第3章-17
補助線の引き直しが終わり
いよいよ父さんが切り始める
ダウコッチ先生によると
まずは受け口を作る
伐倒方向に削ることで制御出来るらしい
上の方は斜めに
下の方は水平に
「見てろよ、今から切るが本当に一瞬だからな」
一瞬ではないとさっきは言ってた気がするが
先生の言う通りに父さんをよく見てみる
父さんが取り出したのは斧だ
木を切り倒す目的で使われることが多いと思うが
なんだか
「あの斧、薄くないですか?」
「よく気付いたな、あれはロヴィオさんにしか使えねえ特別製の斧だ。普通の人間があの斧を使ったら木の硬さに負けて刃こぼれしたり折れちまったりするだろうな。だから基本的に斧ってのは耐久性がある方が望ましい。じゃあなんであんな薄いのかって?見てりゃ分かる、理由があるのさ。後で解説もしてやるから今は集中してみとけよ」
ダウコッチ先生も食い入るように見て目を話そうとしない
他の人達も静かにしている
仕事の邪魔をしない様に
と言うよりは自分がその瞬間を見逃さない様にするために各々が黙っている感じだ
父さんはその薄い斧を横に構えて
足腰に充分力が入る様に低姿勢になり
真横に薙ぎ払った
?
素振りかな?
と思っていたら周囲から拍手が聞こえて来た
「見えたか?」
「え?素振りのことですか?」
「いや、もう切ってる」
「???」
遠目から見ても切り込みが見えない
本当に切り終わったのだろうか?
「次だ」
「・・・はい」
ダウコッチ先生も自分が見ることに注力してるせいで
俺だけが置いてけぼりを喰らっている様な状態だが
今は見るしかない
父さんは今度は斧を斜め上方向に構えた
切り降ろすような格好だ
斧を握る手は右手は結構歯に近い部分を持ち
左手は逆に柄の先端に近い所を握っている
さっきより木に近い位置に立ち
狙いを定めて振り下ろした
今度こそよく見る
父さんの斧は確実に幹を通過した
空振りなんかじゃかった
しかし
終わってみてみても切り口が見えない
またもや周囲から拍手が巻き起こる
「いやー流石だぜ、ロヴィオさん。いやすまんすまん、俺も見惚れちまってたな。ロヴィオさんと何度か仕事したことがあるとはいえ、あれを見れるのはここだけだからな。さて、お前さんにはどう見えた?」
「どう見えたと言っても、1回目は素振りしたのかなと思いました。2回目は確実に木の幹を切ってましたけど何も起こってない様に見えます」
「それで良いんだ。おそらく切られた木自体も気付いてねえんじゃねえかな?笑。だが確実に切ってるぜ、それほどに切り口が綺麗で鋭いんだ」
「逆にあれで良いんですか?受け口は大きく空いて無ければならないんじゃ」
「ああ、普通はそうだな。だがロヴィオさんの受け口はかなりデカいんだ、あの受け口に嵌ってるだけの木は言わば支えさ、引っ張り倒す時に抜けば自然と倒れてくるんだぜ」
言ってることは分からなくないが
本当にそんなことが可能なのか
まだ作業を見てるだけでは何も起こってない様にしか見えないので半信半疑だ
「今度は追い口だな、逆方向から切り込みを入れることで倒しやすくするのと、木が余計に裂けてしまったりするのを防ぐ効果があるぜ。これも一瞬だから目を離すなよ」
言われて集中して父さんの姿を見ていたが
さっきみたいにすぐ切り出さず
最終確認のようにして木を触ったり
周りから見て確認している
「あれは何をしてるんですか?」
「追い口ってのは大経木では受け口よりも圧倒的に難しいんだ、まあロヴィオさんにはあまり関係ないけどな、念のため確認してるんだろうぜ。受け口ってのは本来目視で確認しながら、木の硬さや耐久度を見ながら切って作るもんなんだ。それに比べて追い口は切り込みだけ、開いてないから目で見て確認が出来ねえんだよ。ましてはロヴィオさんの受け口は見た目じゃわかんねえだろ?ただでさえ分かりにくい状態で追い口をどこまで入れるのか、間違うと大惨事もありえるからな」
最終確認も程なくして終わり
父は受け口とは逆方向から薙ぎ払いの様な姿勢を取って
振り抜いた
今度も斧はちゃんと幹を通過したのが見えたが
やっぱり切り口は見えない
「いやー天晴れだぜ!父ちゃんの仕事は終わりだ、後は他の奴らが作業して引っ張り倒すだけだな。ほんとに切れてるかどうか疑わしいんだろ?この後の作業も見ておけよ!」
「はい」
父さんがこっちにやってくる
切る作業自体は3回程度でそんなにないと思ってたが
結構汗をかいてるようだ
「大丈夫?疲れてない?」
「ああ大丈夫だ、ちょっと集中してたからな。俺が一振りで切り抜けるギリギリ最大の大きさだったからなあの木は。みんなも見てるし下手は打てないしな」
父の感じからしても手応え充分みたいだ
やっぱり木は既に切られている状態なんだろうな
受け口の方の切られて支えになってる部分には杭を打ち
縄で引っ張れるようにしている
後は人力で引っ張る縄が何本かあるので
それを握っている人が数人
そもそもが他の木々に強めに牽引して縄で引っ張ってる状態だが
これから倒すためにあとちょっと作業があるようだ
「クロス、離れようか。あれだけの大木になると倒れた時の振動も凄いからな。何か飛んでくるかもしれないし危ない」
「うん、だけど出来るだけ見える位置が良いな、父さんの仕事最後まで見たいから」
「そうか!まあこの辺なら大丈夫だろう」
見やすい位置
安全な距離まで離れた所から見させて貰う
「そら、支えが取れるぞ」
父さんがそう言った後すぐに受け口の支えが引っ張られて外れた
本当に切ってたんだ
その後すぐに人力での牽引が始まり
大木はミシミシと音を立てて狙った方向にすんなり倒れて来た
ドオオオン
深く重い音を立てて大木は倒れた
若干体が浮いたような気もした
横倒しでみてみると相当な高さだったことが分かる
「ほんとに切れてたんだ・・・」
「ったりめーだろ?」
父さんはニッカリ笑って俺の頭を雑に撫でて来た




