第2章-33
「『工作』で作られる罠や薬は、脅獣にとっての主要な攻撃手段になります。対象は中型以上ですね。小型は成人男性より小さい脅獣が当てはまりますが、1体1体の脅威度は低いものです。しかし奴らは知能が高く罠が基本的にあまり効果を発揮しません、更に群れで行動する種が多いので1体に対しての罠が発動してもあまり意味がないんですね。群れの規模が大きくなると小型の群れ専用の罠を用意する場合もありますが、稀な事態ですから今は良いでしょう。」
タダッキニはさっきまでとは打って変わって流暢に喋っている
好きなことや得意分野では饒舌になるのかもしれないな
「中型の脅獣は成人男性以上に大きく、群れを統率する個体や、狩人が1人で対応できる相当のものが当てはまりますが、私たちが用意する罠や薬は基本的にこの中型に対してのものが殆どですね。理由は単純で、使う機会が多いからです。」
「中型に対しての罠は多くが個人で持ち運べるようなものばかりです。しかし、個体によっては罠の想定している強度を上回ってしまうこともあり、罠が起動しても壊されることがあります。罠無しでの脅獣との戦闘は基本的に避けられます。死んでしまいますからね。なので罠は壊される前提で用意します。その場合、1体の中型以上の脅獣に対して持ち運ぶ罠の個数は最低でも2個以上となりますよね?なので罠は、小さく折り畳んで運ぶ際に2つ以上が上手く重なるように作らねばなりません。強力な罠を完成させることは良いことですが、持ち運べない罠はどれだけ強力でも無価値になってしまいます。」
サラリと言っているが
内容は結構に容赦ないことを言っている
人の命がかかっているので当然、求められる質は高くなるが
強度が高く、かつ小さく折り畳めるようにとなると要求難易度は跳ね上がりそうだ
今タダッキニが説明してくれた内容を聞いて
自分には難しそうだと言うような表情、雰囲気を醸し出している生徒は少なくなかった
「・・・と、説明すると毎度気が引けてしまう生徒ばかりでしてね。しかし隠しておくのは良くないので説明はしなければならんのですが、中々に難しいものですね。脅したい訳ではないのです。確かに罠に求められる質の高さは結構なものですが、我々には過去に培ってきた実践を通じて得られるコツというものがあります。それを新しく入ってきた方々には伝授しますので、思っているほどは難しくないのですよ。」
そう言って生徒たちに対してニコリと笑って安心を促している
「ここからは罠の種類などをざっくり説明しますね」
そう言ってタダッキニは板書を始めた
中型に対しての罠は
投げて使うもの
木に結び付けて使うもの
地面に設置するもの
この3つが殆どらしい
投げて使うものは材料さえあれば現地でも作成可能な簡単なものが多く
これだけでも憶えておくと生存率が違うと言っていた
木に結び付けて使うものは視認性が低いことが重要らしい
飛行する脅獣に対して特に効果を発揮するのがこれで
逆に言えば動きを止められない場合打倒する手段は無いと言っても良い
地面に設置するものは動きが激しい脅獣に対して使うことが多く
遭遇するより前に設置しておかなければならないため
誘導が必要になる
誘導場所で自分たちが罠を見失って逆に罠にかかってしまわないように
脅獣には分かりにくく
人間には分かりやすい工夫が必要とのこと
視覚的に強く、嗅覚に弱そうであれば匂いで人間に分かりやすく
逆に嗅覚が発達していて、眼はあまり良くなさそうであれば視覚的に分かりやすく
対する脅獣で罠も変えなければいけない
「罠の重要性は全人類が特に高く感じていますので、罠の製作に対する予算は結構頂けます。大体、あれが必要だ、これが必要だと申請すれば通りますぞ。ちゃんと理由は必要ですがね。」
罠がしっかり発動すれば、こちらの被害はほとんどない状態で打倒出来る
逆に言えば罠が効果を発揮しなかった場合は撤退を余儀なくされる
作戦失敗だ
こうなると被害も多くなる
基本的に脅獣は人間よりも機動力が高い
単純に足で逃げ切るのは不可能だ
目くらまし
足止め
潜伏してやりすごす
これらの手段が取れない場合は最悪、囮もありえる
殿を任された者の生還率は極めて低い
罠をまだ作ったこともない10歳の俺達からすれば
結構難しいこと言ってくるよなーなんて呑気に考えがちだが
一度でも脅獣と相対した者はそんな考えは吹き飛んでしまうらしい
罠の重要性、信頼性、確実性
目標とする脅獣に仕掛けるまでは重い荷物で運ぶのも一苦労するが
それを運ばないという選択肢を持つ狩人は一人としていないとのことだ
苦労しても
体力を消費しても尚
余りあるほどの効果を期待されるのが罠
軽い気持ちで受けた「工作」の座学だったが
途中から身が引き締まる思いに変わっていった




