第2章-36
「気にするな!当然のことだ」
ウェスタイロンは気分良く笑っている
ナルは前髪に隠れて良く見えないが、視線がジーっとウェスタイロンを眺めている様に見えた
「あ、ありがとうございます。で、でもでも、すっ凄いですね。わっ私に気付いた・・・のです、か?」
そう言ってこちらを向いてくる
多分俺を見ているんだと思うが
「そうだね、偶然だけど。人がいるとは思わなかったよ。タダッキニ先生の座学が素晴らしくて、余韻に浸りながら上手く脱力出来ていたからなのかな?教室の後ろの方を見ていたら何となく違和感があって気になっちゃった」
「でっ、ででですよね!キニ爺、あ、いえ、たっタダッキニ先生は凄くてっ!わわ、私もやっとキニ爺の座学をう、受けられるようになって、うっ嬉しくてっ!あ、キニ爺ってのはすみません、わわ、私のお爺ちゃんと、タダッキニ先生はご学友でして・・・。む、昔からキニ爺のこ、工房に入り浸って、たので・・・。ふ、不快でしたら、すみません。すみません・・・」
途中、興奮したように声が大きくなって
後半はまた消え入りそうになっていたが
どうやら良く知った仲のようだ
「何を気にする必要がある!タダッキニ教諭の座学は素晴らしかったぞ、教諭の工房で熟練された技術を間近で見学出来ていたなど羨ましいに限る。寧ろ誇れ!」
ウェスタイロンは気にも留めていない
当然俺もだが
「俺達の前では先生のことキニ爺って呼びなよ。俺もこいつも全く気にならないからさ!むしろ本当に羨ましいよ」
そう言うと目元はあまり分からないが
なんとなく嬉しそうに表情が明るくなったような気がした
するとナルは勢いよく立ち上がって喋り出した
「あ、ありがとうございます!き、キニ爺はホントに凄くてっ!お、お爺ちゃんはち、『調達』の専門家なんですけどっ、わ、私を連れてはいけないのでキニ爺にいつも預けられてまして、ち、小さい頃から工房で面倒見てもらってたんです。な、7歳でスキルの神託があったときから、も、元から存在感がう、薄かったのに、ににに【認識阻害】のスキルを授かっちゃいまして。で、でもでもスキルのおかげでキニ爺と一緒に工房の扉から入って、近付いちゃダメって言われてるど、どどど毒薬の製作も見ちゃってたりして・・・、えへへ・・・」
ナルは好きなことになると饒舌になるようだ
それと、立ち上がってみると少女だと思っていたが
俺とウェスタイロンと同じくらいの背丈がある
姿勢や雰囲気で小さく見えていただけのようだ
胸の前で両手を握ってはしゃぐように話すその姿は
年頃の少女そのもののようで微笑ましく感じた
腕に潰されている胸が
10歳の割りには発育が良さそうなのが少し気になったが
「そう言えばナルは俺達と同じで10歳なんだよね?やっとタダッキニ先生の座学が受けられるようになったって言ってたし」
「すっすす、そそうです。10歳です。お、お2人もじ、10歳なん、ですね・・・。ず、ずい随分大人びて、見えますので、ととと年上かと。あ、しし失礼だったらす、すみません・・・」
「ははは!ナル!俺は年上にみられて嬉しいぞ!年若いとどうしても舐められるからな。俺ははやく大人になりたいと思っている」
「俺も全く気にしないよ。でもじゃあナルはやっぱり『工作』に興味がるのかな?」
「はいっ!」
今までで一番大きい声だ
「ず、ずっとずっとキニ爺の工房で、み見させて貰ってたのもあって、わ、私も『工作』に深く携わりたいとと、思ってます!キニ爺には叱られて、あとで褒められたんですが、わ、私が開発したどど毒薬もあるんです!ま、まだ色々と問題点が解決で、出来てなくて実用段階にまでは、い至ってないのですが。し、視神経に作用して視界を奪う毒薬で、ふ服用するとすぐ効果が出るので、ち、注目はされてる薬なんです。た、たたただ、他の健全など動物がま、間違って食べちゃったりすると、そ、その、食物連鎖やらで他の種にまで、た、多大な影響が出てしまう、可能性がありまして・・・。む、難しいですね、えへへ」
とんでもないなこの子
スキルで認識されてないのを良いことに、見様見真似でやりたい放題やってたのか
意欲や才能は勿論素晴らしいが
かなりの危険性があったはず
それを先生が注意こそしたが、あとで褒めるくらいには安全性に考慮しての開発だったんだろう
おそらくだが
どんなに凄い成果を上げようとも
一歩間違えれば命の危険もあった作業で
熟練した専門家があとから見ても、このやり方なら問題はないなと判断されなかったら
工房どころか
「工作」に二度と携われないくらいの出禁になっていてもおかしくないはずだ
だって【認識阻害】のスキルは悪用すれば本当にやりたい放題出来てしまう
それが出来る能力がある上で
徹底した安全管理のもと成果を上げたということが
今も工房に入り浸らせてもらえる信頼を勝ち取ったのだろう
己の欲に負けず
タダッキニ先生の大切にしていることだったりを曲げず
自分でも大事にしてやり遂げている
この子は
俺やウェスタイロンよりも「工作」分野においては
届かないくらい先に行っているんだと思わされた




