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そして僕らは楽園で出会った。  作者: 北上 柊助


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第二章-洗礼-【第七話】

「……くっ!」


 重々しい銃声が巨大な苔玉へと浴びせられる。しかし、触手は先ほどに増して太くなっていて、2発でようやく千切れるか千切れないかだ。そしてカイさんの行う攻撃は、やたら効率の悪い攻撃に見える。


「ソイル! この女無理にでも引っ張って、この先にある病院まで連れて行け!」

「か、カイさんは?!」

「見りゃ分かんだろ! コイツを誘導する!」

「するったって! 何処に?!」

「とにかくお前らから引き離すんだよ!」

「無茶ですよそんなの!」

「黙ってやれ! 無策なわけじゃねぇんだ!」


 カイさんは効率の悪い攻撃を繰り返す。しかしそれは、自分へ奴を引きつける為だろう。

 そうだ、僕がどれだけカイさんに引き付ける事が危険だと説いても、事は既に始まっている。それを今更、ライフルよりも殺傷力の低い武器を持つ僕に、どうにかできる訳が無いのだ。


「ケホッ! ……絶対に死なないでくださいね! 胸糞悪いの、嫌なので!」

「言われなくとも死ぬ気は無ぇっつの!」


 カイさんは発砲を繰り返しながら、住宅街の北方面へと走っていく。そうしてカイさんの狙い通り、苔玉もカイさんを追っていく。


「んぐーっ!!」

 カイさんの努力を無駄にしまいと、メディを背負おうとするも、メディの重さは想像以上だった。よくもここまでの重さのアンドロイドを、カイさんは背負っていたものだと感心してならない。


「……はぁ、はぁっ! 駄目だ、引きずってくしかない」


 メディの両脇に、背中から腕を通して軽く持ち上げる。やはり、重いのに変わりはないが背負うよりはマシだった。


「ケホッ! ケホッ!」


 持ち上げた瞬間、体当たりを食らった胸が酷く重苦しく感じる。そんな中でも、銃声と廃墟を薙ぎ倒していく音は遠ざかっていく。

 取り敢えず、メディの身体を極力傷付けぬよう踵をする程度まで持ち上げる。


「ケホッ! ────重すぎるだろぉっ!」


 持ち上げ歩いたとしても、十何歩を歩いた程度で肩の力が抜けていってしまう。僕が非力なのに加え、胸が苦しいのもあるが、それ以前にアンドロイドが重すぎる。

 それもそうだ。いくら人工皮膚に包まれ、継ぎ接ぎが無かったとしても中身は人工物の塊なのだ。


「はぁ……はぁっ! ケホッ、ケホッ! ケホッ!」


 段々と息が上がっていく。休憩したい。

 だが、こうしている間にもカイさんは命懸けで奴を引きつけているのだ。休む事などできない。


「メディッ! ケホッ! ……いつまで寝てんだよぉー! このポンコツアンドロイド!」


 呼びかければ再起動しないかと一縷の希望に縋るが、その叫びも虚しくメディは起き上がる事を知らない。

 

「ケホッケホッ! クッソ……! 思い返してみれば、この地帯に来てから良いことの一つでもあったか……!」


 無論、あったのだと言う事は理解している。しかし、オディギアの変容、負った怪我、メディの機能停止と言い、あった事に対してあまりに不幸な事が多すぎる。

 

「……はぁっ、ケホッ! いい加減さぁっ! 起きてくれよ! ────メディィッ!」


 力を込めているせいか、メディが起き上がらないせいか、頭も痛くなってきた。

 そうして体感数十分、されど実際は2分も経っていない中。今にも腕は骨が外れたかのように脱力してしまいそうで、呼吸も途切れそうになっているのが自分でも分かる。だが命を張っているカイさんへ報いる為にも、メディを病院へと運び切れるよう感情のまま力任せに引っ張った。


「───うぉっ!?」


 すると、身体は勢いに背中から倒れ込む。そこでようやく悟った。

 既に、限界が身体を蝕んでいたのだ。

 たかが体当たりを食らい、地面に叩きつけられ、高重量を持ち上げただけ。カイさんならば、恐らくは造作もない状況だ。


「ケホッケホッケホッ! ケホッッ! ケホッ!」


 しかし、あの体当たりが効いたのだろう。胸に与えられたその一撃が、確実に全身へ染み渡る毒になっていた。恐らくは、肺か何かがあの素早い体当たりで損傷したのだ。

 仰向けになったまま、咳が止まらなくなる。


「ケホッ! ケホッケホッ! ────ケホッ!」


 一向に止まらず続く咳。以前にメディに治療された時よりも苦しくて仕方がない。

 だがしかし、メディは動かない。

 どうして、こんなにも上手くいかないのだろうか。

 誰も成し得ていなかったエクソダスをやり遂げ、初めて外の世界に触れて。しかし実際にそこにあったのは、無情にも襲いかかる外界の洗礼だった。


「──ケホッ! ケホッ……!」


 カイさんには申し訳ないが、もう動ける気もしない。

 罪悪感が胸中を埋め尽くす中、空に輝く星たちが目に映った。そういえば、外界へ出てから、こうした仰向けの状態で星空を眺めた事は無かった。

 スリガラス越しからは見えなかった星々の輪郭が、シャングリラに居た時よりもはっきりと見える。


「ケホッ!」


 届きもしない空へと、無意識にも手が伸びる。今の状況で、出来るのは腕を伸ばすくらいだ。

 

 ────あぁ……。


 一つでも、あの星を掴めはしないものだろうか。昔日に母から聞いたことがある。シャングリラのガラスの向こうを流れていく星達へ願いを込めたら必ず叶うと。

 そうであるのだとしたら、あの星々はきっと、願い星だ。

 そうしてゆっくりと、瞼は落ちた。


◆ ◆ ◆


 手をゆっくりと握りしめて、その直後に暖かな感触が手を包んだ。それは幻覚などという、なまじ不確かな感触ではない。

 刹那、星を掴んだ気がした。

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