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チャリンコ・チャリオット  作者: 怠慢兎
第1章 ーワンパク ワンダー ワールドー
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37. 原子式魔導原動力

「!!!!ハギュウウウゥゥゥヌ"ヴヴヴヴゥゥゥゥ!!!!???!?」


 果たして一体どこを蹴り上げてしまったのか? 聞いた事の無い鳴き声を上げて転がり始めたのはアルトだった。


「カバパパパヒューブフッ……ヴ、ウゥゥうおおおお!!!」ゴロゴロゴロ……

「痛だだだだだ! 千切れる! 千切れるゥ!? ぎゃあ!!」ズッタンバッタン


 しかしその執念は何処から湧いて来るのか、ナイフごと掴んでいるエルドワーフの肩を離さないままで転がり回るので、それにつられてエルドワーフも無茶苦茶に引っ張り回される。

 

「こぉんの! ブバッ!?」

「シュゥ~! よくもやってくれたなこのグアッ!?」

「こっちの台詞だタマ無し野郎ぅグッ!」

「まだ潰れてない! ってそんな事より何故まだ魔力が湧いているん…ガフッ!」

「るさい! さっさとくたばれ! い゛ッ!?」

「いいや、くたばるのは僕ではなくお前だ。死ね」


 このままみっともない泥試合にもつれ込んで誰かが止めに入るまでじゃれ合おうかと考えたエルドワーフであったが、ここでアルトの目が急に座り、まるで別人のような目付きでナイフを突き立ててきた。


 今、エルドワーフは地面に押さえ付けられ、アルトが馬乗り状態で更にエルドの右腕を左膝で踏んづけた状態で全体重をナイフに掛けてくるものだから、エルドワーフは咄嗟にナイフの刃を左手で掴んで防御する形になった。


 魔導原動力(マナエンジン)で左腕一本だけでもなんとか強化するが、それもかなりギリギリで、段々とナイフが顔に近づき、左手からは血が滴り頬を濡らした。

 当然ながらアルトも彼の言う所の魔法体術(マジックマーシャル)を使えるので、両脚でエルドワーフの身体をがっちりと挟んだ状態で上半身を沈めて来るのも厄介だ。


(クッ……糞! まさかここまでの野郎だとは思わなかった。まだやる事がいっぱい残っているのに、神社にお参り行ったり、都へ行商に行ったり………)


 『死ね』とか口走ってたけど『氏ねwww』的なニュアンスだと思いたいが、今の感じはガチ………心音から真偽を聞き分ける程の経験は無いけど、嘘をついているようには見えなかった。


 冗談じゃないとばかりにまた何か言おうものなら、それはそれでこれまでを省みるに、最早口を開いただけで火に燃料(ガソリン)を注ぐ結果になりそうで黙っていたら、今度はアルトの方から語りかけて来た。


「……君は、僕より若いのに、僕なんかよりずっと才能に溢れている、羨ましいよ。殺してしまうのが勿体無いくらいだ」


 『勿体無い』と口では言いつつ手に込める力は相変わらず、本気で殺すつもりだ。


「……だったらこの手を退けてくれませんか? ここまで追い詰めれば十分でしょう? このまま(刺しちゃう)と殺人犯ですよ?」

「だろうね。でも誰も止めに来ないならソレは黙認(そう)いう事だ。なら止められるまでとことんやろうじゃないか」


 ここで助けを求めればイェナさんの配下がそれに答えてくれそうな気はするが、そうすると負けを認めることになる。

 ここまで殺り合って今更引くような真似をしない事は互いに承知の上で煽っているのだろう。


「飯の恨みは恐ろしいと言いますが、被害者はこっちでアンタは教唆犯でしょうが。煽っといてなんですが、殺す程の事ですか?」

「そんなちっぽけな事はどうでもいい。それよりも重要なのは……」

「いや、どうでもよくな…」


 ガッ! ブスッ


 思いがけず言葉を遮って文句を言おうとしたら、ナイフを押さえつける両手に頭突きを加えて、とうとう刃を頬に食い込ませた。


 現状、右手の小指にある魔吸材(マナスポンジ)の弾丸の所為で、身体の全域の魔力が奪われほぼ脱力状態だった。それでも辛うじて無事なのは場所を限定して奪われる以上に魔力を練り上げているからだ。だが魔力の無い状態では銃弾すら弾いた皮膚は、ナイフの切っ先によりいとも簡単に貫かれた。


 拮抗状態を一瞬とはいえ押し込まれたのを押し返す力はエルドワーフに無く、手の甲から額を離したアルトの顔は青筋を浮かべた憤怒に満ちていた。


「“口は災いの門”と知れ。それに自分がさっき何をしたのかも考えてみろよ。で? このままだと殺人()だって? これは決闘だよ。決闘でより身分の低い者が命を落とした所で、その責任がどうなるかなんて世間知らずの君でも分かると思いたいが………試しに続行してみよう、残念ながら結果を君が知る事は無いがな」


 そう言うと下品にニタッと笑い、力を籠める手をわざとブルブル震わせた。


「フギッ!? ギッヴッグッ!」


 最終防衛線として刃を歯で噛んでいるのでそれ以上の侵攻は何とか歯止めが利いていたが、ナイフが振動して容赦なく傷口を抉った。


「犯罪教唆や殺人なんてのは問題じゃない、重要なのは神はお前の死が望みだって事だ!」グイッ


 不意に頭を持ち上げた反動で僅かに押さえる力が軽くなった。この機を逃すと死ぬだろう、その一瞬で脳力強化(ブレインブースト)を発動した。



 脳力強化に極振りすると一切の行動が出来なくなる代わりに全てを数千分の1秒で認識・知覚する。

 考える時間が欲しいなら、これほど過剰(チート)な手段は多くないだろう。幸いそれが可能だった。


 状況を整理すると、これから通常時間(・・・・)で1秒以内に釘打ちの要領でナイフで喉を刺されて殺されそうだ。

 この状況を覆すには最低でも上半身に魔力を行き渡らせて、力づくで押し返す。最悪の場合はナイフを嚙み砕いて刺せなくする、それも一瞬でだ。

 どちらにせよ相応の魔力が必要なのは分かっている。問題はそれをどうやって用意するかだ。


 身体を動かせる程度まで脳力強化を緩めて、ナイフの刺さるその瞬間までに十分な魔力を練り上げるのは通常ならば難しい事ではない。

 一番の問題は右手小指の“青鋼(ブルーメタル)”なる魔吸金属(マナスポンジメタル)だ。今までも魔吸素材の手錠を付けられたことが何度かあったが、それらは直接触れて効果を発揮する代物だった。しかしこの青鋼は、直接触れてもいないのに魔力をドンドン吸収してしまうし、うっかり触ってしまった際には、右半身どころか左腕の魔力をゴッソリ奪われその都度ナイフの接近を許してしまう始末だ。しかもいつもの調子で魔力を練っていた訳ではない、魔力酔い(デメリット)を無視して魔導原動力(マナロータリー)を全開にしていたのにも拘わらずだ。


 そこまでやったのにこれではもう打つ手は無い、かと言うと実はそうでもない。出来るかどうかが一か八かの危険な奥の手がある。と言っても過去に一度だけ思い付いたがイメージにそぐわないので諦めた異なる魔導原動力(マナエンジン)方式だ。しかも、もし思った通りの結果が出れば、ガンギマリ状態でさえ雀の涙に感じられる程の膨大な力を得られるだろう。


 皮算用は止めて奥の手というのは『核反応のイメージで魔力を練る』事だ。


 その前に魔力を練り上げる方法とは、体内に存在する“内功”と大気に存在する“外功”を併せた“気功”と呼ばれる魔力の素を体内で混合して魔力に練り上げる事である。(エリー)からそう教わった。

 今まではこの“2つの要素(内功と外功)”を混ぜ合わせるのに、車の内燃機関(エンジン)の内の空気とガソリンに当てはめたイメージで魔力を練っていた。


 話を戻して核分裂とは、核物質(ウランやプルトニウム)の原子核(陽子と中性子の塊)に、陽子と中性子のどっちかをぶつけると膨大な量の熱を起こし、塊だった“2つの要素(陽子と中性子)”がバラバラに散って別の原子核にぶつかって~の繰り返しだ。

 つまり練り合わせた魔力を“2つの要素”に戻してしまうのだ。


 一度の思い付きで諦めた理由は潜水艦の原子力発電と同じ感じで応用出来るかと考えたものの、一晩掛けて混合と分裂という真逆のイメージに辿り着いて諦めたのだった。

 理由は他にも、車のエンジンと違って実物が稼働している所を見たことが無いのでイメージが掴み辛かったり、原子炉の構造に興味があっても前世の化学(べんきょう)の方はうろ覚えで曖昧だったり、そんな訳で出来るか如何か一か八かの奥の手なのだ。


 身体能力強化や脳力強化には魔力が必要だ。“焼身(セルフバーニング)”や“ガンギマリ”はその魔力をイメージの流れのまま熱に変換した魔法みたいなものだ。

 今までの内燃機関(ガソリンエンジン)のイメージでは“2つの要素(空気とガソリン)”を圧縮した混合気体に相当するものが魔力であり、熱を発生させる段階は魔力を魔法に変換させたという認識だ。一方の核分裂式魔導原動力(アトミックエンジン)は、既に魔力としてある“2つの要素(陽子と中性子)”を分離させることから、これも一種の魔法である。即ち身体強化には使えないということでもある。


 それでは本末転倒、何故この方法が奥の手なのかというと、もう色々面倒なので開き直ってぶっ壊す事に決めたからだ。

 “焼身”、“ガンギマリ状態”、どちらも自滅覚悟の危険な魔法だ。しかし絶体絶命の危機に瀕してこそ、そんな魔法で危機を切り抜けてしまった実績があるのも事実。

 頭上(・・)の空論にしても、放射能の危険が無くても、相応の代償は覚悟するしかない。


 やっぱりグダグダ考えるよりも、直感的(シンプル)に行動した方が結果はどうあれ上手く行く。

 たぶん………。



 脳力強化を緩めて戦闘再開。停止状態だったアルトの頭がゆっくりと徐々に加速する。脳へと流していた魔力に余裕が出来れば、間髪入れずにナイフを掴む指先へ魔力を集中的に練り上げる。

 頭を振り上げた反動で軽くなったとはいっても、抑え付ける腕力はなお押し込もうとし続ける。それでもそちらは咬筋(アゴの)力に任せて、少しでも多くの魔力を左手へと集中し続ける。

 そして、魔力を左手の指先で練り上げるイメージは、“マナロータリー”によるもので当然ながら全開(フルスロットル)! ここからが本番、確か核分裂には原子核に陽子と中性子のどちらかを高速でぶつけて、原子核をバラバラに破壊させなければならなかった筈。それも連続で。

 2つの要素(陽子と中性子)に“気功”を当てはめたとしても、どっちがどっちか判らない。だから適当に考えて外から吸収する勢いを付けて“外功”を指先の微かな魔力に衝突(ぶつけ)させた。


 グニャグニャ~


 顔面のすぐ近くだからハッキリと見える。魔力を集中させていた指先の景色が歪み始めた。陽炎の現象に似ているが、揺らめきの度合いが比べ物にならない、渦潮の目のようなグチャグチャに蠢く空間? に見えた。

 それを認識した瞬間、掴んでいたナイフが急激に赤熱、膨張、そして弾けて爛れて傷口から口腔内に流れ込んできた。


 !!!!??!???!?!??!?

 ビキィィ―――ン!!!!


 緩めていても脳力強化は健在で、知覚過敏化した歯に超高温の溶鉄が当たったことは理解した。でもこの結果は予め予想だけでもして心の準備くらいはしたかったと生まれて(・・・・)初めて後悔する。


 尋常ならざる痛みに反射的に身体を90度直角に反り跳ねた。開ける場所は全て開放され、魔力も無しに大木を粉砕し得るパワーをエルドワーフは無意識に発揮したのだ。

 その拍子に馬乗りになっていたアルトは上空へ飛ばされ、右手の小指を挟んでいた拳銃が外れ、それに伴い全身を包んでいた倦怠感が晴れて魔吸効果から解放されたことを悟った。


 両目をビショビショに濡らしながらも考えるより先に脳力強化を解除した。するとそれまでの痛みが噓のように無くなった。きっと脳が激痛に耐えられなくて痛覚を遮断してくれたのだろう。ゴメンよ俺の脳味噌。

 口の中の唾液と体温で急激に冷え固まりつつある溶鉄は、手遅れにならない内に吐き出した。


「うわぁあ!?」


 5~6m程の空から男の子が悲鳴を上げて落ちて来た。女の子だったら両腕で優しく受け止めてあげたいところだけど、その男の子はアルトという名の決闘相手だ。 


「グフッ! う、放せ…! う、うわあああああぁぁ………!!?」


 タイミングを見計って奴の胸倉をアッパー気味に乱暴な掴み方で捉えた。腕を上げたまま絞めようと握る手を捻り込んだら、その苦しみから逃れようとアルトが抵抗を始める。が、弱い。

 締め上げても軽く爪先立つ程度の身長なのに、銃もナイフも青鋼も無いと、ご自慢の蹴りすら利かない。まぁ魔力が無ければ偉そうなことは言えないけれども、万全の態勢で道具無しのガチンコならば、始めからエルドワーフに軍配が上がっている。なのに苦戦していたのはアルトの道具のお陰、だから徹底的に身に付けている物を毟り取ってやった。


 衣擦れの音やベルト等の金具の音から何かしらの道具を持っていないか判断して、最低限のパンツ一丁と掴んでおく為の襟首一周分だけで勘弁してやった。


「物の価値も解らない平民風情が、よくも僕の礼服を台無しにしてくれたな……!」


 よく鍛えられた筋肉を戦慄かせ、羞恥心で顔を真っ赤にさせているが、ナックルナイフの柄部分だけはまだ手に握ったままだ。


「もういい加減に諦めましょうよ? 俺に腕力だけじゃ勝てっこないんだから」

「情けを掛けるつもりか? あれだけやって、本気で殺そうともしたんだぞ?」

「でも俺まだ生きてるじゃん。本気で死にそうな瞬間も有ったけど、自業自得なのが多かったから別に…」

 ガシッ


 とここで一旦言葉を切り、アルトが未練がましく握っている刃を失ったナックルナイフを拳ごと掴み取った。


「ただし、この期に及んでコイツでまだ戦いたいのなら……」

「クッ………わかった、僕の……負けだ」


 そうしてアルトが握っていたナイフの残骸を手放したことで、闘いの決着がついたのだった。

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