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チャリンコ・チャリオット  作者: 怠慢兎
第1章 ーワンパク ワンダー ワールドー
22/54

20. 万歳二刀流突撃

 怒ったレガリアが現れた!

 元々大柄な体格の男が筋肉を隆起させて更に大きく膨れ上がっている。手に持った両手持大剣(ツヴァイハンダ―)刺突剣(エストック)に見えてしまう程の威圧感だ。


 それに対してこのエルドワーフの身体は、身長150cm未満の超痩せ型であるのに両手に持った(・・・・・・)カタナのボロさと来たら情けなくなってくる。握っても刀身がグラついているのが感触として伝わって来るし、握力に任せて締め付けてやっと違和感が軽減されるというものだ。一応腰に鞘も下げているが見栄を張っている様にしか見えないかも。


「両手に曲刀? 同種の武器を両手に持っても扱いが難しくなるだけでしょうに。見栄を張っているか馬鹿なのか、或いは両方ですね。両手だけに」

「両手に盾を持って掠り傷しか付けられん者が何を言う、それに面白くも無いぞ。しかし私もアレには感心せんな。格上を相手に不慣れな構えを取るなど、一本でも手に余るだろうに。負けるにしろ精々レガリア卿の()位は温めておいてほしいが」

「おや、期待しているのですか。父が勝つのは当然として、勝負はすぐには決まらないと? ご冗談を」

「あれは特別だ。友の子という事を差し引いても、不意打ちの形で我らは既に戦ったことがあるからな。云わばこの試合の勝者が私に再挑戦する権利を勝ち取るのだ」

「ほう? 不意打ちの勝負とはどういうことでしょうか? お聞かせ願いたい」


 外野が賑やかだがこっちはそれどころじゃない。さっきから首の筋が張ってピクピク痙攣している。これのもっと酷いのはエリーの無茶振りに付き合っている時だけど、どちらにしろ悪い予感に変わりない。


「舐めているのか? そんな武器で大丈夫か?」

「大丈夫だ、問題……あるけど、心配無用だ!」

「? …ならば、おい試合はまだか!?」


 あっぶね~、今度は俺の方がフラグを立てる所だったぜ。

 まぁそれは置いといて、それまで審判を務めていたゴルモアに意識を向けると何やら兄弟でひそひそ話をしている。試合前だけど好奇心で耳を傾けると、


(ウシ、次はどう考えても子供が負ける)

(ムム、異議なし)

(ウム、では今回の倍率(オッズ)は20倍で)

(ムヤ、レガリア卿が勝負を一瞬で終わらすと言っていた、ここは一瞬で勝負が決まるか否かを賭けようぞ)

(ウーン、確かにそっちの方が賭けになるか。では10秒を一瞬と判断して賭けましょうぞ兄上!)

(ムン! では一瞬で終わらない方に銀30枚だ!)

(ウッシ! 兄上がソッチに賭けるなら一瞬でケリが付く方に賭けよう! では行ってきます!)


 あいつら俺達の試合で賭け事の相談してやがった。悪い事じゃないとは思うが俺が負けることを前提にしているのがムカついた。


「ウッス! お待たせしてすみません。では早速ですが尋常に・・・・・始め!!!」


 あ! 言われて慌てたのか、いきなり開始しやがった。慌ててこっちも意識をレガリアに戻すが、丁度片手に剣を持って高く掲げて何かをする予備動作の途中だった。

 いきなり間合いを詰められなくてホッとすると同時に自身の魔力原動機(マナ・ロータリー)低回転(アイドリング)から限界まで高めて戦闘態勢に入る。こうなった俺は立派な樹木すら軽々と圧し折る位強くなるのだ!


 さあその構えから一体何をする? 上段から一気に間を詰める? 横に薙ぐか? それとも剣を投げる? イヤ突いてくるか? どう出る!?


 プニャン、ピッ ―… パ ァ ン !!!!


「!!! ッッッ!!!!????」


―――~~~―~―~!!! い゛~で~~!!??


 剣が大きく撓り残像を残して消えたかと思ったら突然背中(・・)を攻撃された!? 素肌にデカいドライアイスの板を押し付けられたような、痛いのか冷たいのか痒いのか熱いのか理解不能な感覚に激しく悶えた。


「カハッ!?」


 想像だにしていない方角からの攻撃に辛うじて意識を失わなかった自分を褒めてやりたい。しかし激痛と呼吸困難で今はそれどころじゃない、無理にでも我慢して涙目を必死に動かし相手を見ると既に剣は元の位置にある。ん? 違う、剣の先端がゼリーみたいに小刻みに震えてるぞ?


 鉛筆を指で抓んで上下に振るとグニャグニャ曲って見える。でもあれはそう見えるだけで実際は形も長さも硬さも変わってはいない。

 西洋刀剣は強度を得る為に柔軟性を重視し、良い剣は手で90度まで曲げたって元の形状に戻る程柔らかいと言う。でも訓練用の剣にそこまでの品質を求めるか普通?

 レガリアの剣は両手で扱う長大な剣であるが、開始直前まではそれ程柔らかい剣には見えなかった。開始位置から切っ先をこちらに真っ直ぐ向けたとしてもまだまだ距離が出来る筈。どうやって距離(リーチ)を克服しているか知らないが、あのディ○ドみたいな柔軟性は彼の才能(センス)である事だけは間違いない。


 プルン、ピッ ―…


 !? またか! そう何度も喰らうか!

 横っ飛びの回避と同時に一瞬前まで頭があった辺りから『パァン』と乾いた音が弾けた。

 今度は飛び退きざま正体を見逃すまいと目に殆どの魔力を集中させて見た。

 その結果見えたのは剣身の幅を狭めながら柔軟に良く撓り伸び縮みし、且つ先端だけは剣先の形状を変えずに空気を叩く鈍色の鞭そのものであった。


 わざわざ剣を鞭に変えるんなら最初から鞭を使えよ! そんな文句の一つでも言ってやりたかったが、目と視覚情報の十分な処理が出来る程度に頭脳に全振りしているから口と身体は全く反応出来ない。この状態は観察するのには良いが身体は全く追い付いてこない上、実際はほんの一瞬だけど防御に回す魔力まで頭部に集中しているので感覚的に無防備な状態が長くなる。これが結構怖いんだよね。

 そんな中で相手(レガリア)の動きが加速した。緩慢にしか動けない自分に対して剣鞭(けんべん)? を持つ腕がぶんぶん振り回され次の攻撃に移ろうとしている。


 ヤバい! 安全性(マージン)を保ってたら動きについて行けない、四の五の考えないで全開(フルスロットル)でないとやられる!!


 パァン! パン! パパン! パパパ! バァン!バァン! バァン!!!


 空気を叩く音の間隔が短くなっていくのに合わせて、こっちは魔力を練り上げる回転を上げる。心身共に限界を超えた動きを無呼吸運動によって無理矢理維持し奇跡的な回避能力を得るに至った。

 5~6回回避したところで焦ったのか音が変わり出したが、こちらもこの状態を維持出来るほどの余裕がない。

 何度目かの破裂音に合わせて突進を開始する。鞭を引き戻す瞬間の隙を狙っての事だが、一回では成功しないのを想定して繰り返し、徐々にその距離を詰める。

 レガリアとの距離があと数歩の所まで近づくと剣が撓らずに本来の形状のまま横薙ぎの一閃を見舞われた。

 間一髪で避けたが想定の範囲内である。返す刀で一気に懐目指して突きをお見舞いする。しかし向こうも同時に斬り返して来て大剣と大太刀がぶつかる。


 ブルルンッ!


「ウオ!?」


 刃を交えた瞬間、ぶつかった両手大剣の剣身が刀を巻き込むように回り込んで来て、咄嗟に頭を下げていなければ顔を叩き潰され終わっていただろう。

 だがレガリアがそのままグルグルに巻き付いた大剣を力任せに引くと、刀は柄を残して引っこ抜け、エルドワーフの手から解放された途端バラバラに砕け散った。


 武器を一本破壊したことと声を上げさせた事に対して愉悦を感じたのか口の端を若干吊り上げている。だがそれは油断の隙の絶好の機会であり、コレに怯んでソレを見逃す程俺は軟じゃない!


 グシャッ!!


 残った柄を片手で握り潰し、粉砕した破片を顔に叩きつけてやる。


「クッ!?」


 ここで一旦小太刀を鞘に納める。小と言ってもドスよりは長く、反りも大きいコイツならば、大太刀では長過ぎて出来ない居合が可能だ、と思う。

 武器を鞘に納めたことで外の観戦者達がざわつく、レガリアもエルドワーフが武器をしまったことに気付いて停止してしまった。


 !


 剣を交えられる至近距離でそこまで油断されるとは思わなかったが、それでもダメ押しの渾身の居合を大剣を持つ腕に打ち込んだ。


 ッ ――…  グシャッ !!!


__________



「ムハハハハ!そう気を落とすなエルドワーフ!騎士を相手にあれだけ大立ち回りを演じたのだからもっと胸を張るが良い!!」


 ぷく~


 負けた。顔の半分が内出血で膨らみ視界が半分塞がっている。こんな視界の塞がるほどの大怪我は小1の時にコンクリートブロックに頭突きをかまして以来だ。あの時は膨らんだ瞼の感触が面白くて指で突き回したものだが、今は摩っても何も感じない。それどころか限界を超えて魔力を練り過ぎたことによる魔力酔いと打撲で頭がクラクラしている。


「ムフフフ、昨日は大負けしたがこれで挽回出来たぞ」

「チッ、調子に乗るなよ兄上」


 どうやらこの兄弟は賭けに勝った負けたで機嫌も口調も変わるらしい。

 賭けの内容は『一瞬で勝負が決まるかどうか』で勝ったのは『一瞬で負けない』方に賭けたゴルモアだった。


「糞ッ! 剣を潰された時点で負けを認めていれば俺が勝っていたのに!!」

「ムムム、確かに1本目ならともかく、2本目のあの場面ならば諦めてもおかしくあるまい。しかしあそこからの暴れっぷりは傑作だったぞ! 流石頑丈だけが取り柄の酒場の床をぶち抜いただけの事はある」


 戦いの終盤、渾身の居合を打ち込んだまでは良かったが、その結果手の甲にぶつかった小太刀は文字通り粉砕してしまった。一度ならず二度までも刀を砕かれて成果は武器を手放しただけ、それでも一矢報いんと拳を振るったものの最後はエリーにも使った1インチパンチの直後にあっけなくやられてしまった。

 当然だけどあのおっさん全然本気じゃなかった。口ではあんな事言ってたけど、しっかり手心は加えられてた。じゃないと多分死んでた。


「・・・・・・」

「ムム? 何か言ったか?」

「俺が負けて嬉しいか? あっち行け!!!」

「ムグァア!?」キ―ン


 敗者の目の前で敗北を喜ぶなど言語道断。普通に喋ると痛むけど、俺の持つ隠し芸の一つ『腹話術で絶叫』で貴様を誅すぞ!


「荒れてるねぇ、エル・ドワーフ。平民の分際で父上に正々堂々と傷を負わせたのだから、もっと誇りに思っても良い事なんだぞ?」


 何でこいつは一々言葉に棘を生やして話すんだ。そして変な所で名前を区切るからスペイン風の名前になってるぞ。


「ムムム、これはラガリア殿、怪我人は大人しく安静にしていた方がよろしいのでは?」

「既に治った。しかし流石はドルモア卿、私の盾を貫くに留まらず内蔵を傷付けずに腹部すら貫き通すとは感服の極み、軽傷で済んでよかった」

「そりゃ良い事で、で? 何か御用で?」

「フン、君ら一試合目から賭けをしているだろう? あぁ別に咎める訳じゃない、良ければ私も混ぜてはくれまいか?」


 それを聞いて2人はキョトンとした顔をお互いに見合わせて、それからニタァと笑って承諾した。


「良いですとも! ならばここは自らの関係者に賭けるのが道理でしょう。我々はドルモアの伯父貴が勝つ方に有り金貨10枚を全てッ! 賭けさせていただく」

「…自信満々だな、構わん。構わんが良いのか? 半生期(寿命の半分)以上前から武名を馳せた年寄りに、そこまで期待を寄せるのは少々願望掛かっているのではないか?」

「ムム! 疑っておいでで? いや、まさか怖気づかれて…いる訳ではないでしょう? 先程伯父貴と闘い両者の戦力を身を以て知るラガリア殿が自ら参加を表明して下さったのだから!」

「チッ、両者の戦力を鑑みた上でどちらが勝つかよりもどうやって勝敗が決するかの方がより白熱すると思うが? その上で我が父がドルモア卿の五体に傷を付けて勝利する、に持ち金貨20枚全部を賭けよう」


 売り言葉に買い言葉と言うか、血の気が多くて賭け事も好きって博徒(893)かよ。地方領主の息子で貴族って部分も質が悪い。地元じゃやりたい放題なんじゃないか?

 でも今の状況は見ていて何だか面白く成ってきたぞ。兄弟(グルゴル)の回答は如何に?


「ムムゥ…、そう云う事なら受けて立とう。弟よ、貯金は幾らだ?」

「は?! そっちの有り金使う気かよ! …金10枚と銀が半金分はあったかな」

「ム!? 貴様一体何に使ったらそれだけしか…ムホンッ、失礼、取乱した。こちらはすぐに用意出来る現金で合計金40枚分を賭けよう」

「…………貴様等、」


 盛 り 上 が っ て 参 り ま し た 。


 その後は3人で上乗せ(レイズ)合戦を繰り広げ、やがて3桁目に突入する頃に執事のセントさんが仕合の準備が整ったことを知らせに来た。

 実はここ、観覧席に併設された医務室で、座席兼階段の下にはこの様な部屋がいくつか設置されている。他に更衣室、待機部屋、倉庫がある。


「皆様大変お待たせ致しました。武舞台の防壁(シールド)設置作業が完了致しましたので席へご案内します。二人もご一緒に観戦しても結構ですよ。代理の審判が用意出来ましたのでね」

「ム? 代理の審判だと? 一体誰が…」

「丁度良い、一緒に観戦しようではないか。決着と同時に逃げられてはかなわんので私は同席を願いたい」

「ウーシッ良いぞ、こちらこそ望む所だ。互いに金120枚が掛かってるんだ。場外乱闘してでも払わせてやるぜ」

「貴様等如きで勝てると思っているのか? まぁいい、処で貴様等ドルモア卿がどの様に負k、いや貴様等の場合だからどの様に勝つかをまだ聞かされていないが?」

「ムゥ? まだ言ってなかったか? あぁなら言って差し上げよう、弟よわかっているな?」

「ウム、心得ているとも、伯父貴の常勝術…」


「「レガリア卿の場外負け!!」」


 あれだけ上乗せ合戦して場外勝利に賭けるの? 何と言うか…しょっぺーなぁ~

 それを聞いたラガリアは先程のレガリア卿にそっくりな青筋鉄仮面になっていた。

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