第2章-40
昨夜結構遅くまで「工作」について調べ、勉強していた
ナルに聞いた話が面白くて興が乗ったのは勿論だが
学べば学ぶ程に趣が深くなる分野だ
多少、「工作」にも顔を出したいくらいに思っていたのが
結構がっつり時間取っても良いんじゃないかとさえ思えて来た
夜も更けて
明日の朝も早いのにいかんいかんと思って切り上げたが
部屋に戻ってみるとウェスタイロンもまだ自習していた
「まだやってたのか?」
と聞いてみると
「お前こそな」
と返って来た
元々これくらいやる奴なのか
負けん気が発動したかどうか分からんが
良い刺激にはなりそうな同居人だ
「俺は先に休ませてもらうぞ」
「ああ、子守歌は必要か?」
「いらねえ」
濃い1日だった
おかげですぐ寝入ることが出来た
昨日より早く起きた
正直まだ眠い
睡眠は大事だ
今日はあまり夜更かししないようにしたい
そう思っていそいそと起き上がる
同居人をいたずらに起こしたくはないので静かに準備していたが
「今日も走るのか?」
「ああ、起こして悪いな。昨日も遅かったろうに」
「元々眠りは浅いんだ、気にするな」
「そうか、俺が出て行ったあとゆっくり寝てくれ。頭でも撫でてやろうか?」
「いらん世話だ」
そんなやり取りをして
部屋から出た
体調は眠気以外は良好
天気も良さそうだ
待ち合わせ場所に近付くと
給仕の女の子は既に準備運動を始めていた
「おはよう。結構早く来たつもりだったけど、まだ遅かったか。もうちょっと早く来た方が良い?」
「いえ、この時間で大丈夫。それよりあなたも身体を伸ばした方が良い」
そうだね、と言って
俺も準備運動を始めた
「どれくらい走る?いきなり無茶は出来ないから段々慣らして行こうか」
「昨日と同じように走って」
「え?」
「私に構わないで、昨日と同じ速度と距離でお願い。ついて行くから」
「ほんとに大丈夫?自分で言うのもなんだけど結構大変だと思うよ」
「気遣いは結構よ。」
ピシャリと言い渡された
今日から始まるこの、2人っきりの走り込みが
俺としては結構楽しみではあったんだが
まさか思っているよりずっとガチか?
いや、確かに2人並んで有酸素運動程度に走ったところで
当初の目的は達成できないとは思っていた
だけどその内に速度も距離も伸ばして行って
2人で高め合うようなことを思い描いていた
こんなお互い名前も言い合ってないような状況で
俺はただの先導役に過ぎないということか
・・・
やや落ち込んだと共に
若干気持ちが冷めていく自分に気付いた
部屋を出る時には多少なりともウェスタイロンに優越感もあったものだが
切り替えよう
俺は体力作りに来たんだ
俺と仲良くしようという気持ちもない人間に不要な時間を割く必要もないだろう
「分かったよ。俺は自分の走りたいように走るから。それでいいよね?」
「ええ、お願い」
ここまで歩いてくる途中も可能な限り準備運動しながら来た
走るのもいきなりかっ飛ばすわけでもないし
準備はこれくらいで良いだろう
「じゃあ行くね」
「ええ」
そう言って走り出した
短距離を走るように全力で速度を出すわけではないが
昨日の記憶をどうにか思い出して走ってみる
確か若干、早足気味だった
浮かれてきた気分もあった
けど今日はかなり冷静になれている
無駄に心臓も拍動していない
昨日より速度を上げてもいいかもしれない
俺は心持ち速度を上げて走った
本当は後ろ、または横を気にしながら走る予定だったけど
もういいか
自分の中に入って走りに集中しよう
距離は昨日と同じで良い
頭の中がスッキリすると
憶えてなさそうだった昨日の走路が思い出された
今日は景色が綺麗に見える
空気も澄んでいて走りやすい
やはり調子は良いみたいだ
「(なんて速さよ、この速度で最後まで持つの?)」
目の前を走る男の子に速度も距離も任せたが
実際に合わせて走ってみて無謀だと早々に気付かされた
自分が驕り高ぶっていたことを恥じた
彼は私を気遣ってくれていたのに
昨日の彼らの様子を見て少し嫉妬していた気持ちもあった
けど仲良くなる前に自分の能力を評価してもらいたかった
体力には自信があるつもりだったから
凄いね、って言ってもらいたかった
昨夜同席していた女の子にはそう言ってるのが微かに聞こえたから
私も認めてもらいたくなった
だけど実際に1対1で話してみると
素直な言葉が全然出てこなかった
私の周りには沢山人が集まっていたけど
決して私が意思疎通能力が高い訳じゃない
自分のしたいことと
相手にしてもらいたいこと
色々ごちゃごちゃしたせいで
会話の持って行き方がさっぱり分からなかった
早々に息が上がりそうな速度の中
自分の今朝の会話を後悔する
余計な見栄を張った
相手を理解させるだけの能力が自分にはあると過信した
悔しさで涙が出る
でも負けられない
彼にも自分にも
意地を張ったからには通すだけの気概がいる
今日のところは最後まで着いて行けないだろう
だけど私も武に生きる人間
”我”だけは強い自覚がある
バテても良い
醜くったっていい
体力を使い切って倒れこんでも良い
自分で吐いた言葉だけは最後まで通す
無心で走った
全然着いていけなかった
彼の背中が見えなくなったところで私は速度を落とし
折り返してくるはずの彼に照準を定めた
もう同じ距離を走れはしない
ならば帰り路だけでも喰らい付いていく
恥じは捨てる
今できる全力を・・・
しばらくして彼が折り返し地点を過ぎたのか
走って戻ってくるのが見えた
出来る限り呼吸を整えて
彼が私を横切るのと同時に懸命に走り出した
「(嘘でしょう?さっきよりも速いじゃない)」
彼は残り体力を計算して自分の出来る最高速度で走っている
自分がどれだけ馬鹿だったかと愕然としたけど
今はそんな暇はない
必死に走る
彼も相当に息が上がっているけど前だけを見て集中している
私はと言うと肩で息をして姿勢も崩れている
顔だって酷いことになってるだろう
でも着いて行く
置いて行かれているけど何が何でも走り切る




