表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
チャリンコ・チャリオット  作者: 怠慢兎
第1章 ーワンパク ワンダー ワールドー
23/54

21. 戦闘仮面 武装貴族!

 屋外に出ると円形の武舞台の外周に6つの柱が天井に向かって聳え建っている。そこから鳥篭状に舞台全体を半透明の(スクリーン)で覆っていた。

 自分の魔力を使えても他人の魔力の探知は苦手な俺ですら解ってしまう位に濃密な魔力障壁が張られているようだ。


「んな!? ななな、何じゃありゃーー!!?!」

「何だあの魔力量は!? 伯父貴の倉庫から魔晶でも出してきたのか? あんまりだー!!」


 結果どころか仕合が始まる前から口癖も忘れて兄弟が悲鳴を上げている。

 と言うのも、彼らが賭けたのは《場外勝利=防壁をぶち抜いて外へ吹き飛ばす》だったのだが、蓋を開けてみれば想定以上に強力な防壁が張られていて混乱しているらしい。


「へぇ、凄いじゃないか。この程度の規模の闘技台には過剰な気がするけれど、これ程濃厚な魔力障壁なんて滅多に見られないよ? 普通」 

「ムゥ…、いつもと比べればアレは5倍の強度はありそうだぞ」

「ふーん、つまりいつもはクラスⅢ相当の防壁(シールド)を使っているんだね……イヤイヤそれをいつも破壊しているのも尋常じゃないだろ! 普通は」


 上を見上げると天井代わりの大広間の床は閉じられていた。あそこからなら舞台の様子が良く見えそうなのに、でも目上の貴族を見下げる訳にはいかないか。


 武舞台上には3人の影が立っている。そして3人全員が顔面に奇抜な仮面を被っている。顔が隠れているからどれが誰だか判らないのだが中央で仁王立ちしている人物は、見覚えのある意匠の仮面から我が母エリーで間違いないだろう。


「ムムム、女性の仮面保持者(マスクホルダー)? しかもエルフ? エイフリルの女闘士(アマゾネス)かな?」

「ウーム? 兄上が知らぬなら私もあのご婦人の事は存じ上げませんなぁ。しかしマスクホルダーなら我らより審判としては適任でしょうな」

「フム、中々素晴らしい身体をしておられるな。一本線の通った盤石な姿勢と丸腰な所を見るに体術が得意だと見受けられる。そうそうエルフと言えばエルドワーフ、君や君の父とドルモア卿と一緒にエルフのご婦人と朝食を摂っていたと記憶しているが何か関係があるか?」

「ん~ん、気配がまるで違うからわかんない」

「フン? そうかい。確かにここからでも感じられる気配は半端じゃないし、我が父上を相手に善戦した君の言葉だ、信じよう。そうだついでにもう一つ聞きたいんだが、最後に見せた剣術、あんなのどこで覚えたんだい?」

「ムムムムム! それは確かに!」

「ウンウン、結果は残念だったがアレには興奮を覚えたぞ!」

「ん~と…」


 最後の剣術って居合斬りのことだよな? 自分でも良いのが入ったとは思うけど、所詮は付け焼刃のチャンバラ剣術(ごっこ)、どう答えたものか。中学でチャンバラが流行った時に自衛の為に覚えたなんて論外だしなぁ。まぁ当たり障りなければいっか。


コレ(・・)を刀に見立てたの。中指が刀身で親指が鞘」ピンッピンッ

手銃(ハンドガン)? フフ、面白いな」

「ムッハッハ、確かに! 幼少の頃はそれで良く弾岩遊びをしたものだ。懐かしい、ゴルモアと一緒に湖の魚を狙撃して遊んでいてペンタゴンに当てた時は死を覚悟したなぁ! そしてハンドガンからあのような技を編み出すとは感服した!!」

「ペンタゴン?」

「ウン? 知らないのか? ああ、反対側から来たんだったか。バンバーレイクに棲息する水棲亜竜の愛称だ。隣町とバンバーを往復する鉄鋼船に対して求愛する姿が観光スポットとして有名なんだぞ」

「船でここへ来たのは昨日だがそんなの見なかったぞ…じゃなくて、イヤ、あそこから技を編み出したのには私も感服した。面白いのは“イャイ”と呼ばれる刀やカトラスと言った曲刀で用いられる型と瓜二つな事だな。元々は古の刀を用いた戦闘技術らしいけど、骨董品を実戦で使う人間なんて居ないから使い手も滅多に居ないんだ。まぁ我が父上はその滅多に居ない使い手だったから私も知ってはいたんだ。偶然とは言え結果的に珍しい使い手同士がああして戦うことになったなんて面白いだろ」


 エリーたっての希望で正体を明かせられないから適当な事を言ってみたが、エリーから何度も喰らったデコピンが役に立って何とか誤魔化せたようだ。しかし何だ『イャイ』って? 発音的に『居合』なのは間違いないと思いたいがう~ん、惜しい。

 やっぱり過去にも自分と同じようにこの世界へ生まれ変わってあれこれと科学技術無双を試みた輩が居たが中途半端な情報が残ってしまって正しい情報が歪んでしまっている。これはよろしくない、いつか独り立ちした暁にはこういった間違い歪んだ伝統技術を出来る限り修正する旅をしたいなぁと、漠然とした夢を抱いたのだった。

__________


 観戦に丁度良い座席を探してウロチョロしながらグルゴル兄弟とラガリアがこれから戦う2人について軽く紹介してくれた。


 北側に陣取るは北方辺境伯『異識のドルモア卿』。プトロ王国最強の呼び声高い歴戦の古強者で、先々代の王の時代に起きた戦争では連戦連勝、特に相手国の重装騎士20人を独りで屠った戦いは伝説として語り継がれている。

 使用武器は引き続き長剣(ロングソード)。身に着けている上等な生地の普段着は貴族にありがちな優雅なだぶつきが無く、より庶民的なスッキリとしたシルエットでありながら気品に満ち溢れた佇まいである。

 仮面は黒い毛皮で覆われ、口元に開いた穴からは獰猛そうな牙が見え隠れしている。正体を知っていてもあの場に立っているのは別の怪物か何かにしか思えない。


 対して南側で構えるのは南方辺境伯『変装のレガリア卿』。

 使用武器は両手長剣(ツヴァイハンダー)と背中にラガリアが使用していた凧形盾(カイトシールド)を背負っている。服ははなから破けると思ってか上半身は逆三角形の肉体を露わにし、下半身は麻のズボンと皮のブーツを履いている。あと髪の毛は団子に結んでいる。

 仮面は金剛石(ダイヤモンド)か何かの宝石で出来ている様で、表面はつるんとしているのに光の乱反射でキラキラと眩しい。それが顔面から後頭部までをぐるりと横に一周巻き付けている。目と呼吸穴は開けられているそうで、そんな見た目は変態にしか見えない。


 そして両者の中央で審判を務めるのはマイ・マザー・エリー。給仕服から着替えていつものゆったりとした普段着に外出用の革鎧の姿。

 仮面はこの間見たのと同じ鈍い光沢を放つ鉄仮面に色彩の美しい幾何学模様が描かれたものだ。

 まぁ一応補足すると、使用武器は拳だ。


 こちらが席に着くのを見計らって審判(エリー)が声高に宣言する。


「これより変則野良決闘(デュエル)方式による仕合を執り行う! 鎧の着用は認めないが武器と仮面による武装は認める。勝敗は審判判断による戦闘続行不能か防壁外への場外で決定、なお次に巻黄鳥(イエローロール)が鳴く迄が仕合の制限時間とする!」


 目線を下にずらすとセントさんが机の上に台に乗った巻黄鳥を設置している。やけに大きい鈴をぶら下げているけど重くないのかな?


「両者、準備は如何?」

「いつでも」

「結構です」


 エリーの手がスッと上に挙がり指パッチンの構えを取る。


「 始 め ! 」


 パァン!



 最初に動いたのはレガリア。両手長剣を片腕で8の字を描くように振り回すと、刀身が鞭の様にしなやかに動いてどんどんと長く細いワイヤーに変化していった。

 続いて背中の盾がトロッと溶ける様に薄く、ひらひらと大きくなり大男の部類に入るレガリアの全身を覆う外套に変形した。


「ウーン? 背中の盾がマントになったのか? 鋼の外套は防具に当て嵌まるんじゃないか?」

「ムヤ、仕合開始後に武器を変形させたのだから問題ない、あの盾はラガリア殿も使っていたしな」

「何なら、開始後であれば才能でも魔法でも防具を作り出して装備するのは咎められはしない。魔法を纏うのと違って物質を身に着けるから勘違いする者も少なく無いが…と、そう睨むなよ」


 振り回している剣が高速で動き回りレガリアの周囲をドーム状に覆っている。

 ドルモアはまだ動かない。


「さて、()合いか」


 突然ドームが消えた瞬間、防壁の内側が乾いた破裂音に満たされ同時にドルモアと審判(エリー)までもが残像を残して掻き消えた。

 レガリアの剣鞭が一気に武舞台全域に広がった為だ。

 しかし姿が消えたのは一瞬で、どちらもすぐ定位置に現れた。ドルモアは最小限の動きで剣を避け受け流し、ちょっと小躍りしているように見えて緊張感がまるでない。エリーに至っては微動だにしていないように見えて時々残像を置いて霞んで見える。


「ムヌゥオオ!! は、速過ぎる! いつもの10倍速いか!?」

「ウォオ! 霞んで見えない!! 目に塵が入ったかぁ!?」

「ドルモア卿はともかく、審判まで父上の太刀筋を見切っているだと!? 凄いな!」


 普通に観ても解りっこないから、先立っての仕合でもやった全力を目に注いでやっと観戦が出来た。それでも目にも止まらないスピードで暴れ回る剣筋は見切る事も目視する事すらも不可能だった。次元が違うとはこの事だ。


 ドルモアは避けられるのは避け、大きく体勢を変えざるを得なさそうなときは剣で受けて払い、いなしては避けてを繰り返し攻撃の一切を身体に触れさせない。

 一方、レガリアは腕の回転数を徐々に上げて攻撃が更に激しくなっていくと同時に、余りの激しさに自身にも時折攻撃が当たっているのかチカチカと火花が見える。成程、その為のマントか。


「ウム、成程。鞭と言うのは先端で攻撃し、中程(・・)は牽制や巻き付けて拘束に用いるが、体術でも使えない限り近~至近距離が死角になりがちだ。それを補う為に自らの安全圏を排して全距離に対応するとは恐れ入った」

「え? ああ、まぁね」

(絶対違うな。)

「ムム! まさか地上で花火が見られるとは思いもせなんだ」

「ハァ、観戦は真面目にしてくれないか? それに、まだ仕合は始まったばかりだ。こんなの序の口さ」


 そうこうしている間に場内はますます激しくなり、やがて鞭の破裂音が繋がり鼓膜が破れそうになってきた。偶に剣鞭が止まって見えたり、風切り音に違う音が混じったりと不可解な事も増えてきた。


「ムゥ…ムムム! なんと厄介な才能(センス)!得物を変形させるのは解っていたが、そのまま部分ごとに別々の形状にも出来るのか! しかも時折現在の形状を維持したまま振られたり、伯父上様の剣に合わせて変形させ…ムヤ、まさか本質は形状の変化ではなく硬柔の変質か!? ならば盾マントの自然な靡きにも納得がいくな」


 ぬお!? いきなりグルモアから解説が飛び出して、しかも結構的を射ている。ちょっと馬鹿にしてたから驚いた。


「……ハハ、先程の父の試合と併せてそこまで見破るとは思わなかった。まさかとは思うけど、騎士資格試験を受けていたりするかい?」

「ム? 我ら兄弟共に試験には合格し、現在は従騎士として先輩方の業務を手伝っていますぞ。恥ずかしながら怒鳴られる毎日だ」

「ウム、張り切り過ぎてやらかすこともあれば、退屈でやらかした事もしばしば…」

「よく試験に合格できたな」

「ウン、“赤白”等級の魔物を単独(・・)で討伐するのが試験内容だったからな、大雑把な課題の割に一人で討伐できる赤白級なんてそうそう居る筈もなく、結果は合格したものの暫く病院で寝たきり状態だったな。そういう貴殿はどうですかな?」

「ほぅ、私の方はこちらと違ってあまり強力な魔物には出くわさないのでね、付加魔法が施された鋼材を破壊することから始まる5段階の試験を受けて合格したよ。つまり私も君らと同じ従騎士なのさ」

「ムム! ならばいずれ叙任式でまた会えますな!」

「その前に戦争が始まっていたら私は一足先に叙任を終えて戦線に出ているかもしれないがね」


 そう言えばこの人達戦争の協力を取り付ける為にこっちに来ているんだったっけ?


「ウン? 戦争? 何だか楽しそうな響きがしますな」

「ムムム、血が滾りますなぁ…」


 こいつらもアレ(戦闘狂)なのかよ…

 それは置いといて、もっと静かに観戦出来ないものかね? スポーツでも映画でも、観覧中は静かに観るのがマナーでしょ。歓声を挙げるなとは言わないし多少の雑談には目を瞑るけれど、仕合に関係ない事でペラペラ喋るのはやめて欲しい。特に隣の席とかではね! 俺の頭を飛び越えて五月蠅いったらありゃしない。


 ・ ・ ・ ・ ・


 ? ふと気付いたら音が止んでいた。俺の願いが通じたのかと思ったが、剣撃そのものが止んでいる。

 すると心なしか徐々に呼吸が辛くなって来た。


「ウッグゥ…、何だ? 空気が重い」

「ムグゥ……ム? 伯父貴も構えたぞ。あれは短期戦用の構えだ」

「まさか、さっきのはほんの小手調べだ。そこからもう決着をつけるとでも言うのかい? せっかちだねぇ」


『準備運動は済んだか? (わっぱ)

『十分温まったぜ、ジジイ』


 彼等と距離があるうえマスクをしているしそんなに大きな声でもないが俺にはそんな会話が聞き取れた。

 あれだけ激しく運動したことと北国の寒い環境の所為でレガリアからほわほわ蒸気が立ち上っている。ハハッ、冷凍庫から出したラクトアイスみたい。食いたくなってきた。


 両者共に構える。開始と違う、戦闘用の構え。体勢を沈めて両手で握り込んだ長剣を肩に担ぐ構えと、マントを元の盾に戻して両手長剣を下段後方に置く構え。

 

 唾を呑み込む音があちこちから聞こえてくる程張り詰めた空気。

 互いに睨み合ったままその時が来るのを皆が待つ。


『ハァ!!!!』


 音と武器(・・)をその場に残してレガリアが駆け出す。一瞬で中央に到着したと同時に背中の盾が膨らみ蹲る体勢になった自身を包み込む。

 さらにそこから爆発的に膨らむ盾が防壁に包まれた武舞台全域に溢れ、防壁を展開している柱から悲鳴が上がる。


 ボッ、ギュウウゥゥ………ギギギギギギィ…!!!


「ムフン、線による範囲攻撃の次は面による制圧攻撃か!?」

「ウゥ、お、伯父貴ィ!?」


 ゴッ! ピシッ! ビキッ!


 膨張した盾の所為で中の様子は見えず、強力な圧力で防壁のあちこちに罅が出来ては消えていく。ひび割れですぐに砕けないってことは少なくとも2層構造なのかな? しかも自動修復機能付き? この賭けは兄弟の負けかも? おまけにひび割れた部分から徐々に盛り上がって壊れないように少しずつ変形している。

 これには周囲の反応は様々で、グルゴル兄弟と朝練していた兵達はざわついていてセントさんは武舞台を見つめて微動だにしない。そしてここの座席の両隣では、片や座席にどっぷりと座り満足気な表情のラガリア、そして反対の隣では首を垂れて項垂れる兄弟が絶望的な表情で何事か呟いている。


「多重層構造のクラスⅤ防壁(シールド)に、自動修復・過剰負荷軽減おまけに物理攻撃耐性の魔術付加(エンチャント)? 誰だこんな戦術級兵装を持ち込んだ馬鹿は、二付加(ダブル)ならまだしも三付加(トリプル)は興業目的で使えよ…! 大体ッこんな田舎で使って良い代物でもないだろ、もっと低クラスのでも……」

「破壊不可能な密室で隙間の無い面による圧迫攻撃、伯父貴の才能の弱点を突いた攻撃か! クソッ、研究されて対処されてりゃ世話ねーぜ……」


 何こいつら、もう負けムードに陥ってやがる。目に見える圧倒的不利に目を奪われて希望的観測も抱かない。現実的と言うのか? どうかな?

 何れにせよ、目よりも耳の方が良い俺は既にこの仕合の決着を聴き遂げていた。


__________



 やがて防壁の軋む音が止み、盾はゆっくりと萎んでいく。この時も皆が固唾を飲んで見守る。たださっきと違い、もう重苦しい空気は微塵も感じない。


 果たして結果は…


「んなッ!?」


 武舞台上では腹部に折れた剣の切っ先を刺したレガリアが、余計な出血を抑える為に手で患部を押さえ仰向けに寝込んでいた。しかも裸足。そのすぐ傍では中程で砕けた剣を手にドルモアが佇み肩で息をしている。もの凄い汗だ。


「決着ぅー!! レガリア卿を行動不能と見做し、ドルモア=ナイトアームズ卿の勝ォー利ィー!!!!」


 声高にドルモアの勝利がエリーの口から宣告される。しかし歓声が上がるどころか広がるのは如何ともしがたいざわめきばかり。

その反応は分からない事でもない、なんせ盾が膨らんで中の様子が見えなくなって、程なく萎んでどうなったかと思ったら決着? 派手な出だしだっただけに、結末との温度差があり過ぎなのも原因、と言った感じかな?

 まぁ俺には生まれついてのこの地獄耳があるから、一体何がどうなってあんな事になったかはちゃぁんと把握しているのだ。


 あの時の事を思い返すと、たしか…


__________



 中央へ二歩で到着したレガリア卿はその場で身体を丸く蹲ると、背中の盾をまたマントにして頭からつま先までの全身を包んでしまう。

 それからすぐに盾が風船のように膨らみ始めるがその時同時に二か所で炸裂音が、恐らくドルモア卿と審判が意図を察して地面に穴を開けて避難しようとしたのだと思う。と言うのも位置関係がこちらの座席では手前から順にレガリア・ドルモア・審判の並びで重なり直接は見えなかったからだ。

 しかしここでアクシデント、炸裂音に混じって甲高く バキンッ と金属が割れる音が! 位置的にドルモア卿の立っている場所なので地面に穴を開けようと剣を突き立て折れてしまったと考えられる。

 武舞台の床は激しい戦闘にも耐えられるように構造的にはもちろん魔術的な強化も施されている。そして今回の仕合に限ってはグルゴル共の反応から判る通り、やたらと強力な設備が充実していた。まぁ間違いなくエリーの仕業だろう。


 折れた切っ先が地面に落ちる前に柄を握るのとは反対の手で掴み取ると、間髪入れずに今度は両手で地面を掘り始め、その音はすぐに地面より下に沈んでいく。

 ここまではレガリア風船が膨らみ切る前の出来事である。


 次に、大量の空気を取り込む ゴオォ という音と共に盾風船を膨らませていくレガリア卿。さすがに真空状態で膨らませるような真似は辛いらしい。

 それはつまり吸気口は盾に守られていない弱点になる、しかし逆を言えばドルモア卿が酸欠か何かで地中から現れる場所が限られる訳で、それを承知でこの様な行動をとっている。


 足だけを使って行儀悪く靴を脱ぐレガリア卿、ありゃ結構慣れてるな。一点を除くすべてを盾で覆われた空間に素足を乗せ両手の自由を確保すると呼吸を整え身構えたと思う。

 流石に自慢の地獄耳を以てしても精神統一する上裸の達人の体勢を把握することは出来なかった。聞こえて、僅かな呼吸音と心音程度だ。その僅かな音を拾う為には本気で耳に集中しなければならないし、だけどそうすると隣の奴らの何気ない一言が耳にエアガン空撃ちされた時みたいにキンキンするのよね。


 だから気付くのが遅れたんだけど、その時既に盾の内側には二つの心音(・・・・・)が存在していた。

 片方は言うまでも無いけどそれ程速くない安定した心拍音はレガリア卿のもの、そしてもう一方は非常に速い心拍でありながら呼吸音が一切聞こえないのが恐らくドルモア卿だ。

 エリーのお陰で途轍もなく頑強な地面を掘り抜いた後だというのにロボットじゃないの? ってくらい呼吸をしていない。


 そのドルモア卿がゆっくりとレガリア卿に歩み寄る。忍び寄るのではない、かと言って早歩きでもない、足音すら聴こえる位普通に歩き、恐らくそのまま折れた切っ先をレガリア卿の腹に押し込み勝敗は決したのである。


__________



 なんだか釈然としない気持ちだがそれは観戦していた皆も同じで、とりあえず何もしないのも失礼かと思い適当に拍手を送っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ