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チャリンコ・チャリオット  作者: 怠慢兎
第1章 ーワンパク ワンダー ワールドー
28/54

26. 大体エリーの所為

イェナさんに説教した後服を取り返す所から始まります。

 場所は移って隣の部屋、両開きの扉の奥、そこは執務室の数倍の広さはありそうな大広間だった。しかし部屋の装飾や窓の配置など、ドルモア邸の“落とし穴”によく似ているのは偶然ではなさそうだ。


「この屋敷の設計者はドル兄様の邸宅も手掛けたのよ。そう言えばドル兄様もここより広い広間を有しておられますけど、噂では大掛かりな仕掛けを施しているそうよ?」


 よく知っていますとも。そう言えばあっちは真下の地面が刳り貫かれてて、こっちは真下か分からないけど中庭が一番低い構造になってたっけな?

 そして広間の中央に天井まで目一杯の高さのショーケースが飾られていた。服とズボンと靴、それから下着も含めてケースの中でフワフワと浮いている。

 耐衝撃性ガラスのショーケースには指2本程度の穴が幾つも開けられ、軽いノックの音すら吸収する衝撃吸収(クッション)の魔法が掛けられていた。


「叩いても杖で突いても割れない…、ホントにガラスなの?」

「この街にある『水棲ダンジョン』で採れる“浄水砂”から作られたガラスは、不純物を全く含まない上質なガラスよ。純度が高い分、魔導効率が良いので魔方陣の効果も高まるの」

「それで鍵は? どうやって取り出すの?」

「直接見れればいいから取り出す必要も無いと思って……、その服じゃダメ?」

「駄目。愛と相性はプライスレス」


 そりゃ丈夫で上等なのは解るけど、エリーの作った服はエルドワーフに合わせて作られた物で、飾る為に作られた物じゃない。特にこんな普段使いの憚られる高級品よりも、何時でも着られる普段着の方が有り難い、大事なのは“何時でも着れる”事。


「じゃ、壊すしかないけど、構いませんね?」

「生憎だけど、私だってエリー姉さまに対する愛は本物よ? そんじょそこらの防御力を施してはいなくってよ!」


 盗人猛々しいったらありゃしない。


「これで駄目だったら、お母さんに言わないと……」

「フラン! あの子が恐ろしいわ!」

「奥様、落ち着いて下さい」


 一々五月蠅いったらありゃしない。



 さて、魔法で何かを保護する方法はいくつかある。その場で適切な魔法を行使する方法。道具を使って魔力の壁を作る方法。対象に魔方陣を刻む方法。

 1つ目はエリーやドルモアが森とか武舞台で使った地面を頑丈にするアレ(地均し)や紙芝居に出てきた“保護荷箱(プロテクト・ボックス)”。

 2つ目はドルモア邸の武舞台に設置された防壁(シールド)装置。

 そして3つ目はバウロの荷車や定期船ペントマイム号の横っ腹だ。

 目の前のコイツは3つ目に該当する。荷車や船の鉄板だけでなく同様の技術は武器や防具でも用いられ、対象自体に魔方陣を“刻む”ので勘違いしそうになるが、イメージとしては『鍍金(コーティング)』である。

 いくら防御力を高めようと押されれば動くし、持ち上げれば身に着けられる。あくまでも耐衝処理であって、ガラス自体はただのガラス。これが強化ガラスであったりアクリルみたいな未知の素材だったら、いや砂から作ったって言ったてたから樹脂は有り得ないか。


 ま、どうあれ()れりゃ良いんだよ。


 指先をガラスの面に添えて魔力を練り上げる。イメージは指先から排熱する感じ。いつもなら全身からばら撒く熱気を一点に集中させるのだ。


「あら? 何だかじっとり汗が…」

「奥様、私めの後ろへ御下がり下さい」

「あ、ありがとう」ギュッ

「奥様、同じ空間にお子様が居られますのでご承知下さい」


 イメージが甘かったのか熱が漏れ出し、汗ばんだイェナさんが艶っぽい声を出す。何か後ろでイチャイチャしてる気配がするが、無視だ無視!


 一点に向かって排出するのが目的ならジェットエンジンのイメージが最適だ。

 肩口から指先に向かって真っ直ぐ、小さく圧縮した冷たい空気(外功)軽油(内功)混ぜ(点火)膨張(魔力化)させて送り出す!

 全身から集めて、手の内で握り締めて、人差し指からドドンと!!!


   パキッ!


「痛ッ!?」


 熱過ぎて爪が割れちまった。聖鉄(ミスリル)は無理でも鉄くらいならドロドロにしても何ともなかったのに、でもガラスは割ってやったぜコンチクショウ!


「・・・!?」

「・・! ・・・・・・!」


「何やってるの? ………あれ?」


 自分の声は聞こえているのに向こうの声は聞こえず、イェナさんが口をパクパク絶叫? しているのを、フランが抱き締めて慰めている。今にもハンカチを噛み締めそうだ。

 ははーん、そういう関係で御座いますか? でも俺の知ったこっちゃないね! 無視無視!


 割れたと言っても大きめの罅が、それも覗き穴から別の覗き穴へ架かる一本の筋が付いただけだ。腕一本通すだけの穴を開けるなら、最低でも3つの穴を跨いで三角形の穴を開けないとならない。

 このまま続けると更に指2本分の爪を溶かしてしまうかもしれないので工夫が必要だ。


 ジェットエンジンの放出する熱が高温なのは当然として、放出した熱がぶつかった物体もまた同じ位高温になる。でも100円ライターの火を点けてもライターが熱くなったりはしない、指が爛れたりもしない。ジェットエンジンの噴射口も同じだ。

 では俺の指が溶けたのは何故か? それは噴射口を塞いだままジェットエンジンを稼働すると熱が籠ってしまい、例え耐熱素材でも限界を超えてしまう。ガスバーナーで熱する時もくっ付けて温めたりはしない。

 つまりちょっと離れれば良いんだ。


 噴き出すコツは解ってるから後は工夫の実践だけだ。それで結果は滅茶苦茶上手くいった。もうバラバラになっちゃって掃除が大変そうだった。


_______________



 本当は一応予備もあって一張羅って訳でもなかったんだけど、前世も含めてずっと庶民だからかやっぱり普段着が一番だね!

 それで服は取り戻したけどイェナさんの落ち込み様が尋常じゃなかったから、自分(エルドワーフ)の髪の毛の束と交換したら泣いて喜んでくれた。

 こんなに簡単な事なのにどえらい遠回りをした気分だ。

 因みに襟足をあげました。


「で、話は戻るけど、僕は一体どうすればいいのかなぁ?」

「んふふふふ………あ、そう! 忘れてないわ! えーと、アレねアレ」

「…よくわからない内にぶっ倒れてしまって、原因だけでも知りたいのですが」


 お灸を据えたつもりだったけど足りなかったのかな? それは兎も角、俺は船から降りる前に気を失ってここに担ぎ込まれたから、まだバンバーレイクに来たんだっていう実感が無い。スカイツリーを見に行ったら何時の間にか展望台に立っていた。何を言っているのか解らないと思うが、的な感じで俺の頭がどうにかしちゃってこんな事になってるのだから受け入れるか解決策を模索するしかない。


「ではそうね、何処から話せば良いか…」


 イェナさんが語ったのは、エリーの一族の、特にエリーの実父でエルドワーフの祖父に関する“神話”であった。 

 その昔、天使に唆された地上の神々の諸行に義憤した男が、その豪腕を以て神々を殺し歩いた事、仲間と協力して諸々の元凶である天使達の異世界へ殴り込みに赴いた事、その結果地上の神々と天使とその配下の宗教団体から呪われてしまう事、そうして付いた渾名が“憤怒の魔王”だとさ。


「この世界で貴方のお祖父様の本名を語る事は不可能な程、強力な呪いが掛けられているの。この私でさえエリー姉様のフルネームは知らないのよ?」


 何…だと? じゃあエリーに教えてもらった“アームストロング”の性をうっかり口にしてたらかなり危険なんじゃ?


「恐らく何らかの形で貴方の正体がバレて、この土地に住まう神から攻撃されたのね。勝手な事だけど頭からつま先まですべて検査して、当時の状況から推察しても病気や怪我のショックとは到底考えられない。貴方の血筋の因縁から来るものだと判断した方が妥当と言えるのよ」

「じゃあ僕のお爺様に逢えれば…」

「無理よ」

「何故です?」

「現在は宇宙学者で実地調査(フィールドワーク)に専念しているからよ」

「は?」

「地上に居ないのよ、貴方のお祖父様は。本名は誰も知らないけれど、『“天文博士”のデウス』として、そして世界でもたった3人しか居ない“聖鉄(ミスリル)級”冒険者として世間では認知されているわ」


 整理すると、ウチの爺さんは

1、神殺し

2、魔王

3、天文学者

4、聖鉄(ミスリル)級冒険者

 う~ん、この


 まあ爺さんが頼りにならない事と大体エリーの(血筋の)所為である事は判った!

 どないせえ言うねん……orz


「諦めないで! エリー姉さまもエルちゃんもまだこうして生きているじゃないの! 大丈夫、希望はまだあるわ! フラン」


 名前を呼ばれた召使い兼愛人が書類棚に歩み寄り、一枚の羊皮紙を取り出した。その羊皮紙を執務机の奥に据えられた箱にセットすると、焦げ臭さと共に中から別の()を引っ張り出した。

 おいおいマジかよ、プリンターが有るの!? しかも焦げ臭いからただ焼き付けたのかと思いきや、カラープリントまでされている!


「これはこの街の地図の写しよ。白色は道、水色は水路、青色がこの屋敷を含む貴族の敷地、赤色は商店、黄色は組合(ギルド)施設、緑色が住居、燈色が公共施設で黒色がダンジョンよ」


 ほほぅ、地図上には網目状の白い道と水色の水路がほぼ同じ割合で敷かれているのか、少し太い水路で以て区画を分けて居る様にも見える。

 街の中心には大きな丸い燈色で染められ、そこから十字に赤い帯が延びて所々黄色い四角形が混ざっている。

 青色や緑色が全体に点在しているが密集地域の割合は貴族の青色が圧倒的に多い、平民はどこで暮らしているんだ? と首を傾げる前に、新しい焦げ臭さが鼻を衝いた。


「この屋敷の中庭が地下7階にあることから何となく分かったでしょうけど、この街は水中に広がる湖中都市よ。地上を含めた全部で3層構造になっていて上層・中層・下層に別れ、階層移動は階段かこの部屋に来るまでにも乗った昇降機(エレベーター)を使うのよ」


 不敵に微笑いながら説明をするイェナさんはとても楽し気で美しかった。エリー狂いさえ無ければ、立派な貴婦人なのに…。


「上層はハッキリ言って観光向けね、真ん中に聳え立つ学校と空制装置(スカイマスター)で圧倒して、美しい石畳と水で心を癒すの。水も空気も魚も美味しいから、お腹が空いたら先ずは上を目指しなさい。中層は街の住民達が集中する階層で殆どが緑色でしょ? 学校の周囲は殆どが学生寮が占めているわね。そして下層が、ダンジョン目当ての冒険者向けの階層、その所為で治安も保証出来ないわ」


 大きな溜息で締め括ると、ティーカップからお茶を一啜り。

 地図を見ると上層・中層共に真ん中に燈色の丸が目立っていたのが、下層になると小さな黒い六角形に置き換わった。


「上層と中層は同じ広さを有するけど、下層だけはダンジョンへ向かってすり鉢状に狭くなって行くの。下を目指せば迷わず到着するし、狭くなって管理もし易い構造なのよ。これ全てドル兄様が指示を出して設計させたそうよ? 凄いわね」


 ほえ~、あの爺さん戦闘狂いだけじゃなかったんだね~。で? それとこれと何か関係が?


「それで話を戻すと、エルちゃんは下層にあるダンジョンに潜って、何処かに居る神様に命乞いをしなさい。それしか方法はないわ」

「えええ?」

「ええって、当たり前でしょう? 普通に考えたら神様に歯向かうなんて狂気の沙汰よ。いくら王国の方針が信仰より実力主義な事やエルちゃんが偉大な血筋でも、貴方はまだ子供でしょう?」

「殺し損ねた半端者に頭なんか下げたくな」

「シーッ!!? フランの制域内(エリア)でも滅多なこと言わないで!!」


 やっぱり何かの才能(センス)だったか。俺の地獄耳だけでなく、神様の耳すら遠ざけるって凄いな。逆に考えれば神って大したこと無いのかも。


「駄々を捏ねるんじゃありません! 命に係わる事なのよ! ダンジョンへ行くのだからキチンと武装もしなくちゃね、生憎、私はその手の事はからっきしなので何にも言えないのが残念ね」

「でも脚を怪我しているし、一応行商の旅の途中なので時間は掛けたくないのですが…」

「んひゃー! 命よりも商いを優先するの!? 呆れた」


 と大袈裟に驚いてから一啜り。


「脚の方は日が傾いた頃には完治する筈よ。なんたって下級霊薬(ローエリクサー)を使ったからね。あ、御代とかは気にしないで、下級でも霊薬だから他言無用(シー)よ? それと荷物は確か半蘇(リザレクション)魔法を注文したと聞いたのだけど、急ぐほどのことでもないんじゃない?」


 んー、リザレクション・ストレージだっけ? 本当にしてくれたんだ。じゃあ次は装備か、革鎧なら自分で曳いた荷車に載っている筈だからそれを使うとして、武器が無いなぁ。

 因みに革鎧は高級品とは別の理由で着慣れないから、荷車に積んでいる。着心地は悪くないけど、違和感が拭えないんだよね。新品だから硬くて馴染んでないのもあるかも。お陰で飾られなくて済んだ。


「でもそうねぇ、エリー姉さまのご子息の頼み事なら断る訳にはいかないわね。髪束まで貰っちゃったし。………危険を承知でも結構なら、案内人を手配しましょう」

「へぇ? 冒険者でも雇うんですか?」

「冒険者よりかは信頼出来るけど、近づきたくない存在(・・)ね」

「存在?」

「そう、ダンジョンの管理人よ」


_______________



 日が傾き始めた頃、本当に脚が治った。麻酔の痺れが残っているものの、リハビリを兼ね、フランの案内で倉庫に自力で歩くうちに段々楽に歩けるようになった。

 杖よ短い間だったけどありがとう、倉庫に置かれた自分の荷車から革鎧と交換して大切に保管した。


迷宮管理人(ダンジョンマスター)はダンジョン内部及びこの街の下層に限って自由に移動することが可能です。この屋敷の中庭が地表よりもずっと低い位置にあるのも、街の下層と重なるように設計されているからです」


 位置的には下層の天井付近になるとか。中庭へは面倒臭い道順で行くか、さもなければ屋根伝いに飛び込むのが一番の近道になるが、一番警備の多いのがその屋根になっているのでオススメはしない。しかも説明によると上から中庭へ行けるが、街中からは下層は勿論、中層からも中庭へは通じていないのだ。

 となると空間を自由に行き来出来るのだから、イェナさんの存在(・・)呼ばわりも何となく納得できる。

 と言う訳で早速、顔合わせに中庭へ向かった。


「会う前に一つ、肝に銘じて頂きたいことが御座います」


 中庭へ向かう途中、フランが真剣な表情で口を開く。


「これから出会うのはダンジョンマスターでありますが、人間ではありません」


 それくらい理解している。ファンタジーものの定番要素であるダンジョンの管理人(マスター)が人間なんて、そういう設定の物語が無い訳じゃないけど、ダンジョンマスターっていう肩書きだけでもう只者じゃまいことにと思っている。


「神様ほど手の及ばない存在ではありませんが、だからと言って天使や怪物でもありません」



「彼は 悪魔(デーモン) です」


_______________



 中庭はサッカーグラウンド程度の広さに木が一本とベンチが一つ据えられているだけで、あとは芝生が全面に敷かれている。

 こちらが気付いた時、ベンチに座っていたソレは、ポンッと跳ねるようにして立ち上がると一足跳びで目の前まで迫って来た。


 目のチカチカする黄色をベースにした上下一繋ぎの服装、未来に戻れそうな博士の禿げ頭で肌は不気味な蒼白さ、鼻の頭には取って付けた様な赤い球体、紅い髪の毛、赤い手袋、赤いブーツに赤いボタン。

 大雑把に3色に別れた全体像の中でも、4色目になる黒い逆さ十字の刺青が小さな四白眼を覆い隠すように両目に張り付けられている。



「初めまして!

 僕は『水棲(アクア)迷宮(ダンジョン)管理人(マスター)の“マクドワイズ”だよ!」

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