↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/32

第13話 白霞岳救助任務

ARC本部、ブリーフィングルーム。


正面のモニターには、雪に埋もれた山間の村が映し出されていた。


屋根には大量の雪。


道路は白く埋まり、ところどころ家屋が崩れている。


美琴さんが俺たちの前に立つ。


「みんな、聞いてちょうだい」


いつもより少し険しい表情。


「たった今、政府から救助要請が入ったわ」


画面が切り替わる。


山間部の地図。


「白霞岳にある小さな村で、ここ最近の記録的な豪雪によって積雪が急激に増加。家屋の倒壊が相次いでいるそうなの」


「道路も各所で寸断されていて、通常の救助活動だけでは追いついていない」


部屋の空気が変わる。


さっきまでの雑談が消えた。


「そこで今回、あなたたちには災害救助に加わってもらいます」


「災害救助……」


和臣が小さく呟く。


美琴さんがメンバーを見渡す。


「和臣、律、透花、紬ちゃん、結人」


「今回はこの五人で行ってもらう」


「…………」


俺は少し待つ。


「俺は?」


「朔は待機」


「え」


即答だった。


「今回の事例に《反転》はあまり向いていないわ。何かあった場合に備えて、ここに残ってもらう」


「……そっか」


和臣が俺の肩を軽く叩く。


「まぁ、今回はゆっくり休んどけって」


「美琴さんが待機ってんなら仕方ないな」


その横で、結人が手を挙げる。


「美琴さん、なんで俺が入ってるの?」


「ん?」


「いつも通り無線持たせときゃよくね?」


美琴さんが結人を見る。


「今回の現場は山間部よ」


「豪雪の影響もある。通信設備が正常に機能している保証もないし、場所によっては無線が届かない可能性もある」


「…………」


「万が一、通常の通信手段が使えなくなった時――」


美琴さんが少し笑う。


「あなたが必要になる」


「…………」


結人の口元が緩む。


「……へへ」


一気に胸を張った。


「美琴さんがそう言うならしゃーないなぁ!」


「よーし! ようやく俺の出番ってわけか!」


「《通信》の力、見せてやるぜ!」


「調子に乗るの早くない?」


透花が呆れる。


美琴さんは少しだけ笑ってから、すぐに表情を引き締めた。


「今回は能力犯罪者の制圧じゃない」


「あなたたちが相手にするのは――雪と寒さと時間よ」


全員の顔を見る。


「一人でも多く、無事に連れ帰ってきて」


「了解!」


     ◇


村へ着いた瞬間。


目の前に広がった光景に、誰もすぐには言葉を出せなかった。


一面の雪。


腰近くまで積もっている場所もある。


屋根が潰れた家。


壁の崩れた家。


救助隊員たちが声を掛け合いながら走り回っていた。


「ここかぁ……」


結人が辺りを見る。


「うわ、ひでぇ有様だな……」


「見てる暇ないわ。早く行きましょ!」


透花が先に走り出す。


紬も倒壊した家屋へ目を向けた。


「私、あっちを見てきます」


「まだ中に人がいるかもしれません」


「俺も行く」


律が続く。


「二次崩落が起きるなら、事前に分かる」


透花は別方向を見る。


「私は怪我人と病人を診てくる」


「じゃ、俺は……」


結人が自分を指さす。


「どうすっかな」


「あんたは私と来て」


「俺?」


「救助隊との連絡役」


透花が指揮隊のいる方向を指す。


「応援が必要になったら、村の入口にいる指揮隊へ伝えて」


「なるほど。了解」


「…………」


一人。


和臣だけが取り残された。


「?」


みんなが振り返る。


「俺は?」


「…………」


律が和臣を見る。


「お前もこっちだ」


「あ?」


「雪を溶かして道を作れ。それと瓦礫の撤去も手伝ってくれ」


「チッ……偉そうに指図すんな」


紬も和臣を見る。


「和臣さん。私からもお願いします」


「瓦礫を軽くすることはできますけど……これだけ数が多いと、私一人では」


「…………」


和臣が頭を掻く。


「しゃーねぇな。分かったよ」


結人が全員を見る。


「じゃ、俺は能力繋いどく」


「何かあったら俺に向かって念じろ。拾ってやる」


それから少しだけ真面目な顔になる。


「ただし、俺から離れすぎると届かなくなるから、そのつもりでな」


全員が頷いた。


     ◇


救助はすぐに始まった。


「こっちだ!」


ゴォォォッ!!


和臣の炎が積もった雪を一気に溶かす。


そこへ紬が手を向ける。


「《重力》」


崩れ落ちた屋根材が軽くなる。


「よっしゃ!」


和臣が瓦礫を持ち上げる。


「律!」


「右側はまだ崩れない! そのまま行け!」


「おう!」


三人は何軒もの家を回った。


その中から――


一人。


二人。


三人。


さらに二人。


合計五人の生存者を救助した。


「避難所まで運ぶぞ!」


雪の中を進み。


ようやくたどり着いたのは、村の集会所だった。


     ◇


「……停電してるな」


律が天井を見上げる。


照明はついていない。


暖房も動いていない。


外より風を防げるだけ、まだマシ。


だが――


それだけだった。


「結人さん、聞こえますか?」


紬が心の中で呼びかける。


「…………」


返事はない。


もう一度。


「結人さん?」


「…………」


紬の表情が曇る。


「まずいですね……避難所まで来たはいいものの、結人さんから離れすぎちゃったみたいです」


律が外を見る。


吹雪はさらに強くなっている。


「とりあえず救助を待とう」


「外にいるよりは幾分かマシだ」


「…………」


和臣は何も言わず、室内を見る。


救助した五人。


そのうち一人は、小さな男の子だった。


     ◇


数十分後。


「寒いよぉ……」


子供の声。


小さな身体が震えている。


大人たちも同じだった。


肩を寄せ合い。


両手を擦り。


少しでも体温を逃がさないようにしている。


和臣が、その様子を見る。


「…………」


自分の手を見る。


そして、ふと気づく。


(……そういうことか)


(俺が今回の任務に選ばれた理由)


和臣が子供の前へ歩いていく。


「待ってろ、ぼうず」


子供が顔を上げる。


「今、暖かくしてやるからな」


ゴォォォォォ!!


「わっ!?」


和臣の全身が一気に燃え上がった。


周囲の温度が急激に上がる。


「わぁ……あったか――」


子供が手を伸ばす。


そして。


「あつっ!」


「熱い! 熱いよ!!」


「えっ」


律がすぐに振り返る。


「和臣、もっと火力下げろ」


「お、おう。悪い」


和臣が炎を弱めようとする。


「…………」


だが。


ゴウッ。


ボッ。


炎が揺れる。


そのまま――


フッ。


消えた。


「あああぁ!!」


和臣が頭を掻きむしる。


「やりにくいなぁクソッ!!」


いつもなら。


もっと強く。


もっと大きく。


もっと激しく。


そればかり考えてきた。


弱くする。


小さくする。


そんなこと、まともに考えたことすらない。


その時。


頭に浮かぶ。


久我の声。


『能力を理解しろ』


『見えている現象だけで判断するな』


『自分が何を起こしているのかを考えろ』


「…………」


和臣が右手を見る。


以前、自分が透花に言った言葉まで思い出す。


(できねぇって決めつけんな)


(火力を上げられるなら……)


「……下げることだって、できるはずだろ」


もう一度。


右手へ意識を集中する。


いつもの炎じゃない。


敵を焼くための炎でもない。


吹き飛ばすための炎でもない。


今ここにいる全員を。


ただ――暖めるための火。


「…………」


ゆっくり。


少しずつ。


ポゥッ。


和臣の手のひらに、小さな火が灯った。


炎じゃない。


まるで焚き火のような――


小さな火。


「……!」


子供が恐る恐る手をかざす。


しばらくして。


「……あったかい」


「…………」


和臣は自分の手を見る。


その小さな火を見つめる。


ふと。


以前、模擬戦で自分が言った言葉を思い出す。


『能力の使い方ってもんを教えてやるぜ』


「…………」


何が能力の使い方だよ。


和臣は少しだけ自嘲気味に笑った。


そして。


「……燃やすだけが、炎じゃねぇ」


律が、その言葉を聞く。


黙ったまま和臣を見る。


「さぁ、お前ら!」


和臣が大きな声を出す。


「俺の手の周りに集まれ!」


村人たちが少しずつ集まる。


小さな火を中心に。


冷え切っていた空気が、少しずつ暖まっていく。


「どうだ?」


和臣が少し心配そうに周囲を見る。


「みんな、熱すぎねぇか?」


子供が首を振る。


「ううん。あったかい!」


「……そっか」


和臣が笑う。


「熱すぎとか、寒ぃとかあったら遠慮なく言えよ」


手のひらの火を見る。


「調整してやるから」


その様子を――


律は黙って見ていた。


そして。


目が僅かに鋭くなる。


未来を見る。


「…………」


「和臣」


「あ?」


「暖かいのはありがたいが……」


律の表情が険しくなる。


「お前、このままだと二時間後には限界が来るぞ」


「二時間?」


和臣は鼻で笑う。


「二時間もありゃ救助来るだろ」


「…………」


律は何も答えなかった。


     ◇


同時刻。


村の中。


吹雪の中を、結人と透花が走っていた。


「…………」


結人が足を止める。


目を閉じ。


意識を集中する。


『律! 聞こえるか!?』


『和臣!』


『紬ちゃん! 誰でもいい! 返事しろ!!』


「…………」


応答はない。


「……クソッ!」


「まだダメ!?」


透花が振り返る。


「ああ!」


結人が苛立ったように雪を蹴る。


「さっきまでは拾えてたんだ! なのに途中から三人まとめて消えやがった!」


「だったらもっと近づけば――」


「やってるよ!!」


「…………」


珍しく。


結人が声を荒らげた。


二人の間に、一瞬だけ沈黙が落ちる。


結人自身も気づいたらしい。


「…………」


「……悪い」


透花は少しだけ目を伏せる。


「……いい」


それだけ。


喧嘩をしている暇なんてない。


結人は再び雪の中を歩き出す。


「もう少し奥まで行く」


「でも、そっちだって安全とは――」


「繋がらねぇなら」


結人が前を向いたまま言う。


「繋がるところまで行くしかねぇだろ」


「…………」


透花は何も言わない。


そのまま、結人の後を追った。


吹雪の中。


何度も。


何度も。


『律! 聞こえるか!?』


『和臣!』


『紬ちゃん!』


『誰でもいい! 返事しろ!!』


それでも。


返事はなかった。


     ◇


それから一時間。


避難所。


和臣の呼吸が少し荒くなっていた。


「ハァ……」


手のひらの火は、まだ灯っている。


だが。


先ほどより小さい。


「和臣」


律が見る。


「大丈夫か?」


「あ?」


和臣が笑う。


「全然平気だ」


どう見ても平気じゃない。


額には汗。


肩も上下している。


紬も心配そうに和臣を見る。


「少し休んだ方がいいですよ」


「大丈夫だって!」


和臣が火を消さないよう、右手に意識を集中する。


「消したら寒いだろ」


その時だった。


三人の頭の中に。


声が響いた。


『和臣! 律! 紬ちゃん!』


「……!」


『誰か聞こえないか!?』


三人が一斉に顔を上げる。


「来た……!」


紬の顔が明るくなる。


「結人さん!」


和臣も笑う。


「やっと来たか!」


律が目を閉じる。


「俺が答える」


そして意識を向ける。


『結人、聞こえるか?』


一瞬。


『律!!』


結人の声。


『よかった! 急に反応なくなったから探してたんだよ!』


律が周囲を見る。


『こっちは何とか五人救助した』


『今は避難所にいる』


『ただ――停電してる。暖房が使えない』


『……マジか』


律が和臣を見る。


『和臣がずっと能力を使って、全員を暖めてる』


少し離れた場所。


結人の隣にいる透花の表情が変わる。


「…………え?」


『どのくらいだ?』


結人が聞く。


律が答える。


『もう一時間』


「……一時間?」


透花の声。


律には聞こえない。


だが結人には聞こえた。


律は続ける。


『俺の《未来視》では――』


少し間が空く。


『あと一時間が限界だ』


「…………」


透花の顔から血の気が引く。


『その先まで続けたら、能力の使いすぎと反動で危険だ』


「…………」


透花が結人を見る。


「急いで」


「……!」


「お願い」


声が震える。


「急いで……!」


結人が頷く。


『律』


『物資と救助隊の応援を要請する。それと、可能なら救助ヘリも手配する』


『分かった』


『ただ、物資用意したり、ヘリ飛ばしたりで少し時間かかるかもしれねぇ』


律が和臣を見る。


『……急いでくれ』


そして。


『和臣がもたない』


一瞬。


通信の向こうが静かになる。


やがて――


『了解』


結人の声。


『そいつに「勝手にくたばんな」って言っとけ』


「聞こえてんぞコラァ!!」


和臣が叫ぶ。


『元気じゃねぇか!』


「うるせぇ!!」


『必ず行くから、もう少し待ってろ!』


通信が切れる。


「…………」


和臣が小さく息を吐く。


そしてまた。


手のひらの火を見る。


     ◇


さらに一時間。


「ハァ……ハァ……」


和臣は、もう限界だった。


呼吸は荒い。


額から汗が流れる。


右手が震えている。


それでも。


小さな火は消えていない。


「和臣」


律が低い声で呼ぶ。


「……もうやめろ」


「あ?」


「救助隊が来るまでもたない」


律の声が強くなる。


「このままじゃ、お前――」


一瞬。


言葉を詰まらせる。


「能力の使いすぎと反動で、最悪……命を落とすぞ」


「…………」


和臣は何も答えない。


周りを見る。


震える子供。


身体を寄せ合う村人。


そして。


自分の手のひら。


消えかけている火。


「ハァ……ハァ……」


和臣が弱々しく笑う。


「消したら……」


「……寒ぃだろ」


「…………」


律が和臣を見る。


その手のひらで。


火が揺らぐ。


小さく。


今にも消えそうに。


その光を見ながら。


律の頭に、これまでの光景が浮かんだ。


『避けたらコイツが怪我してただろ』


透花を庇って。


自分が傷ついた和臣。


そして。


幻覚の中。


自分を庇って高圧電流を受けた和臣。


『まぁ気にすんな』


「…………」


律が和臣を見る。


今も。


知らない誰かのために。


自分の命まで削っている。


(あぁ……そうか)


ようやく分かった。


(こいつは……)


(そういう奴なんだ)


     ◇


さらに十分後。


外から。


複数の足音。


「……!」


律が顔を上げる。


扉が開く。


「いた!!」


透花の声。


その後ろから結人。


さらに救助隊員たちが入ってくる。


「……和臣」


律が呼ぶ。


「…………」


反応がない。


「和臣」


もう一度。


「来たぞ」


「…………」


和臣がゆっくりと顔を上げる。


救助隊員が村人たちへ駆け寄っていく。


物資が運び込まれる。


毛布。


暖房器具。


救助された人々が、一人ずつ保護されていく。


さっきまで震えていた子供も。


救助隊員に毛布をかけてもらっていた。


その子が。


和臣の方を見る。


「お兄ちゃん」


「…………」


「ありがとう」


「…………」


和臣がほんの少しだけ笑う。


「……そっか」


「……よかった」


フッ――。


手のひらの火が消えた。


その瞬間。


和臣の身体が崩れ落ちる。


「和臣!!」


透花が駆ける。


床へ倒れる直前。


身体を受け止める。


「ちょっと!!」


肩を揺する。


「和臣!」


反応がない。


「…………」


透花の顔色が変わる。


「和臣?……和臣っ!」


和臣の頬を軽く叩く。


それでも反応しない。


胸元へ手を当てる。


淡い治癒の光。


「……起きなさいよ」


返事はない。


「…………」


光を強める。


「……嘘でしょ?」


声が震える。


「何寝たフリしてるのよ」


「…………」


手まで震え始める。


「何か言いなさいよ……」


光がさらに強くなる。


「ねぇっ!」


返事はない。


透花の目に。


涙が溜まる。


「……お願いだから……!」


淡い光が和臣の身体を包む。


「目を開けてよ……!」


ポタッ。


一滴。


涙が和臣の頬へ落ちる。


「…………」


その時。


和臣の指が――


僅かに動いた。


「……!」


透花が息を呑む。


「和臣……?」


ゆっくり。


和臣の目が開く。


まだ焦点が合っていない。


「…………」


目の前にいる透花を見る。


そして。


かすれた声で。


「……透花……?」


「…………!」


和臣はまだ、何が起きているのか分かっていない。


目を覚ましたら。


透花が泣いている。


ただそれだけ。


でも。


その声を聞いた瞬間。


透花の中で張り詰めていたものが――


全部切れた。


「…………っ!」


治癒の光を出したまま。


「バカぁ……!!」


ペシッ。


「……っ」


「どんだけ……」


ペシッ。


「心配……!」


透花の目から、さらに涙が溢れる。


「させんのよ……!」


ペシッ。


「…………」


和臣が弱々しく顔をしかめる。


かすれた声で。


「……治療で……殴んなよ……」


「…………」


透花が鼻をすすった。


「……うるさい……」


もう一度。


淡い光が和臣の身体を包む。


「…………」


「ひぐっ……」


「うる……さい……」


「……バカ」


和臣は何も言わない。


ただ。


ほんの少しだけ。


笑った。


第13話 END

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。