44. 表情
「急造の魔吸弾です。官給品はコスト削減の為に爆発の魔法陣の刻まれた薬莢だけが支給され、弾丸の方は形だけ成型して嵌め込められれば何でも銃弾に出来ます。なので手錠を掛けるよりも削って撃ち込む方が容易いと判断しました」
「がぁぁ……クッソォ……」ゴロ……ビタンッ
実は苦しそうに銃撃の痛みで蹲って喘ぐのは演技で、エリーお手製の鎧のお陰で、腹部に直撃した弾丸は鋭い痛みをもたらしたものの貫通する事も無く、咄嗟に押さえ付けた掌の中で俺の魔力を貪っている。なので怠いのは事実だけど反撃の隙を伺っていると、ふっと周囲の音が戻って来た。
『助けて! お願いだから!』
『衛兵! 居たらこっちに来てー!!!』
『お父さん! お母さん!』
『その子から手を離せ!! ぎゃああああ!!!』
『うわああああ!!!!』
「おやおや、先程の貴方達のように、部屋に監禁している手筈なのですが……騒々しいのは嫌いなんですけどねぇ?」
悲鳴、銃声、ドアを叩く音、足音、水の跳ねる音、絶叫……
正確な情報が分からないまでも何が起きているのかは何となく理解する。
「ふっひゅぅ……う、ゆぁっぱり……これはクーデターをしゅかけたのね!」
緊迫した空気に間抜けな声を挙げたのはスカーレッドだ。此方から見て手前に居るのでよく分かるが、顔面にワイヤーが数本ばかり縦横斜めに食い込んでチャーシューみたいだ。
「やっぱり? 何をどう考えてソコに行きついたのか判りませんが、クーデターなんて後始末の面倒な事ではありませんよ。ああ! そう言えば思い出しました。貴方は人の頭の中を盗み見る才能をお持ちでしたね? だったら今日の私の頭の中でも覗いたのですかね?」
「かっちぇにおちょめのひゅみゅちゅをいいふりゃしちゃあげきゅ、ぬひゅむだののじょきゅだのてょわしゅっけいね! うぐぐ……ぷはぁ、『今日で計画の総仕上げ』『引き込めなかった実力者は誘導して説得』『無理なら監禁か殺害』……貴方みたいな潜入工作員って読心系才能から自分を守るのに強力な自己暗示で対抗するらしいわね? 偶然見つけて警戒してたけど、寝耳にスライム過ぎてこの様よ!」
ほほぅ、才能は個人によって様々とは聞いていたけど、心を読むとか典型的な超能力的なものも居るんだね。俺も気を付けないと。
所で今のは証言であって証拠にはならないが、それに対するフランの返事は淡々としたものだった。
「それはご愁傷様でした。それで、私が潜入工作員? 陰謀系小説の読み過ぎでは? と、否定したい所ですが、計画の本命は先日の時点で終わってますし、20年の計画も今日でお終いですから良いでしょう。お教えします。
我々は………私は戦争をしにここへ来ました」ニャア
口角を吊り上げてニヤリと笑うが隠す気の無い作り笑いだ。その笑顔もほんの数秒間だけ維持してからフッと無表情に変わり、視線だけを動かして誰かの返事を待った。
それで口を開いたのはベルト氏だった。
「……20年だと? だが貴様の年齢は…」
「28ですよ。7歳でこの大陸にやって来て、8歳になった3日後にイェナ様に拾って頂きました」
「戦争しに大陸からっつーと……今、南でおっ始まろうとしてる…? でもありゃ群島諸国連合が集った海賊集団みたいなものだろ?」
「海賊規模の戦力しかない小国だろうと国は国です。正に近々勃発するその戦争準備に我々はこの大陸津々浦々に派遣されているのです」
「随分と用意周到なのね?」
「当たり前ですよ? この国の、というよりは北方の連中が出たとこ勝負な人間ばかりなだけです。時機を見誤ったか、欲に駆られたのか、先走って失敗した者も居りましたが……何はともあれ情報と供給元は押さえました。今日は証拠の隠蔽工作です」
「ちょっと待って、先走ってってもしかしてドルモア伯爵が鎮めたクーデターの事かしら?」
「そうそう結果的には領主と冒険ギルドの間に溝が出来て、勝手なことをした間抜けも処刑されたからこっちとしては悪くはないんだけどね。近所に住む私としては不愉快な出来事でした。それらも含めて詳しい説明はこの瞬間の為に用意した我が最高傑作の紙芝居でご覧に入れましょう」
そう言いながら懐から取り出すにしては余りにも皺・折り目の一つとして無い大きな画用紙の束を披露した時の満面の笑みは、噓偽りの無い純真な笑顔に見えた。
しかしその笑顔は紙芝居を懐から一気に引き抜いたと同時に紙ごと陽炎の中で歪み、蒸発した。
「話が長い、飽きた!」
エルドワーフは心の底からブチ切れました。




