拳が東雲の腹へ突き刺さった。


「グッ……!」


「小賢しいっ!」


東雲が左手を握り、そのまま殴りかかる。


ドゴォッ!!


「ぐっ……!」


強烈な一撃が、久我先生の脇腹に突き刺さった。


しかし――。


久我先生は攻撃を喰らいながらも、東雲の左拳を掴む。


「《固定》」


ピタッ。


左腕も、握り拳の状態で止まる。


「これでもう、さっきの攻撃は撃てないだろう」


「…………」


東雲は両腕を見る。


「確かに、この状態では撃てないな」


「大人しく――」


「だが」


グッ――。


東雲の脚に力が入った。


ミシッ。


「《脚力――増幅》」


「!」


一瞬で。


東雲の姿が目の前まで迫る。


ドゴォォォッ!!


「ぐっ……!」


強烈な蹴りが久我先生の腹へ突き刺さる。


身体が吹き飛んだ。


「おっさん!!」


「腕を封じただけで、俺を止めたつもりか」


「この野郎!!」


和臣が炎を放つ。


ボォォォォッ!!


東雲へ向かって火球が飛ぶ。


だが。


「《反射――増幅》」


スッ――。


僅かな動きだけでかわした。


「なっ――」


「《瞬発――増幅》」


シュン――!!


消えた。


そう思った瞬間。


東雲は和臣の懐にいた。


「っ!?」


ドゴッ!!


「ぐぁっ!!」


強烈な蹴り。


和臣の身体が床を転がる。


「和臣!」


「まだだ!」


久我先生が立ち上がる。


再び東雲へ向かっていく。


その時。


「朔!」


透花の声。


鈴音の治療を終えた透花が駆け寄ってきた。


「私も加勢する」


「おう」


俺は頷く。


「あんま無理するなよ」


透花が左手を上げる。


俺も、その手へ向けて腕を伸ばした。


「反転!」


ヴゥゥゥゥゥン――。


淡い光が。


濃い紫へ変わっていく。


《治癒》の反転。


《罹患》。


その向こうでは。


久我先生と東雲の攻防が続いている。


東雲が踏み込む。


拳を振るう。


久我先生が身をかわした。


その瞬間。


「《固定》!」


ピタッ!!


東雲の脚が床へ縫い付けられたように止まる。


「ぬっ!?」


「透花!」


「今っ!」


透花が飛び込んだ。


紫色に光る左手で――。


東雲の脚を掴む。


「……!」


ガクッ。


東雲の身体が僅かに揺れた。


「何だ……?」


脚を見る。


「力が……抜けていく?」


「今だっ!」


俺は走った。


電撃警棒を振り上げる。


――バチッ!!


「もらった!!」


だが。


「くっ!」


スカッ。


「何!?」


東雲が無理やり身体を捻り、攻撃をかわした。


「まだ動けるのか!?」


「……ごめん」


背後から透花の声。


振り返る。


「出力が……足りなかったみたい」


「透花?」


「身体の力を……弱らせるのが精一杯……」


身体が傾く。


「おい!」


俺は咄嗟に透花を支えた。


「大丈夫。ちょっと疲れた……だけ」


休憩したとはいえ。


治して。


戦って。


また治して。


さらに《罹患》まで使った。


「お前は少し休んでろ」


久我先生が言った。


そして。


東雲へ向かう。


ドッ!!


バキッ!!


拳が東雲の顔面を捉えた。


「ぐっ……!」


口元から血が飛ぶ。


東雲が数歩後退する。


そして。


開かなくなった両拳を見る。


俺たちを見る。


(このままでは少々不利か……)


次の瞬間。


東雲が身を翻した。


「あっ!」


ホール奥の通路へ走り出す。


「逃すかっ!」


俺はすぐに後を追った。


「待ちやがれ!!」


和臣も続く。


久我先生。


鈴音。


紬も走り出す。


透花だけが、その場に残った。


◇


東雲が通路へ飛び込む。


俺たちも追う。


その時。


東雲が壁を軽く蹴った。


カチッ。


「……?」


直後――。


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!


「なっ!?」


激しい揺れ。


天井に亀裂が走る。


そして。


崩れた。


「危ないっ!」


鈴音が両手を突き出す。


「《防壁》!!」


透明な防壁が俺たちの頭上へ展開される。


ドゴォォォォン!!


大量の瓦礫が防壁へ落ちた。


「ん〜〜〜〜〜っ!!」


「鈴音!」


ピシッ。


防壁に亀裂。


ピキッ。


「まずい!」


その時。


「私も手伝いますっ!」


紬が両手を上げた。


ふわっ――。


瓦礫が僅かに浮く。


防壁へ掛かっていた重みが軽くなった。


「……っ!」


鈴音が息を吐く。


「ありがとう! 紬ちゃん!」


「まだです……!」


紬も必死に瓦礫を支える。


「朔くん! 和臣くん! 久我先生!」


鈴音が俺たちを見る。


「先に行って!」


「でも、このままだとお前たちも危ないだろ!」


「ここは私たちで何とかします!」


紬が叫ぶ。


「早く行ってください!」


「…………」


二人を見る。


鈴音。


紬。


「……分かった」


俺は頷いた。


「こんなとこで死ぬなよ」


「うん!」


「はい!」


和臣も前を向く。


「後は俺たちに任せろ!」


「行くぞ」


久我先生が走り出す。


俺と和臣も続いた。


三人で。


逃げる東雲を追う。


そして。


通路の出口が見え始めた、その時。


前を走る東雲が。


再び壁を軽く蹴った。


カチッ。


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!


和臣が上を見る。


「チッ!」


「またかよ!!」


天井が崩れる。


大量の瓦礫が。


俺たち三人の頭上へ落ちてきた。


その瞬間。


久我先生が立ち止まった。


「久我先生!?」


「おっさん!」


久我先生が、落ちてくる瓦礫へ手を向ける。


「《固定》」


――ピタッ。


「…………!」


止まった。


崩れ落ちていた瓦礫が。


俺たちの頭上で。


完全に静止している。


「久我先生……」


「行け」


「でも――」


和臣が振り返る。


「奴を逃がすな」


「…………」


久我先生は瓦礫へ手を向けたまま動かない。


いや、動けない。


能力を解除すればこの瓦礫は再び落ちる。


通路そのものが塞がる。


「俺はここを止める」


久我先生が俺たちを見る。


「お前たちは――その先を止めろ」


「…………」


「……行くぞ、朔」


和臣が走り出した。


俺も、その後を追う。


その時。


「朔」


足が止まる。


振り返った。


久我先生は、瓦礫を止めたまま俺を見ていた。


「自分の能力を見誤るな」


「……?」


「お前の能力は、“返す”だけの能力じゃない――」


その言葉。


いつか。


この人に教えられた言葉を思い出す。


能力を理解しろ。


見えている現象だけで判断するな。


自分が何を起こしているのかを考えろ。


理解が変われば、使い方が変わる。


使い方が変われば――可能性も変わる。


久我先生が言う。


「《反転》だ」


「…………」


俺は。


ニッと笑った。


「……分かってるよ」


前から声が飛んでくる。


「朔! 置いてくぞ!!」


「今行く!!」


俺は再び走り出した。


和臣の背中を追う。


最深部へ。


東雲雅人を――。


止めるために。


第26話 END

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