第2章-42
給仕の子から感謝を伝えられた
「ああ、水は飲めた?息が乱れて飲み辛いと思うけど、ゆっくりでも全部飲んだ方がいいよ」
給仕の子はまだかなり息遣いが荒いので
返事は急かさず待っていたら
「そのこともだけど、そっちじゃないの」
どうやら解釈が違ったらしい
だとすれば今日一緒に走ったことか
結局置いてったから彼女に気を遣ったりはしてないんだけどな
感謝の気持ちを感じるなら
走る前までの態度をちょっとでも申し訳ないと思ったのかもな
なんてことを考えてたら
「あなたが容赦なく走ってくれたおかげで、私はまた自分の力を過信していたことに気付けたの」
ん?
「だから、ありがとう」
要領を得ないが
俺が置いてったのは正しかったようだ
「よく分からないけど、なにか力になれたのなら良かったよ。それでどうする?もう俺の走る速度だったり距離感は分かったと思うから、これっきりにする?」
俺としては彼女と毎朝走るような学園生活を思い描いていたんだが
彼女は俺を先導役としか思ってなかったようだからな
今回で感謝まで伝えられたということは
俺はもうお役御免なのだろう
胸の奥がキューっとなるような感覚があるが
残念なことに俺と彼女では目的が違う
俺も彼女を見習って自分を高めることにひたむきになろう
そう思っていたけど彼女はちょっと言い出し辛そうにしながら
「あの、あなたがもし良ければ明日からもまた一緒に走って欲しいの。今日みたいに私のことは置いて行ってくれて構わないから。寧ろそうして欲しい。私はあなたを目標にして、いずれ追い抜いて見せるから」
こっちに顔は向けず
彼女は意外にもそう言ってきた
・・・
ちょっと複雑な感情だな
俺自身が
最初は俺個人のことなんて意識もしてないのかと思った
だから俺も彼女のケツを追っかけるような感情はもう捨てようと思った
追っかけたりなんかしてないけど
すると彼女は走り終わった後に感謝を伝えて来た
察するに路傍の石だと思っていたのに思ってたよりも実力差があることを思い知らされて
自分自身を見つめ直すことが出来たようだ
だから心を入れ替えて路傍の石から目標へと見方を変えた?
と言うことだろうか
ふむ
見た目からも態度からも冷静沈着、泰然自若というよりは
冷徹な印象を持っていたが
実のところ心の中ではぐつぐつに煮えたぎっている様な闘争心があったみたいだ
だから素直になれてなかったが
今回のことで己を顧みたのかな
最初がどうしてあんな態度だったのかは不明だが
だとすれば
「うん。君がそうしたいのなら構わないよ。俺はよく分からないけど君から嫌われているんだと思ってたから、さっきはもう今日で終わりにしようか?みたいな言い方してごめんね。」
「いいえ、私が悪かったの。私と違ってあなた達がちょっと羨ましかったから・・・」
最後は消え入りそうな声でほとんど聞こえなかったが
なにか理由はあるみたいだ
とにかく話は済んだ
汗も相当かいたし時間もそろそろ良い頃合いだ
「じゃあ、僕は先に行くよ。君はもう少し息を整えた方が良いよ、また明日ね」
「あの!待って!」
ん?と振り返って彼女の方を見た
「私はタキ、エカハ・タキ。あなたの名前も教えて」
「ウィールヒル・A・クロス。クロスって呼んで欲しい」
「分かった。明日もよろしく、クロス」
「ああ、風邪ひかないようにね、タキ」
手を振り合いながらその場から離れた
あれ?
なんか名前まで教え合うことになったな・・・
さっきまでそんな気も素振りもなかったのに
よく分からないけど一生懸命にやっておいて良かった




