第3章-7
「母さんのこともなんだけど、実は俺自身のこともあるんだ・・・」
父さんはこちらをしっかり見た上で
「帰ってきたのはそっちの理由の方が大きいのか?」
「ううん。それは本当に母さんのことを父さんに直接伝えたくて帰って来たんだけど・・・。実は俺、自分のスキルが分かってからスキルが使えなくなったんだ」
父さんの顔がより真剣な顔になっている
「それは、失ったってことか?」
俺は首を振った
「スキルを使えるのは分かるんだけど、対象に発動する直前で勝手に止めちゃうんだ」
父さんは少し考えているみたいだ
「もしかして、さっき言ってた交換が原因か?」
「うん」
鋭い
さっき聞いた時点で既に疑問に思ってたのかな
「さっき、このお皿と花瓶を一瞬で入れ替えるって例えたけど実際は結構違ってて、このお皿を花瓶の位置に転移させると、お皿のあった位置には『お皿の形で切り取られた花瓶』が転移されてくるみたいなんだよね」
手で輪っかを作り
花瓶を包む
その手がお皿の位置に移動するように手振りで説明を加えた
「なるほどな」
「うん、だからね。今までは簡単に落ち葉を消してたつもりだったんだけど、転移先が万が一ヒトに重なってたら、その人は亡くなってたかもしれないんだ」
「クロス、だがお前は今まで手元に転移先の物が返って来たことはなかったんだろ?」
「そう、今までは偶然、多分だけど。でもこれからはその危険性を考えなきゃいけないし、どうやって安全にスキルを使えるのかが全然分からないんだ」
父さんは俺の話を聞き
少し間をおいて
「まずクロス。お前がどうして自分のスキルを正確に把握できたのか教えてくれるか?」
「あのね、父さんと昔スキルの研究をしたことがあったでしょ?あの時に父さんが用意した軽くて硬いけど柔らかい?木材」
「ああ!懐かしいな!サバル材だ。結構珍しい木材なんだけどな、実際はあまり使い道が無くて場所だけ取ってたから丁度良いと思って使ったんだ。あれがどうした?」
「そのサバル材ね、ダイザフの研究棟に俺が飛ばしてたみたいなんだ」
「ほう」
「あのサバル材、結構な大きさあったの憶えてる?あれが明らかに小さい出入口の檻の中で5年前に突然現れたみたいでさ、当時その研究棟では不可解な謎だって注目を集めたらしいよ。それがまず俺がすきるで物を消してるんじゃなくて転移させてるって裏付けた理由の一つ」
「一つ、か・・・」
「うん」
俺は正直躊躇っていた
俺の中に前世の知識があることを父さんにも母さんにもまだ話したことはない
気持ち悪がられてしまわないか?
と思ったのがまずあるが
本当に前世の知識があるのかどうか確定的ではなかったのもある
まず説明が難しかった
今でこそ俺にはこの世界にない知識を持っていることを自覚しているが
ダイザフに行くまでは閉ざされた世界での生活だったし
この世界でのことも知らないことが多すぎた
だから
何となくな違和感はあったけど
それが本当に前世の記憶と言っていいのか分からなかった
地元を出て
外の世界を知って
やっぱり俺の知識はこの世界にない物だと確信を持ったのはつい最近だし
それでもまだ前世の知識も知らないことが多すぎる
自分が何者だったのかも全く分からないし
地名、環境、生活、時代
本当に何もわかってない
俺には微妙に前世の知識の断片が流れてくるだけだ
それも限定的に
でも
父さんには出来る限りで説明したい
きっと信用してくれる、はずだ
だから分かってることを全部話そう
父さんは黙って俺が話し出すのを待ってくれていた
「父さん、あのね。俺のスキル【空間転移】がさ、啓示で◆◆◆◆って書かれてたでしょ?これ、俺の前世で使われていた文字らしいんだ」
父さんは怪訝そうな顔で驚いている
「この文字が前世で使っていたってことがはっきり分かったことと、読めるようになったのは、ダイザフでアプタン語を勉強してた時なんだけど、言語を学んだことで前世の知識が少し流れ込んできたような感じなんだ。実は、最初に啓示された時には本当に全然読めなかったけど、読めないのはもしかして前世の文字で書かれてたからなのかな?ってのは気付いてたんだ。5歳の時にはそれが本当にそうなのか分からなくて、でもダイザフで色々と経験して、カーマの外のことを知って、俺にはこの世界にない知識があるって分かったんだ。だから◆◆◆◆が空間転移って読めるようになって意味も分かったのがもう一つの理由・・・」
一気に話した
やや詰まりながらだけど
ゆっくりと
父さんの顔を見れない
しかし俯いていると
父さんの手が頭の上に乗って来た
「クロス。話してくれてありがとな。お前に前世の知識があろうとなかろうと、お前が俺と母さんの大事な息子であることは変わらないんだ。何も心配するな。でも不安だったんだよな?それでも俺なら変わらず接してくれると信じてくれたんだろ?クロス、お前は本当に良い息子だよ。俺も母さんも幸せだ」
俺をそのまま優しく抱きしめた
さっきの力強く、そこそこ痛いくらいの抱擁とは全く違った
それでも感じる心地よさ、父の強さはより強く感じられる抱擁だった
俺はそのまま
いつの間にか眠っていた




