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第19話 炎使いVS炎使い

――繁華街。


夜。


人通りの少なくなった通り。


突然――


ドゴォォォォォン!!!


建物の一角から、炎が噴き上がった。


「うわぁぁぁ!!」


「火事だ!!」


悲鳴。


逃げ惑う人々。


その炎の中から。


一人の男が、ゆっくりと歩いてくる。


青く逆立った髪。


黒い革のバイカージャケット。


がっしりとした肉体。


周囲には、何人もの能力者が倒れていた。


「…………」


倒れた能力者の一人が、震えながら男を見上げる。


「な、なんなんだよ……」


「その火力……」


男の手に炎が灯る。


ゴォォォォォ……。


「当たり前だろ」


炎がさらに膨れ上がる。


「炎の強さなんざ、火力で決まる」


「より熱く」


炎が赤から青白く変わる。


「よりデカく」


ゴォォォォォォ!!!


周囲の空気が揺らぐ。


「全部焼き尽くせる炎が――」


男がニヤリと笑った。


「一番強ぇんだよ」


◇


――ARC本部。


ブリーフィングルーム。


正面のモニターには、昨夜の映像が流れていた。


炎が噴き上がる繁華街。


逃げ惑う人々。


その中心に立つ、一人の男。


「…………」


和臣が黙ってモニターを見つめている。


「派手にやってんな」


俺が言う。


「被害は?」


律が美琴さんを見る。


「現在確認できている負傷者は数名。幸い、死者は出ていないわ」


美琴さんが端末を操作する。


映像が切り替わった。


防犯カメラに映る男。


「今回、あなたたちに確保してもらうのはこの男」


俺は映像を見る。


「能力は……まあ、見たまんまか」


「ええ」


美琴さんが頷く。


「《炎》よ」


「…………」


和臣が僅かに反応した。


俺はそれを見る。


「お前と同じだな」


「……みてぇだな」


美琴さんが次の映像を出す。


男が腕を振る。


ゴォォォォ!!


一振りで、壁一面が炎に包まれる。


別の映像。


青白い炎が車両を直撃。


ドゴォォォン!!


車体が吹き飛んだ。


「ただし、出力が尋常じゃない」


「へぇ……」


和臣の口元が、少しだけ吊り上がった。


「……おい」


「あ?」


「お前、今ちょっとワクワクしただろ」


「してねぇよ」


律が横から言う。


「してたな」


「してねぇって!!」


美琴さんが小さく息を吐いた。


「それと、もう一つ」


「?」


和臣が美琴さんを見る。


「この男、過去にも複数回、能力者との戦闘を起こしてる」


「その理由なんだけど――」


映像が切り替わる。


男の前に、一人の能力者が倒れている。


『弱ぇな』


男が見下ろす。


『そんな能力で、能力者名乗ってんじゃねぇよ』


映像が止まった。


「どうも、自分の能力の強さを証明することに、異常なほど執着しているみたい」


「……能力至上主義か」


律が呟く。


「近いわね」


そして。


美琴さんが和臣を見る。


「特に、自分と同じ炎能力者には執着が強い」


「…………」


「……なるほど」


俺は和臣を見る。


和臣は少しだけ笑った。


「だったら話が早ぇ」


椅子から立ち上がる。


「どっちが上か、教えてやりゃいいんだろ」


「いや、そういう話じゃねぇだろ」


美琴さんが続ける。


「今回も澪とみつきが敵の居場所を調べてくれたわ」


地図が表示される。


「場所は、ある施設の地下」


「今回のメンバーは――」


「美琴さん」


和臣が遮った。


「今回は俺一人で行かせてくれ」


「…………」


「あいつと、1対1でやりてぇ」


「また無茶なこと言いやがって」


俺は呆れて和臣を見る。


「さっきの話聞いてなかったのか?」


「あいつの火力は、お前より上なんだぞ」


「やってみなきゃ分からねぇだろ?」


「万が一のことだってあるだろ」


俺も立ち上がる。


「俺も行く」


「いらねぇよ」


「いる」


「これは炎使い同士の――」


「これは任務だ」


「…………」


和臣が黙る。


「お前がどっちが上か決めてぇのは勝手だけどな」


「俺たちの仕事は、あいつを確保することだろ」


律も頷く。


「朔の言う通りだ」


「…………ちっ」


美琴さんが小さく笑う。


「決まりね」


「メンバーは朔、和臣、律」


「今回はこの3人に行ってもらうわ」


「了解!」


その時。


「和臣」


透花が声をかけた。


「無茶するんじゃないわよ?」


「……けっ」


和臣が視線を逸らす。


「分かってらぁ!」


◇


――敵アジト。


とある施設の地下。


長い通路を抜ける。


その先にあったのは。


一面をフェンスで囲まれた、闘技場のような広い空間だった。


その中央。


一人の男が立っている。


「ほぅ」


男がこちらを見る。


「こんな所に客人とは珍しいねぇ」


和臣が前へ出る。


「昨夜、繁華街で暴れた炎使いってのはテメェだな?」


「ああ」


男が笑う。


「そうだとも」


「で?」


「お前らは何だ?」


「俺を捕まえにでも来たのか?」


和臣の拳に炎が灯る。


「特異能力社会調整機構《ARC》」


「炎場和臣だ」


炎が揺れる。


「能力犯罪と器物損壊の容疑で、お前を確保する」


「ほぅ」


男の目が和臣の炎を見る。


「ARCねぇ」


そして。


ニヤリ。


「お前も炎の能力者か」


「そうだ」


「ちょうどいい」


男の手に炎が灯る。


ゴォォォォォォ!!!


一瞬で。


巨大な炎へと膨れ上がる。


「最近、つまらなかったんだ」


「…………」


「見せてみろよ」


男が笑う。


「お前の炎」


「…………」


和臣が俺たちを見る。


「……悪ぃ」


「朔、律」


「?」


「最初だけ」


和臣が拳を握る。


「俺にやらせてくれ」


「…………」


俺は律を見る。


律も黙って和臣を見ている。


「……分かった」


「へっ」


和臣がニヤリと笑う。


気合いが入ったのが分かった。


「上等だゴラァ!!」


拳の炎が勢いを増す。


ボォッ!!


「お前の炎と俺の炎――」


和臣が踏み込む。


「どっちが上か教えてやらぁ!!」


「……始まったな」


律が呟く。


「……だな」


和臣が殴りかかる。


男も。


炎を纏った拳を振り上げた。


ゴゥゥゥゥゥゥゥッッ!!!


ぶつかり合う炎の拳と炎の拳。


「良いねぇ……!」


男が笑う。


「だが――」


炎が膨れ上がる。


「まだまだ微温ぃなぁぁ!!」


熱が上がる。


炎が大きくなる。


そして。


赤かった炎が。


青白く変わった。


ゴォォォォォォォォ!!!


(あれは……)


モニターで見た。


あの炎。


「ウラァァァ!!」


「ぐっ……!」


和臣の拳が。


少しずつ押される。


「くそっ……!」


それでも踏ん張る。


だが。


火力の差は。


明らかだった。


「オラァァァ!!」


「グァァァァッ!?」


ついに。


和臣が競り負けた。


身体が大きく吹き飛ぶ。


「和臣!!」


俺と律が駆け寄る。


「痛っっつつ……」


和臣が顔をしかめながら起き上がる。


「ほらな」


俺は和臣を見る。


「だから言っただろ」


「もう気は済んだか?」


「こうなることは未来を視なくても分かってただろ」


律が淡々と言う。


「チッ……」


和臣が歯を食いしばる。


「クソがっ……!」


「まぁ落ち着け」


俺は男を見る。


「俺に考えがある」


「?」


俺は二人に作戦を伝えた。


「…………」


律が目を閉じる。


未来を視る。


数秒後。


目を開いた。


「ああ」


「未来を視たが、それが最善だ」


「…………ちっ」


和臣が嫌そうな顔をする。


「あんまり気乗りしねぇが……」


男を見る。


「それしかねぇか」


「決まりだな」


俺は手を前へ出した。


「やるぞ!」


「おうっ!」


和臣の拳に炎が灯る。


俺はその炎へ手を向ける。


「《反転》!!」


スッ――。


和臣の拳から。


炎が消えた。


「…………」


男が一瞬だけ黙る。


そして。


「ハハハハハハ!!」


笑い声が響いた。


「炎を消して何をやっている!?」


「競り負けたショックで血迷ったか?」


両手を広げる。


巨大な炎が生まれる。


「炎なんて単純なんだよ」


「炎の強さなんざ――」


炎が膨れ上がる。


「火力だ」


「より熱く」


青白く。


「よりデカく」


巨大に。


「全部焼き尽くせる炎が強ぇ」


「…………」


和臣は。


黙って男を見ていた。


その瞬間。


脳裏に。


景色が蘇る。


――吹雪の中。


震えている子供。


手の中に灯した。


小さな炎。


『……消したら……寒ぃだろ』


――火災現場。


燃え広がる炎。


それを消しながら作った避難経路。


背負った老婆。


『取り残された3名、全員救出!!』


――現在。


和臣が静かに男を見る。


「……前の俺なら」


「そう思ってたかもな」


炎の消えた拳を。


強く握り直した。


男が笑う。


「俺を捕まえるどころか」


「これじゃあ返り討ちだなぁ!!」


腕を振る。


ゴゥゥゥゥゥゥゥッッ!!!


青白い炎の球が放たれた。


一直線に和臣へ迫る。


和臣がその炎へ手を向ける。


「炎ってのはな……」


青白い炎が目前まで迫る。


「焼き尽くしゃぁ良いってもんじゃねぇんだよ!!」


和臣の《炎》。


その力を。


《反転》。


――《消火》。


青白い炎が。


揺らいだ。


「なっ……!?」


火力が落ちる。


青白かった炎が。


赤く変わる。


巨大だった炎が。


見る見る小さくなる。


そして。


フッ――。


消えた。


「何っ!?」


男の目が見開く。


その隙。


和臣が踏み込んだ。


「オラァッ!!」


ドゴォォォォォ!!


拳が。


男の顔面へクリーンヒットする。


「グフッ……!」


男がよろめく。


「何だ!?」


「何が起こった!?」


「へっ」


和臣が笑う。


「あんまり気に入っちゃあいねぇが――」


拳を構える。


「《炎》の、裏の使い方よ」


「オメェがいくら火力を上げようが」


男を睨む。


「もう俺には通用しねぇ」


「ぬかせぇぇ!!」


男の拳に。


再び青白い炎が宿る。


「死ねぇ!!」


殴りかかる。


「無駄だって言ってんだろうがぁ!!」


和臣が手を向ける。


フッ!!


炎が消えた。


「なっ――」


その瞬間。


ドゴッ!!


和臣のカウンター。


「ガハッ!」


男の唇から血が滲む。


「クソがぁぁぁぁ!!!」


今度は炎を纏わず、男が殴りかかってきた。


「オラァッ!!」


和臣も拳で応える。


ドゴッ!!


男の拳が和臣の頬を捉える。


「ぐっ……!」


顔が横へ弾かれる。


だが。


和臣も止まらない。


「らぁっ!!」


ドゴォッ!!


今度は和臣の拳が男の腹へ突き刺さる。


「グッ……!」


男が一歩よろめく。


すぐに踏み込む。


男の拳が飛ぶ。


バキッ!!


和臣が腕で受ける。


そのまま肘を叩き込む。


ドゴッ!!


「ぐっ……!」


男も蹴りを返す。


ガッ!!


和臣の身体が揺れる。


それでも、互いに一歩も引かない。


男の口元から血が流れる。


和臣の頬も赤く腫れていた。


「ハハハ!」


男が荒い息のまま笑う。


「どうした!?」


「裏の使い方だか何だか知らねぇが――」


和臣へ拳を叩き込む。


ドゴッ!!


「ぐっ……!」


和臣が数歩後ろへ下がる。


「お前も炎を捨てたんじゃ!」


「俺を倒すことはできねぇぞ!!」


「…………」


和臣が口元の血を腕で拭った。


そして。


うっすらと笑う。


「いや」


力一杯拳を握りしめる。


腕の筋肉が、ミシッと膨れ上がる。


「次の一撃で決めてやんよ」


「舐めやがってぇぇ!!」


男が全力で殴りかかる。


和臣も構える。


その瞬間。


律が言った。


「朔、3秒後だ」


俺は律の言葉に小さく頷いた。


男の拳が。


和臣へ迫る。


3。


和臣も拳を振り上げ、殴りかかる。


2。


拳と拳。


互いの顔面まで、あと僅か。


1。


「《反転》解除!!」


ボォッ!!


和臣の拳に。


炎が宿る。


「は!?」


0。


ドゴォォォォォン!!!


炎を纏った和臣の拳が、男の顔面を捉えた。


「ガハッ――!!」


男の身体が大きく吹き飛ぶ。


ドガァン!!


背後のフェンスへ叩きつけられ、そのまま地面へ崩れ落ちた。


「…………」


男は立ち上がらない。


俺たちはすぐに駆け寄り、その身柄を確保した。


◇


――任務後。


「…………」


和臣が黙って歩いている。


「どうした?」


俺が聞く。


「いや……」


少しだけ。


悔しそうに。


「結局」


「俺一人じゃ勝てなかったなって」


「何を今さら」


律が言った。


「あ?」


「一人で戦う必要なんて、最初からないだろ」


「…………」


俺も笑う。


「そういうこと」


「……けっ」


和臣が顔を逸らす。


でも。


その口元は。


少しだけ笑っていた。


第19話 END

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