↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/32

第25話 突入(前編)

ARC臨時指揮所。


簡易な建物の内部には、複数のモニターと通信設備。


中央には、大きな作戦卓が置かれている。


俺たちは、その周囲に集まっていた。


正面のモニターに映し出されているのは、昨日みつきが持ち帰った情報。


建物の見取り図。


武装した人間たち。


武器保管庫。


地下の訓練施設。


そして――。


画面中央に、大きく映し出された一人の男。


背が高く、細身。


肩ほどまで伸びた癖のある長髪。


黒いロングコート。


美琴さんが全員を見渡した。


「昨日、みつきちゃんに潜入してもらった施設について報告するわ」


画面が切り替わる。


建物の地上階。


「地上階には、武装した人間が約15人」


続いて地下1階。


「地下1階には大規模な訓練施設。確認できた人員は35人」


さらに。


「武器保管庫も確認されている」


「……完全にアウトじゃねぇか」


和臣が呟く。


「そうね」


透花も否定しなかった。


「そして――」


再び画面が切り替わる。


黒いロングコートの男。


「地下2階で、この男が確認された」


俺はモニターを睨む。


「……荒城岳を殺した男」


「ああ」


律が答える。


「俺が《過去視》で視た男と同一人物だ」


「これで、荒城岳を殺害した男がこの施設を拠点としていることは、ほぼ間違いない」


美琴さんが続ける。


「さらに、みつきちゃんの潜入で――」


画面が変わった。


地下2階。


その最奥にある、大きな部屋。


「地下2階のさらに奥に、大規模な研究施設が存在することも分かった」


「研究施設……」


俺が呟く。


「うん」


みつきが頷いた。


「見たことない機械ばっかりだった」


「何に使うものなのかまでは、分からなかったけど……」


「不用意に調べさせるには危険すぎた」


律が言う。


「ええ。それで正解よ」


美琴さんは一度モニターを見た。


そして。


俺たち全員へ視線を戻す。


「ここまでの情報を総合して――」


室内の空気が変わる。


「ARCは、この施設を犯罪組織の拠点と判断する」


誰も口を挟まない。


「今回の任務は、施設への突入」


「武装している人間については、可能な限り殺傷せず制圧する」


そして。


黒いコートの男を指す。


「この男を確保する」


「……ようやく分かりやすくなったな」


和臣が口元を上げる。


「殴り込みってことか」


俺が言うと、美琴さんが僅かに眉を寄せた。


「……言い方」


「殴り込みだな!!」


和臣が嬉しそうに言う。


「なんで嬉しそうなのよ」


透花が呆れる。


「ただし」


美琴さんの一言で、すぐに空気が戻った。


「今回の相手について、私たちはほとんど何も知らない」


モニターの男を見る。


「どんな能力を持っているのか」


「何が目的なのか」


「そもそも、あの施設で何をしているのか」


「何一つ分かっていない」


「……つまり」


俺は腕を組む。


「何が出てくるか分からないってことか」


「そういうこと」


美琴さんが頷いた。


「今回、現場に向かってもらうのは――」


画面に六人の名前が表示される。


御影朔。


炎場和臣。


久我宗一。


守谷鈴音。


水瀬紬。


還田透花。


「この六人よ」


「先生も行くのか?」


俺が久我先生を見る。


「ああ」


久我先生はいつも通りの表情だった。


「今回は今までとは違う。敵の数も多い」


「それに、あの男の能力も分かっていない」


眼鏡の奥の目が、僅かに細くなる。


「俺の能力が必要になる場面もあるだろう」


「だから今回は、俺も前線に出る」


「へぇ……」


思わず久我先生を見る。


「先生が前線に出るの、初めて見るな」


「ああ見えて、おっさんは強ぇぞ」


和臣が腕を組む。


「何度模擬戦やっても勝てなかったからな」


「当たり前だ」


久我先生が即答した。


「誰に言ってる」


「……なんか楽しみになってきたな」


「お前は何を見物するつもりだ」


「いや、別に」


その横で、みつきが小さく手を上げた。


「あの……私は?」


「今回は臨時指揮所に残ってもらうわ」


「私だけ?」


「いいえ」


美琴さんが首を振る。


「律、澪、結人も臨時指揮所から支援」


「戦える奴だけ連れてくってことか?」


和臣が聞く。


「それだけじゃないわ」


美琴さんが前線組を見る。


「和臣と宗一は、純粋な戦闘要員」


「それと、能力による戦闘で建物の損壊や崩落が起こる可能性もある」


「鈴音ちゃんと紬ちゃんには、そうなった場合の対応をお願いする」


二人が頷く。


「透花には負傷者の治療」


そして。


美琴さんの視線が俺へ向いた。


「朔」


「ん?」


「あなたの《反転》は、今回の切り札よ」


「……切り札、ね」


「相手がどんな能力を持っているのか分からない以上、何が起きるか予測できない」


「だからこそ、能力そのものをひっくり返せるあなたの力が必要なの」


「了解」


「それと」


美琴さんは臨時指揮所に残る四人を見る。


「ここに残る四人が、前線のメンバーより重要度が低いわけじゃない」


「むしろ逆よ」


律。


澪。


結人。


みつき。


「律は未来を視る」


「澪は現場全体を把握する」


「結人は、それを現場へ繋ぐ」


「みつきちゃんには、昨日確認した内部構造をもとに進路を補助してもらう」


「戦闘に向かない人間まで現場へ出して、無用な危険に晒す必要はない」


「臨時指揮所からできることをお願いするわ」


「了解」


律が答えた。


澪と結人、みつきも頷く。


その時。


久我先生が口を開いた。


「最後に一ついいか?」


「ええ、どうぞ」


美琴さんが頷く。


久我先生が、全員を見る。


「自分の能力だけを頼りにするな」


静かな声だった。


「何が起こるか分からないなら、周りを見ろ」


「一人で対処できないものは、他の誰かに任せろ」


俺は久我先生を見る。


「お前たちはチームだ」


室内にいた全員の表情が引き締まる。


「今回は総力戦になる」


「相手は平気で人を殺すような男だ。詳細な能力も分かっていない」


「厳しい戦いになるかもしれない」


久我先生が、全員の顔を見渡す。


「だが――」


その声が、静かに響く。


「誰一人欠けることなく、この臨時指揮所に帰ること」


「了解!!」


声が重なった。


◇


――敵アジト前。


建物から少し離れた位置。


無線機。


ウェアラブルカメラ。


電撃警棒。


俺たち六人は、それぞれ装備を確認していた。


俺。


和臣。


久我先生。


鈴音。


紬。


透花。


――ザザッ。


『こちら臨時指揮所。通信状態良好。全員聞こえるか?』


結人の声。


「聞こえてる」


「こっちも問題ねぇ」


和臣が続く。


「大丈夫よ」


透花も答えた。


『了解』


すぐに澪の声。


『内部も確認できてる』


『1階――15人』


『昨日とほとんど変わってない』


続いて、みつき。


『正面から入るなら、すぐ広いスペースに出るよ』


『そこにほとんど集まってる』


そして律。


『……今のところ、こちらの接近には気づいていない』


「了解」


俺は腰から電撃警棒を抜いた。


――バチッ。


和臣が拳を握る。


ボッ――。


小さな炎が灯った。


鈴音、紬、透花もそれぞれ構える。


そして。


久我先生が静かにワイシャツの袖を少しまくった。


「行くぞ」


◇


――建物内部・1F。


扉が開く。


中にいた人間たちが、一斉にこちらを振り返った。


「……誰だ!」


久我先生が一歩前へ出る。


「特異能力社会調整機構《ARC》だ」


静かな声。


「お前たち全員、確保する」


「侵入者だ!!」


戦闘員たちが一斉に武器を取る。


俺は電撃警棒を構えた。


「……やっぱ話し合いって雰囲気じゃねぇな」


「最初から期待してないでしょ」


透花が返す。


「んじゃ――」


和臣が前へ出ようとした。


その前に。


久我先生の腕が伸びる。


「あ?」


「待て」


次の瞬間。


一人の男がこちらへ突っ込んできた。


ナイフが振り下ろされる。


久我先生は半歩だけ横へずれた。


手首を掴む。


「《固定》」


ピタッ。


「!?」


男の腕が、ナイフを振り下ろした姿勢のまま空中で止まった。


「なんだこれ……!」


久我先生が懐へ入る。


ドッ!!


「ぐっ……!」


腹へ一撃。


男が崩れ落ちる。


さらに二人。


一人が鉄パイプを振りかぶる。


久我先生の手が触れた。


「《固定》」


ガキンッ!!


「なっ!?」


鉄パイプだけが、その場所から一切動かない。


男が思わず手を離す。


その瞬間。


ドゴッ!!


久我先生の蹴りが、戦闘員の顔面に直撃する。


「ぐぁっ!!」


男が吹き飛ぶ。


「先生、後ろ!」


別の男が背後から殴りかかる。


久我先生は振り向きざま。


踏み込んできた足へ手を伸ばした。


「《固定》」


「うおっ!?」


足だけがその場に縫い付けられたように止まる。


勢いだけが前へ流れ。


男が体勢を崩した。


「足元を見ろ」


ドッ!!


強烈なローキック。


「アガッ!」


戦闘員がその場に倒れ込む。


沈黙。


「…………」


俺は思わず見つめていた。


隣を見る。


和臣も同じ顔をしている。


久我先生がこちらを見る。


「何だ」


「いや……」


思わず口から出た。


「普通に強ぇな、この人」


「だから言ったろ」


和臣が遠い目をする。


「俺、模擬戦で何回もあれやられてんだよ」


「……なんか可哀想になってきた」


「うるせぇ!!」


「喋ってる暇があるなら前を見ろ」


「はい」


「はい」


俺と和臣の声が揃った。


そして――。


残った戦闘員たちが、一斉に俺たちを囲む。


久我先生が床へ手をついた。


「《固定》」


ピタッ。


六人を囲んでいた戦闘員たちの足が、一斉に止まった。


「なっ!?」


「足が……!」


「動かねぇ!!」


一人が銃を持ち上げる。


バンッ!


バンッ!


バンッ!


三発。


久我先生が手を向けた。


「《固定》」


ピタッ。


「…………!?」


銃弾が。


俺たちの目の前で、空中に静止していた。


「今だ」


和臣の口元が吊り上がる。


「おう!!」


炎を纏った拳。


ドゴォッ!!


俺も電撃警棒を握る。


バチッ!!


鈴音。


紬。


透花。


全員が一斉に動いた。


足を固定され、身動きの取れない戦闘員たちが次々に倒れていく。


そして数分後――。


「ふぅ……」


俺は辺りを見る。


「とりあえず、この階は全部片付いたな」


「それにしても相変わらず強ぇなぁ、おっさん」


和臣が笑う。


「このくらい大したことはない」


「怖かったです……」


紬が小さく息を吐く。


「よしよし」


鈴音が紬の肩を撫でる。


「紬ちゃん、私も怖かったよぉ」


「みんな、怪我はない?」


透花が周囲を見る。


今のところ。


全員無傷。


――ザザッ。


『お疲れ様』


澪の声が聞こえた。


『1Fは片付いたみたいね』


俺たちが階段へ目を向ける。


『次はB1F』


少し間。


『ここも昨日と変わってない』


そして。


『35人いる』


「…………」


和臣が首を鳴らした。


パキッ。


「まだ倍以上いるじゃねぇか」


『油断しないで』


澪の声。


俺は階段の先を見る。


「了解」


俺たちは地下へ向かった。


第25話 前編 END

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。