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チャリンコ・チャリオット  作者: 怠慢兎
第1章 ーワンパク ワンダー ワールドー
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45. 足元注意

「ぐわああぁぁ……熱いじゃないか、酷い事をするな」

「子供に発砲する方がよっぽど酷い事だろ」


 輪郭がグニャグニャに見えてしまう程の高温に晒された紙芝居は、熱々のお好み焼きに振りかけられたカツオ節の様にクシャクシャに踊り狂って最後は自然発火し灰になる。 


「やれやれ……折角、丹精込めて創り上げた紙芝居をこんなにしてくれて……予備(ストック)が無ければ直ちに殺してしまう所でしィ!!?」


 背筋がゾクゾクする、喉仏に刃物でも押し付けられるかのような殺気をぶつけられる。

 それでも構わず下腹部目掛けて前蹴りを繰り出す、しかしめり込む感触を感じつつもその足首を捕まえられた。


「チッ」

「術中にあってもまだ元気だねえ? まぁ客人のこんな突飛な行動も予測出来ないと、この仕事は続けられませんよ。フフ……、悪い子にはお仕置きが必要ですが、私の作品を褒めてた事もありましたから、半殺しで許してあげましょう」

「8歳から周囲を騙し続けたクセに、じゃあアンタは8割死ね」

「フッ…減らず口ぃ!? 最後まで喋らせ、うお!」


 掴まれた脚を軸にした変則シャイニングウィザードからの掴み攻撃に移ろうと仕掛けるも悉く防がれ距離が空く。

 直後2回発砲され、が今更そんなもん当たらない。


「うらぁ!!!」


 戦闘でボロボロの床を床材ごと抉るつもりで蹴り飛ばす。木板や石材の破片等が飛礫となってフランに襲い掛かる。


「重場の術!」


 しかし飛礫はフランの位置に到達する直前にひとりでに地面へと向きを変えて落下する。いや、中には勢いを落とさずに直進する物体があった。そしてその物体だけが咄嗟にガードした左手に食い込んでいる。


「ぐッ、魔吸弾か!?」

「まだじゃあ!!!」


 2度、3度と続け様にフランの背後へと回り込む様にしながら地面を蹴り飛ばしていく。魔力を吸収し弱体化させる魔吸材が刺さったままでは流石の紙芝居忍者(フラン)も忍術は使えまい。だが長くは続かない。


 ガズッ!! ベキッ                               ピュンッ

「うわッ?!」


 もう一度と地面に蹴りを入れる。が、妙な感触につんのめる。

 それまでに木や石の破片やらで刺傷切創だらけのフランはこっちに顔を向けてしたり顔だ。


(あれ程の勢いの割に傷が浅くて助かった。飛礫に紛れた魔吸弾(コイツ)には面喰らったが、摘出してしまえば如何と言う事も無…!?)

 ゴボボッビタビタタタッ


 そんなフランの口から夥しい量の血が不快な吐瀉音と共に噴出され、慌てて口を抑えるものの手の隙間から溢れ出ている。


「オブュ!? ……??」

「不思議ってな顔してるねぇ。俺は心底疲れた顔だよ。もぅ」


 エルドワーフに撃ち込まれた魔吸弾は元は手錠だったものを、無理に弾丸に加工したので脆くなっていた。それを床ごと蹴り飛ばすと複数の破片に割れ、その内の一つがフランに直撃、残りは天井や壁に飛び散ったり刺さったり、中でも一番大きな破片が天井に跳ね返りフランの後方へ落ちたのを見逃さなかっただけ、そしてそれが偶然にも内臓(恐らく肺)に直撃したのだろう。

 4度目の蹴りの瞬間、床が爆ぜなくてしくじったかと思ったが、飛ばしたい物はちゃんと飛んで行ってくれた。思うに、物が飛んでいくのは衝撃で吹っ飛ぶんじゃなくて、素早く強く押し出すから飛んでいくのだ。慣性までは操れないらしい。

 もしも衝撃を消すんじゃなくてエルドワーフも範囲に含めた忍術を使われていたら結果は如何転んでいたか。


 ともかく奴は膝を付いている。畳み掛けるなら今しかない。


「あの重くなる隠し芸、最後にアレされてたら如何なっっていたか判らなかったかも」

「ゥ…ボぺッ! ……ヒューハァ、隠し芸は入念な準備をした上で披露するものです。あの咄嗟の状況では難しいでス」

「ムフゥ!!」ビチッ


 屈んだ態勢のまま服の陰からの無音射撃、予想はしていたので鎧の性能を信じて自らぶつかりに行く。

 あのスーツ姿の懐には紙芝居以外の隠し玉がまだまだあるに違いない、それを出す前に、蹴りを付ける!


「…とか何とか考えてるんでしょうけれど、損害を受けてまで継続するつもりは毛頭ありません。

 “始門(サモン・ゲート)”、ゲフッ“加重の術”」

「転移で逃げようとしている! 紙を破いて阻止しろ!」


 ベルト氏の声だ。フランが撃ったと同時に身体を盾にして、大きめの紙を引っ張り出しているのが見えた。その紙には恐らく転移の魔法陣が描いてあるのだろう。


「こんだけやらかしといて今更逃がさんんんのおおおぉぉぉ!!!!???」

バリバリバリバリゴゴゴゴゴゴガリャガリャドザーー………


 しかし奴も必死で今日一番の重力が圧し掛かり、既に崩壊気味の床が抜けて階下へと落ちてしまった。



 フランは、エルドワーフが階下へ落ちたのを見届けない内に、魔法陣の上へ素早く胡坐をかいて座り込み、頭はなるべく低く、腕も魔法陣の内側からはみ出ない様に地面に押し付ける。

 不恰好だがこの姿勢なら最も早くて数秒で転移を終わらせる筈だ。


 鍵となる言葉を発してからほんの数拍後には魔法陣から淡い緑色の光が放たれる。それから徐々に、ゆっくりと身体が魔法陣の中へと沈み始めた。


 今は最も無防備な状態でもあるので、異変があれば直ぐに対応出来る様に才能(センス)を解除して耳を澄ました。


 ドックン…… ドックン…… ドックン…… ドクン……


 自身の心臓の音が五月蠅い程に、静かだ。



 ハ゛゛゛゛ンッ

ビシビシビシビシッ!!!!


 4方向から同時に弾丸が飛んできた。跳弾の音に気付いた瞬間にはもう手遅れだった。

 転移中でも自力で脱け出せば無傷で済む、しかし転移中に魔法陣が破壊されるともうそこで分断されてしまう。

 左手中指~左肘・両足爪先~臀部の既に転移されしまった縦半分(・・・)を失った。


「うぎゃああああああ!!!! ああああ!!! ガああああ!!!!」



「………【急いては事を仕損じる】と言う諺があるのよ、フラァン」


 何時ものドレスではない、華々しさとは真逆の暗色の赤を基調とした戦闘服。怪物の革を用いた旅行鞄。そして左手に下げた鞄の中から右手に構える拳銃へと連なる弾帯(ベルト)弾帯(ベルト)給弾式(フィード)拳銃(リボルバー)を構えて立っていたのは、この街の女代官イェナ・ナイトアームズその人だった。


「ハァハァー、イェナ様……!?」

「何を今更驚いているの? 私が貴方に銃を撃った事? 貴方に撃った弾が全て青鋼弾な事? それとも貴方に出会ってからこれまで一度もこの姿を披露したことが無かった事かしら?」

「何故……ゥグウウゥ……!!」

「何故って貴方に身体を許しても、一度だって気を許したことが無いからよ。使用人に手を出すくらい貴族の嗜み、他所の奥様達とも深い仲を繋ぐ一つの香辛料(スパイス)よ。あら、スカーレッドちゃん、可愛いお顔が台無しじゃない」ハ゛゛ンッ


 2発の弾丸によって怪物の牙にも耐え得る怪獣用の鋼線が分断され、スカーレッド他数名が拘束から解放された。


「凄ェ、何でたかが銃撃でこの鋼線が千切れるんだ?」

「何故って、イェナ様だからこそ可能な芸当よ」

「船で使うロープじゃねぇんだ、納得できるかよ」

「ぅう~ん、いつの間にか眠っていたようだぁ……あああ脚が!?」

「落ち着けセイン! 医者の貴様が取乱してはどうすれば良いのか…」

「汚い! 直ぐに洗わないと面倒臭い事になる。……ああ、御気遣いありがとうございます。ですが落ち着くのは貴方様です。歳の所為か不覚にも気絶した様ですが、この程度の傷は若い時分に何度も経験しておりますので」

「そ………そうか、ならば直ぐに対処せよ」


「ぐあああ!? ふぁぁ……獣眠剤(キラージン)!? ………ッググ、クゥウ……人体への……投与は禁止されt、フグゥ」


 檸眠飛の果汁を目薬に使ったような爽快感に反して強制的に意識が混濁する。


「テロリストに人権は無いわ。そのまま眠って拷問室で待ってなさい、そうだ忘れないうちにこれも付けときましょう」ジャララッ


 そう言って取り出したのは魔吸手錠であった。


 平民にしては非凡な従兄(ドルモア)を見出して王国最強の騎士にまで育て上げた女エルフに憧れ、彼女に師事を請い、しかし銃の非凡な才能を開花させた女傑。

 “瀑弾”のイェナ。当代随一の射撃の名手である。

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