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チャリンコ・チャリオット  作者: 怠慢兎
第1章 ーワンパク ワンダー ワールドー
17/54

15. 非行少年捕物劇? @+

 双子の満月に照らされて昼間のように明るい町中を歩くこと数十分、鉄の足枷で普段通りに行動出来なくて半分後悔しながらも無一文のガキに優しくしてくれた恩人の出してくれたスープに思いを馳せながら歩き続けて漸く目的の香りを発見した。そこからは早かった。


 見覚えのある店構えと鼻腔を満たす芳醇な香りに歓喜しながら意気揚々とドアを押し開くと、外と違って朗らかなランプの明かりに包まれた洋風食堂だった。


 こう…異世界酒場ってもっと野太い活気に溢れたものだと思っていたけどここの客層は若い冒険者から年配の夫婦までと幅広く、特に客のほとんどはおそらく近所の住人だろう、そして全員がパンとスープ+αなメニューな上カウンターには以前は居なかったお姉ちゃんが接客していたので店を間違えたかな? と表に戻って看板を探した。


 大衆酒場『馬小屋亭』、今初めてこの店の名を知り、そしてちゃんと看板に酒場って書いてある。


 うーん? 以前来た時は昼前の一回だけだし、時間帯で客もシフトも違うんだろうと納得して改めて入店した。


 入店から「いらっしゃいませ」の一言も無くカウンターの端に座った、何故なら以前(前世)から敷居を跨ぐ際につい癖で気配を消してしまう。気付いた時の相手の反応が面白可笑しいんだけど、親戚の家でやった時は懇々と説教されたっけ。身に付いた癖は中々直らないし直す予定もつもりもないけどね。

 L字カウンターの短辺が丁度空席なのでそこから彼女を観察してみた。

 年の頃は17~18歳、目と髪の毛は同色のブラウン、長い髪を後ろで括ってそばかすと小綺麗なエプロン姿で快活そうな看板娘って感じだ。太っているわけではないけど全体的にふっくらしているのもチャームポイントだ。

 眺めているのも目の保養になって良いけど、お腹は膨れないからちゃちゃっと注文してしまおう。


「取り敢えず白スープと一番キツイヤツちょーだい!」

「ふぁわっと!? えぇと、青ラベルの火酒と特製スープで銀3枚・銅5枚になりまふ!」


 ふッ? (テンパ)って噛んじゃってかわいい。そして初めてこっちに気が付いて目を丸くすると、横からじゃわからなかったけど黒目が大きいのに気付いた。と思ったらムスッと一瞬顔を顰めてしまった。当然か。でもすぐにニッコリ営業スマイルに戻って近づいてきた。


「ちょっと僕? いつからそこに座っていたの? ここは確かに看板に酒場って描いてあるけれど、背伸びするにしてもいきなり火酒は無謀よ? それと、君くらいの子供だと(飲み物は)水かバンバーミルクしか出せないの、我慢してね?」

「え…、ここまでスープの為に歩いてへとへとなのに水か馬乳だけなの?!」

「え?」

「え?」

「……飲み物はってことよ! ていうかへとへとなのにお酒を頼むの!? ハァ、とにかくウチは先払いだからね、あと銅貨5枚追加でパンのおかわりが10個までタダになるわよ」

「じゃあそれもお願い、はい」チャリリーン

「えーと、…銀4枚?」

「え? 足りるでしょ?」

「え? ………銀貨1枚預かりました! すぐにパンと温かいスープを持ってくるわね! それとミルクをサービスするね」

「おぅ! 昨日今日はおれっちんとこで卸したやつだぜぃ!」

「誰今の?」

「3つ隣に住んでるピブルムさん、門の外に牧場を持ってるの」


 そうしてサラッと躱されて結局火酒とやらは注文出来なかった。口惜しや

 で、選手交代で入れ替わったのは旋毛(つむじ)から顎先まで真っ白なのに顔は茹蛸のように真っ赤なへべれけじーさんだった。


「まーまー、そう残念そうな顔するなヨ。家で採れた乳はウメーぞォ!」


 そしてこのピブルムとかいうおっさんはかなり出来上がっているようでやけに絡んでくる。


「あ、どうも…いただきます」

「ガキンチョが畏まンなって! 他所から来たんだロ? バンバーに馬を買い付けに来る商人でこの町は成り立ってるからよゥ! その手伝いの小僧でも歓迎するぜぇ~、デハハハハ!」


 うぅ…、飯を食う時はなるべく静かで会話は多少程度にゆっくり咀嚼して楽しみたいのに…

 顔でどっか行けって促しても構わず寄って来る、酒臭~


「そんくらいにしときなよピブルムの旦那、孫娘が学校行って淋しいからって赤の他人に絡むなよ」


 おー!? 良いタイミングでマスターが登場した。居たのか。にしてもアンタやっぱり俺の救世主だよ。ホカホカのスープに丸いパン、そしてお約束と言うか馬ミルクのセットを持ってきてくれた。

 あたためたスープは相変わらず煮込み過ぎて具になったであろうすべての食材が完全に溶けて一見ただの白い水である。しかし香りを嗅ぐと溶け込んだすべての食材が鼻腔を突き抜けもう美味い! いただきます! …ッァチ!


「うるへィッく! おれっちだって向こうで隠居して―のによォ、息子夫婦がしゃっきりしねえからしょ~~がなくなぁ…」

「あ~~、オジキ! 先生に飲み過ぎは控えるようにって言われてたじゃんかぁ~! 帰るよ!」

「んだらぁ~!? テメー社員じゃねぇかYo! 社長命令だ、もっと飲ませろ!!」

「現社長は俺の親父だろ!? スイマセン、家の爺さんがご迷惑をお掛けして」

「おう、お大事に~って、お前さんはマイペースだな」

「もっと呑まSay!Hey!Yo!カマンッ!Ah!!」

(スズ――…ゴキュッ)


 騒ぐのは勝手だけど出来る事なら回避するし今腹減ってるんです。嗚呼、軽くトーストしたのか表面がさっくり中柔らかくってウメー!


「で? 父親は見つかったのか? ん?」


 スープを冷まさず飲んで火傷しかけた喉を冷やすのにぬる~い馬ミルクを一口含んで人心地。


「黙って堪能させて」

「・・・・・」


__________



「マスター、これ、前の分、それとこの間はごめんなさい」


 待望の白スープをじ~~くり堪能させてもらったことでここに来た目的を思い出してこの間の事を謝り銀貨を2枚支払った。

 接客の様子を見て頃合いを図ってタイミングを合わせた行動だったが、一瞬呆けた様な表情を取ってから思い出したかのようにそんな事と返してくれた。


「はぁ? あの時の事を気にしていたのか? サービスするって言っただろうが、それにこれじゃ払い過ぎだ」

「いえ、いろいろ良くしてもらっといて何もしないのは性に合わないんで。あ!お腹空いてるから余計な分はそのままオススメディナーにして下さい」

「回りくどいガキだな、そういうのは大人になって捻くれてから覚えるもんだぞ。ああ、わかった腹いっぱいにしてやるよ。メイリ―! 冒険定食白だ!」

「ハァーイ!」

「酒場なのに定食? あ、そうだ詰所の食堂のマスターのお父ちゃんがここのコト褒めてたよ」

「俺の親父にあったのか? ……チッ、何て言ってやがったんだ?」

「手の込んだ料理も出すから食いに行ってみろって」

「…それは褒めてるとは言わないんじゃないか。そうだ親父と言えばだ、お前の親父さんは見つかったのかい?」

「暢気に飲んでたよ、何か偉い人と一緒だったみたいだけどそこでちょっと喧嘩しちゃって、今朝牢から出してもらえたところです」

「ふぅん、やっぱりそうか。詰所の食堂を職員以外が利用出来るのは飯食うついでに面会したりこっそり調書を取る時だろうからな、ウチの親父に会ったんならそういうことだろ。しっかし、俺も話でしか聞いちゃいねぇが随分派手にヤりあったって? …っと、そろそろ客が入れ替わる頃だな、続きはまた今度な」


 まだ何か聞きたそうだったがここでウェイトレスことマスターの娘、メイリが料理を持ってマスターと入れ替わった。


「はい、冒険定食白、お待ちどお様! 今日は“ポテツサラダンゴ”と“身抜き魚の素揚げ”、そして“くず肉つみれ10個”だよ!」


 うーん、銀貨2枚出して出てくるのがこれか~。悪いとは言わないけれど名前が安っぽい、ポテサラ団子は名前通りの物が大人の両手を重ねた拳大で一つ、身抜き魚=骨のみの素揚げが沢山、くず肉はまんま何かと何かの肉の切れ端の塊が10個ほど、確かに腹はいっぱいになるだろうね。まあ、定食の名前が冒険定食白だからねぇ。


 冒険者には階級制度が存在していてそれは大きく2つの階級に分けられる、それが“色級”と“金属級”という。金属より色の方が下の階級でさらにいくつかの色でランク分けされるのだ。そして色級の一番下が“白”なのである。


 有り金の少ない新人冒険者向けに少ない料金でたくさん食べさせてやろうというマスターの優しさ溢れるメニューである。

 俺は別に冒険者でもないけど。

 食べたら美味かった、人参と笹みたいな野菜をねっとりした山芋っぽいので固めたポテサラはまあまあだったが、素揚げとつみれは元の食材が良いのか量を抜きにしても値段の割に美味しかった。

 ただ一つ残念なのはこのメニュー、絶っっっ対に酒があったらもっとおいしいのに、美味しいのに!


「エール1杯!(裏声)」

「ハァーぃ…!? ……ダメだよォー」


__________



 俺は飯を食う時はマイペースだ、小学校ではチャイムが鳴ろうがみんなが運動場へ遊びに行こうが、またチャイムが鳴ろうが満足するまで食っていた。


「お前さん…、無理することねぇぞ。いや、勝手に注文入れた俺が悪かったがよぅ。もう子供は寝る時間だ、宿へ戻った方が良いぞ」


 イヤイヤ金払って出されたんだから食べますよ。それに美味しいのには変わりないですしおすし。


 こうやってカウンターの隅で店を眺めていると少しわかったことがある。

 ここはちゃんとした酒場である。ただの食堂だと思っていたけど、ココの客は時間帯でガラッと客の雰囲気が変わる。まだ早い時間は腹を膨らませたい冒険者や夕餉を食べに近所の家族が集まって来る、そして夜が段々深く遅くなってくるとさっきのピブルム爺みたいにへべれけになった吞兵衛共がどこからともなく集まって来る。今日の〆に寄ったのかそれともこの後も別の店に梯子するのか定かではないけど今日一番イメージに合った酒場だ。

 アッチを見ればどっちの腕相撲が強いか賭けをしているし、ソッチを見れば乾杯の音頭を揚げているし、コッチを見ればマスターがグラスを選んでカラフルなカクテルを作っているし、ムコウを見ればヒソヒソ最近の出来事について話をしているようだ。何々? ギルドバーで喧嘩した親子の子供が釈放されたって? 俺の事じゃん! えっ? そいつを探して言いくるめればオヤジが売り込みに来た素材を独占できるかも、だとぉ? 舐められたもんだ、残念だが筒抜けだよ!

 あ! 今入って来たグループにブリンシットさんが居る、でもフラフラして顔はニッタニタ笑って締まらないなぁ。


 これは予感だけど、こうやって待ってたらオヤジ(バウロ)もやって来るんじゃないか? そう思いながら待つこと暫らく、やっと完食して億劫になって眠気を感じるようになった頃に声を掛けられた。


「よう坊主、こんな所でぼぅっとしてっと攫われちまうぜぇ?」


 カウンターにもたれて目立たないように座っていたが睡魔に負けて一瞬緊張が解けた途端にひげ面のおっさんが近づいてきた。しかも一人じゃない、何人だ?


「オメ―アレだろ? 昨日の昼間っからギルドの酒場で親子喧嘩したっつーガキだろ? ドワーフのガキにしちゃ随分華奢なナリしてんだな」

「この町にゃ学校がねーから幼年学校行くようなガキ共はみーんな湖を挟んだ向かいの町の学校へ行ってる筈だからなァ、それ以外のガキは商隊や興業についてってるか親子で行商してるとか、さもなきゃこんな時間にこんな所でいる不良少年君くらいのもんだろーよ」

「お? 腕にねーから焦ったけどあったぜ、鉄環。脚に着けてやがった」

「鉄環って普通大人用だからな。それにしたって脚か、ま、どこでもイーけどよ」


 頭悪そーな喋りをする頭悪そーな顔した3人組がこんな幼気な子供一人を囲っている絵面はどう見てもヤバいでしょ。しかも一人は変なとこ弄ってるし!? キメェよ!!

 気色悪いのと貞操の危機を感じで魔力を練ろうとしたが、練ったそばからどんどん鉄環に魔力が吸収されていってしまう。


「おっと、鉄環が早速反応しているぜェ? こりゃ驚いた、学校も行かずに魔力の扱いが上手じゃねぇーか、えぇ?」

「ガキの癖に鉄環が反応するほど湧かす(・・・)なんて大した物じゃねぇーか、もっと頑張りゃ光んじゃねぇーの?」

「だったらとっととズラかろーぜ、町のもんに気付かれはしねぇーだろーがヨソもんの冒険者連中にゃ俺の才能(センス)が通じるかわかんねぇや」

「くふぅあ~あ(離せどサンピン! 耳から指突っ込んで喉ちんコにブレイクダンス踊らしたろか!?)」


 くっそ!? 叫び出して暴れてやりたいのに気の抜けた欠伸しか出てこない。何か知らんが才能を使っているらしい。

 マスターは料理を作りに奥へ引っ込んだし、メイリはテーブル席の客と世間話に花を咲かせている。この隙にエルドワーフを誘拐するつもりらしい。


 外へ連れ出す方法はシンプルで、3人でエルドワーフを三角に囲って出口まで歩くだけ。

 強烈な睡魔で意識が飛ぶのを懸命に堪えてはいたものの、首根っこを掴まれ半ば引き摺られるように立たせられたら、むさくるしい三角形におしくらまんじゅう状態で歩かされた。


 こんな見るからに不自然な3人+1に誰か気付くだろうという願いも空しく出口までもう目前まで迫ったところで願いは聞き遂げられた!


 一人で先頭を歩くバカが出口の戸に手を伸ばしかけた所へ突然横から長い美脚が飛び出してきた!?


「ちょっとそこのおっさん3人さぁ~、そんなにピッタリくっ付いて気っ色悪いわね~ぇ?」

「へへッ、俺らってケッコー仲良しなんだよ。そこ失礼するぜェ」


 若い女性が人攫いの行方を塞いだようだ。

 ガツンッ! と音高く床を蹴る音が聞こえて3人は後退りした。


「良い年のおっさんの仲が良いのは結構だけど中の子は(・・・・)苦しそうよ? もっと離れて歩いてあげないと…」

(チッ、感知持ちか?)

「お嬢さん、結構酔ってるみてーだが絡み酒は他所でやってくんな。こっちはいつもこーなんだよ」

「そうなの? でも子供は大事に扱わないと、それだけくっ付いてると丁度顔が塞がって息がしづらいかも」

「なァ、すまねーがそこをどいてくれや」

「いいや、そこをどくのはアンタ達の方だ」

(おい)

(!?)


 気が付くと人攫い達の周りに男が2人立っていた。どうやら女性の仲間のようだ。

 険悪な雰囲気に周囲も気付きだした。


「どうした? そこから3人とも離れるだけでいいんだが?」

「・・・・・・(ゴロゴロゴロ―…)ゥップ…」

「チッ」


 ぼんやりと暗い視界が不意に明るくなった。前の男が少し横にズレたようだ。


「いいかネーちゃん、俺達はただ非行少年を保護してやろぅとしてるだけだ。ほれ、こいつを見てみな、拘束魔錠(マナロック)の鉄環だ。こいつが反応してやがる、つまりここから連れ出してやらねーとコイツの命が危ねーんだ。わかるよな?」


 何か話し合っているようだけどもう、会話の内容も聞き取れないくらいにぼうっとしてきた。それでも意識を繋いでいられるのはいつでも反撃できるように魔力を練り続けているkらd…


「わかってないのはそっちでしょ? その鉄環は町に居る間だけ一定の行動が許される証よ。この店に来た時にその子には気付いていたけど、鉄環が反応しているようには見えなかったわ。それに、おかしいわね? それ(鉄環)が反応しているなら、周囲にわかるように周波導(マナウェーブ)を発生させる筈よ」

「へぇ~、よ、よく知ってるじゃねぇのお姉さん(ピクピクッ」


 男が論破されている間に後ろの人攫いはどうやってここを突破するか考え、同時に女性の仲間は包囲を縮めていく。


(どうする)

(どーするもこーするもねーよ、隙を見つけて強行突破だ!)

(おう)


 6人(?)の緊張が高まり流石に店内の酔っ払い共も何だ何だと騒ぎになりだし、メイリもやっと気付き始めた時に事態は急速に動き出した。


「ンアッハッハッハ!! 今日の最後の店はここに決めたぞーい!!! …ンヌオ!?なんじゃい!? 入口開けたらデカい桃がひとーつ!! ってどかんかい!!!」

「キャア!!?」


 野太い笑い声が聞こえてから甲高い叫び声が聞こえたと同時に前方に引っ張られた!? と思ったら一瞬体が浮いて気付いたら人攫い2人に抱えられて、その2人は尻もちをついていた。


「何じゃ何じゃぁ!? こんな出入り口で喧嘩かァ!? ワシの飲酒を阻むってんならまとめてワシが解決しちゃるわい!! ………んなとこで何しとる? エルドワーフ」


 今何が起こったんだろう? ぼーんやりしてたら飛んで、そっから混乱が起きて…毛達磨のドワーフが叫んでてそのドワーフは俺のオヤジなようで


「お~、オヤジぃ~? 性懲りも(にゃ)(しゃけ)(のん)に来たのかよぅ~」

「はぁ? オメ―の親父かよ?」


 さっきの衝撃で嘘のように睡魔が消えてなくなり、冷静に考えて根こそぎ吸収されるなら無駄な練魔もやめてとりあえず一応の危機は回避出来たかな? でも会話は魔力無しなので舌っ足らずだ。


「ンーン、何かよーわからんことになっとるようじゃのう、ンアッハッハッ…。とりあえずそこの方ら、どけ」


 喉が鳴るが早いかエルドワーフを支えていた片方の男の顔面が吹っ飛んだ。そしてエルドワーフは投げ出された!


 酒場の空気が一気に氷点下まで下がった気がする、その冷気で俺の意識も完全に回復した。


「ン゛~、もうちょっと優しく降ろしてくれよなぁ~」

「えあ?! す、すまねぇ…」

「おぅエルドや、何だってこんなんなっとる?」

「ン~…、このお店酒出してくんなくて粘ってたら眠くなって…なんか非行少年がどうたらこうたらで補導されそうになって云々…」

「ハァ? 補導? 保護者も無しに酒場に居たらそうなるわい、たく」


 ホッ…、ここで下手なこと言って油断してたとか知れたらお母さん(エリー)程じゃないにせよエライ目に遭うかも知れない。しかもただでさえ拳骨をやっちゃったからねぇ…。くわばらくわばら…。


 ゴトンッガタッ


「痛ってーなーよくもやってくれやがったなー」


 ここで再登場先頭の男、でも残念、お前がノびてる間にほとんど終わったよーなもんなんだよ。


「もうヤメロ、ゾーラ!」

「おい、俺の店の物壊すんじゃねぇ!」

「許さねぇ―ゾ!!」

「くはぁ~あぁ…」


 (ゾーラ)と男を投げ飛ばしたバウロの間にはエルドワーフが立っていた。当然このまま飛び掛かられると直接やってないエルドワーフに飛び火する訳だから、欠伸のついでにひょいと横に避難させてもらった。

 そこでバウロの方へ目を遣ると、ニンマリ笑って拳を固めてらっしゃる。一瞬目が合った。何を考えているのか、たぶんあの時の事だろう。ええ、存分にやってください。僕はあなたを信じてますから。



 ドゴ、ボォン!!!


 拳から肘にかけての()を使った一撃は、男の頭を股間の間に深く沈めつつ身体が床と接触してゴムまりのように跳ねた。しかし床には亀裂の一つも無かった。


「どうじゃエルドワーフ! 人様の敷地で喧嘩する時ゃぁこうやって周りに迷惑が掛からんようにせんとなぁ!! ンアッハッハッハ!!!」


 御見逸れしました。


__________



 あれから少しして、場がシラケたからかメイリを含めたお客のほとんどは帰ってしまった。しかしそのほとんどは良い土産話が出来たと喜んでいるようだった。

 かくして事件の発端となった3人は重傷2人と無傷の1人をまとめて縛り上げて、衛兵が来るのを待つのみとなった。


 そしてここに事件の当事者となった者が二人並んでカウンターに座っている。


「おいマスター、この店で一番キッツイ()を頼む」

「ジョッキで2つね」

「青ラベルの火酒が銀貨3枚だ。そしてオメ―さんの分は出せねぇ」

「何でよ、ケチケチしねーで一杯くらい出してよ!」

「ンアッハッハッ! やっぱり子供にゃだせねぇーか」チャリンッ

「ケチも糞もねーよ、ダメなもんは駄目だ」

「そうだぞ少年、それを破ればワシはそこの店主をしょっ引かねばならん」


 振り返るといつの間にやらあの老戦士が腰に剣を佩いただけで随分とラフな格好で立っていた。


「んなッ……はは伯爵様!?」

「嘘、いつ入って来たの? …そこに転がっている奴みたいな隠密系才能(センス)が来た時に備えて入口と勝手口に注意を払ってたのに」

「あれが“異識”の騎士伯(ドルモア)卿か…」

「水…、それか回復茶(ティーポーション)を…」


 なんだか俺たちの時とは違うざわめきが場を支配した。そりゃそうだ、偉い人が来なさったんだから。


「………じゃあ法律で決まってるの?」

「その通りだ、わかっているじゃないか少年。にしても貴様ら親子は随分血の気が多いらしいな? 二日で2件の乱闘騒ぎとは」

「おう、ドルモア! 明日の分は倅にも手伝わすからな! エリーと歩調を併せて時間を掛けて教えるつもりが色々と狂っちまったからのぅ。ちゅー訳でエルドワーフよ、明日はワシの仕事を教えてやろう」


 降って湧いた面白そうな話題に俺の眠気も吹っ飛んでいく! おお、やってみたい!


「あのドワーフ何者なんだ? えらく騎士伯様に馴れ馴れしいじゃないか」

「知らないわよ! ただでさえ“飛拳”で人をぶっ飛ばしたのに、更に上級保護魔法の“地均し”まで使ったのよ!? あんなの戦争貴族の戦場劇場でしか見たこと無いわよ!!」

「・・・・・・(返事が出ない、屍の気分だ)」


「だからもう寝なさい」


 ガスッ!


 ガクーンと身体の自由を失い、攫われそうになった時よりあっさりと意識を手放し深い眠りについた。


====================


「エリーもエリーだが、お前も大概じゃないか」

「ンアァ? ワシだってこれが初めての子供じゃからのぅ、加減がわからんのじゃい」

「……俺も娘が居ますから言わせてもらいますがねぇ、やり過ぎだと思いますよ」

「ア゛~…、アレ(・・)を見たことないからそんなこと言えるんじゃ」

「アレとは?」

「ンなことより、酒はまだかい!?」

「あぁハイ、青ラベル火酒の大ジョッキ2つ!」

「……私は頼んでないぞ?」

「いらんのか?」

「いや、もらうぞ。ただロックが良いな」

「ンアッハッハッ、そうだ飲め飲め! おい! そこの若いもんら!」

「あ?」

「駄賃やるから、ワシのガキを宿まで送ってくれんか?」

「ああ、場所はメモを渡しておこう。」

「か、かしこまりましたッ」


==========


「おい! いつまで潰れてんだ!? 起きろ!」

「うぅ~…ん、もうちょっと……」


 一応、事件に関わりのある者として最後まで酒場に残っていたのに何も聞かれず子供のお守りを任されてしまった。

 これでも冒険者としては名の通ったパーティーで全員“赤白級”のギルドカードを所持しているのにこの扱いは何なのか。


 zZzz…


 こうして寝顔を眺めてもあんなバケモノ染みたドワーフを殴り伏せた(らしい)バケモノの子には見えない。しかし実際に目の前で見せた昼の魔力の沸騰は、大人の冒険者なら大きな街で探せばいくらか見つかりそうな程度であるが同じ年頃でとなるとそれこそそれだけの才能を持った子供でもない限りいないだろう。


「ダメだ、医者の癖に完全に潰れてらぁ」

「帰りに薬屋に寄りましょう。まだ開いてたらだけど」

「ふぅ、じゃ、2人とも俺が担いでく。荷物は任せたぜ」

「人目が無いからいいけど、昼間だったら絶対に嫌よ」


 自分の背負い袋と仲間の抱え鞄で前後に荷物の突き出た恥ずかしい恰好に頬が赤くなりそう。酔いが残ってるな。うん。

 仲間は酔い潰れた医者を脇に、子供を肩に乗せて歩き出す。


 そして私たちは夜のバンバーの町に消えていった。

_______________


冒険者階級制度[ギルドランクシステム]・・・

挿絵(By みてみん)

・ギルドカード見本。本部創立時から見本として設置されているのでボロい。


冒険者にはその力量を正しく見極めるために階級制度が設けられています。階級は大きく分けて“色級”と“金属級”に分けられ、冒険者として大陸を越えた依頼を受けるに値するかどうかを見分けられます。そして色と金属それぞれでさらに幾つかの階級に分けられます。

尚、冒険者階級を上げる方法は、一定数の依頼(クエスト)を完遂した上で試験に合格する・己を鍛えて魔力計に刻まれたメモリを満たした上で試験に合格する・ギルドが指定した試験官の中から2階級以上上位の者を単独でぶっ倒す、の以上になります。



ウッド・・・木っ端冒険者。登録の際、手の平サイズの木片を持参するか青銅貨10枚を支払ってギルドカードを発行する。名前と登録時の年齢・登録地域名・種族が記載される。本登録では御座いません。


色級冒険者・・・冒険者として名乗りを上げてから大陸に認められるまでの冒険者全体の実に9割を占める階級。色級だからと言って観光目的での渡航は制限されていません。尚、他大陸でも活動したい場合は、とっとと金属級に昇格するか、青銅貨10枚払って講習受けなさい。


白級・・・初級冒険者。冒険者講習を受けテストにも合格した冒険者。白く染めた木片の中央に魔力計を埋め込んだもので、身分証としてあらゆる国で通用します。尚、重要情報は魔力計にすべて内蔵されているので死んでも無くさないようにしましょう。


茶級・・・一般冒険者。白から茶色に染めたギルドカードを発行します。これ以降のギルドカードの染色は自身の手でやっても構いませんし、等級ごとに手数料を支払って染色することも可能です。尚、不正を働いて自身の実力以上の依頼を受けて失敗した場合、罰則と目も当てられない状況になるであろうことは肝に銘じておきましょう。


黒級・・・中級冒険者。ある程度の実力を有している者とし、て多少命の危険のある依頼が増えます。ですが胸を張って職業・冒険者、と名乗れることでしょう。


赤白級・・・有力冒険者。冒険者として都市を跨いで名の知られることもあり得る地位。だからと言って傲慢な振る舞いをすれば、あっさりと足元を掬われるかもしれませんよ。尚、染色に当たって色の比率は1:1です。これを満たす範囲であればどんな柄でもギルドカードとして使用可能です。


赤級・・・一流冒険者。冒険者としてあちこちから引っ張りだこ、大陸全土にその実力を認められた冒険者。カードの染色も専用の染料で専用の魔道具を使って綺麗に染め上げます!そして目指せ、金属級まであと一歩!



金属級冒険者・・・国を越え、大陸を跨いで世界に認められた冒険者達。全体の1割にも満たないごく少数だけが名乗れる階級。この階級の等級と同じ素材で出来たギルドカードが発行されます。尚、この階級の偽称又はカードの偽造は冒険者ギルドに対する敵対行為として即刻処罰されます。たとえ相手がどこぞの貴族や王族だろうが報告を義務付けます。


銅級(カッパー)・・・金属級としてそれに相応しいかどうか試される階級です。色から金属に昇格したからといって怠けてはいけません。仮にギルドの出す依頼を完遂出来ない場合はまた赤級からやり直しになります。


銀級(シルバー)・・・金属級として真の意味で認められた冒険者。世界に散らばる全容の解明されていない古代遺跡や生態系引いては人類を脅かす超危険物の処理などをよく依頼されます。


金級(ゴールド)・・・大陸はおろか世界に影響を及ぼす難事件に投入されます。生きているのが不思議です。


白金級(プラチナ)・・・一職員には及びもつかないような依頼を任されます。噂では異世界の魔物と戦わされるとか…


聖鉄級(ミスリル)・・・現在ギルドではたった3名しか在籍しておらず、内一名は種族の寿命を大きく超えていることから人外が至る階級であると断言できる。天文学的災害に見舞われた際に出動するようだが、名誉階級の意味合いが強いかもしれない。



Q&Aコーナー

Q、どうして皇甲級(アダマンタイト)やオリハルコン級は無いの?

A、加工費用と難易度が高すぎる。



―出典[冒険者ギルド本部・広報部発行・心に刻むべき常識&非常識(定価・銅8枚)]より

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