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魔法少女が死ぬ前に  作者: 宮塚慶
第2章 戦う意味、戦う決意

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第7話 夏休み本番

「はぁー……」


 河川のすぐ傍に広げたタープテントの下で、俺は深く溜め息をついた。溜め息は幸せが逃げるなんて言ったりするが、俺の幸せは一体どこにあるというのか。

 隣で幸平が苦笑する。


「何さ、これから楽しもうって時に」

「いやすまん。ちょっと別件で考え事だ」


 魔法少女たちの関係性はすこぶる悪い。

 俺の特訓に合わせて、三人も連携を作り上げるように技の練習を始めていたが、ウイカとメアリさんは今も事あるごとに衝突し、とてもじゃないが協力できるようには見えない。

 話を聞いているうちに、メアリさんの言い分も少しずつ分かってきた。

 彼女もまた、スザンナという人物の死について思うところがあるらしい。だから、これ以上仲間が犠牲にならないためにも手を抜くつもりはない。常に全力であることが正しい戦い方で、だからこそ半端な態度のウイカに苛立っている。

 だが、ウイカも引かない。自分たちの寿命を無駄にせず、長く戦えるようにするのが魔法使いの役目であり、アザラクに貢献できる正しい立ち回りだ。メアリさんの全力は過剰で無意味だという主張を続けている。

 日を追うごとに、ドロシーさんも仲裁するのを面倒くさがるようになっていた。二人がヒートアップすると、一人離れて休憩、あとは放置。

 ……前途多難である。


「幸平は、柔道部で意見がぶつかったりとかしないか?」

「僕? あんまりそういうのは無いかな」

「まあ、幸平は揉め事とかなさそうだよな……」


 一応聞いてみたものの、大らかな幸平が人間関係で揉めることは早々無いだろう。あるとすれば、相手の一方的なやっかみぐらいか。

 聞く相手を間違えた。


「僕に限った話じゃないよ。うちの柔道部は、そんなにやる気がある方じゃないってだけ」

「そうなのか?」


 毎日練習に励んでいてとても偉いと思っていたが、案外緩い気持ちでやっているらしい。

 幸平はわざとらしく肩を竦めて見せる。


「僕も素人だし、体格から合いそうな部活をなんとなく選んだだけだからね。別に県で一番になってやろうとか、意気込んでいるわけじゃない」

「幸平は力も強いし、上を目指せると思うけどな」

「イサトが素直な奴だと思うけど、正面から褒めてくるとなんだか気持ち悪いね」

「うるせー」


 言いながら、俺たちは互いに笑う。

 しかしそうか。自分の手が届く範囲で堅実にやっていれば、実力は自然と見えてくる。決して埋められない差を感じることも。

 上を目指そう、限界を越えようと考えているからこそ、そこに衝突も生まれてくるんだろう。

 ウイカとメアリさんも、半端な気持ちでやりたくないというだけなんだろうな。

 とか考えてみたところで、俺は考えを中断した。みんなで遊ぶのだから、魔法少女関係の話は一旦無し。

 ……もしも獣魔が出現して呼び出されたらその限りではないのだが。頼むから何も起きないでくれ。


「あーもう、悩むのは止めだ! 楽しむぞ!」

「お、急にやる気になったね」


 今日は予定どおり、幸平の親戚別荘宅に遊びに来ている。家主は来ておらず、完全に俺たち四人の貸し切りだ。

 電車とバスに揺られて此処までやってくると、荷物を置いてさっそく川へ向かうことに。

 水着に着替えて先に河川敷までやってきた俺と幸平は、ワンタッチ式のテントを組み立て、椅子やテーブルもせっせと用意して準備万端だ。

 着替え中の女子組はまだ別荘から出てくる気配がない。そんなに時間かかるのか? 俺は疑問に思いながら建物へ視線を向ける。


「なんだい? 真凛やウイカさんの水着が待ちきれないって顔をしてるよ」

「してねー! ……ことも無いけど」


 見てみたい気持ちはあるが、待ちきれないとは少々言い過ぎだ。

 幸平はビーチボールを口で膨らませながら、俺の反応にニコニコしている。


「まあ、なんだ。最近心労が絶えないので、息抜きに誘ってもらえたのは本当に感謝してる」

「心労か。どうせウイカさんのことだろう?」

「……大体そうだ」


 相変わらず察しの良いヤツ。いや、此処まで分かりやすいと予想もされやすいか。

 幸平には、前みたいに上手くボカして相談してもいいかもしれない。ウイカと友達が喧嘩していて、双方主張の筋は通っているのに譲れない場合はどうしたらいいか、みたいな。

 そんなことを考えていると、ようやく女子二人が姿を見せた。


「お待たせー! ほら、ウイカちゃん!」

「う、うん」


 連れ立って現れた二人の姿に、俺は思わず息を呑む。


「おお……!」

「いいね二人とも。とっても可愛いよ」


 真凛は大胆なビキニ姿だった。グレーの生地にピンクのリボン柄が散りばめられており、布面積の少ないそれはかなり色っぽく見える。

 陸上部で焼けた小麦色の肌と、対照的なほどに真っ白な肌のコントラストが眩しい。引き締まった体は抜群のスタイルで、特にトップスの、零れ落ちそうな圧倒的胸部に自然と視線が吸い寄せられ、とてつもない破壊力になっていた。

 そんな彼女の後ろに隠れながらやってきたウイカも、ビキニ型の水着だ。けれど、フリルがあしらわれた可愛らしい印象で、真凛とは対照的に少し子どもっぽい。いわゆるビスチェというやつか。黒を基調とした花柄の派手なデザインになっている。

 怪我の目立つ部分をフリルで隠しつつも、彼女の中ではかなり珍しくヘソを出しており、普段と印象が違って見える。そういえばスペルフィールドには日焼けというものがないんだろうか、真凛と比較すると可笑しなほどに真っ白な肌をしていた。

 これは……かなりヤバい。


「どう?」


 ウイカがおずおずとこちらに訊いてくる。

 無表情なのは変わらないが、反応から恥ずかしがっているのがすぐに分かった。


「めっちゃ似合ってる」

「……そう」


 少し口角が上がるウイカ。なんだその反応は、照れているのか?

 隣で真凛が口元を歪ませた。


「ふーん? ウイカちゃんだけ褒めるんだ?」

「真凛もすげー似合ってる。というか柄も含めてなんかその、エロく、」

「馬鹿! そういうことは言わんでいい!」


 思いきり頭を叩かれた。なんでだ、素直な感想を伝えたのに。

 俺の横で苦笑しながら、幸平が言う。


「ウイカさんも、思ったより怪我が目立たなくてよかった。今日は本当に貸し切り状態だから、気にせず楽しんでよ」

「うん。遊ぶ」


 たしかに露出した腹部や足に怪我の痕が残っているものの、それほど酷くは見えない。大きく派手めなフリルに目を奪われるからだろうか。

 視線誘導まで考えて真凛が水着をチョイスしたのだとすれば、かなり見る目がある。


「よーしウイカちゃん、泳ごう! 教えてあげるから!」

「うん」


 ウイカと真凛は、言うや否や川へ飛び込んでいった。即座に「冷たーい!」と悲鳴があがる。

 水泳の授業を受けていないウイカは、手にした浮き輪を使ってプカプカ浮かんでいる。泳ぎ方とかアザラクでは教えないんだろうか。……ないだろうな。


「さあイサト。僕らも行こうか」

「だな。久々に遊び尽くしてやる!」


 俺たちは互いに顔を見合わせ、二人のいる方向へと飛び出していった。

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