22. 教える!エリー先生
「フゥ…流石にこの年になって“地均し”された混粘土を掘削するのは骨が折れるな。久々腰にキタよ」
「え~、そんなので明日の狩猟行けるの~?」
「あぁ……大丈夫、ちゃんとやり遂げるさ。セント! レガリア卿の手当てだ!」
「御意」
仕合直後のドルモア卿が腰を叩いて伸びをする姿はただのお年寄りに見えておもしろかった。
命令を受け小走りに武舞台へ駆け寄る執事のセントさんは、懐から手の平サイズのカードを取り出し舞台外周の柱に当てて数秒、防壁がパッと解除された。それから仰向けに横たわるレガリア卿に駆け寄ると一言断ってから脇腹に手を当て傷口を静かに見守った。
「失礼します…………フム、流石レガリア卿、予め内臓を硬く防御していたようですな? 刃が内臓を押し潰しかけています。本来この軌道なら刃引きしていても轢き千切られていたでしょうに。これなら引き抜いても問題ないかとぅ!」
「ウグォ!?」
切っ先の折れた断面にハンカチを乗せ掴んですぐに容赦なく引き抜く、血は噴出さずに多少溢れた程度で、続け様に逆の懐から緑の小瓶を抜き取り蓋を指で飛ばし中身を患部に垂らして数秒、溢れた血を拭い取ると傷は跡形もなく消えていた。
「ふぅ、ありがとう。内蔵の維持で精一杯だったんだ」
「まだどこかに違和感があれば何なりとお申し付けくださいませ」ペコリ
「大丈夫だ、問題ない」
そう言って何事も無かったかのように立ち上がり、ドルモア卿へと向き直る。
仮面がポロッと外れて彼の手の中にすっぽり収まってしまったのを見るに、やっぱり宝石を才能で変形させていたみたい。闘いには満足した様で良い顔をしていらっしゃる。
「いやぁ、かつて貴方に挑んだ時を思い出ました! あの時も剣を交える事は愚か、対峙している筈の貴方を捉える事すら出来ませんでした。あの頃に比べれば私も成長したつもりでしたが、全く敵いませんでした。……一つお伺いしたい。一体何時から私の認識を騙していたのですか?」
「ハハハ、騙すだなんて人聞きの悪い。…そうだな、貴公が現れると連絡が入った時から準備は始めていたかな」
「ははぁ、それはつまり今朝方私共がここを訪ねて門番と話をしていた時からという事ですかな? 突然の訪問でしたがそこまで意識して頂けたとは光栄です」
「それは良かったな、では確認するが仕合前の約束は成立で良いな?」
「ええ、それに何より良い気晴らしになりそうだ」
「そう…か、まぁこちらとしても心強い。明日はそのつもりで準備しておこう」
「息子には私から伝えておきます」
それから二人はガシッと握手を交わした。
__________
おっさん共が何やら不敵に笑い合いながら親交を深めていた頃、
「ムフ~、残念でしたなぁ~。イヤしかし我が伯父上も勝ったとは言え我らの予想通りとはいかず、ここは10分の1に負けて金12枚! で、手を打ちましょう」
「・・・・・フンッ! いらん情けを掛けるな、ニアピンだろ、有り金全部渡させろ」
「ウム兄上、流石にそれは侮辱と取られても仕方ありませんぞ。と言う訳で有り金は全て貰いますぞ」
賭けの結果は両方不正解で不成立、とはならずに勝敗を当てた兄弟が金を受け取っていた。
「…一ーとー四ーのー七ん十貨とー…。ムム、確かに!」
「次に会う時は君らの実力を見せてもらいたいものだ、じゃあな」
「うほほ~、金がこんなに! ……ウォッホン! 何だ小僧? 賭けに参加していないお前の分は無いぞ?」
・・・醜い顔をしておるわ。
それはともかく、なんやかんやあったけどこれでスッキリ心置きなく次の町へ出発出来るな。………これ以上何かあったらもうだめぽ。
そんな俺の気を知ってか知らずか、いつの間にか横に立っていたセントさんから声が掛かった。
「よかった、まだここに居たのですね。エルドワーフ様、船の手配は既に完了しておりましたが、お父君に切符を渡しそびれましたのでコレをどうぞ。それとこちらは素晴らしい戦いの報奨です」
そう言って渡されたのは半円形の判の押された紙切れと四角い金貨。
「うわっ!? 大金貨!? 珍しッ!」
「ムム! セント、そんな珍品渡すなら金貨で渡した方が良いだろう?」
家の本棚に置いてあった貨幣価値の一覧によると大金貨は普通の金貨5枚分に相当する。ただ余り使われないようで二千円札みたいな扱いらしい。それにしても珍しいだけでそこまでの反応するかね普通?
「嵩張らなくて便利だろう? それとも何か? 私の出す報奨にケチをつけるか?」
「「伯父貴ィ!!? 滅相も」ありません!!」
「はっはっはっ、生意気な事は嫌いじゃないぞ。だが生意気ばかりで評判はあまり良くないみたいじゃないか。そろそろ本格的にバンバー騎士として扱いてやらねば周りに示しがつかなくってきそうだ。それに上官の親善仕合に金を賭けてまで金が欲しいのなら特別辞令を出そうじゃないか」
「「……は…ハッ!」」
心音が跳ね上がって生唾を呑みまくってる。緊張してるのか? でも異常なほど汗をかいて小刻みに震えて見えるけど、この感じは…恐怖?
「明日から、グルモア・ナイトアームズ及びゴルモア・ナイトアームズの2名を騎士ドルモア・ナイトアームズの従騎士に任命する。現在の上官には私から話を付けておこう。それと、明日の朝から北の定期遠征に行くからそのつもりでな」
「ム…な?! …伯父上殿、流石に急過ぎます」
「二人共銃を使うのだったな? 王国謹製の銃の弾は非火薬式で大きささえ合えば現地で幾らでも調達出来るだろう。何なら私の土魔法で造ってやる。野営物資はこちらで用意するが食糧は現地調達が基本だ。何、二人共魔獣を倒した経験は有るだろう? あっちの獣はどれも食いでがあるぞ。各自用意する必要があるのは予備の武器と装具の手入れ道具くらいか? そうそう、領外遠征であるから伯爵位以上の者には霊薬の所持が認められておる、心置きなく怪我をしなさい」ニッコリ
そう言えばさっき明日からお母さんと森へ狩猟に行くって言ってたね。いや、デートって言ってたかな? 何にせよ道連れが出来て嬉しそうだね。
さて! 貰う物は貰ったし、大事な話してるみたいだから部外者はとっとと立ち去りましょう。
「セントさん、ありがとうございました」
「こちらこそ良き闘争を拝見させていただきました。主人も甚く気に入られたようで、またいつでも来てくれて構わないと仰っておいででした。」
「じゃあ行商の帰りにまた寄りますね」
「フフフフ…、では今度はキチンと皆でお出迎え出来るよう尽くしましょう」ニヤリ
「え?」ゾクッ
含みのある笑みに思わず仰け反ってしまう。会釈だけしてすぐさま回れ右して門を目指し駆け出した。
__________
今まで屋根の上を跳んだり水草を被って歩かされたりで大通りをキチンと歩いたことが少ないせいか、この町の活気に改めて目移りしてしまい今更ながら後ろ髪を引かれる思いが募っていく。
何に驚いたって一番は自動販売機が置いてあったことだね。薬屋の前に置いてあったけど数種類の回復薬を売ってるようで、硬貨の重みでバネに連動してにょきッと飛び出すつまみを押し込むと物が買える仕組みだ。
「おぅチビ、おめぇなんかが薬剤箱に用はねぇだろ、どけ」
今の口の悪いのは見るからに冒険者風の男で、見ていると自販機を利用するのは二日酔いに苦しむおっさんと冒険者風の人達ばかりで、善良な地元民は直接店を訪れているみたいだ。店の前はさぞガラの悪い奴らがたむろするんじゃないかと思いきや、買うもの買ったらさっさとどこかへ行くので店内を利用する人たちも気兼ねない様子で出入りしていた。
中の様子や補充のところを見てみたい気もするが、それよりも大蛇の皮を随分とほったらかしにしているのを思い出して慌ててその場から離れた。
歩きながらすぐ気づいたけどさっき自販機を使ってた人達って、港から来て港に向かっているみたい。荒くれの船乗りや町に着いて人心地付いた商人、これから仕事をしに向かう冒険者達だ。偶にこっちをチラチラ盗み見て来る人が居るのはきっと床をぶち抜いた時に偶然その場に居た人だろうか。全部が全部とは言わないがさぞ昨日は飲み明かしたんだろうね、とにかくこの道酒臭い! 不快な臭いに閉口しつつ大通りから真っ直ぐ正面の港で一番活気にあふれた場所に辿り着いた。
「おーい! エルドーゥ! こっちじゃぁ!」
声の聞こえた方へ目を向けると両親が揃って俺を待ってくれていた。……あれ? バウロ身長伸びたか? 頭のてっぺんがぷっくり膨らんでいるような?
「お疲れ、さっきのエルドちゃんかっこよかったわ~! すぐにでも手合わせを始めちゃいたいくらいよ~」
「そうイジメるない、見ろ、怯えた顔をしとる」
「え? え~?! こ、この前みたいなことはしないわよ~? 加減はほとんどわかったから」
露骨に嫌な顔したらそう釈明されたけども、そのコツとやらはもっと段階を踏んで慣らしながら掴むもので、いきなりMAXで死なせちゃったら意味は無いんだよ? そんなことよりも、
「荷物は?」
「ん? ああ、もう船に積んどる。ドルモアのお陰で今停留している中で一番デカい船を使わせてもらうことになったぞ。ホレ、あれじゃ」
指差された方向を見ると確かに大通りの正面からそれ程外れていないところに、並んで停留している船の中では一番大きな帆船があった。その船には今も屈強な男達が大きな荷物を運び入れ、時には体高2mを越す馬に牽引させて搬入作業をしていた。
「・・・・やけに物々しいね、アレ」
パッと見は結構大きな船に見えるだけだが、よく見ると側面は傷だらけの鉄板が張り付けられて戦争帰りの軍艦のようだ。不気味。
「じゃろ? ここの湖ではあの大きさの船になると必要になる装備じゃが…まぁあの程度の感じなら無事に渡れるから心配するな。出発は正午から一鳴き過ぎじゃ」
金物のエキスパートであるバウロが言うのならそうなんだろう。もう細かい事は考えないことにした。
『一鳴き』とは巻黄鳥を指して一回尾に吊るした鐘や鈴を鳴らすことである。
朝ご飯食べてボコスカやってからそんなに時間経ってないから正午までに暇が出来てしまった。あれだけ荷物の心配して早く次の町へ行きたいと思ったのに、またしてもお預けを喰らってため息が出る。
「それでね~ぇ、お母さん明日から用事があるのは知ってるでしょう? それで頼みたいことがあるんだけどいいかしら~?」
「なぁに?」ピクッ
あれ? 何で今一瞬首筋に嫌~なハリが現れたんだ? ん~、気の所為であると信じたい。
「あのね、調味料とか倉庫に必要な物のお使いを頼んだでしょう? その帰りでいいからこの紙に書いたものを出来るだけ取ってきて欲しいの」
四つ折りの羊皮紙を渡され中を見ると整然と並んだ美しい文字が目に入る。良いよね綺麗で読みやすい字って。昔、他人の達筆を読めなくて「うわ、きったねぇ字」って言ってしまって恥を掻いたのを思い出してしまった。
それで内容だけど何々? 『屍人の腐蝕延髄』・・・・・?
「………ナニコレ?」
「霊薬を作るのに必要な素材や触媒よ。この前結構使っちゃったからね~、補充しなくちゃと思ってね。これも良い経験ね」
『経験ね』じゃねーよ! どーみても怪物の素材ばかりじゃん?! 何だ『百目魔眼の涙腺』って? バリバリの魔獣じゃないすか!! ガキのお使いに頼むものじゃないでしょ!!!?
「何も自力で採ってこいって言う訳じゃないわよ? そこはお父さんと相談して冒険者に依頼するなり、市場を当たるなりしてね。あ、だけど今のエルドちゃんでも何とか出来そうなのはなるべく自力で採取してくれるとお母さん嬉しいな~。怪物の解体はお父さんもある程度知っているけど、そこまでする必要のないのや拾い集めるのはお母さんの方が得意だから、そのリストに書いてある中でも印の付いたのを重点的に教えてあげるわよ!」
印って名前の前にある◎のこと?『石化驢馬の唾液』とか『古霊樹の生皮』とかは簡単そう? 『草食系魔獣の臼歯』や『幽体』はアバウトで首が傾いでしまう。『蛇女の母乳』と『樹木妖精の雌花』に至っては・・・・・ふぅ。
しかし見た限り結構多いぞ? ただでさえトラブル続きでげんなりしているのに、更に面倒を増やされると文句の一つも言いたくなる。
「え~こんなに~?」
「エルドワーフ、返事は?」
「ハイ・・・」
しかし母には逆らえなかった。
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昔から面と向かって会話しても中々内容が頭に入らない質で、作業中や他人の会話とかみたいな、勝手に耳に入る情報の方が記憶に残り易かった。普通に考えて失礼だとは思うが幸いなことにエリーはそういうのに理解があったので、ちょっと上品な商人向けのカフェでオセロしながら色々と教わった。
バウロは『ちょっと荷物の様子を見て来る』とか言って駆け足でどっか行った。
ちなみに戦績は全戦全敗、全角まで取った14枚が最高だった。
「あ、そうだエルドちゃん、お金については大丈夫かしら?」
昼までまだ少しと言った頃、思い出したようにエリーから尋ねられて一瞬きょとんとする。
家は木々が鬱蒼と密集している森の中にあり、十年間で一人の訪問者も(小鬼除く)見たことが無いのでお金のやり取りは森を出て行商に行くことになってからが初めてだった。
既に簡単な価格交渉を経験しているのだが、改めて問われると基本的な硬貨のことしか知らないな、と思い至る。
「え~と、下は青銅貨から銅貨・銀貨・大銀貨・金貨・大金貨・白金貨、珍しいそうなのは聖鉄貨・皇甲貨・神貨・木貨。青銅貨20枚で銅貨1枚、銅貨10枚で銀貨1枚、…」
「待った、もういいわ」
家で見た本の内容を思い出すように指折り数え挙げていると途中で待ったをかけられた。
「う~ん、お金のことはお父さんに任せるつもりだったけど、あんなことあったしね~」
本当なら既にこの町よりも先に進んでいる予定だったのだが、バウロが勝手に売買やら親子喧嘩で数日足止めを食ってしまっている。理由は酒を切らす恐怖と久々の町ではっちゃけたと言うが、命懸けで手に入れた蛇皮を売って手に入れた金で高い酒を買ったり知人と飲んだりしてたのを見た俺は実の所まだ許しちゃいない。
「あれでも長らく人間に混じってお商売してたって聞いてたから、ここ二百年くらいの相場くらいは把握してると思ってたんだけど、いいように買い叩かれちゃったってね~?」
人間社会の百年では為替が様変わりするのには十分で、その倍なんてさもありなん。そこら辺の時間間隔は長命なだけあって可笑しい。
「ま、そのことはもう『お話』したから置いといて、エルドちゃんの見た資料は1階の本棚に在った本でしょう?」
「うん」
と言うか他の本棚を知らない。
「あそこにあるのは古いけど他には無い情報が載っていたり、本そのものが古文書として貴重な価値を持つ私の蔵書なのよ」
何でそんな大事なもの、子供の手が届く所に置いておくのさ?! くしゃみとかで汚しちゃったよ!
「じゃあ僕があの本棚から学んだことは今じゃ間違いなの?」
「そうでもないわ。怪物辞典は現在のと比べて情報量が少ないだけで間違ってはいない筈だし、現代の資料の中で神貨や皇甲貨の事について触れている物はかなり少ないと思うわ」
だったら寄付とかして保護するべきと思うんだけど、そういうの面倒くさがったのかね?
「お金の価値なんて刻々と変化し続けるものだし、個人によっては無価値ですらあるわね。一方で、少なくない人間にとってお金は命よりも大事だと捉えている節もあるし、ほら、諺にもあるじゃない?」
「貧民は銅貨3枚で人を殺すってやつ?」
「うんうん、本来は金1枚の護衛より金1枚分の貧民達が怖いって意味だけど、面白い事に低級貨の価値はそんなに変わらないのに高級貨は浮き沈みが激しいのよね。だからこの諺の意味には他に使い時を見極めないと雇えるのは同じ貧民でも群か班かの開きを生むとも取れて中々奥が深いのよね~。因みにあの本棚にある本で通貨について書かれた本は2冊あるけど、たぶんエルドちゃんが読んだのは古い方の『コイン白書』だと思うわ」
「どれくらい古いの?」
「お母さんが生まれるずっと昔くらい」
えっ、少なくとも500年前の書物ってどんだけ~。
「エルドちゃんの世間デビューは150年は先だと思って後回しにしたのが裏目に出ちゃったわ。ごめんね~」
ちょ、マジすか?魔法を覚えて大蛇を討伐出来ていなかったら150年間あの森に? 冗談じゃない!
「でももうヒトと繋がりを持ってしまったのよね~。エルドワーフ、私達はヒトよりもずっと長生きなの。ドルモアや彼の甥っ子、執事のセントやメイド、今朝の偉そうな親子、みんな100年以内に寿命で死ぬでしょうね。死ぬって言うのは2度と会えないってことなの、特に寿命で死ぬともう霊薬でもどうにもならないわ」
・・・腕を組んで真面目ぶった話をするのは結構だけど、お金の話はどこいった?
「彼等の為にも、行商が終わってからも会いに行くことをオススメするわ。ヒト付き合いは宝よ!」
「あ、ハイ…」
「で、お金のことだけど、これからはこの手帳に何に幾ら使ったか書いときなさい。商人なら必要になるでしょ?」
カランッパサッ…
A5サイズ位に切った羊皮紙の束を木板で挟んだ手帳。板と紙を繋いでいるのは細い銀色のリングで、木板を除けばどう見ても見たことのあるリングノートだ。
木板には何も書いていないが板をめくって最初のページには“大蛇皮 金300”“酒 金85”“罰金 金220”“船賃 銀22”etc…と箇条書きで記されている。この文字はエリーの字だ。それにしても蛇皮で大金を手に入れたのに酒代と罰金で全部なくなる処か赤字になっている。卑賎身に付かずとはよく言ったものだが、酒代にしろ罰金にしろコレぼられてるんじゃない?
「酒だけでも金貨がこんなに…」
「オオヒサ産の火酒だからね~、値段のほとんどは輸送費が占めてるでしょうね~。美味しかったでしょうね~」
「う……、お、おおひさ?」
恐らくバウロが宿で飲ませてくれた『黒馬』と言う壺入りの酒のことだ。確かに美味かったが産地の名前は初めて聞いた。
「あれれ? 知らなかったの? まぁバウロのことだから美味い酒は覚えても産地の名前までは一々覚えないか~って、そんなことは置いといて~、コレみたいに帳簿を付けとけば自ずと物価や相場が解るし、無駄遣いも判るし、勉強になるわよ~。帰って来たら確認するからサボっちゃ駄目よ? もしサボったら…」スッ…
エリーが指で指し示すのは鉄板で補強された帆船だ、でも見せたいのはそんなのじゃなくて目を凝らすとバウロが甲板の縁に寄り掛かりながら頭に布にポーションを含ませ当てている。
頬杖ついて耳元まで顔を寄せると囁くように一言、
「身長伸びちゃうかもね?」
エリーの脅し! 本人が思っているより効果はバツグンだ!
「サー!!イエス!マム!!!」ガタアッ
「うわ?! ちょっ、静かに」
「ごめんなさい」スッ
フッ、目には目を歯には歯を、これが俺流応報術だ。
「も~、このいたずらっ子め、えい!」ピシッ
「・・・・・!?」
カクンッ ―――――




