第179話 ブカス街区の外壁
イスカンダリィ公爵の別荘をあとにして、ブカス街区の本区に入ると、思わず足を止めた。
外壁が立派になっている。簡素な土壁か木柵だったはずなのに、立派な石壁に変わっていた。
高さは5m、厚みは3mというから、立派すぎる。
「ど、どうしたの? これ」
問いかけると、ファーファが少し胸を張る。
「えへへ。皆さん頑張りました!」
うん……彼女に聞いても分からなそうだね。
誰か他に説明してくれる人はいないかな。
「あ、ユリアスくん、ジュオンさんが来るわ」
タイミングがいい――と思ったけれど、どうやら迎えに来てくれたようだ。
僕は再会の挨拶もそこそこに――。
「外壁、どうしたんですか?」
と聞く。
「ふふふ、驚いたか?
サリナ妃がな、ユリアス君が留守の間に外壁を整えようと言い出したのさ。
ちょうど、ドワーフやコロンの者たちがナデージダから帰ってきたところだったんでね。さくっと作ってもらったと言うわけさ」
そういう事だったんだね。
「登ってみるか?」
外壁には一定の間隔で見張り塔のようなものがこさえてあった。
是非、登らせてもらおう。
ジュオンさんに案内されて、僕たちは外壁の上へと上がった。
思っていたよりも広い。
厚みが3mあるというのは聞いていたけれど、実際に立ってみると、ちょっとした通路どころじゃない。
十分に人が行き交えるし、作業だってできそうだ。
外壁の上から内側を見下ろす。
――壁の内側は、街なんだ。
改めて、そう思う。
外側は、どこまでも森が続いている。
それに対して、内側は人の営みのある場所だ。
同じ場所にあるはずなのに、壁ひとつでまったく別のものになっている。
ここは、ブカスの森の中にある街なんだな、と実感する。
「今、どれくらいいるの?」
ふと思って聞いてみる。
「869人よ」
間を置かずに返ってきた。
チョコレッタだ。
「え、もうそんなに?」
「ええ。今の居住者数ね」
エリナが少しだけ目を見開く。
「しっかり把握しているわね」
「えへへ」
滅多に人を褒めない姉さんに言われて、チョコレッタが少し照れている。
「ジュオンさんも見てくれているし、ラトレルさんとか協力してくれるから」
うん。でも、チョコレッタだから協力したくなるというのもあると思う。
「そうだ」とジュオンさんが口を開く。
「それとな、移住希望者が100人ほど来ている」
「あ、ガル村の方にも、住みたいって人来てますよ」
ファーファが続ける。
「みんな、受け入れるかどうか……お前さんの判断を待っていたんだ」
そう言われて、少し考えようとしたところで――。
「受け入れるわ」
姉さんが、即座に言った。
---(エリナ目線)---
ここは全く新しい街--都市になるわね。
森の中の街。魔物の魔石、ドロップ品、ムワット石の採掘、それの加工……さらには蜂蜜、製糸。
いわば一次産業の都市。
コルメイスが交易都市、ナデージダが教育都市、ここに一次産業の都市が加われば、ユリアス領として更に整うわ。
規模を拡げていくと--。
広さは確保できる。なにしろ『森の管理者』はユリアスだし、そのブカスの森の極一部しか切り開いていないもの。
都市の統治者は……チョコレッタで大丈夫かしら。頑張ってはいるけれど……。
後でユリアスと相談ね。
「……さん。姉さん」
うん? ユリアスが呼んでいた。
「どうしたの?」
「なんでもないわ。ちょっと考え事してたのよ。
それより、チョコ。もう少し街区を案内しなさい」
「はーい」
まずは現状を押さえておかなくちゃね。
結構、街としてしっかりしているわ。
蜂蜜関係、ムワット石採掘関連、ドロップ品の簡単な加工集落。魔薬草を保存する一角もあるのね。……ゾーン分けもされているのか。
あれ? 肝心なものがない?
「ねえ、チョコ。この街に店……日用品とか道具とかを扱う商店が見当たらないのだけど?」
「ないですよ」
は? 人が暮らすのには物資が必要なのに、それを扱う店舗がない? どういうことかしら?
「だって………」
そういうことか。
この街にはコルメイスから2、3日毎にとっかえひっかえ商隊が来るのだそう。それで事足りていたのね。
900人弱の住民分を補えたの?
「食料はほとんど自給できますよ。それにそれぞれの道具も自作できるし。いざとなれば、デーアビントル達に頼めば飛んで買ってきてくれますもの」
「そ、そう……。
でも、店舗を誘致なさい」
もっと人が増える……増やす予定にするのだから、必要だわ。
--ふう。この街のことも考えることが増えそうね。




