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魔法少女が死ぬ前に  作者: 宮塚慶
第2章 戦う意味、戦う決意

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プロローグ 二重生活

「――水蛇噛砕(ヒュドラ・バイト)


 目の前でミディアムショートの癖っ毛を振り乱しながら、小柄な少女――メアリ・ファースさんが詠唱した。

 彼女の手元に収束した水流が蛇のように形成され、その蛇がこちらを睨みながら雪崩なだれ込んでくる。

 寸ででかわそうと動くも、俺の方向転換を予測していたように蛇も首を曲げ、右腕が水圧の牙に噛みつかれた。


「ぐぅッ……!」


 激しい痛みに息が漏れる。

 俺は左手に光を固め、剣の形をイメージして生み出す。その剣で水蛇の首を叩き切って、なんとか攻撃から脱出。

 右腕が解放されると同時に、血の流れる感覚が鮮明に感じられた。熱さが痛みを伴い、視界がぼやけてクラクラする。

 ふらつく俺の様子を好機と見たか、メアリさんは追撃の構えを取った。


「――泡沫乱撃(フォーム・インパクト)


 今度は小さな水の弾丸を次々に撃ち出してくる。弾の一つ一つが、四方八方に撒かれてこちらの周りを包囲した。

 メアリさんが手首をくいっと動かすと、散らばった水のつぶてが一斉にこちら目掛けて掃射。

 懸命に避けようと試みるが、視界の外からも確実に狙ってくる銃撃相手にダンスをするのは限界がある。

 防御障壁を展開。光が盾となり、自分の体を保護するイメージを膨らませる。

 だが、間に合わない。

 何発かは退しりぞけたものの、即席で作った穴だらけの壁をすり抜け、弾丸が俺に直撃。痛みで集中力が途切れると防御壁も維持できず、なし崩しに射撃の的になってしまう。

 ぶつかるたびに、重い水圧が体をむしばんだ。骨がきしんで、立っていることもできず地面に膝をつく。


「が、あァ……」


 言葉にならない嗚咽。それでも容赦なく、視界の端でメアリさんがさらなる攻撃の準備をしているのが見えた。

 まずいぞ、次は何が来ようと避けられない。

 そこで。


「はい、しゅーりょー」


 俺たちから少し距離をとって様子を見ていた女性――ドロシー・スターホークさんがパチンと手を叩き、終幕を告げる。

 褐色肌と金髪のコントラストがやけに目立つ人。指の爪はすべてキラキラのデコレーションが光っている。

 そんなドロシーさんに静止を伝えられ、メアリさんはつまらなさそうに呟いた。


「もう終わり?」

「そ。これ以上やったらイサトくん、死んじゃうよ」

「そう?」


 そう? じゃない。既に反論する体力も残っていない俺は、ただ地面に転がることしかできなかった。

 ドロシーさんの隣で様子を見ていた俺の相棒、ウイカ・ドリン・ヴァリアンテが駆け寄ってくる。


「イサト、大丈夫?」

「……無理かも」


 取り繕うことも出来ず、素直に弱音を吐いた。

 ウイカは俺の右手をギュッと握ってくれる。そこから彼女の魔力が流れ込んでくるのが分かった。温かいエネルギーを感じ取ると同時に、右腕の傷口が塞がれ、最低限動ける程度の元気が戻ってくる。


「ありがとう。とりあえず、大丈夫だ……」

「全然大丈夫そうじゃない」


 そう言われるとその通りなのだが、そこは格好つけさせてくれよ。

 向こうからドロシーさんとメアリさんも近づいてくる。


「うーん、思ったよりビミョいねー」


 倒れ込んでる俺を見下げながら、ドロシーさんは今の戦いを評した。

 声色の明るさに反して、心配やねぎらいの言葉が出てこないところが中々手厳しい。


「ビミョいねー、じゃないですよ……。流石にまだメアリさんと戦うのは無理じゃあ……」


 俺が文句を垂れるも、ドロシーさんは聞く耳持たず。隣のメアリさんに至っては、何の興味も無さそうに服の泥を払っている。

 獣魔討伐部隊“アザラク・ガードナー”。俺たちの世界へ侵攻せんとする謎の怪物、獣魔を倒すために設立された、魔法使いたちの特殊部隊。

 俺――荒城あらき勇人いさとがこの組織に加入して、早くも二週間ほどが過ぎていた。


「無理と言われてもねー。あたしの訓練を受けてるんだから、基礎はできてるっしょ?」

「基礎だけでメアリさんに勝てるわけないでしょ!」

「そりゃそーだ」


 あっけらかんとした態度で肯定するドロシーさん。

 この二週間。高校生として一学期の期末テストを受けるかたわらで、俺は指導係となったドロシーさんにみっちりしごかれていた。

 魔法のイメージを練る練習や、それを用いた模擬戦闘。魔法使いや組織の歴史についての座学まで、さまざまな講義を受けている。

 おかげさまで、魔法を自分の力だけでコントロールできるようにはなった。剣を形作ったり、光のオーラを使って単純な攻撃から身を守る程度は可能だ。

 少なくとも、二週間前にデカいドラゴン――リントヴルムだっけ――と戦った時のように、ウイカの手を借りないと何もできないなんてことは無い。

 けれど、それだけ。

 ウイカやドロシーさん、メアリさん。俺が関わる魔法少女たちは、長く獣魔と戦ってきた歴戦の猛者たち。ちょっと勉強したぐらいでは、同じレベルで戦うなんて到底不可能である。


「逸材だって聞いてたのに、この程度じゃ困る」

「こらこら。メアちゃんも、本気出しちゃ駄目って言ったでしょー」

「期待外れ」


 普段はドロシーさんが、俺の実力に合わせた力で模擬戦をしてくれる。しかし今日はどういう風の吹き回しか、メアリさんが相手をすると言いだしたのだ。

 全力では戦わないこと、と釘を刺されていたはずのメアリさんだが、結果はご覧のとおり。いや、それでも一〇〇パーセントの力ではなかったのかもしれないが、正直手加減なしで殺しに来ていたと思う。

 ……前からそうだったが、俺は彼女に嫌われているらしい。


「いいじゃん、別に。無尽蔵の魔力とやらで傷も治せるんでしょ、天才さんは」

「治す前に死んじゃったら意味ないの」


 ドロシーさんがツッコミを入れると、メアリさんは不貞腐れた様子でその場から離れていった。

 魔法少女たちは、獣魔と戦った後に相手の魔力を吸収することで回復することができる。消費した魔力を敵から補充することで、受けた傷すら癒すことができるのだ。

 そして、俺も同じことができる。

 俺の場合、魔力を消費することなく無限に魔法が撃てる。理由は分かっていないが、この能力のおかげで己の傷を自らの魔力で回復できるのだ。

 つまり、戦闘において俺は永久機関。無限に回復し、無限に戦える。

 ()()()()

 実際は回復するにも集中力が必要で、先ほどのように動けないほどボコボコにされてしまったら、後はどうしようもない。意識を失うことはそのまま命を落とすことに繋がる。

 結局、今もウイカの魔力を分けてもらって無理矢理治癒した。一度起き上がることができれば、後は自分で頑張れるんだが。


「ま、それでもずいぶん様になってきたと思うよ」


 疲労困憊な俺に向けて、ドロシーさんは慰めにもならないフォローをくれた。

 手も足も出ないまま無茶苦茶にされて、様になってきたと言われてもなあ。


「……精進します」

「向上心があるのは結構けっこう」


 俺の背中をポンッと叩いて、彼女は朗らかに笑った。

 そんなドロシーさんの様子を見て、ウイカがやや不機嫌そうに発言する。


「ドロシー。訓練は安全を確保して」

「大丈夫だってー。メアちゃんが暴走しそうなら、あたしが止めに入るよ」

「怪我させてからじゃ、遅い」

「……あのねー、ウーちゃん。彼氏くんが大事なのは分かるけど、これは命を懸けた戦いなの。怪我の一つや二つで文句言わないで」


 ウイカが俺のことを庇ってくれている。それ自体は嬉しいが、この二人もあまり良好な関係とは言えないようだ。

 それに、ドロシーさんの言うことも一理ある。

 アザラクの組織に志願したのは俺の意志。ならば、怪我の痛みも経験しておかなければならない。

 ……それにしたって、かなりキツい攻撃だったけれど。あれはメアリさんの私怨な気がする。


「ウイカ、俺は大丈夫だから」

「……」


 ドロシーさんの棘のある言い方に対して、さらに反論しようと身構えていたウイカを止める。彼女は不満を目で訴えていたが、ここで喧嘩しても意味がない。

 俺だって、ある程度腹は括っている。ウイカと共に戦うために、こんなところで折れるつもりはない。


「ドロシーさんも。厳しくしてくれるのはいいんですけど、ウイカを煽らないでください」

「へーい」


 動じてなさそうなドロシーさんを一瞥しつつ、俺は息を吐く。

 この二人にも因縁的なものがあるのだろうか。なんだか複雑な人間関係だ。

 仲を取り持つべきかもしれないのだが、俺自身もドロシーさんとメアリさんには好かれていないので中々難しい。

 ……俺、このメンバーでこれからやっていけるのかなあ。

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