第180話 土パネルの達人
ハンコック目線の短めの話
私はリビアント・ハンコック。ユリアスギルド所属のDランク魔術師だ。
「おじさま、どうですか?」
声を掛けてきたのは、少し前にチョコレッタ殿の村へやってきたニーチョンという少女だ。
細い目をさらに細めて、出来を確かめる。
「……いい出来だな」
こんな私でも、少しは役に立てるようになったのか。
私や他の魔術師たちは、ユリアス様が留守の間に道の整備をしていた。
ブカスの森の入口から、このブカス街区まで続く約5キロの道だ。
「全然いいと思います!」
ニーチョンが道を眺めて嬉しそうに言う。
彼女も土のパネル作りを手伝っていたからな。
「君もよくやったな」
そう言うと、彼女は少し照れながら答える。
「『土パネルの達人』に教えてもらったので」
妙な二つ名を付けられたものだ。
「土パネルの達人、か」
確かに、他の者と比べれば造作もなく作れる。
だが、それだけのことだ。
「今日、お帰りになったのだろう?」
ユリアス様が別荘街に戻られたと聞いている。
「昨日みたいですよ。ファーファ姉さんが迎えに行ったみたいです」
私は与えられた仕事をしただけだが――。
あの方がこの道を見て、どう思われるだろうか。
ご満足いただければいいのだが。
「おじさまの土魔法は凄いです。
どうすれば、おじさまのようにできるのかしら」
「凄くはない。私に合っていただけだろう」
魔法陣を覚え、イデアに叩き込み、何度も試す。
それを繰り返していただけだ。
気がつけば、上級魔術も扱えるようになっていた。
「チョコレッタ様よりも土魔術は凄いですよ。
でも……なんで、おじさまはDランクなのでしょう」
「さあな」
昔はEランクだった。
カラカラを倒すのにも苦労していた頃だ。
ランクが上がれば、できることも増えるのだろうな。だが、高望みしても仕方がない。
「おーい! おじさーん!」
明らかに私より年上のジュオン殿が呼んでいる。
ジュオン殿が告げたのは、明日にもユリアス様一行がここを通るだろうということだった。
そして――。
「うわっ。道まで整備し直したの!?」
良かった。喜んでくれている。
「おじさん、やるじゃん」
チョコレッタ殿が小脇を突く。
「いやいや、ガディアナ様の指揮ですよ。
私はパネルをせっせと作っただけで」
「それでもよ!」
評価されるのは、素直に嬉しいものだ。
「一番たくさん土パネル作ったのはおじさんなんですよー」
「すごいね、ありがとう。ハンコックさん」
「と、とんでもありません。恐縮です」
ユリアス様達は一通り道の状態を確かめて帰っていった。
「あれ? チョコレッタ殿は一緒には行かないので?」
「なんで? 私の家はここにあるじゃない。
難しい報告とかはエリナ姉さんも一緒だったから必要ないし」
そうか。そうだな。
本当に変わった領だと思う。
「何か変わったことはなかった?」
「特に……毎日、壁と道作りでしたので」
「そっか。
あ、そうだ、これお土産ね」
「おお、ありがとうございます。
……これは?」
手渡されたのは、水草のようなものだ。
「それをよく噛んで食べるとね。魔力の流れが良くなるらしいの。
私もそれを噛んだら、水魔法が使えるようになったのよ」
あとでじっくりと味わおう。
そして、その晩――。
食事を終え、いただいた水草を口にする。
……次の瞬間。
あっ――なんだ!?
体が、熱い……。
そのまま、意識が遠のいた。
――目を覚ました時、私はCランクになっていた。




