第2章-41
私がもっと幼い頃
父にコテンパンにやられたことを思い出した
私が両親の反対を押し切って説得して
棒術の道に生きることを決めたころから父の目は変わった
娘を見る目から
弟子を見る目に
私のスキルは【棒術習得】
長い得物での鍛錬を積むとスキルの補正がかかり
技術を習得しやすく磨きが掛かりやすい
父は棒や槍が使える訳ではなかったが
武術に心得がある
私が棒を持って父は素手で対峙したが
当初は一切敵わなかった
あんなに私に甘過ぎるほど優しかった父がこの日から変わった
実の娘だと言うのに叩きのめされた
毎日ボコボコにされた
痛くて泣いた
母に泣き付いた
母は一緒に泣いてくれたが父を責めたりはしなかったし
私に止めるようにも言わなかった
父は厳しくなったが本当の優しさは垣間見えていたし
母はそれに対して優しくも厳しくもならなかった
母は以前と変わらず接してくれた
両親は決心していた
心を鬼にして娘が死なないように鍛え上げると
数年の時を経た
スキルの補正は凄まじく
武術にはかなりの自信があった父を10歳になる頃には圧倒するようになった
父はずっと素手だったのもあるが
ここまで出来るようになったら認めざるを得ないと
ダイザフ訓練校を経て狩人を目指すことを了承してもらえた
家を出る日に
父が痛いくらいに私を抱きしめてくれた
稽古を付けてくれるようになって以来初めてだった
「苦しくなったらいつでも帰ってこい。」
母さんは泣いていた
父は私を信じる目で見送ってくれた
そして1通の手紙を母からもらった
ダイザフへ向かう道中で手紙を読むと
母が言えなかったこと
父の手前避けていたことだったりが書かれていた
中でも
稽古を付けてくれるようになってから
父が夜に悩み、涙していることがあったと書かれていたことに驚いた
私の前では武術に関して甘えを許さず厳しくなった父だったが
愛娘を自分で痛めつけるのは相当に堪えていた様だったらしい
他にも母と父からのたっぷりな愛情があったことを手紙の内容で知った私は
体力的にどんなにキツクても
へこたれないことをこの手紙に誓った
スキルにかまけて訓練を疎かにしないことを誓った
そして父と母の愛を忘れないことを強く誓った
だから私は誰よりも強くなる
年上の熟練者たちには今はまだ全然敵いっこないだろうけど
同い年の子に負けてなんていられない
例えたかが走るだけの体力勝負だとしても!
彼から今日の速度や距離をどうするか聞かれたとき
初めから私には着いて行けないからと
決めつけられたように聞こえてしまってムキになった
別にそんな意図があったわけなかったのに・・・
これだけ走れるのなら本当に気を遣ってくれていただけだったんだろう
自身があったのは本当
絶対ついて行く
なんなら余裕さえ見せたかったのも本当
結果、甘く見積もっていたのは私の方だった
もうちゃんと呼吸できているのかどうかも分からない
脚は前に出せているだろうか?
腕は触れているだろうか?
あとどれくらいで着くんだろうか?
気力だけで走っている
脇腹も痛い
肺も痛い
それでも前に
前に
・・・
気付いたら彼の前で仰向けに倒れていた
倒れていたというよりは寝かされていたの方が正しいのかもしれない
まだ呼吸は全然整っていないけど
走り出した地点まで戻ってきていたみたい
彼は私に水を渡しながら
「大丈夫?かなり無茶したみたいだけど、呼吸が落ち着いたらこれ飲んで。」
私は返事も出来ないほど息が上がってるので
横になりながら頷くだけで返事をした
彼は大きな円を描くように周囲をゆっくり歩きながら呼吸を整えている
彼自身もかなり息は上がっているようだけど
私よりも長い距離かつ、速く走り終わっているにも関わらず
私よりもずっと余裕があるように見える
悔しいけど完敗だ
ちょっとやそっと練習しても父に全く敵わなかったあの頃を思い出す
自分が上達する過程が面白くて楽しくて
何もかもどんどん出来るようになって嬉しくて
父に手合わせを願い出ては
それを更に圧倒する技術で無効化されて泣かされたあの頃の悔しさを思い出した
勝手に同い年に私以上の人間がいないと思い込んでいた
勿論、棒術、槍術なら私より技術的に上回る同い年はいないだろうけど
父を倒せるようになって思い上がっていたんだ・・・
次第に私の呼吸も落ち着いてきて
歩いている彼に近付いて私も歩きながら
「ありがとう」
そう伝えた




