第11話 黒装束の五人
ARC本部、ブリーフィングルーム。
正面のモニターには、一軒の宝石店が映し出されていた。
割れたショーケース。
床に散らばるガラス片。
その前に、美琴さんが立っている。
「最近、複数人の能力犯罪者による宝石店襲撃事件が相次いでいる」
画面が切り替わる。
防犯カメラの映像。
そこに映っていたのは――五人の黒装束。
顔の大半を布で覆い、それぞれが手裏剣や鎖鎌、吹き矢などを手にしている。
「これまでに確認されている犯人は五人。いずれも忍具のような武器を使用している」
「忍者ぁ?」
和臣が身を乗り出した。
透花が呆れたように横を見る。
「食いつくところそこ?」
「いや、だって忍者だぞ!?」
「だから何よ」
「なんかカッケぇだろ!」
「はいはい」
美琴さんが小さく息を吐く。
「話を戻すわよ」
「へい」
再び画面が切り替わる。
今度は街外れにある古びた倉庫の写真だった。
「澪とみつきちゃんの調査で、連中が出入りしていると思われるアジトを特定した」
澪の《索敵》。
そして、みつきの《気体化》。
二人の能力を使って周辺を調査したらしい。
「今回の任務はアジトへの突入。能力犯罪者の制圧、および身柄の確保」
美琴さんが俺たちを見る。
「朔、和臣、律、鈴音ちゃん、透花」
そして――
「今回はこの五名で行ってもらう」
美琴さんの表情が少しだけ引き締まる。
「ただし――相手の能力は判明していない」
「…………」
「分かっているのは、少なくとも五人の人間が現場で確認されていることだけ」
美琴さんが俺たち一人一人を見る。
「慎重に任務を遂行して」
「了解」
俺たちはブリーフィングルームを後にした。
◇
街外れ。
人気のない一角に、その倉庫はあった。
錆びついた鉄板。
割れた窓。
長い間使われていないように見える。
事前に澪から内部の構造は聞いている。
俺たちは倉庫の中へ入った。
「…………」
静かだ。
薄暗い倉庫の中に、俺たちの足音だけが響く。
和臣が周囲を見回す。
「誰もいねぇじゃねぇか」
「いるはずだよぉ」
鈴音が小さく答える。
「澪さんが確認してるからぁ」
「じゃあ隠れてんのか?」
その時だった。
律が足を止める。
「……来る」
「あ?」
ヒュンッ!!
暗闇から何かが飛んできた。
「《防壁》!」
ガキィィン!!
俺たちの目の前で、手裏剣が弾かれる。
「右から鎖鎌!」
ジャララララッ!!
「うおっ!?」
和臣が身体を反らす。
その鼻先を、鎌が通過した。
「正面、吹き矢!」
「朔くん!」
鈴音が俺の前へ出る。
ガキンッ!
透明な壁に、小さな針が弾かれた。
「……助かった」
「まだ来る!」
律の声が響く。
俺たちは一斉に構えた。
そして――
暗闇の中から、ゆっくりと人影が現れる。
一人。
二人。
三人。
四人。
五人。
全員が同じ黒装束。
だが、持っている武器は違う。
手裏剣。
鎖鎌。
吹き矢。
鉤爪。
そして――刀。
「こいつらが例の五人組か!」
和臣の両手に炎が灯る。
敵は何も答えない。
五人が、一斉に動いた。
「来るぞ!」
律の声と同時に、戦闘が始まった。
◇
「五秒後、左! 鎖鎌!」
「おう!」
和臣が踏み込む。
ジャラララッ!!
鎖が地面を叩く。
その横をすり抜け――
「おらぁ!!」
ゴォォォォッ!!
炎が走る。
鎖鎌を持った男が後ろへ跳んだ。
「次、後ろ! 鉤爪!」
「後ろぉ!?」
和臣が振り返る。
鉤爪が振り下ろされる。
ガキィン!!
鈴音の《防壁》が間に入った。
「助かった!」
「前!」
「忙しいな、おい!!」
次々と飛んでくる攻撃。
だけど――
当たらない。
律が、攻撃が来るより先に教えている。
数秒先。
ほんのわずかな未来。
それだけで、戦い方がまるで変わる。
「朔! 右だ!」
「オーケーッ!」
俺は飛んできた手裏剣をかわす。
敵を見る。
五人。
武器は違う。
動きも違う。
だが――
(能力は何だ?)
まだ誰も能力らしいものを使っていない。
本当にただの五人組なのか?
「律くん!」
鈴音の声。
俺が振り返る。
刀を持った男が、律へ向かっていた。
「《防壁》!」
ガキィィン!!
男の刀が弾かれる。
「危なかったねぇ。律くん」
「助かった。守谷」
そこへ和臣が飛び込んだ。
「おらぁ!!」
炎を纏った拳。
その時――
律の目が鋭くなる。
「和臣! 左から来る! 避けろ!」
「――っ!」
和臣が左を見る。
鎖鎌。
鋭い刃が、一直線に迫ってくる。
避けられる。
――だが。
和臣は動かなかった。
「和臣!?」
ヒュン!!
「ぐっ!」
鎖鎌の刃が和臣の腕を掠めた。
服が裂け、血が滲む。
「何してる! 避けろって言っただろ!」
律が声を荒らげる。
「あぁ?」
和臣が後ろを指す。
そこには――透花がいた。
「避けたらコイツが怪我してただろ」
「…………」
律が言葉を失う。
「和臣! 腕!」
透花が駆け寄ろうとする。
「後だ! こんくらい平気だ!」
「平気じゃ――」
「来る!」
律の声。
和臣が前を見る。
手裏剣を構えた男が迫っていた。
「そこだぁぁ!!」
ゴゥゥッ!!
和臣の手から放たれた大きな炎の球が、男へ一直線に飛ぶ。
ドゴォ!!
炎の球が直撃する。
男の身体が吹き飛んだ。
そのまま床へ叩きつけられる――
はずだった。
ボフンッ。
「…………」
消えた。
「…………」
俺も和臣も、その場で固まる。
「……消えた?」
透花が呟く。
和臣が自分の手を見る。
「俺、燃やしすぎた!?」
「人間そんな綺麗に消えねぇよ」
「じゃあ何だよ!?」
「それを考えてんだよ」
敵を見る。
残り四人。
さっきまで確かにそこにいた。
攻撃には実体があった。
手裏剣も飛んできた。
なのに――
倒した瞬間に消えた。
(……何だ?)
(確かに人間だった)
(攻撃も実体があった)
(なのに――消えた)
俺は四人を見比べる。
そして口を開いた。
「……試してみるか」
「あ?」
「和臣」
「なんだ?」
「もう一人倒してくれ」
一瞬。
和臣がニッと笑った。
「おう。任せろ!」
両腕から炎が噴き上がる。
「律!」
「二秒後、正面が動く!」
鎖鎌を持った男が踏み込む。
「そこだぁ!!」
ゴォォォォッ!!
炎が一直線に走る。
鎖鎌の男を呑み込んだ。
そして――
ボフンッ!!
また消えた。
「…………」
残り三人。
その瞬間。
頭の中で、何かが繋がった。
五人。
倒した二人は消えた。
残った三人は、まったく動揺していない。
いや――
違う。
(五人組じゃない)
俺は残った三人を見る。
同じ黒装束。
同じ体格。
同じ――人間。
「……なるほど」
敵の動きが止まった。
俺は笑う。
「分かったぜ! お前の能力!!」
三人の視線が、一斉に俺へ向く。
(本物は一人)
(残りは――)
《分身》。
その時。
律が叫んだ。
「朔!!」
「!」
「三秒後! 上から刀!!」
上を見る。
倉庫の鉄骨。
そこに――刀を構えた一人がいる。
「来るぞ!!」
男が跳んだ。
刀を振りかぶり、俺へ一直線に落ちてくる。
「朔くん!?」
鈴音の声。
俺は避けない。
あと少し。
刀が俺に届く――
その寸前。
「《反転》!!」
シュンッ!!
目の前で刀を振り下ろそうとした男の姿が掻き消えた。
違う。
消えたんじゃない。
一つへ――収束した。
少し離れた場所。
鉤爪を構えた男だけが残る。
「……!?」
初めて、敵の表情が変わった。
俺はニッと笑う。
「悪いな」
男が周囲を見る。
だが――もう誰もいない。
「もう増えられねぇぞ」
《分身》。
一人を、複数にする能力。
だったら反対は――
複数を、一人へ。
本体だけを残す。
俺は叫ぶ。
「和臣!」
「おう!!」
和臣の拳に炎が集まる。
ゴォォォォォ!!
「あとはあいつだけだ!!」
「任せろやぁぁぁ!!」
和臣が踏み込む。
敵が鉤爪を構える。
だが――
「右に避けろ!」
律の声。
「おう!」
鉤爪をかわす。
そのまま懐へ。
炎を纏った拳が――
「おらぁぁぁぁ!!」
ドゴォォォォォン!!
敵の腹へ突き刺さった。
身体が吹き飛ぶ。
壁際まで転がり――
止まった。
「…………」
静寂。
和臣がゆっくりと拳を下ろす。
纏っていた炎が消える。
「一丁上がり」
◇
敵の身柄を確保し、任務は終了した。
「ったく、思ったより手こずったな」
和臣が何事もなかったように歩いていく。
その腕には――さっき鎖鎌で切られた傷。
それを見た透花の眉が動いた。
「ちょっと、和臣」
「ん?」
「そこ、見せて」
「あ?」
和臣が自分の腕を見る。
「ああ、これか。こんくらい平気だって」
「平気じゃない! あんたって人はっ」
ペシッ。
「いてっ!」
淡い治癒の光を手に纏いながら、透花が和臣の傷口を叩く。
「毎回」
ペシッ。
「いてっ」
「毎回」
ペシッ。
「痛ぇって!」
「そうやって怪我を軽く見て」
ペシッ。
「傷だらけになって帰ってくるんだからっ!」
ペシッ!!
淡い光が傷口を包む。
叩くたびに、傷は少しずつ塞がっていく。
だが――
「痛ってー!! 傷口叩きながら治すなっ!!」
「治ってるでしょ!」
「そういう問題じゃねぇ!!」
「あんたの治療なんて、もうこれで十分よっ!」
ペシッ!!
「痛ってーー!! 普通に治してくれーー!!」
和臣の絶叫が、倉庫に響き渡った。
以後。
淡い治癒の光を纏った手で傷口をペシペシ叩くこの治療法は――
ARC内で《ペシペシ治癒》と呼ばれることになる。
主な被害者は、炎場和臣。
第11話 END




