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チャリンコ・チャリオット  作者: 怠慢兎
第1章 ーワンパク ワンダー ワールドー
34/54

32. 格下

「ハァハァハァ…グゥ、ハァ! ハァ! ハァアアあ"あ"あ"あ"あ"……!!!!!」 


 怒りは目の前の判断を曇らせる………その結果がこの様だ。


 必殺の右脚を命中させたのに、何故か脚の長さが左右で違っている。

 脚の中で骨が折れてズレてしまったのだろうか?


 直後は興奮していて痛みも無かったのが、段々(じわじわ)と痛みが広がってきて意識が遠のきそうだ………。


_______________



 アルト=ボルトルオーム(15)、王都に本店を構えるボルトーム銀行総裁ゼルト=ボルトルオーム子爵の次男に生まれ、ボルトーム銀行北部中央支店頭取である実兄と王国全土に名の聞こえた赤級冒険者を実姉に持つ。

 そんな生い立ちの僕は思い返せば物心着いた頃から誰かの後ろばかりを追っていた。


 街中や貴族の屋敷では聡明な兄の後ろを歩けば誰にも邪魔はされなかった。

 湿地や遠くの森へ散策に出た際は強い姉の後ろを歩けば獣にさえ邪魔はされなかった。

 家の中では母上や執事の後ろを歩けばどこへでも行けた。


 ある日僕は学校へ入学した。5~6歳から始まる最初の集団行動では早くに生まれた僕が一番身長が高く目印にするからと、そこで初めて集団の先頭を歩いた。


 爽快だった。殆どは立っているだけだったが、目の前に背中を向けて先を歩く者は少しの間ではあったが誰も居ない。目の前に立っているのはいずれも過去に名を馳せた著名人ばかり、その誰もが面と向かって立っている。幼い自分にはそれだけでも十分だった。


 やがて身長の差は無くなり、成長期に特有の女の子に身長を抜かされる事はあったが、それでも暫くの間だけ先頭に居続ける事は出来た。


 初等学園から中等学校へ、この国では12歳から働きに出る事も可能だが殆どは15歳までの学習保障制度を利用して惰性で進学する。

 故にここから優劣の差が顕著になって来る、勿論それだけが理由ではない。


 個人の才能(センス)により成績が大きく左右される事が多くなった。

 個人の才能と言っても一般的な技才や魔才の事では無く、真に固有(・・)の才能によってである。

 進級の年頃になるとこの固有才能が発現する者とそうでない者に別れ、先頭に立っているのは何時だって有る者だけだった。

 今は無くとも何時かは現れるそうだが、この時期にそれは余りにも残酷な運命と言える。


 だから先頭に僕が立つ事は無くなった。


_______________



 ある者は銃撃を重撃に変え、ある者は魔方陣も無しに物を自在に操るという。

 僕の後ろを歩きたがる変わり者達でさえ、ある日突然に物体に吸い寄せられる手だとか、口を開かなければ熟練者の如き気配だとか、無能よりか有用な力を手に入れていった。

 そして僕の周りには有者しか居なくなった頃、僕は自分の技と魔の才能だけで学年でトップクラスにまで上り詰めていた。


 それでも…………現実はもっと非情で残酷だった。



====================



 階段を下る内に()の様々な思念を感じ取れた。ほとんどは喉の渇きに支配されていたが、各階の通路を覗き込んでは警戒する様子も感じた。

 喉が渇いていたのはきっと長時間緊張状態でいた所為でしょう、敵地(・・)での周囲への警戒と主犯格への憎悪が彼をそうさせるのだ。


 その根拠こそ正に私の才能(センス)が見出した、彼のフランに対する明確な憎しみだ。…憎しみだとちょっと大袈裟かな? どちらかというと忌々し気?

 恐らく私も知り得ないフランの才能について何か知っていて、それが自由に動けないもどかしさなどに繋がっていたのかもしれない。


 私の考えでは彼は王国の組織の正義の潜入者(スパイ)で、どこかで聞き付けた反乱分子をやっつける為に、気取られないよう子供に扮して活動しているハーフフットだと思っている。


 怪物や野盗の襲撃で住む場所を失ったりした子供が、食い扶持を繋ぐ為に商隊で下働きに入るのはよくある話だ。

 きちんとした商隊ならばある程度の身分保証や技能試験を要求する所が多いけど、危険を承知でどんな所へも赴く商隊だと人件費をケチって拾った子供を雑用に使ったりするらしいもんね。


 それで推測の続きだけど、きっと反乱に気付いたイェナ様が今日このタイミングで族を招き入れて一網打尽にする計画(イベント)なのだと睨んだわ。

 晴の舞台の大捕物劇! もしかしたらもう始まっているのかも? 中庭では早い内から腕試し大会が催されているけど、そっちはきっと前座みたいなものね。


 それでまあ…彼はそっち(・・・)へ行ってしまったのだけれど、こんな面白そうなことを黙って進めるイェナ様に一言くらい文句も言いたい。

 そりゃあ私も未だ学校に通う女の子なんだけど、成績とかは悪く無いし、冒険者としても正規の手順で黒級認定を受けている。

 お役に立てるかわからないけど足を引っ張る事もつもりもない。


 もしかしたら生きたまま口を封じて中央で吊るして晒し者にして………(推定)主犯格のフランだけは身内だけに秘密裏に処理をしてしまうのかも知れない。


 短い付き合いだけど知らない間柄でもない、真実も知らずに友人だと思っていた人が居なくなるのは悲しい。

 それが嫌なのだったら、乗り遅れる前にイェナ様に全貌を語って頂くしかないでしょう。


 そうと決まればイェナ様の行方を探しにまずは屋上へ向かう事にした。


 ………フランの紙芝居、大好きだったのになぁ……。



====================



 今回の決闘で良い事と悪い事が分かった。


 良い事の前にまず筋肉や神経に魔力を流すことで身体能力を大きく向上させることが出来る、これを応用して魔力を肌の表面にバリアの様にして張り巡らせる事で傷そのものを防ぐことが可能だ。

 これは魔力の技術的な利用方法で練習を積めば誰にでもできる事だそう。そしてこの技術を発展させていくと、肌から衣服、衣服から鎧へ、手に持った武器や盾、そして(つい)には自身が立っている地面すら強化してしまう。が、それはまだ先の話。


 戦っていて思っていたのがこの、応用技術が果してちゃんと出来ているのか判らない事だった。

 今までの戦いはどれも格上ばかりで、エリーとの訓練中は魔力や気功について覚えたてだったし、ドルモア卿とレガリア卿には圧倒的な戦闘力を前にボロボロに叩きのめされ、超蛇級(レイクサーペント)亜竜(ペンタゴン)には相打ち覚悟で特攻して重傷を負うばかりで、防御もクソも無いからだ。

 格上で無いにしろ、バンバーの水草刈りの蛇共の締付攻撃は強化筋肉で無力化したし、誘拐されそうになった時は防ぐとか以前に不意打ちで催眠術食らってヘロヘロにされてしまい応用技の練度がどの程度のものなのか確認出来ず仕舞いだった。


 今回はそれを確認するのに丁度良さげな少年を挑発してその攻撃を全部受け止めたのである。

 特に最後の一撃は下手をすると骨まで折られかねない、イヤホント、ぶったまげたよ。

 だがお陰で、鎧が無くても怪物より強い肌になっていることがわかった。


 技術と言えばアルト君も妙な体重移動をしていたっけ? 踏み込んだり助走も無しにいきなり攻撃を放つんだ。


 来るとわかっていても思ったより反応が遅れてしまい感覚的に鋭いと感じる、だから実は騎士伯様同士の決闘を観戦する時と同じ要領でしっかりと見極めてから踏ん張っていたのだ。


 ああ……それで悪い事してしまったなぁと思うのがあって。


 切っ掛けはアルト君側にあるのはしょうがないとして、自分事の為に利用して大怪我をさせてしまったのが何とも心苦しい。


 そこで漠然と気付いた事が、これまで戦いを挑んだ人達って皆圧倒的に格上の人々で、それは自分も含めて誰もが判り切っていたことだ。

 なのに分不相応に戦いをし、結果はいつも負けてはいたけどタダで転ぶことは無かった。


 格下相手に勝ちはしたが苦戦を強いられた、もしくは思いがけない攻撃を受けた。

 前向きに捉えれば、自分の未熟や油断の反省に繋がる。悔しいがお互いに得る物があったという事で次に活かせる。ただし無事に済めばの話であるが。


 今回に限って言えば、お互いに相手が格下だと思って闘い、結果は負けた方が重傷を負ってしまった。

 それで思ったことが勝って嬉しいではなく、無用な傷を負わせてしまった罪悪感だった。


 自分の事は自分が一番良くわかっているつもりだったけれど、自分の能力でああも自滅してしまうとは……人の事は言えないが実際に目の当たりにすると、伯爵様方もこんな気持ちになったのだろうか? と考えてしまう。

 お互いの実力を見極められなかった自業自得と言えばそれまでだが。


 それに格下に勝ってこれなら、格下に負けたアルト君の方はもうトラウマ級のショックに思っているだろう。


 何て声を掛けようか? 下手な事を言ったらプライドを傷つけて逆上するだろうし、かと言ってここで煽っても武騎士の話を持ち出したのに終われば戦友のアレは何だったんだ? って話だし……。


 そうして事後の対応に苦慮して、チラッとアルト君の方に目を遣ると



 パンッ―……!



 真っ直ぐコチラに向けられた銃口(・・)から火が噴き出した。

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