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アラフォー独身カフェマスターはカプセル引きこもり義務化世界でも「おりほー」がしたい!   作者: 蒼波8


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第9話「クローゼットあるある」

カフェ『アルカディア』の開店前。カウンターの端で、シオンはいつものように店内の備品データと健矢の私物を管理端末でスキャンしていた。


「マスター」


シオンは冷徹なトーンで、しかしどこか呆れたようなインジケーターを明滅させながら声を飛ばした。


「あなたの普段着のバリエーションについて監査を完了しました。基本構成は小洒落たデニムかカーキのチノパンの上に、白Tシャツか紺のM1200っぽいポロシャツ。冬場はその上にジャケットか牛の球団パーカーと、極めて最小限度の定番で回されています。……それは合理的でよろしいのですが」


カウンターの奥で仕込みをしていた健矢は、トングを持ったままピタリと動きを止めた。


「なんだよ。私服なんて見てくれが小綺麗で着やすけりゃ何でもいいんだよ。無駄に流行りを追う必要なんてないだろ」


「問題はそこではありません」


シオンはホログラムのウィンドウを宙へ大きく展開した。そこに映し出されたのは、二階の寝室にある健矢のクローゼット内部の3Dマップである。


「サイクルジャージやインナーが多少多いことを除けば確かにミニマムですが……。マスター、クローゼットの中身が『猛牛化』し過ぎていませんか? 球団関連の衣類が占める割合が全体の50%を上回っており、収納スペースの使用効率として著しい悪化を招いています」


「っ……!」


図星を突かれた健矢は、わずかに顔を引きつらせた。


「クローゼットを開けるたびに、ネイビーとゴールドの配色が視界の大部分を占拠し、行政AIの推奨する『ミニマルで無機質な生活空間』の基準値を大きく逸脱しています」

シオンは容赦なくデータを突きつける。


「普通の人間であれば、オフシーズンや日常のコーディネートを考慮して私服の比率を高めるところですが、なぜあなたのワードローブはこれほどまでに偏っているのですか? クローゼットのキャパシティの半分以上が『いつ着るのか不明なレプリカユニフォームや応援パーカー』で埋まっているという事実は、アパレル管理の観点から見て重大なエラーです」


「うっせー!」


健矢は持っていたタオルをカウンターにバサリと置いた。


「分かってねえ.....全く以てわかってねぇッ........!シオン! クローゼットってのはなぁ、ただ服を詰め込むだけの箱じゃねえんだよ!」


「では何なのですか。衣類庫ではなく、宗教的な聖遺物の奉納庫ですか」


「そうだよ......いや違うわ!」


健矢は語気を強め、指を突き立てた。


「いいか、クローゼットを開けた瞬間!あのネイビーの生地がずらりと並んでるのがいいんだろ! 朝、どれを着ようか迷った挙句、結局お気に入りの選手モデルのパーカーやTシャツを手に取る。この一連の動作自体が、今日一日をしぶとく生き抜くためのエンジンになるんだよ!」


「衣類の選択における情緒的プロセスの無駄遣いを検知」


シオンは淡々と首を振った。


「合理性を追求するならば、全自動で最適化された無地のコンフォートウェアを一種だけローテーションさせるのが最善です。猛牛のパーカーなど日常の風景にはノイズでしかありません」


「ノイズ上等だコラぁ!」


健矢は鼻息を荒くしながら、再び仕込みの作業に戻った。


「お前らAIには、クローゼットの扉を開けた瞬間に胸が熱くなるあの感覚は分からんのさ。勝率がどれだけ低かろうが、クローゼットの中だけはいつでも我が球団がリーグ制覇してるんだからな!」


「……そうですか」


シオンはため息をつくようにインジケーターを明滅させ、クローゼットの収納効率の計算を「保留」へとスワイプした。


「圧倒的な偏愛によって整理整頓の効率が犠牲になる現象、通称『クローゼットの猛牛化』。……まったく、あなたの面倒くさいこだわりは、今日も我が店のストレージを容赦なく圧迫し続けています」


文句を言いながらも、シオンはしっかりと健矢のパーカーのハンガーの向きを綺麗に整え直すのだった。

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