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チャリンコ・チャリオット  作者: 怠慢兎
第1章 ーワンパク ワンダー ワールドー
27/54

25. BBA

 何だか頭がふわふわする。モフモフと言ってもイイ。そして同じだけ全身をモフワリと前後から圧迫するこの温かい弾力は……お布団だ! 最高の肌触りにほんのり良い香りのする布団(ベッド)の中で、少なくともここが牢屋の中でない事にホッとした。



 まーた気を失ってしまったらしい。ここ数日間に自分の意思で寝起きした事が…指も要らないか、拳で数えるほどしかなくて、お家の外の世界が怖くてゾッとしそう。


 目を開けると模様の刻まれた浮彫の壁が上から下まで延々と…いや、横に窓があって床が無いのだから、アレは天井だ。室内は暖かく、パチパチと火の爆ぜる音から暖炉があるようだ。

 窓からはまだ太陽が高い所に見えるので、そう長い時間気を失った訳では無さそう。

 やけに肌触りが良いと思ったら、服も寝間着を着せられていた。まさぐると脚の包帯も無かった。触った感覚も無いので麻酔を打たれたのだろうか?

 それにしてもいつもは身体を横に胎児スタイルで眠らないと全身の関節とか怠くなるのに、身も心も無意味に軽い! やっぱり寝具には金を掛けないとね!と言う訳でもうひと眠りしようと寝返りを打つと……


 ぐぅ~~~ググッ


 む? そう言えばお昼ご飯を完食した記憶がない所為か、やたらと腹が鳴るな。う~ん、この程度の腹具合なら寝ればやり過ごせるけど、今は成長期だしな~。


「……………イヤイヤそもそもココ何処よ?」



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 時は遡り………船上・中天過ぎ



「ペン殺しの小僧が落ちたぞー!!」


 一人の怒号を合図に船上の活気に緊張が走る。


「「「ナンダッテー!?」」」

青切符所持者(ブルーキーパー)が!? テメェら死んでも助け出せェ!!!」

「「「船長(オカシラ)万歳(バンジャイ)ィィイ!!!!!」」」

 

 副船長の号令の下、雄叫びと共に迅速に救助の準備を始める船員達。ロープの端を引っ掴んで船の縁から飛び込もうとした矢先に、別の船員が警戒を発した。


「ペンタゴンだぁー!」


 船から目線を飛ばすと、水面下をもの凄い速さの黒い影が一直線に向かってくるところだった。


「「「ナ、ナンダッt!?」」」

「狼狽えるな! もう手出ししなくていいぞ! ありゃ助けに来たんだ」


 北方に於いて数少ない教育機関のあるバンバーレイクでは、近隣地域から子供達が集まる所為か不慮の事故が珍しくない。特に立地上、足を滑らせて溺れる子供も多く、街の中では減っているものの港などでは時たまこう言った事態が起こってしまう。


 そんな時に現れる救世主がペンタゴン。

 いつの頃からか、姿を見せる様になってから溺れる子供や大蛇に襲われる人の前に現れては救助していくようになったのだ。


 船に対する求愛行動には閉口するものの、住人達にとっては掛け替えのない守護神と化しつつある。


「ですがさっきの今で、アレからそれほど経ってませんぜ? ヤバいんじゃぁ?」

「我らが守護神がそんな狭量な訳ないだろ。それに竜とは言え怪物に人間の子供の区別が付くか?」

「それって逆に考えたら他の子供に間違って仕返ししてもお構いなしなんじゃ…」

「………!」


 絶句する間に水柱が揚がり、水飛沫の中から一人の子供が港へ向け吹っ飛んでいった。港の地面は石と混凝土(コンクリート)で出来ている。


保護(プロテクト)荷箱(・ボックス)!」


 副船長がまだ港の保安要員として積み荷の落下防止に努めていた頃に極めた魔法によって、子供(エルドワーフ)が石床に叩きつけられる事態は防がれた。


 冷や汗を拭って水面に目を向けると、頭に痛々しいたん瘤を乗せた怪獣が、顔を半分だけ出して荒い鼻息を一つ吐き捨てると、そのまま沈んだきり浮いてこなかった。


 その後、事態を把握した父親が湖の水全部抜くとか喚いたり暴れたものの、落ち着きを取り戻してすぐに知り合いの家へ息子を運び込み現在に至る。



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「…と言う訳で今、エルドワーフ様が居られるのはバンバー北方辺境領伯爵ドルモア・ナイトアームズ様の従妹君にして、バンバー領主代行官であられるイェナ・ナイトアームズ様の屋敷に御座います」

「はぁ…」

「申し遅れました、私、イェナ様よりエルドワーフ様のお世話を仰せ付かりました“フラン”と申します。如何でしたか? 私の紙芝居」

「良い才能(センス)だぁ」パチパチ


 背景も含めたリアルな描写と変幻自在のナレーションに拍手で応えた。で、この“フラン”と名乗る男性はブロンドの髪を九・一で顔の右側に寄せ固めた北欧系イケメンである。どうしてそんな頭なのか突っ込んでみたいが、今はそれ以上に気に掛かる事があった。


(この部屋の音は聞こえる、会話も出来るし呼吸音も聞き取れる。でも外の音が一切聞こえないのは防音仕様だからだけじゃないよねぇ?)


 この室内の音は普通(・・)に聴こえる、しかし足音や鳥の(さえず)りだとかの外部の音はまだしも、耳を澄ませれば聞き取れる相対する者の心音などの普段から耳にしている小さな音が耳に届かないのだ。


「眠気覚ましに何かお飲みになられますか? 何ぞミルクに合うお茶を幾つか用意して居ります。それと杖をお預かりしておりますし、お召し物もこちらで用意しました。丈調整(リサイズ)は済んで居りますのでお試しを」


 目を覚ましてから寝起きが良かったのか、それとも温かい芳醇な香りのお陰で既に眠気なんてものはキレイさっぱり無かった。部屋も暖かいしいい加減、布団から顔しか出さないのも如何かと思うので、布団の感触を名残惜しみつつ服を着替えた。


「・・・僕の服じゃないじゃん?」

「サイズが合わなかったでしょうか?」


 差し出された服は一目見ても軽く撫でても判るくらい上等な新品だった。


「合ってるけど……靴まで新品だから歩き難い。サンダルとかない?」

「こちらをどうぞ」


 取り出されたのは足の甲から脛まででガッチリカバーするブーツっぽい編みサンダルだ。

 ホントは雪駄や草履みたいなもので充分だったし、履くの面倒臭そう、と思ったら、足首に位置する留め具を外すとスルリと解け、靴底に足を乗せ留め具を付け直すと独りでに脚にぴったりフィットな形状に編み直されてしまった。怪我をした方の脚は添え木ごと編み上げられた。


「うっわ、サンダルのくせに防寒対策の魔方陣っぽいのが仕込まれてる」ポカポカ

「北国仕様ですから。杖をどうぞ」


 杖は船で貰った角杖だ。脚と杖での歩き心地を確かめ問題無い事を確認してから口を開いた。


「ところで僕がここに来た時の服はどこにあるんですか?」

「それは…もう厳重に………保存しております、ハイ」

「?」


 何で突然歯切れが悪くなってるんだ? 水に落ちたのだからまだ乾いてないなら、それはしょうがないだけの話なのでは? ………保存?


「では主の所へ案内致しますので付いて来て下さい」


 扉を開けて廊下に出たがやっぱりいつもよりも耳が聞こえない。

 なかなか広めの中庭を持つ屋敷なのだが、空間で繋がっている筈の目視可能な範囲の音すら聞き取れない。普通の聴覚であってもこれは異常としか思えない現象だ。

 となると目の前を歩くこの(フラン)が原因の才能だろう。

 常日頃出来る事を制限される、地味に辛いストレスだ。


 いくつもの昇り階段を上がり、最後に魔法を動力にした昇降機(エレベーター)に乗って更に上階へ。想像するに、中庭を中心としたすり鉢状の構造なのでは? と脳内マップを巡らせていると目的地に着いたようだ。


 最上階の空間は昇降機と床を隔てる最低限の柵の他には3つの扉が3方向に続いているだけ、その内の1つは両開きの重厚な扉で、残り2つは一見普通のドア。


 両開きでない扉には目立たない程度に細かい彫り物が全面に施され、中央の見え易い位置に表札が掲げてある。そしてフランは表札に執務室と書かれている方のドアに対して優しくノックした。


「奥様、エルドワーフ様をお連れしました」


 「どうぞ」とドアの向こうから小さく聞こえてから扉を潜ると、中は奥に進むほど広がっていく扇造りの部屋になっていた。

 正面中央突き当たりの壁は巨大な格子窓が嵌め込まれ、太陽の光を巧妙に反射させて実務スペースだけを照らし、両側にある書類棚には直射日光が当たらないように柱と遮光カーテンで間仕切られている。光の当たらない両側の壁は、右手に書類、左手に本棚がギッチリと詰め込まれている。


「フフッ、初めましてエルドワーフ君」


 ………えーと、たぶん紅いドレスみたいなのを着た熟年のご婦人かな?

 後ろの窓から入る太陽の逆光で、シルエットと輪郭の色しか識別出来ません。


「あら? ごめんなさい、エルフ(・・・)ドワーフ(・・・・)の目には眩し過ぎるのね?」


 シャッとレースカーテンが引かれてその全貌が露わに…って、うわぁ、デカぁ?! マグカップが隠せそうなくらいデカぁい! デカ過ぎて服の上からでもバスケットボール並みのさくらんぼが机の上にゴロンと鎮座している。その上、根元は若干白いがブロンドに染めて結い上げた髪とプルンプルンの肌のお陰で、美魔女(マダム)と呼ぶに相応しい貴婦人が執務机の向こう側から微笑みかけてきた。


「改めまして、バンバーレイクにようこそ、エルドワーフ君。私は領主代行官の“イェナ・ナイトアームズ”よ。よろしくね」

「どぅも初めましてマダム」

「そう畏まらなくてもいいのよ? ドル兄様の親友の子なら、私とも友達から始めましょう。そうね、“イェナお姉ちゃん”って呼んで」

「ええぇ…」


 叶〇妹ばりの若作りに成功してらっしゃいますけど、いくら何でもそれは無理があるんじゃない? と口に出したいのをグッと堪えて返事に四苦八苦していたら、物凄く残念そうな表情をされた。


「……冗談よ、“イェナさん”でいいわ。それじゃあフラン、お茶を淹れて頂戴」

「畏まりました」ペコリ


 (うやうや)しく一礼をしてから退室したフラン、その間イェナさんはじっとエルドワーフを見つめたまま、まるで何かを見透かす様にニッコリと微笑んでいる。


「立ったままでは疲れるでしょう? そこにお掛けなさい、私もそちらへ移るわ」


 執務机の手前には足の短い机とそれに合わせた長いソファが向かい合せに置かれている。

 必要以上の弾力(クッション)性は無く、あくまでも事務作業か何事かの相談に利用されているソファに座ると、イェナさんはわざわざその隣に並んで腰掛けてきた。

 強烈とまではいかなくても強い香水の香りが鼻を衝く。距離を取ろうとじりじりと端へズレていくと、逃がさないとばかりに肩に手をまわしてガッチリ掴まれた。


「フ、フフフ。やっぱり……あの人の子供なのね…」


 え、ちょ…


 熱っぽい眼差しであちこちを凝視される。目、鼻、口、輪郭、耳、うなじ、首、鎖骨、肩、腕、手首、手の平……後半の方は頬をエルドの頭に乗せ掛りながらだ。身体なんて半分は挟まれた状態だった。



「ンフゥーフゥー……ンン。あらごめんなさい、そしてありがとう」


 暫くして満足したのか顔を上気させた赤ら顔でうっとりするイェナさんから開放された。

 机には知らぬ間にティーセットが用意されていた。

 感覚的には水面ギリギリで浮き沈みを繰り返す心地でかなり疲れた、一方でイェナさんは妙にツヤツヤしている。


「ビックリさせてしまったようで本当に申し訳なく思っているわ。アナタだから言うけれど、私の才能(センス)は人やこういう物を見た時に、それを作った者を被造物の視点から見ることが出来るの」

「ほぇ……」


 つまり道具を見たら職人の姿が、人を見たらその生みの親が見えると? 真贋鑑定とかに便利そうだね! だから何!?


「だから私が長年お慕いするエリー姉さまにお会いしたくてちょっと強引な事しちゃった(´艸`*)ウフフ」


 女の子とお年寄りには優しくって言うけどキレそう。何が辛いって琴線がピクリとも反応しない相手に、間接視姦&圧迫祭りで息の詰まる思いをさせられた事だ。トラウマになりそう。

 気が付くと無意識の内に震えていた。まだ一言も会話していない相手にここまで恐怖したのは初めてだ。


「あら震えてるわね。もう少しあったかくする?」


 勘弁してくれ


_______________



 熱い眼差しを躱しつつ用意されたお茶を堪能しながらいくつか情報を得られた。


 まずここに担ぎ込まれた経緯は前述の紙芝居の内容で間違いはなく、一番心配したであろうバウロは手当てを見届けて安全を確認した後に「倅を信じる」と言い残してドドラと一緒に屋敷を出たそうだ。

 その前にドドラの言伝でエルドワーフ()が落水する直前に変わった動きは見られなかった事、甲板で船員と会話していた事、既に脚を怪我しているもののそのショックで意識を失うには無理がある事、そしてエルドワーフに確認すべき事等々と色々述べてからバウロに付いて行ったそうだ。


「あのハーフエルフ君はかなり優秀な人材ね、手製の薬品や道具を見るに、あの知識量ならこの街で開業医をしても生活に困る事は無いでしょう。なんなら医療分野の官僚に推薦しても良いわね。でもエルちゃんに関しては事前情報が不足し過ぎてお手上げ状態に見えたわ、無理からぬことだけどね。その点私の方がエリー姉さまについては勿論、貴方の生まれた時の体重から全身のほくろの位置まで出来得る限りの全部を調べてありますのよ」


 後半の戯れ言は無視するとして、見識の確かなこの人がそう言うのなら相当なのでしょう。外科医であり調剤も出来て、オマケに冒険者という荒事もこなせる人材は珍しいかもしれない。所謂神官に位置(ポジション)するけど、俺もただの神頼みよりかは余程信頼出来ると思っている。


「一緒に居た兄妹も恐らく西方に土地を治めた貴族だったかしらね? 少し話してみて何も知ら無さそうだったけれど、『クレスト家』と言えば当主がドル兄様の副官(舎弟)だったそうよ。顔と過去を視て2人の父親に見覚えがあったし見たことのある鎧を身に着けていたからピンと来たの。冒険者稼業なんてやっているけれど、何時の間に没落したのかしら?」


 なんとジオエド兄妹は元貴族だった。なんでも紋章官の家系で古今東西の紋章を網羅し、彼等の祖父は戦時中ドルモア卿に追従してその戦功を数え挙げた官僚だったそうだ。それがどうして兄妹揃って冒険者に身をやつしているのか気にならない訳では無いが、記憶の隅に留めておこう。


「それにしてもどうしてエリー姉さまはあんな矮小な髭達磨を選んだのですか? 言って下されば性を捧げて珠玉を拵え腰に据えて参上しましたのに……」ギュゥ

「言う相手が間違ってるよ」グイッ


 このBBA、俺と話していると見せかけて、才能で観盗(みとう)したエリーに対して話しかけているな?! また隣に座って来たのを押し合い圧し合い状態だ。

 あれ? て言うかまともな会話になってないぞコレ。ただ両親に対する惚気と罵倒と連れに関して評価と報告されただけじゃん。


「そんな事より僕の事、倒れた原因とか何か心当たりがあるなら教えて下さい」

「ンン? そんな事ですって? 私とエリー姉さまのお茶会を…!?」


 うっわ、何か面倒臭そうな雰囲気が……。はぁ…最早俺の事すら眼中に無いのかよ? こんなとこまで連れて来といて腹立つわぁ。だから言いたい事言わせてもらうわぁ。


「そんな()ですよ。母に御執心の様子ですけど、僕に何かあれば母が黙っていないでしょう。そうなれば我が母の不況を買うだけでなく、母が僕の為に手づから拵えた服飾品等も取り返して、貴女が母をもう一度目にする機会は永劫断たれても文句は言えないでしょう? 父に関しても聞き捨てならない事を仰って居りましたねぇ? 両親がお互いに愛し合って僕が生まれたのです。父を侮辱するのならそれは、母の愛も侮辱したと捉えて当然ですね~ぇ? 脚を治療して下さったみたいですが、そんな人に恩を着せられるのは嫌だ。今ここで圧し折ってチャラにして…」

「わわわわかったわ! 落ち着いて! ゴメンナサイ!!!」

「一体何がわかったのでしょう? 無礼を働いた事? 両親を罵倒した事? 僕を見縊った事? 思い出したくも無いですが僕の尊厳を無視する様な発言もしていましたねえ? 一体僕のなにを知っているのか聴きはしませんが、代官ならもっと節度ある振る舞いと言動を心掛けて下さい」

「はい、申し訳御座いませんでした」


 全くこれじゃあどっちが年長者かわからないじゃないですか。


「じゃ、話に戻る前に僕の服、返してくださいね」


 その後、服は硝子のショーケース(耐衝撃性)に入れて飾ってやがったのを叩き割って取り返した。

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