第二章-不安-【モノローグ】
何故、生命信号が途絶えたのか。
何故、私は星空を仰いでいるのか。
その理由が分からないままに目が覚める。
状況を呑み込もうと即座に立ち上がるが、振り返ったそこには、仰向けに倒れて星空へと手を伸ばすソイルさんが居た。
「ソイルさんっ!」
焦って駆け寄るも、呼吸は苦しそうで、身体の随所には打撲や擦り傷などがある。
この短時間に何があったのだろうか。頭は様々な演算を巡らすが、答えは決まらない。
「しっかりして! ……大丈夫ですよ!」
すかさず両手で彼の両手を掴む。まずは楽な姿勢にしてあげなければ。
その両手をゆっくりと下ろさせ、応急処置を開始する。
「……っ!」
順調に応急処置は進んでいた。なのに、何故か胸の奥の方に異物感を感じる。加えて、私の知らない時間があったという事実に心配が止まらない。
「お願いです……っ! 死なないでっ……!」
処置は終わりを迎えようとしていた。
変わらず彼の咳は続くものの、外傷はなんとか手当てできた。そんな中、北の方角から轟音が響き渡る。様子を見る為に立ち上がるも、建物の倒壊で土煙が舞い上がっていて何も見えない。
「そうです……オディギアさん……!」
周囲に彼女の姿は見えない。明らかに緊急事態であるこの状況で、彼女は何処へ消えたというのだろう。
いや、今は彼女の事を考えている時ではない。目の前に、今にも消えそうな命があるのだ。
そう思考をソイルさんへと戻したその時だった。
「病…………院……。君を……連れてか………………ない……と」
ソイルさんの発した譫言で、彼が私を運ぼうとしてくれているのだと理解できた。そして、その目指していた先が病院なのも。
出来るのなら、このまま彼を安静にしていた方が好ましい。が、しかし、廃れていたとしても病院は病院。そこへ行けば、少なくとも今よりかは治療が捗るはずなのは確かだ。
「分かりました。事情は貴方が目覚めてから聞くことにします。だからどうか、まだ死なないでください……!」
彼の脇下から手を伸ばし、抱えるようにして病院方面へと身体を進めていく。
「……でもソフィア……先輩……。僕……見れ……ました……よ」
「ソイルさん! もう少し、辛抱してくださいっ! あとちょっとですから!」
出せるフルスペックを惜しみなく足へと向ける。そこに、自分の足が壊れてしまうという可能性を考慮する余地は無い。
「バチェラ…………僕は────」
走馬灯とやらを見ているのだろうか。
バチェラさんの名前が出てきた瞬間、身体がビクリと跳ね上がった。未だ、彼女が亡くなってしまった責任が自分にあるのだと思うと、得体の知れない奇妙な感覚がこの機体を走る。
「あぁ…………そうだ…………僕は…………何にも……約束を───」
きっと、ソイルさんの中では後悔の念が蔓延って止まないはずだ。それなのに、一切として私を咎めようせず、それどころか早くにして踏ん切りまでつけてしまった。
それは彼なりの強がりであり、バチェラさんへの弔いなのだろう。
そうして後悔の念を開放できずに押し留める、優しいソイルさんを、私はここで救えずに殺してしまうのだろうか?
バチェラさんの二の舞を、ここに起こしてしまうのだろうか?
「そうですか……これが……」
先に胸の奥に感じた異物感、それの正体がようやく分かった。
「『不安』……なんですね」
不安に耽り、足の速度が遅くなっている事に気付いた時、場所は既に見慣れた場所を通過していた。
そこは、オディギアさんと共に歩いた道。彼女に、子守唄を歌ってあげていたその道だった。つまりは、後5分もしない時間で病院には着ける頃だと言う事だ。
「メディ…………ケホッ!」
「あっ、はい! ソイルさん! 私はここに居ますよ、大丈夫です!」
「……ごめん」
それもきっと、譫言なのだろう。しかし、何故にソイルさんが私に謝る必要などあるのだろう。
「どうして謝るんですか! ソイルさんは何一つ悪くありませんよ!」
「────そうだな……違う……なぁ…………ありがとう……か。伝える……なら」
「っ!」
一瞬、足が止まった。絶対に止まってはいけないと知りながら。しかし、そんな場合ではないと再び足を動かし始める。
ソイルさんに言われた『ありがとう』。それは譫言とは言え、クリニックで治療した少女やオディギアさんに言われたのとはまた違って感じた。
しかし、再びにして胸の奥に現れた正体不明に、私は知りたての不安を覚える。
「ソイルさん……」
一方で、不安を理解できたのが更なる興味を招いた。この正体不明を、理解したいと。
「貴方が生きてくれなきゃ……私にも、分からない事があるみたいです。だから……絶対に」
後の最悪は考えない。1秒でも彼に、目覚めて欲しい。
「死なせませんから!」
彼をおぶって、彼方に轟く轟音など気にも留めずにただ病院へ足を速めていた。




