第2章-35
「工作」の座学を終えて
心地よい疲労感に浸っていた
名作の長編を堪能しきった後の様な読了感に似た
終わってしまったことを惜しいとすら感じる座学だった
正直もっと受けていたいが
タダッキニは終わり際に
「やはり立ちっ放しでずっと喋るのは疲れますな」
と言って教室から出て行ったので
本来はあまりやりたくはないのだろう
ラムーズ校長が泣き付いてくると表現していたのも
あながち間違いではないのかもしれないとさえ思わせた
隣に座っていたウェスタイロンだが
座学が終わると同時にまた先生の所に詰め寄って質問攻めでもするかと思いきや
自身でまとめた筆記帳を眺めてじっと座っているだけだった
生徒たちが教室からぞろぞろ出て行くのを見ながらウェスタイロンに
「今回は質問しに行かなかったんだな?」
と聞いてみると
「疑問を残さない素晴らしい座学だったろう?知りたいことは山ほどあるが、座学後のタダッキニ教諭がお疲れの中で質問して、すぐに解消できる程度の知りたいことは今の所ないな。」
凝視していた筆記帳から顔を上げて
「しかし素晴らしい内容だった。基本的なことを仰ってるだけなんだろうがな、続きの座学を是非ともお願いしたいものだが難しいのだろうな。全く同じ座学でももう一度受ける価値がある、当然有料でだ」
こいつと意見が完全に一致するのはなんだが
その通りだと思った
「工作」の方へは機会を見て是非とも足を運びたい
「そうだな」
そう言って余韻から一息ついたところで思い出した
給仕の女の子は?
座っていた後方の席に振り替えると
既にいなかった
周囲の人達に囲まれるのを鬱陶しがったかな?
まあ、ああいった場面で話しかけたとしても迷惑がられるだけだよな・・・
なんとなく座っていた方を眺めていたところ
更に教室の後方でなんとなく違和感を覚えた
何の気なしにそっちの方を見ていたつもりだったが
じっと見ていると何やら妙な違和感が拭えない
「ん?」
気になって凝視してみると
背景が歪むような・・・
ウェスタイロンが俺の様子に気付き
「どうした?給仕をしていたあの子ならさっき出て行ったぞ。お前も尻を追いかけて見ろよ」
明らかにやったら嫌がられそうなことを勧めてくる
しかし話しかけられると意識が反れて
さっきの違和感さえも消えてしまう
ウェスタイロンの弄りには応じず
もうちょっと教室の後方に集中して見ると
段々と背景の歪みを認識できるようになって来る
流石に気になって教室最後列の席の方へ行ってみることにした
ウェスタイロンは
「おい・・・」
と声をかけてくるが一旦無視だ
最後列の違和感に近付くと
そこにようやく人らしき影があることに気付いた
「あっ!」
「はいっ!!」
「え!!????」
「ひいぃっ・・・;;」
声を出してしまったと思った瞬間
返事が聞こえてびっくりしてしまったが
その声に更に驚かれたようで椅子から落ちてしまっていた
そこには少女がいた
髪が邪魔をしていて目が見づらいが
椅子から落ちた拍子に右目だけ髪の隙間から見えている
吸い込まれそうな綺麗な目をしているが
驚いてこっちを見ているようだ
「あっ・・・」
と言って慌てて床に座り直しつつ前髪で目を隠してしまう
その拍子にまた少女を認識し辛くなった
確かにそこにいる、はずだが
集中しないとそこにいないんじゃないかと錯覚しそうになる
後方からウェスタイロンが
「どうしたんだ?」
と声をかけてくる
やはり気を逸らされると更に認識が出来なくなる
しかし
「すみません・・・」
とか細い声が聞こえると同時にウェスタイロンもそこに人がいることに気付いたようで
「うわっ!」
「ひっっ・・・」
ってさっきもやったなこのやり取り
しかしなんて少女だ
相対していても尚、そこにいない様に感じる
この強制力はスキルによるものだろうけど
呆気に取られているウェスタイロンはさておき
おそらく小心な彼女をなるべく驚かせないように気を付けて
「ごめんねいきなり話しかけて、俺はクロス。教室の後ろの方で違和感に気付いて調べてみたくなったんだ」
年下に声をかけるようにやさしく落ち着いて自己紹介した
すると少女が
「あ、、、わ、わた、私はしゃ、シャキティ・ナルと申します・・・。こ、ここへ、来てから、初めて人と、お話しました・・・」
消え入りそうな声でおどおどと自己紹介してくれた
すると
「俺はウェスタイロン・ド・ルーテラグホン。シャキティだな?先程は大きな声で驚かせてしまい失礼した。あなたに危害を加えたい訳ではないので安心してほしい」
シャキティ・ナルはウェスタイロンのハキハキした声に一瞬びくっとしていたが
悪い人ではなさそうだと思ったのか
「な、ナルで結構です、そ、その方が、よ、よよ呼びやすいと、思うので・・・。さっきは、おどろいちゃって、、、ごめんなさい。な、慣れてなくて・・・」
そう言ってウェスタイロンにも挨拶を返した
喋り始めてみるとナルがそこにいることの違和感はなくなるようだ
「まったく構わないぞ!ナル。俺は当然として、この横にいるクロスもだが、あなたが俺達に慣れる時間を急かすことはない。ナルはゆっくり俺達に慣れてくれればいい」
ナルは若干声の大きさに怯むようだが
ウェスタイロンは良いことを言っている
「そうだよ、こいつ声大きくてゴメンね」
「い、いえ。うらやま、しいです。はい。わ、私も、皆さん、に、良く聞こえるように、話したい、です・・・」
「何を言う!ナル。君のそれは個性だ。声が大きい者が必ずしも優れている訳ではない。必要とされる場で声を届けられないと損をすることはあるが、状況によって適任と言うものがある。全ての人間が出来ないといけないことではないぞ!むしろ君の場合、それが有利に働きそうだと俺は思うが?」
「そ、そうです、かね・・・。あり、ありがとう、ございます・・・」
恥ずかしいのか、より消え入りそうな声で感謝を伝える
ウェスタイロンの声にははやり少し怯むようだが
こいつはこいつで良いことを言うな




