第11話:虎と星と三冠王の渡米
時は遡って令和八年。それはまだ、シオンの派遣どころか京都市政も国政も人間が担っていた頃の話である。当時のAIの予測だとパリやミラノのように日本では暴動など怒らないと考えられていたが、関西地方だけはどうやら例外になる雰囲気に焼かれていた。
虎の球団は日本一の切符を二年連続、CSのせいで横浜の星に盗られてしまったのだ。
そして、鳴かず飛ばずだった頃から熱心なファンに愛され支えられてこの日まで虎の球団のクリナップを任された、令和でも最も虎党に愛されたスラッガー佐野輝元は令和7年の球団との約定通りにメジャー行容認を勝ち取った。
しかし、球団と約束はしていても一部のファンは黙っていなかった。健矢の店も含め、大阪や神戸、京都の酒場は、盛り場は暴徒の集会所じみた物々しい雰囲気に包まれていた。
「ふざけんな!アホか!!CSなんかあったらアカンのや!!!」
「NPBの事務所、焼くか?」
「やめとけって.....それよりもっと重要な目標がある。」
「これって.....!佐野の愛車と.......実家!?」
「あいつ、俺らの愛なぞ最初から知らんぷりやったわけや!虎を、関西を!裏切りよったんや!!俺らがユニフォームやTシャツ、ナンボ買うたと思てんねん!?」
「せや!母校の大学にも爆破予告.....いや、予告する前に、火炎瓶を作るんや!」
「そういや最近、フランスの歴史的建造物を暴徒が焼いたらしい。」
「それに比べたらウチらは理性的や!ウチらの愛の重さをあいつは.....知る権利がある!」
「おフランスの歴史遺産が燃えたんならNPBの事務所と虎の親会社の本社ビルの一つや二つくらいは安いよな!?」
愛ゆえに歪んでヤンデレと化した老若男女が決死隊でも編成しようと企んでおり、居酒屋のおやじや店員もまたノリノリで共謀している。
共謀罪を適用して手錠をかけるべき私服警官までも脳を焼かれていたなんて話を聞いても健矢は間違いなく信じただろう。
客の何人かも、令和8年の秋はNPB本部と虎の球団、佐野個人に対する呪詛を呟いていて怖かった。幸いにして健矢は牛のファンを公言してたから共謀に加担しなくても良かったのが救いであった。
令和8年のオフは我らが牛の球団も大ピンチだった。
牛の命綱に等しかったベネズエラ人投手2名を早々に失ったも同然となり、最後のPL戦士や復活した名物サードを死に物狂いで慰留しなくてはならない、が.........それ以前に、山崎健矢は身の危険を感じていたのだ。
自分の住む街がノリと勢いに任せた縦縞の暴徒に焼かれたらどうしよう、と。
仮に虎の球団が日本一になったとしても、佐野の家は標的にされていただろう。
ロスに渡った先代の丑の絶対エースやそのチームメイトのように最初からメジャーに行きたいと豪語していたという話でもなく、令和5年のオフにイチビってメジャー行きたい宣言していた程度だった。
その為、この件に関して関西人の大部分は穏健派と過激派に分かれていたのだ。
NPBへの怒りが佐野への怒りへと引火して怨念の類焼延焼は止まるところを知らない。健矢たちのような猛牛党は虎どころか兎や鷹の球団のファン以上に少ない上、広島の鯉や北海道の肉屋の球団にすら数で劣っているという話すら聞くほどである。
「日本人は中国や台湾みたいに寝そべって反抗するんじゃないのかよぉぉぉぉぉぉ!?」
健矢は絶叫するが、猛虎の蒔いた種火は燃え盛るばかりであった。
「そういや、森田にも渡米応援確約しよったらしい。」
「は!?アホか!何考えとんねん!ミスターティーガーを放出するだけじゃ足りんのかあの守銭奴ども!?やはり、親会社と球団の事務所も焼かなあかん!殴らなアカン!わからせな....アカンのや!!」
他の地域なら警官が共謀を諫めようともするし、放火未遂や共謀の時点で動きもしただろう。だが悲しいかな、ここは関西。警官の多くもまた1人の虎党なのである。虎党の首相を動かして、などという悠長な考えなど最初から存在しないのだ。
「商魂を歌うな」と言って聞く連中でもなければ、ハマスタで相手ファンと乱闘をすることも、あと1人コールも頑なに非難や批判を無視するかのようにしぶとく続けていることでも知られる熱狂的過ぎるファン層を抱えるのが虎の球団なのだ。
燃え盛った愛憎の炎を今すぐ標的に叩き込まなければ済まない状況を前に立場や職責などは余りに理由としては弱い。それが関西の虎党なのである。
「リコ.......クロ.....お前らは絶対、この店共々俺が守るからな....!」
ニャンズを前に拳を固く握り込む健矢であった。




