第16話 変える未来
ARC本部 廊下。
「紬ちゃん、ちょっといい?」
美琴さんに呼び止められ、水瀬紬が振り返る。
「はい、何ですか?」
「今日、6丁目のショッピングモールでスイーツのイベントがやってるの」
「スイーツ?」
紬の目が僅かに輝いた。
美琴さんが少しだけ声を潜める。
「それでね。ここだけの話、ちょっと気になってるスイーツがあって……」
「はい」
「おつかいに行ってきてくれないかしら?」
「もちろんいいですよ!」
即答だった。
そして、少し遠慮がちに、
「あの……私の分も買っていいですか?」
美琴さんが笑う。
「もちろんいいわよ。ついでにみんなの分もお願いできる?」
「了解しました!」
紬は嬉しそうに頷いた。
「では、早速行ってきますね!」
◇
それから数十分後。
ARC本部 休憩室。
テレビから突然、速報を知らせる音が流れた。
『速報です』
室内にいた全員が画面へ目を向ける。
『6丁目のショッピングモールで、能力者と見られる男が突然暴れ出し、店舗を破壊する事件が発生しました』
画面には、逃げ惑う買い物客。
崩れた壁。
割れたショーウインドウ。
そして、建物の一部が大きく損壊している様子が映し出されている。
「……まずいわね」
美琴さんが立ち上がった。
「みんな! 緊急事態よ」
「あん? どうした?」
和臣が振り返る。
「出動か?」
俺も立ち上がる。
その横で、律だけは既に画面を見つめていた。
「今ニュースでやってる件……だろ」
美琴さんが律を見る。
「その通りよ」
全員がテレビへ視線を向ける。
「うおっ!」
和臣が声を上げた。
「ショッピングモールめちゃめちゃじゃねぇか!」
「能力者……」
俺は画面を見る。
「また愉快犯か……」
鈴音が悲しそうに眉を下げる。
「えー……ここのショッピングモール、私よく行くところなのに……」
透花も立ち上がった。
「私もよく行く所よ。被害も出てるでしょ。早く行かなきゃ!」
美琴さんが俺たちを見る。
「そういうことよ」
そして。
「朔、和臣、律、鈴音、透花」
「すぐ現場へ向かって」
「被害者の救助。それと――能力犯罪者の確保」
「了解」
俺たちが動き出そうとした、その時。
「それと……」
美琴さんが続けた。
「?」
俺が振り返る。
「実は、紬ちゃんにおつかいを頼んでいたの」
「紬に?」
「ええ」
美琴さんの表情が僅かに曇る。
「今頃、ちょうどあのショッピングモールにいるはずよ」
「…………」
「巻き込まれていなければいいんだけど……」
そして。
「現場に着いたら、紬ちゃんの安否も確認して」
「了解!」
俺たちは本部を飛び出した。
◇
――ショッピングモール。
到着した頃には、ニュースで見た時よりさらに酷い有様になっていた。
割れたガラス。
倒れた什器。
天井の一部は剥がれ落ち、床にも大きな亀裂が走っている。
「おいおい……」
和臣が周囲を見回す。
「さっきテレビで見た時より酷くなってんじゃねぇか」
俺は無線を取った。
「あーあー。澪、聞こえるか?」
ザザッ――。
『聞こえてる』
「愉快犯がどこにいるか分かるか?」
僅かな間。
そして。
『東棟2階の衣料品売り場に一人いる。周囲の人間はそこから逃げてる』
『この動き、かなり怪しい』
「了解。サンキュー澪!」
無線を切る。
「みんな、聞いたな!」
俺は東棟へ視線を向けた。
「2階だ。急ぐぞ!」
「おう!」
俺たちが駆け出そうとした。
その時だった。
「…………!」
律が突然、足を止める。
「律?」
次の瞬間。
律の瞳から光が消えた。
未来を――視ている。
◇
――2階衣料品売り場。
轟音。
ドドドドドドドッ!!
天井が崩れる。
「くっ……!!」
鈴音が両手を広げる。
透明なドーム状の《防壁》。
大量の瓦礫が、その上へ降り注ぐ。
ミシッ。
「っ……!」
防壁に亀裂。
「鈴音!!」
俺は叫んだ。
このままでは耐えられない。
その時。
「下がれぇぇぇぇ!!」
和臣が前へ出た。
ゴォォォォォォ!!
巨大な炎。
落下してくる瓦礫を吹き飛ばす。
鈴音。
俺。
透花。
律。
そして、周囲の一般人。
全員が助かる。
だが。
次の瞬間――。
崩れた天井の一部が。
和臣の頭上に降り注ぐ。
ドガシャァァァァン!!
◇
「…………!」
律が目を開けた。
顔から血の気が引いている。
額には、薄く汗が滲んでいた。
「律?」
俺は立ち止まる。
「どうした? 何か視えたのか?」
「ああ……」
律の声が低い。
「このまま2階へ上がれば、愉快犯と遭遇する」
「…………」
「そこで崩落が起きる」
律が和臣を見る。
「和臣が――」
言葉が詰まる。
「瓦礫の下敷きになる」
「…………」
和臣の表情が消える。
俺は律を見る。
「変えられないのか?」
「……他の可能性を探してみる」
律が再び目を閉じた。
◇
未来。
「和臣! そこから離れろ!!」
和臣が飛び退く。
助かった。
だが。
鈴音の防壁が破られる。
一般人と鈴音が瓦礫に飲まれる。
――違う。
未来。
鈴音を先に配置する。
早い段階で《防壁》を展開。
和臣も生存。
一般人も助かる。
だが――。
別方向から崩落。
「還田!!」
還田が巻き込まれる。
――違う。
配置を変える。
救助順を変える。
進入経路を変える。
それでも。
誰かが死ぬ。
「…………」
律の眉間に皺が寄る。
(なんでだ……)
未来は変わっている。
確かに。
さっきとは違う。
なのに。
(なんで必ず誰かが死ぬ……!)
(だったら……)
(被害が一番少ない未来を選ぶしかない)
律はまた未来を視る。
死。
「違う……」
別の未来。
死。
「違うっ!」
負傷。
「これも!」
崩落。
「これも違うっ!」
和臣。
「ダメだ!」
一般人。
「クソッ!」
守谷。
「っ……!」
何度変えても。
何度探しても。
誰かが。
誰かが。
誰かが――。
「ぐぁっ……!」
激しい頭痛。
律の視界が揺れる。
「律!」
俺は咄嗟に肩を支えた。
律が膝をつく。
「もういい!」
俺は叫んだ。
「無理するな!」
「…………」
律が荒い呼吸を繰り返す。
そして。
絞り出すように言った。
「……何度未来を変えようとしても……」
「誰かが犠牲になる……」
和臣が黙って律を見る。
「お前を助ければ……」
律が和臣を見る。
「一般人か……俺たちの誰かが死ぬ」
「…………」
「一般人や仲間を助ければ……」
律の拳が震える。
「お前が死ぬ」
沈黙。
誰も何も言わなかった。
その中で。
和臣が静かに口を開く。
「……だったら、もういいだろ」
「……?」
律が顔を上げる。
「俺一人で済む未来があんだろ?」
「…………」
「だったらそれでいい」
俺たちは何も言えなかった。
和臣が少し笑う。
「俺一人で済むなら」
「一番マシじゃねぇか」
「はぁ!? ちょっとあんた、何言ってるのよ!」
透花が声を荒げる。
「…………」
その瞬間――
律の中に、いくつもの光景が蘇った。
分身使いとの戦い。
透花を庇った和臣。
『避けたらコイツが怪我してただろ』
幻覚使いとの戦い。
律を透花の電撃警棒から庇い――。
『あばばばばばばば!!』
その後。
『まぁ気にすんな』
白霞岳。
限界まで火を灯し続けた和臣。
『……消したら……寒ぃだろ』
そして。
《虚像》使い、相馬玲司との戦い。
『和臣!』
律が右へ目をやる。
『5秒後だ』
『オーライッ!!』
「…………」
「だからもう――」
和臣が言いかけた。
「……ふざけるな……」
「あ?」
「ふざけるなぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
全員が目を見開く。
律が叫んだ。
「お前はもう少し、自分のことも大切にしたらどうなんだ!?」
「何のために俺が未来を視てると思ってる!!」
和臣が黙る。
「お前が犠牲になる未来を選ぶためか!?」
「助からない奴を決めるためか!?」
律の拳が強く握られる。
「違うだろ!!」
「そんな未来を避けるためだろうがぁぁぁぁぁ!!」
その叫びが。
崩れかけたショッピングモールに響いた。
「…………」
和臣は何も言わない。
律はもう一度目を閉じた。
(まだだ……!)
未来。
死。
(違う!)
未来。
崩落。
(まだだ……!)
未来。
和臣。
守谷。
一般人。
還田。
朔。
(違う……!)
律のこめかみに汗が流れる。
(何かある……)
(絶対に……)
(まだ何か……!)
そして。
ふと。
何かが引っかかった。
(…………待て)
律の脳裏に。
本部での美琴さんの言葉が蘇る。
『実は、紬ちゃんにおつかいを頼んでいたの』
『今頃、ちょうどあのショッピングモールにいるはずよ』
「…………」
律の目が開く。
「いるじゃねぇか……」
「……?」
俺が律を見る。
律が顔を上げた。
「もう一人」
「!」
律が無線を掴む。
「水瀬!!」
ザザッ――。
「聞こえてるか!? 聞こえたら返事しろ!!」
反応なし。
「水瀬!」
ザザッ――。
「水瀬!! 頼む、応答してくれ!」
◇
――数分前。
ショッピングモール1階。
紬は、スイーツイベントの会場へ向かう途中だった。
その時。
ドォォォォォン!!
「……!」
建物が大きく揺れた。
「キャァァァァァ!!」
「逃げろぉぉぉ!!」
悲鳴。
叫び声。
紬は足を止めた。
そして。
迷うことなく走り出す。
「大丈夫ですか!?」
倒れた什器。
崩れた壁。
その下に、人がいる。
「今、助けます!」
紬が両手を伸ばす。
《重力》。
ググッ……。
瓦礫が僅かに浮き上がる。
重さが消えていく。
紬がそれを押し退けた。
「今のうちに出てください!」
「た、助かった……!」
「まだ人はいますか!?」
既に。
紬もまた。
誰かを助けるために動いていた。
◇
そして、現在。
ザザッ――。
「水瀬!! 頼む、応答してくれ!」
『……時枝さん?』
「!」
律の表情が変わる。
「水瀬!」
俺たちも一斉に無線を見る。
「良かった! 今どこにいる!?」
『1階東棟の催事場です』
周囲から、泣き声や救助を求める声が聞こえる。
『天井の崩落に何人か巻き込まれちゃった人がいて、今救助してます』
「…………」
律が一瞬、考える。
水瀬を呼べば。
今度は1階の救助が止まる。
「還田!」
「何!?」
「1階東棟の催事場へ行ってくれ!」
「え?」
「水瀬が救助してる負傷者を引き継ぐんだ!」
律はそのまま無線へ。
「水瀬!」
『はい!』
「還田をそっちへ向かわせる!」
「交代したら、すぐ東棟2階の衣料品売り場へ来てくれ!」
『……分かりました!』
「ちょっと律!」
透花が律を見る。
「こっちは!?」
律も透花を見た。
「頼む」
「…………」
透花は一瞬だけ黙る。
律の顔を見て。
何かを察したように。
「……分かった」
そのまま走り出した。
◇
東棟1階催事場。
「紬!」
「透花さん!」
透花が駆け込んでくる。
「ここは私が引き継ぐ!」
「でも、まだ二人――」
「大丈夫!」
透花が負傷者の前へ膝をつく。
淡い光。
「律があなたを必要としてる」
紬を見る。
「早く行って!」
「…………!」
紬が頷く。
「分かりました!」
そして周囲を見る。
「瓦礫は全部退けておきました!」
「後はお願いします!」
「オッケー!」
透花が笑う。
「こっちは任せて!」
紬は立ち上がり。
2階へ向かって走り出した。
◇
東棟2階。
衣料品売り場。
「ギャハハハハハ!!」
男が笑っていた。
「楽しいなぁ!!」
周囲は既に酷い有様だった。
倒れた棚。
砕けた床。
ひび割れた柱。
「何もかも壊れちまえぇぇ!!」
男が柱へ手をかざす。
ゴゴゴゴゴ……!!
柱が激しく震える。
「……!」
俺は目を見開く。
ミシッ。
バキバキバキ!!
亀裂。
そして。
ガラガラガラッ!!
柱の一部が崩れ落ちる。
男は次に床へ手を向けた。
ゴゴゴゴゴ……!!
床が揺れる。
亀裂が走る。
「うわぁぁぁ!!」
「逃げろ!!」
残っていた一般人が必死に逃げる。
「てめぇ!!」
和臣が前へ出た。
「やめろやぁぁぁぁ!!」
ゴォォォォ!!
炎の球が放たれる。
「!?」
男が咄嗟に身体を捻る。
炎がすぐ横を通過。
「何だぁ? お前は」
「特異能力社会調整機構《ARC》の炎場和臣だ!」
男が舌打ちする。
「ARCか……」
そして。
ニヤッ。
「ウザったい連中だぜ」
男が和臣の頭上へ手を向ける。
「死ねやぁぁぁ!!」
ゴゴゴゴゴゴ……!!
「!」
天井が揺れる。
バキッ。
バキバキバキバキ!!
無数の亀裂。
律の顔色が変わる。
「来る!!」
律は知っている。
ここから先は。
最初に視た未来と同じ。
――最悪の未来。
「…………」
天井が崩れる。
大量の瓦礫が落ちてくる。
その下には数人の一般人。
最初の未来では。
ここで――。
和臣が死んだ。
「うおおおおおお!!」
和臣が炎を纏う。
その瞬間。
ピタッ。
「…………」
和臣の頭上。
大量の瓦礫が、一気に崩れ落ちる寸前で止まっている。
「……は?」
和臣が目を見開く。
落ちるはずだった瓦礫が。
天井で浮いている。
その向こう。
肩で息をする少女。
腕を伸ばし。
瓦礫へ力を向けている。
紬が息を切らしながら言った。
「間に……合いました……!」
「…………」
律がその姿を見る。
「おい、律?」
和臣が律を見る。
律はほんの少しだけ笑った。
ミシ……。
ミシミシ……。
「……?」
和臣が再び頭上を見る。
まだ天井は崩れかけている。
「和臣」
律が言った。
「そこから離れろ」
「言われなくても分かってるわ!!」
和臣が飛び退く。
「鈴音!」
「うん!」
「皆さーん、危険ですので、私について来てください。こっちです」
そう呼びかけ、鈴音が一般人を防壁で覆いながら後退する。
俺たちは一気に危険区域から離れた。
そして。
俺は気づく。
床に落ちきらず、浮いたままの瓦礫。
崩れかけた天井。
そして。
その下にいる能力犯罪者。
「…………」
頭の中で。
何かが繋がった。
俺は紬の元へ寄る。
「紬」
「はい?」
「ちょっといいか?」
俺は小声で伝える。
「…………」
紬の目が見開かれる。
「それって……」
「できる?」
紬が天井を見る。
浮いている大量の瓦礫。
「…………」
そして。
頷いた。
「……やってみます」
そのやり取りを。
律が見ている。
俺。
紬。
天井。
律の瞳が細くなる。
未来を――視る。
一瞬。
ドガシャァァァァン!!
「…………」
未来が切れた。
律が目を開ける。
何も言わない。
ただ。
全部理解したように。
俺を見る。
俺は男の前へ出た。
「おい」
「あ?」
「分かったぜ……お前の能力!」
男の笑みが僅かに消える。
「お前の能力は――《振動》」
「…………」
「物体を振動させて、内部から壊してる」
「柱も」
「床も」
「天井も」
俺は男を指さす。
「全部それだろ?」
数秒の沈黙。
そして。
「ギャハハハハ!!」
男が笑う。
「鋭いなぁ、お前!」
「当たりだよ!」
両腕を広げる。
「当たったところで――死ぬことに変わりねぇけどなぁ!!」
男が俺の足元へ手を向ける。
ゴゴゴゴゴゴ……!!
「!」
床が揺れる。
「朔くん!」
鈴音が俺を覆うように《防壁》を展開する。
透明なドーム。
だが――。
ゴゴゴゴゴゴ……!!
「くっ……!」
足元から伝わる振動が、防壁ごと揺さぶる。
「だったら――!」
俺は手を向けた。
「《反転》!!」
ヴンッ!!
振動。
その性質を。
反転。
揺れていた床が――。
ピタッ。
止まった。
「…………?」
男の目が見開かれる。
「何だ!?」
「何しやがった!?」
「俺の能力は《反転》でね」
俺は笑う。
「相手の能力の性質を、真逆にできる」
「お前の《振動》は――」
「《静止》させてもらったぜ!」
「…………」
男の顔が。
プルプルプル……。
「くっ……」
「クソがぁぁぁぁ!!」
男が走り出す。
「能力が使えねぇなら!!」
拳を握る。
「直接ぶっ殺してやる!!」
「死ねぇぇぇぇ!!」
俺へ向かって突っ込んでくる。
俺は。
動かない。
まだ。
もう少し。
敵の足が――。
浮かせた瓦礫の真下へ。
「もらったぁぁぁ!!」
拳が俺の顔面へ迫る。
その瞬間。
バッ!!
俺は後ろへ飛んだ。
「なっ!?」
そして叫ぶ。
「今だ!!」
「はい!!」
紬が能力を解除する。
――ズン。
「…………え?」
男が。
ゆっくり上を見る。
その頭上。
大量の瓦礫が降り注ぐ。
ドガシャァァァァァァン!!!
「ぎゃあああああああ!!」
轟音。
そして。
静寂。
瓦礫の山。
「…………」
和臣。
「…………」
鈴音。
「…………」
律。
「…………」
俺。
和臣がぽつりと呟く。
「……エグくね?」
「死なない程度にしてる」
俺が答える。
紬も慌てて付け加えた。
「ちゃんと重さは調整しました!」
「そこ調整できんのかよ……」
男は瓦礫の下で完全に気絶していた。
◇
事件は収束した。
救急隊が負傷者を運び。
一般人の避難も進んでいく。
能力犯罪者も確保された。
そして、全員無事だった。
少し離れた場所で、律がその光景を見ていた。
「律」
俺が声をかける。
「?」
律が振り返る。
俺は周囲を見る。
和臣。
鈴音。
透花。
紬。
そして。
俺と律。
「全員いるな」
「…………」
律が何も言わず。
もう一度みんなを見る。
その時。
グゥ〜。
「腹減ったな」
和臣が腹を押さえた。
透花が思い切り顔をしかめる。
「今それ言う!?」
「生きてりゃ腹も減るだろ!」
「……あっ!!」
突然。
紬が大声を上げた。
「?」
俺が見る。
「どうした?」
「…………」
紬の顔が。
少しだけ青ざめる。
「……おつかい……」
「おつかい?」
「あっ……でも」
紬が壊れたショッピングモールを見る。
「こんな状況になっちゃったら、さすがにもうお店やってませんよね……」
「…………」
俺には。
何の話なのか分からなかった。
「何の話だ?」
「い、いえ! 何でもないです!」
紬が慌てて首を振る。
「?」
そんな俺たちを。
律が見ていた。
いつものARC。
騒がしくて。
くだらなくて。
誰一人。
欠けていない。
律がほんの少しだけ笑う。
「……未来ってのも」
「?」
俺が振り返る。
律は空を見上げた。
そして。
小さく。
「案外、当てにならないものだな」
第16話 END




