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魔法少女が死ぬ前に  作者: 宮塚慶
第2章 戦う意味、戦う決意

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第8話 良い思い出

 それからはもう、ハチャメチャに遊び倒した。

 ビーチボールを使ってパスを回したり、幸平と端から端まで泳いで競争したり。体力バカの幸平にはまったく敵わなかったが。

 ウイカは真凛に泳ぎを教わり、昼頃には既に軽く泳げるようになっていた。元々運動神経はあるし、真凛の教え方も上手かったのだろうが、呑み込みが早い。

 気分転換になるかと思い持ってきたという幸平の釣り竿を使って、川釣りも楽しんだ。俺は坊主で早々に飽きるも、興味津々だったウイカが幸平のレクチャーを受け、何やらオオモノを釣り上げていた。

 昼食にはバーベキュー。何処から仕入れてきたのか、真凛がやたらと良い肉を持ってきたのでかなり満足度の高い食事になっている。


「近所のお肉屋さんと仲良しで、今日のこと話したらサービスしてもらっちゃった」

「こんなところでも人徳が出るのか……」


 真凛の人当たりの良さは本物だな、と感心する。

 役割分担として、野菜は俺が取り揃えてきた。あとで焼きそばができるように麺なども買ってきたので、四人分なら腹いっぱいまで食べられるだろう。

 ウイカは肉を口に含んで目を輝かせ、野菜をパクついてはうっとりし、幸平が持ってきたおにぎりを食べてはホッと安心感のある顔をしている。相変わらず飯を食ってる時が一番油断していそうな笑顔だ。

 釣った魚もじっくり焼いて食べていた。大物の鮎が手に入ったのは、川の水質が良い証左とも言える。


「おいしい」

「うんうん! やっぱりウイカちゃんはこうでなくちゃね!」


 真凛が、喜ぶウイカを見てテンションを上げている。他人のハッピーで自分まで幸せになれるなんて、コスパの良いやつだ。


「ウイカちゃん、最近なんか元気なかったから」

「え?」


 その言葉にウイカが少し驚いた表情を見せる。俺もビックリした。

 彼女の感情変化は中々分かりづらく、普段は俺ぐらいしか言い当てることができなかったのだが、いつの間にか真凛も差異を読み取れるようになっていたらしい。


「なんかあった時は、美味しいものを食べて元気をチャージ! これ鉄則!」

「真凛さん。ありがとう」


 明るく接してくれる真凛に、ウイカが自然と感謝の言葉を告げていた。

 どうやら俺があれこれ気を回すまでもなく、みんながウイカのことをサポートしてくれるみたいだ。

 魔法少女絡みの件は他人に相談したりできないが、それでもこうして気を配ってくれる友人がいるのは心強い。

 彼女が日常に溶け込んでいるのが改めて分かり、なんだか嬉しくなる。


「よし、俺も今日は食いつくすぞ!」


 ウイカが安心したのを見て、俺も気が楽になった。今日はとことんまで楽しんでやろう。


 ○ ○ ○


 食後は上流まで遊びに行ったり、流れの急なところを滑ってみたりと、川で出来るレジャーをこれでもかと遊び尽くた。

 夜には別荘の庭で手持ち花火も楽しむ。こちらもウイカにとっては初体験だったようで、灯った火を興味津々に眺める様子が中々に面白い。花火に此処まで感動する人間も中々見られないだろう。

 夕飯には真凛お手製のカレーが振る舞われた。スパイスに拘りがあるらしく、市販のものとはひと味違う美味しさでこちらも感動。多彩なやつだとは思っていたが、料理の腕は今日だけで認識を変えられたレベルだ。

 リビングで四人揃ってトランプをしたり、だらだら話したりと夜が更けるまで散々はしゃいで、流石に疲労感が溜まってきたところでようやく解散となる。

 男女に分かれて部屋に戻り、布団に潜って早々幸平の寝息が聞こえてきた。が、一方で俺はどうにも寝付けない。クタクタではあるのだが、まだ興奮冷めやらぬ感覚がある。

 しばらく天井を眺めていたが、落ち着かない。

 仕方なく体を起こして、幸平を起こさないようにそっと部屋を抜け出した。

 リビング横の軒下、先ほどまで花火を楽しんでいた庭の隣にある縁側のようなスペースでひと息つく。

 夜風が生ぬるい。クーラーの効いた室内に戻るべきか逡巡しつつも、時期的にまだ早い鈴虫の合唱が聞こえてきて癒しになった。ボーッと景色を眺める。


「イサト」


 油断し切ったところに突然声を掛けられ、俺は少し体が浮く。

 振り返ると、廊下からコチラを覗くウイカの姿があった。シンプルなシャツとズボンで飾り気のない恰好をしている。


「おうウイカ。寝ないのか?」

「うん。真凛さんはすぐ寝ちゃったけど、落ち着かなくて」


 同じ境遇だったらしい。視線で促すと、彼女は隣にぺたんと座った。

 ウイカはこうして他人と出掛ける経験自体無かっただろうし、友達の隣で寝るという状況が緊張するのかもしれない。

 何の気なしに俺は今日の感想を口にした。


「面白かったな。川遊びってのもたまには良い」

「うん。泳ぎも覚えたし、また来たい」


 おお。ウイカが友達と遊ぶことに前向きになっていて、俺もかなり嬉しいぞ。

 ウイカは最近特にお疲れの様子だ。慣れないチーム活動に心労も絶えないのだろう。今日と言う日が少しでも癒しになっていればいいのだが。

 そんなことを思いつつ彼女の顔を見ると、向こうもこちらを見ていた。


「イサト。ちょっと、いい?」

「ん? どうした」


 なんだか言いづらそうにしているウイカ。

 切り出し方を悩んでいる様子で、眉を下げて口をもごもごさせている。


「今日は、良い思い出になった」

「おう。そうだな」

「……イサトは、思い出を大切にする方?」


 なんだその質問。抽象的で答えづらい内容だが、一応考えてみる。


「まあ、それなりには。俺も友達多い方じゃないし、そんなに濃い思い出があるわけじゃないけどな」

「そう」


 答えに納得したのかは不明だが、彼女は再び考え込んだ。

 一度視線を外し、暫しの沈黙を経てから顔をあげる。


「私は……。思い出があるって、良いことばかりじゃないと思う」


 覚悟を決めたようにウイカがこちらを真っ直ぐに見つめる。

 何が始まるのかは分からないが、俺も目を逸らさずにそれを受け止めた。


「でも、イサトにはその思い出を知る権利がある……と思う。私たちの、呪いについて」

「呪い?」


 何のことだろう。

 まだ察することができず、彼女の言葉を待つことしかできない。


「スザンナのこと。イサトに、話す」


 突然、知りたかった話題が浮上してきて俺は目を見開く。

 スザンナ。何度も名前が出てきたが、その人物が誰で、何があったのかを俺は知らない。

 ドロシーさんはウイカが話すのを待つように言っていたが、それがこのタイミングになるとは予想外だった。


「大丈夫か? たしか、思い出したくないって言ってたよな」

「うん。……でも、メアリとの言い争いや、ドロシーのことも。話せばイサトも少しは納得できると思う」


 ギクシャクしているチームのことが知れるのなら、たしかに一緒に活動する俺にも知る権利はありそうだ。

 俺が黙って頷くと、ウイカも意を決して話し始めた。

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