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チャリンコ・チャリオット  作者: 怠慢兎
第1章 ーワンパク ワンダー ワールドー
19/54

17. 情けは人の為ならず

 宿の前まで来ると見覚えのある3人組にばったり遭遇した。


「あ、君は…」

「おぅ元気そうじゃねーか、でもちゃんと飯くってるか?」

「その節は大変お世話になりましてありがとうございました」


 いつも酒場で出会う3人組で昨日誘拐されそうになった時に助けてくれた恩人達でもある。名前は知らない。前に見た時と同じくフル装備であるが、ここが宿屋の前だからか若干気の弛んだ表情が窺える。


「そう畏まらなくていいのよ、当然の事をしたまでだから」

「あれくらい大したことない相手だったから構わないよ」

「オメーはゲボ吐いてただけだろーが!」

「あれから1日しか経っていないけど変な奴に狙われたりしてなぁい?」

「ええ、何にもないです」


 だから部屋に戻らせて。


「そう、よかった。それじゃあさ、今から一緒にご飯でもどお? 奢るわよ」

「え?いいえ、御構いな」


 く~ぐぐぐるるぅ~


 ………漫画みたいな絶妙なタイミングで腹が鳴りやがった。そう言えば朝からぶっ通しで作業していて水分補給以外なにも口にしていなかったんだっけ。


「…………ぷっ」

「き、気にすることないわ、昨日の今日だけどあのお店に行くつもりだから」

「そうだ遠慮するな! オススメしてくれたあのスープは俺達も大好きになったからな!」


 チッ、これじゃあ断りづらいじゃないか。う~ん、まあどうせバウロも飲んでから来るだろうしそれまでの時間潰しにはなるかなぁ。


「じゃあ、ご馳走になります」ギロッ

「笑ったのは謝るから怖い顔しないでくれる?」


__________



「いらっしゃいませ~、席の準備が整うまで少々お待ちくださ~い」


 今日も例の酒場は繁盛しているようだ。丁度1グループが勘定を終えたようで座席にあぶれること無く座れそうだ。


「はぁ~やっと席に座れるぜ」

「すいませ~ん! ディナーセット4つでセットメニューはスープと「エール!」「大麦茶」と回復茶(ティーポーション)でお願いします。あ、君何飲む?」

「う~ん…」チラッ


 席に着いて早速慣れた感じで注文を始めてから尋ねられたので悩むフリして昨日からかったウェイトレスのお姉ちゃん(メイリ)をチラ見したら、ニッコリ微笑んだままゆっくり首を振られた。やっぱり飲酒はさせてくれなさそうだ。


「ハァ、じゃあったかいお茶で」

「僕、昨日は災難だったわね、特別にちょっと良い茶葉をサービスするわね」


 未遂とは言え事件の現場に居ながら気付けなかった己を恥じているのか知らないが申し訳なさそうにサービスしてくれるらしい。正直細かいメニューとか憶えていなかったからありがたくいただこう。


 そして料理を待つ間に自己紹介をすることになった。


「さてと、じゃあ改めて自己紹介をしようか、俺の名はジオグリフ、巷では“盾鎧”のジオグリフとして有名だぜ」


 どこの巷か知らないが言いながら見せつけて来る傷だらけの鎧は、半身だけとは言え鋼鉄をふんだんに使った重鎧で丁寧な手入れがされて大事にされているんだなと感じた。


「私はエドラよ。恥ずかしい二つ名とか無いから期待しないでね?」


 次にエドラと名乗ったこのお姉さんは昨日、人攫いに連れて行かれそうになった俺を最初に助けてくれた恩人だ。張り切って鎧自慢するジオグリフを冷たい眼差しで見つめているが、胸に斜め掛けしているホルスターの中のデカい拳銃の厳つさは鎧とどっこいどっこいだと思う。


「そして僕はドドラだよ」


 最後はパンパンに詰まった薬品臭いカバンを抱えて座る男はさっき俺のことを笑った奴だ。昨日の騒動の時にも居たらしいけど全く記憶にない。ところで『エドラ』と『ドドラ』? 何か似てるね。


「兄弟なの?」

「名前も見た目も似た部分はあるけれど実は血の繋がりや同郷であるとかそういうのは全然無いんだよ」

「実際の兄妹はコッチよ、似てないでしょ? でもむさくるしいのと兄弟と思われるよりもマシだから私が似せてるの」


 自身とジオグリフを指しながら説明するエドラの顔は皮肉めいた笑みを隠す素振りも無い。


「これが思春期ってやつか…」


 暗い笑顔で俯くジオグリフを気の毒に思った。エドラの照れ隠しだから気にしないで! 知らんけど。


「僕らはこの3人で冒険者パーティ『不退天』として活動しているんだ」

「リーダーは俺だぜ!」

「これでも全員赤白級だから依頼をする時はちょっとお高くなるけど、初回はサービスしてあげてもいいわよ?」


 俺のオヤジのコネを狙っているのを隠そうともしていない辺り、かなり自信を持った人達なのだろうな。昨日の警戒している時の身のこなしを見るにドドラ以外の二人は結構腕が立ちそうだ。見てはいないけど番いの大蛇の同時討伐も彼ららしいし、知識もある。

 オヤジを探し回っている時から考えていたけど半端な能力の人には頼みたくないからどうしようかと思っていただけに今日はツイてるゾ。恩人に頼み事するのは気が引けるけど、向こうも仕事を欲しがっているようだし別にいっか!

 依頼内容と報酬はどうしようかなぁ? サービスっていっても限度があるし…


「お待たせしましたディナーセットとお飲み物です。今日のメニューは“炭焼き大蛇”で~す!」

「おっ! 来た来た! コレコレ! えーと…一応名前だけでも教えてくれねぇか?」

「あ、すいません」


 料理来るの早ッ!? 何か俺がもたついたみたいになってるじゃん。え~とそういやフルネームで名乗ったことは無いけど、3人とも名前しか名乗ってないから俺も名前だけでいっか。


「エルドワーフと言います。両親からはエルドと呼ばれたりします」

「そうかエルドか! じゃあ今日はエルドに、乾杯!!」

「「カンパ~イ!」」

(4人中3人がお茶で乾杯か…)カンパ~イ


 そしてその後は料理に舌鼓を打ちながらエルドワーフは会話の聞き役に徹して楽しく過ごした。


 ジオグリフは前衛盾役、エドラは後衛遊撃、そしてドドラは回復役として傷口に手を突っ込んで悪い所を摘んだりナイフで切り取ったり薬を擦り込んだりし、仕上げに針で皮膚に穴を通して紐でくくって包帯を締める、早い話が外科医であるらしい。

 ポーションや治癒魔法も存在するが人間本来の回復力に頼った方が丈夫に回復するのでこの大陸でも外科医は一定数存在するそうだ。


「見てよこのナイフ! 剃刀よりも鋭く、ディナーナイフよりも小さく、そして軽くて丈夫な軟聖鉄製(ソフトミスリル)なんだよ!」


 消毒用の火酒を一口飲んでから舌の回ること風の如く、てか飲むなら注文しろよ。医者らしくメスとか自慢するのは結構だが、刃先をこちらに向けたりくるくる回すのは危ないぞ。


「はむはむっ、ゴクッ。ヘビって小骨が多いイメージだけれどこれはちゃんと全部取り除かれてるのね」

「お父さんこういう下処理するのが得意だから~」


 料理に舌鼓を打ちながらメイリと一緒にガールズトークに花を咲かせるエドラは、胸側に斜め掛けしているホルスターを食事の邪魔にならないように背中に回している。

 彼女の持つ銃は西部劇の銃士(ガンマン)が持つような所謂(シングル)(アクション)(アーミー)のグリップ以外をそのまま大きくしたもののようで、引き金は女性の手でも指が掛かるようにグリップへ向けて湾曲し輪を作っている。

 これだけの大きさなのだから相当な腕力か才能(センス)を持っているのだが、更に優れた探知能力も持っているというのだから凄い。流石恩人。


「聞~いてくれよ~、俺の鎧ローン組んであとちょっとで終わりそうなのにここへ来て受けた依頼(クエスト)が長引いちまってローンが払えなくなりそうなんだぜ~」


 愚痴を垂れるジオグリフはこの町へ来た目的をぺらぺらと教えてくれた。

 まずこの町へは他の訪問者達と同じく馬を買いに来たそうだ。それもただの馬ではなく種馬として使える大きく強い去勢されていない馬だそうだ。だが、折り合い悪く町中(・・)の馬は徴集と言う名の買い占めに会い、仕方なく外の牧場へ足を運んだ所これが放し飼い同然の放畜牧場で、そこに居たのは安全な場所で子育てする親子馬か怪我や病気で満足に走れない馬、豊富な食糧で太った駄馬と老いて死を待つ馬ばかりだったという。


「種馬と指定されていたから雌馬では意味が無いし、仔馬を引き離すのは心苦しい、かと言って死に掛けは論外だし100歩譲ってデブを買おうと思ったら中と外で主の性格が全然違って、これがまた話が通じず融通も利かない頭でっかち、そうこうしている内におデブちゃんは何処かへ行っちまってよ~。滞在費を稼ぎながらなんとか期限を伸ばしていたがそろそろ限界だぁ~」


 子供だからと油断しているのだろうが、この口の軽さは浅はかだな。とはならない、騙されないぞ!

 昼間っから酒を頼んだり昨日の不退天が囲んでいたテーブルのワインやラムの酒瓶の数々、ドドラは下戸だしエドラはあまり飲まないのに十数本はあったことからエールの大ジョッキ5杯程度で酔っぱらうタマじゃないだろ!? 何よりジオの心音が正常時と変わっていないのがその証拠だ。


 伊達にリーダーしてないだけあって曲者だ。だとしてもその依頼とやらをどうにかしないとこっちの依頼を受けてもらえないんじゃないか?

 だったら諦めようかと思ったら、横からメイリがコップに入ったバンバーミルクを差し出してきた。


「あちらのお客様からです」


 手で促された方へ目を向けると、カウンター席から先代の外の牧場主であるというピブルム爺さんが真っ赤なしわくちゃ顔をニコニコさせて「よっ!」と挨拶してきた。


 う~ん、俺あの爺さん苦手なんだけどなぁ。でも貰える物はありがたくいただきましょう。


 グイッとイッキにゴクッとコップを空にした。


 その様子に満足した様子の爺さんは上機嫌に笑いながらジョッキを手にエルドワーフ達の座るテーブルへ歩み寄って来た。


「んーんー、良~い飲みっぷりだなガキンチョ! 鼻の下に嬉しい(マーク)が付いてるぜぇ? そんなに美味いかぁ?」

「ごっそさんです」

「そーかそーか! 美味いか! そんでぇ? あんたら家の牧場へ馬を買いに来たってぇ~? そりゃ結構だが、あんたら季節を間違ぇてるぜ~」

「と言うと?」


 この時、陽気な顔した爺さんのにやけた表情がスッと覚めて娯楽を楽しむのとはちょっと違う、何というか仕事中のバウロみたいな笑みを見た気がした。


「あんたらも見たろ? 家のは牧場とは名ばかりのスッカスカの柵を適当に置いただけの放牧場、しかもお世辞にも軍馬に適したのが居るわけじゃねぇ。

 そんなんでどうやって儲けるかと言うと母馬たちからお乳をちょいとお裾分けして貰うんだ、これが結構都とかでは人気なんだよ。

 それと今みたいに戦争で町中の馬が持ってかれちまった時に備えて中の連中に丁度今居る牝馬を売るんだ、場合によっては親子セットで。あっちも最低限専用の種馬だけは残してるしな。

 おっと、今の話はオメ―さん等には関係無いかァ?」

「まぁ、面白そうだけど正直自慢話を聞かされてるだけにしか聞こえないわ」

「デッハッハー! 正直だねぇお嬢さん! じゃ、本題に戻るが、家の牧場にだって軍馬に適したのが居る時期がある。それが冬の明けた春頃だ。

 自然の馬は群れを作って生活する。繁殖を終えて暫らくはなぜか安全な我が家の牧場に身を寄せて、ある程度大きくなるとまた群れへ戻る。

 群れはあの広い草原や丘を越え、森の中を駆け回るんだ。森の中は壁の中で安全に暮らす連中には考えもつかない程の危険に満ちている、あの騎士伯様ですら行けばボロボロになって帰って来なさるくらいだからな!

 ンクッ、クハーッ!

 そんな中で群れは逞しく成長していくんだ。

 そうして1年が過ぎ厳し~い冬を越えた頃、群れの長以外のオス達は独り立ちを迫られる事になる。

すると不思議なことになぜか挙って我が家の牧場へ若馬達が集まって来るんだ。

 1年の中でこいつらのいる春先が家の牧場の稼ぎ時さ!中で生まれ育ったのよりも、群れで自然に揉まれた若馬達の方が一回り大きく勇敢で賢く、真のバンバーホースの名に相応しい!! もちろんちゃぁんと玉々もついてるぞ」


 昨日も勝手に喋って好きなだけ話しまくっていたが、今日は饒舌というかプロのセールストークのようにスラスラ話す。合間合間の息継ぎがてらジョッキの酒を飲むのも忘れていない。


「おいおい旦那ぁ、つまり時期が違うから出直して来いって言ってる様に聴こえるぜ?」

「おーおー、そう聞こえるってんならそれもまた間違いじゃねえゾ? だが言いてえのはそんなんじゃねえ、席は譲っちまったが一応牧場の名義は俺っちのままよ。商品はちゃんと売り込まねぇと」

「あら、おかしいわね? 売り込むって言っても、時期が違うからその真のバンバーホースとやらも今は居ないんじゃなかったかしら?」

「あーあー、話を遮らねぇでくれるかいお嬢さん? だからヨ、今は居ねぇもんはしょうがねぇからサ、予約ってことで先に一頭分支払えば時期が来たら一頭好きなのを持ってって良いゾってことだ!」

「ハァ? そんなの不作だったりした時はどうするの?保証でもしてくれるの? それに酔った勢いの口約束って言って後でゴネるんじゃないでしょうね」

「んな無粋な真似できるかよ! 何年この仕事やって来たと思ってんだ!? 信用ならねぇってんなら一筆書いてぁ後、半券も出してやらぁ。期限無制限の一回使い切りにさせてもらうが、それさえありゃ相手があんたらじゃなくても有効だから、ブツは無くとも一応依頼は達成って事に出来ると思うぜ~? デハハハハ!!!」


 これまた何と言うか、会話している時のピブルム爺の生き生きとした顔と言ったら、最初っから酔ってなんていなかったんじゃないかと思う位朗々とべしゃる。

 メイリもポカンとした表情でビックリしている。珍しいことなんだね。

 そういや会話が盛り上がっているのに一言も発さなかったドドラはいつの間にか自分の火酒で酔い潰れていた。


「その申し出はありがたいが聞かせてくれ、何だってそう良くしてくれるんだ? 牧場ではあんたには会わなかった筈だぜ?それにあんたの息子のプブルムは春になってから来いの一点張りだったのに勝手にそんなことして大丈夫かい?」

「息子はまだまだ未熟だ、相手を見て態度を変える癖を持ちやがる。だぁっから俺っちが口を出して儲け時を逃さんように目を光らせとくんだ! その点、上の孫の方がまだしっかりしててよぉ…と、また話がそれるとこだった。でよぅ! もう一つ理由はあるんだ、そこの一緒に座ってる子供だがな」

「ふぁ?!」

「ガキンチョ自身じゃなくてその父親がこの町ではドルモア様に並ぶ英雄であるんだぜ。その子供と良くしてる相手ならこっちもそれなりの対応をしてやろうと思ってなぁ!」


 あぁ、そういうの? 薄々感じていたけどね。やけに伯爵様と馴れ合っていたし、昔からの知り合いって本人も言っていたし。


「へ、へ~そうーなんだー(棒」

「そそ、それってもしかして町を襲った獣達の暴走(スタンピード)に居合わせたっていう“炎の精霊”様と“拳の精霊”様のことですか!?」

「そうそれの炎の精霊様の方だ! 50年も前のことだけどありゃ凄かった、異識(ドルモア)様が剣を振るえば獣がバタバタ倒れ、炎様が薙ぎ払えば焦土が広がり、拳様が殴れば血の雨が降ってくる。ありゃ正に地獄だった」

「ふぇ~」


 容易に想像はつくけどそれよりも何だ“拳の精霊”って、J・Cの香港映画か!? たぶんエリーのことだと思うけど精霊っていうほどファンタジックではないと思うぞ、むしろ拳の暴力(バイオレンス)だろ。

 あ~、なんか最初は助けてもらった縁で晩ご飯のお相伴に預かれたのに、いつの間にか聞いてもいないのに両親の武勇伝を語られていたでござる。どうしてこうなった?! 両親の昔の厨二チックな二つ名とか恥ずいわ!! しかも町全体に知れ渡ってるくさい。


「って訳でお前さん等はこの子のお陰で馬を買う権利を手に入れられるんだ! おっと息子の事は気にしなくていい、元々時期を間違って買い付けに来てしまった商人には半券を発行するのが普通だ。あいつはそれを貴族相手にだけ実施して媚びへつらう馬鹿野郎だ。まったく、誰に似たのやら。だから目を離せないしこうして酒も欲しくなる」

「ああー! まーたジイちゃんこんな所で酒を…あれ? いつもよりそんな酔ってないの? 珍しッ?!」


 これまた昨日の今日でお孫さんが迎えに来たようだ。ピブルム・プブルムと来たらぺブルムか? 確かこの町には居ないけど妹もいるらしい。


「おー! フィーノ! 紹介しよう、こいつが次のバンブルム牧場の主、フィーノだ! 我が孫よ、喜べ! 商談が一つ纏りそうだから手柄をやろう! デハハハハ!!」

「まーたジイちゃん勝手なことを…。あ、アンタ昼間の? いやーウチのジイちゃんが勝手なことを言ってすいません」

「おい待てよ、勝手ってこっちは真剣に考えてるのを無かったことにするつもりじゃねぇだろうな? あんたの親父は聞く耳を持っちゃいなかったが、俺達は去るお方から依頼を受けた“赤白”級冒険者だ、意味わかるよな?」

「・・・・・ああ、ええわかりますよ。…これを、この札を持って明日また今日と同じ所へ来て下さい。話は此方でつけておきますから、今日の所は爺様を連れて帰らせていただきます」

「ありがとよ」

「デハハハハ! 今日は久しぶりに美味い酒を楽しんだZe!」

「ハァ……ではまた」


 そうして豪快に笑いながらピブルム爺さんと重い溜息を吐くその孫フィーノ君は店を後にした。

 フィーノ君の赤白級と聞いてハッとした後の変身っぷりは見ものだった。


(ぺブルムじゃないのか~)


 どうでもいいんだけどそこだけガッカリした。

 それにしても随分都合良く問題が解決したぜ、これで心置きなく依頼を出せるかも知れない。


「~~~っアッハッハッハ!!!! コリャァ良い!!! 伯爵様と縁のある子供を懐柔しようと飯に誘ったら面倒な依頼達成の目処がついた!! 干物でダゴン釣っちまったぜ!」


 感極まったジオグリフが手を叩いて爆笑している。妙な言い回しだが海老で鯛を釣ると同義語である。っていうかそれだと俺は干物になるのか?


「いや~これはエドラ様様だわ、あの時助けといて良かったぜ。そしてお前もだエルドワーフ! お前のお陰でローンの期限は守れそうだ」

「フフン、当然よ」

「ズズッ。良かったね」

「あの、回復茶追加で…」

「この町じゃドワーフや他の種族って珍しくないけど、君のお父さんそんな凄い人だったんだねぇ」

「あの、お茶を…」

「一件落着ついでにぼくからもお願いしていいですか?」

「あら、何かしら?」

「・・・・・」


 こういう良い流れの時は流れを断たずに願いを乗せればきっと上手くいくと相場が決まっている。

ドドラよ済まないが注文は俺のが先だ。


「ギルド通しますんで護衛してくれませんか? 主に荷物の」

「ん~? さっきの話によればエルドの親父さんはかなり強いらしいじゃねぇか、それこそ伯爵様に並ぶ程に」

「イヤイヤ、親父から(・・・・)荷物を守って欲しいんです」

「「ハァ?」」

「ハォ…オゥ゛、(トイレ)行ってきます…」


 いってら~、アイツ込み入った話になると面倒だからわざと酔ってるんじゃないか? いいけど…


「それっておかしくない? 盗賊や怪物ならまだしも…」

「・・・・・ふむ、何となく察しがつく。ドワーフの(さが)ってやつか? 酒が切れるとブチ切れるってただの種族ジョークかと思ってたが滅茶苦茶したそうじゃねぇか。でも俺達もこれで冒険者だ、荒事には慣れている」


 ここでエドラがジオの鎧を引っ掴んでこそこそ話を始める。


(ちょっと待って本気? そりゃ私もサービスするとか言っちゃったけども!)ヒソヒソ

(良いじゃねぇか寄り掛かった船だ。たった今エルドのお陰でこっちの依頼がひと段落着いたし、あっちの依頼くらい受けとこうぜ? ここは端っこの町、王都の手前の町まではほぼ一本道だ。行き先が別々でも途中まではどうせ一緒だ(たぶん)。それまでの間なら俺たちにとっても無理は無いと思うし、ほらギルドを通すって言ってくれたから報酬も出るぜ?)ヒソヒソ

(うーん……)


 2人はこちらをチラチラ見ながら相談していたがやがてエドラが渋々了承することで話はまとまったようだ。これで旅の間の心配事が減るだろう。


「決まったぜ。エルドの依頼、受けてもいいぞ。ただし、ちゃんと親父さんと相談した上で依頼を出してくれよ?」

「はい、今日のうちに相談してきます。・・・依頼は取り違えが出たら面倒なので待ち合わせますか?」

「お? 気が利くねぇ~、確かにこの手の依頼はここじゃたくさんあるからな。間違えましたは困るもんな。こっちも用事があるし、昼にギルド前で良いか?」

「はい、お願いします」


 その後は御馳走を平らげて満足したら宿に戻ってそこで別れた。やはり3人も同じ宿に泊まっているようだった。


__________



 エルドワーフこと俺の耳はやたらと感度が良い地獄耳だが万能ではない。

 実家の周辺や森の中は基本的に静かで小さな音を拾うには都合が良かったが、町へ来て外を出歩けば喧騒が五月蠅く夜になればどこかの酒場か路地裏から吐瀉物の落ちる音が聞こえて精神衛生上よろしくない。しかし聞きたい音聞きたくない音を選別して聞き分けられる聖徳太子のような技を身に着けられればこれから先、どこへ行くにしてもきっと大いに役立つだろう。


 この耳をキチンと使えるようになってすぐ幾つかのメリットデメリットに気付いた俺は、文字が読めなかったり身動きが出来なくても可能な修行(暇潰し)として耳を鍛え続けた。

 それは強くなりたいとか高みを目指してとかいう向上心から来るものではない。ただ己の知的好奇心と欲求を満たし得る便利なツールとして鍛えたに過ぎない。

 具体的には今こうして夜中に明かりも点けずにひっそりと周囲に耳を傾ける。いくつもの部屋を仕切る壁を越えてぼんやり目的の声を探す。


(………ぁ、あ…)


 !!キタ――(゜∀゜)――!! 今夜一発目幸先良く来ましたァ!! 声の高さ的に女性の声です!


(はぁ…ぁ………)




   あーっくしょんッッ!!!



( ^ω^)・・・・・・

 まあ最初はこんなもんだ、全部が全部上手くいくとは限らない。なに、ずっと心身共にシンドイこと続きでだったけど一人で心置きなく行動できる空間に居られるから他人の目を気にせず静かにはっちゃけようとしていきなりおぉ!? な感じからん~ん、って感じに落とされてうんちょっぴりガッカリしているけれどこれはそう、許容範囲内だよ。うん、土地柄北側だから夜は冷えるし! これは俺がやりたいことの準備みたいな事だし?


 ふぅ、声に出すのは迷惑だけど偶にはこんな事して発散するくらいは許される人生だよね、オレは。

 フヒヒ、今度は気合も居れて可聴音量を広げていこうかな。


 この時は疲れと眠気とそれから娯楽に飢えており、思考判断力が鈍ってしまっていた。表面上は何でもないように見えて中身は20年+10年の男子、女性の事は書籍や画面の中で見聞きした情報でしか知らない思春期真っ盛りで身体も若いまま今日まで生きている。

 長らく(シバい)ていなかった息子に愛のムチを打たんとしてまた精神を集中させている。


 ・ ・ ・ ・ ・

・ ・ ・

 ・

 バタンッ!!


「戻ったぞい、エルドゥ―!?」

「ギャァ?!」


 密室で息も殺して耳を澄ませていたから突然部屋に満ちた扉の開閉音と声に鼓膜が破れるかと思った。心臓もドキドキと警鐘を鳴らしている。


「また気配を殺して何かやっとると思ったがズボンも履かずに何………あ」

「………………」


 『あ』じゃねぇよ! クソッ! 俺としたことが一人になったことに浮かれて注意を怠ったか。起きてしまったことは仕方ない、ここは開き直って何でもないように振舞ってうやむやにするのが一番ダ。


「あ~ここには少し長居し過ぎたか、全くどこでそんなん覚えたかは敢えて聞かん。だがまぁ座れ、余りにも早過ぎるが知識に早い遅いは無いというのがエリーの方針じゃしな。それにワシも悪かった、ノックしなかったのはちょいとした悪戯心で脅かそうと」

「そんなことより、ちゃんとお土産とか持って来た? 明日の事で話したいことがあるんだ」ズリズリ

「ん? ああ…そ、それな。うむ、あるぞ」


 気まずい空気はどうにも居心地が悪かったが、先程決めた『不退天』による護衛依頼の件は勢いで了承を得られたので良しとする。被害者は見られた方なのに淡々と話を進めるエルドワーフを見るバウロの目は終始不気味そうな目をしていた。


__________



「……それでな、明日はいよいよこの町を出るぞ。お互いにやんちゃしちまったがここは心を入れ替えて、景気づけにコイツを飲み明かそうゾ! な!!」


 どんっ と机に置かれたのは全体的に丸みを帯びて栓のされた白い壺。壺の表面を覆う釉薬が燭台の明かりを反射して艶々とした彩りを醸す様は見ていて美しいと思う。


「・・・・良い壺だね、これは?」

「ンッフッフッフ、壺も良いが此奴は裏側(・・)の大陸より遠路遥々輸入されたという高級酒。その名も『黒馬(こくうま)』! コクのある深い味わいと香りが極上の一品と聞いてドルモアから買った火酒じゃ」


 伯爵様から購入したということはさぞかしお高いだろう。壺を半回転させると反対側に黒い墨で酒の名と黒い馬の絵が描かれている。


 昔(前世)酒屋さんで似たような焼酎を買った気がする。微妙に読み方は違うしひらがなだったし壺でもなかったけど、このどことなく懐かしい故郷を彷彿とさせる酒なら気持ち良く酔えそうな気がする。


「おっと、この事はドルモア共には内緒じゃぞ? 今度はワシがしょっ引かれてまた釘付けになっちまう……もう懲り懲りじゃ」


 今日を入れてもう三日もこの町に滞在していた。でもそれも明日まで、明日の昼過ぎには船に乗って湖を渡って次の町へ出発しているだろう。

 この町には大して見るべき所は無い淋しい印象があるが、憶えておいて損の無いことや家では決して体験できないこと(拘束・牢獄・誘拐 etc...)もあって良くも悪くも記憶に残る町だった。


 飲んで寝て英気を養って明日に備える、そして早くこの町を出て行こう。何が心配って積み荷の生ものが一番心配だ。

 って思ったらまたしんどくなるわ! もう飲むぞ! 飲んで呑んで飲まれて呑んで、呑マ呑マオゥエ゛ェ!! ってするぞ。


 と心の中だけで叫んで、親子対面になって静かな晩酌で夜を明かした。

日本の法律では飲酒は20歳以上しか認められていません。

現時点でエルドワーフは10歳で飲酒していますが皆さんは法律を守って未成年の飲酒を止めましょう。

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