14. 満ゲツ @
ンッギョアアァァ―!!
日が傾いて空に夕日が差した頃、満足したのか声高に咆哮を上げた亜竜はよちよちと湖に帰って行った。
その声に反応してずっと眠りこけていたブリンシットが目を覚ました。
「うぉわっ!? ……はっ? 俺何してたんだっけ?」
「おはようございます。もう夕方ですから終了ですね」
「あ? ………あー! 思い出した! って、なんで起こさなかったんだ!? 作業はともかく、逃げるか助けを呼んだり対処法はいくらでもあっただろう? 襲われたらどうするんだ!?」
「無事だったんだからいいじゃないですか~。丁度帰って行ったところですし、寝てる間はサボれて楽ちんだなんて思ってませんから」
実際の所、食後は眠くなってお昼寝したけれど少し経って起きたらもう、元気アゲ↑気分だったんで亜竜を刺激しないように草刈りを続行した。
「武器さえ持たなきゃ突っつかれなかったし、隠れた子蛇どもを片っ端から捕食してくれたから素手でもまあまあ安心して作業出来ましたから」
「亜竜とは言え竜だぞ! 肉食だぞ!! 人だって食べちまうんだぞ!!! 糞蜥蜴に羽が生えただけで危険度は鰻登りだ! 悪竜殺すべし!!」
「見た途端武器抜いたり気絶する癖にどっかの殺し屋みたいな事言うもんじゃないですよ。そういうのは冒険者に依頼してください」
「チッ、まあ水草は十分以上に採れてるみたいだし、あれだけ食い散らかしたんならもう明日から人夫に作業させられるか。よし、じゃあこの水草を十本一束づつ紐でまとめてくれ」
「ええ~、もう終わりでしょ~?」
「こんな生乾きじゃ使えねぇ、でもこの量なら水気を全部飛ばせば背負って運ぶくらいにまでコンパクトに出来るだろう。ほら、この紐を使え! さっさとしねえと日が落ちるぞ!!」
あ~あ、不機嫌過ぎてキャラ変わってるよ。この人冒険者じゃなくて正解だ。ここは言う通りにして嵐が過ぎるのを待とう。
「………ポンチャカ(ボソッ」
「何か言ったか?」
「いいえ~」
__________
山のように積み上げた筈の炭水花草の束をブリンの才能で完全乾燥させると1/10以下にまで小さくできた。これらを全部紐でまとめて繋ぎ合わせるとエルドワーフ専用の蓑の出来上がり。……何で蓑なの?
水草を扱いて繋ぎ直す地味な作業の間にブリンの機嫌はすっかり元に戻ったようで、血をすすぎ落して濡れた服もパリパリに乾燥してくれた。
そんなブリンはエルドワーフに紐をつけて歩かせ、まるで真黒助か何かを散歩させているように見える。
「意外とあったかいです」
「ギルドに着いたら脱いでね。それも賠償金の補填に使うから」
日が落ちて燭台に火が灯される頃になると港は朝とは違った喧騒に包まれる。明るい内は自分の仕事に集中して他人には見向きもしないのに、今じゃブリンの友人知人を問わず絡まれる。
「よぉ! ブリン! 仕事サボってペットの散歩か?」
「いやいや、これも仕事のうちですから」
「あれぇ? ブリンシットじゃないかい。こんな時間まで制服姿で居るなんて珍しいねぇ」
「ちょっと仕事が長引いてしまったんですよ~。終わったらお店に寄るつもりです」
「そうかい。ところで暗くって今初めて気づいたんだが何だいそりゃ?」
「この子をギルドに送るのが仕事なんです、詳しくはまた後で」
この格好で話し掛けられるのが嫌だから気配を消していたのにあっさり見つかった。都会怖い。もちろん本気じゃないけど。
「この紐だけでも外してよ。酔っ払いが絡まりそうでヒヤヒヤする」
「君自分の立場わかってるの? 行きはともかく、今は暗くて人だかりも多いからはぐれないように拘束は解かないよ」
そんなこんなでブリンも立ち話をするから行く時の何倍も時間が掛かってしまった。
やっとの思いでギルドに入場して受け付けで出迎えてくれたのは以前とは違う受付嬢だった。黒髪のボブカットで見たことのある丸眼鏡を掛けているけど、ひょっとして…
「冒険者ギルド・バンバー支部へようこそ~、ってブリン君じゃない」
「姉さん、ジルさん居る?」
「例のを買い取ってからほとんど部屋にこもりっきりだから居るわよ」
「ありがとう」
やっぱりブリンの肉親らしい。若いのに母性溢れるムッチリ美人で、まるで菩薩様に出会ったかのように穏やかな気分になる。ドキガ胸胸って感じw
「おい」
「ぉぅ…!!」
「姉さんに色眼鏡使ったらお前ごと燃料に加工すっぞ」
こんな小さいガキ相手に何ドスを効かせてるんだと言ってやりたいところだけど、不意打ちで鬼のような形相で詰め寄られたら蓑の下で頷く事しか出来なかった。
ブリンにドラゴンとお姉さんの話は禁句だな。
受け付けを逸れて素材買取カウンターへ向かう。中は以前と変わらず鼻に来る刺激臭が漂っている。この部屋には誰も居ないようだけどカウンターの奥の扉の向こうからグチャグチャと作業? をしている音が漏れ聞こえてくる。
カウンター備え付けの呼び鈴を4~5回鳴らしまくってようやく防毒サンタ改めジルさんが顔を覗かせた。
「なんだブリンシット君か、こんな時間に飲み会のお誘いかい?すまないがまた今度にしてくれないかい」
「違いますよ仕事です。と言うか、炭草が減っているから補充の依頼を出してたのジルさんでしょ? 取り敢えずコレで」
乾燥した炭水花草の蓑は頭からただ被せられただけなのであっさり取り上げられた。
あっ、炭だからか折角血を洗ったのに今度は肌も服も全身黒く汚れてしまった。
「そうだっけ? まあいいや、ありがとう。おや? 水人参の幼生かと思ったら君だったか」
「こんばんわ」
「はいこんばんわ。ところで君さぁ~、あの超蛇級を卸したドワーフの息子さんだってねぇ? 親父さんに一言口利いてあれをさぁ~」
「あぁーストップ、ストップ! そういう賄賂の要求じみたことは俺が居ない時にしてください。エルドワーフ、担当の衛兵呼んでくるから表で待ってて」
ジルさんの『居ない時は良いの?』と言うツッコミをスルーしてブリンは部屋を出た。
「ねぇ、さっきの続きだけど…」
やたらと馴れ馴れしいけど、よっぽどあのブツが気に入ったようだな。だったら…
「幾らで買ったの?」
「ん?」
「超蛇級の卸値を聞いてるんですよ。僕が身内なのは知ってるでしょ? 教えてくださいよ」
「ん~と…、……金貨300枚だったかな?」
「買い叩いかれたなぁ。あのじじい許さねえ」
「え!? 嫌々僕もまさか最低金額を提示したらそれでいいなんて言っちゃうもんだからついつい…なぁーんてハハハ。でも次からはキチンと査定した額を支払うつもりだよ?」
買う側が最初に最低額を提示するのは当然だからまあ良いとして、一発OKで成立させたのか?! 酒に飢え過ぎて思考労働を放棄しやがったのか? 物売るってレヴェルじゃねーぞ!? 超お得な押し売りじゃねぇか!?
「あ! あー!! もしまたひとつでもここに持ち込んでくれるならその分と初回分それぞれの正規価格+お気持ちも」
「そもそもこの町で売る予定は無かったんで。それに聞きましたよ? 直後に売り込まれた大蛇級の番を買い叩いたそうで? 金貨6枚だったかな? 値崩れがどうとか言ってたけど流石にあくどすぎませんかねぇ? まぁ他はともかくウチのオヤジに払った分だけでそんなことになるってことは御宅らの限界の底が知れるってもんですなぁ?」
「あれだけ大きいと十数匹分に切り分けて使える上、従来を圧倒的に凌駕する強度も持っているからね~。こちらも奮発するつもりだったんだよ?」
「……フゥ~ン、まぁ、俺も森を出たのは初めてだし、ドワーフのアル中を舐めてたのも事実だし、どれだけの値が付くか興味はあったけど、理想値との差額は高い授業料ってことにしてもうこの話はやめましょう」
ぶっちゃけこの世界の通貨に関しては家にある本にも載っていたので種類は知っているけど、ハッキリとした価値はわかってないから大雑把に金貨1000枚とか行くんじゃね? と考えていたけど甘かったようだ。
「く…子供だと思って侮っていたけど君は長命種だったね。解った。ギルド支部にもいろいろあってこんな危険度の低い地域の支部は余裕がある分財布の紐が厳しい方針なんだ。見てくれは立派でもバンバー支部は主に馬卸商人の護衛依頼と依頼でやって来た様々な人たちが酒場に落としてくれる金で活動している。確かに儲かってはいるけどそれこそ高が知れてるんだ、支部としてポンと出せる大金の最低金額が金貨300枚なのさ。で、ここからが本題なんだけど、僕個人でお金を出してでもあれが欲しいんだ。金貨1000枚でどお?」
おいおい天下の冒険者ギルドの支部よりも一職員の方が金を持ってるってどういうことなの? いや待て飄々としているように見えて実はかなり強かな人なんじゃないか?
防毒面で表情が窺えないと同時にこの部屋に充満する薬品の臭いがこっちの集中力を一方的に削っていく。しかも依頼を終えたばかりの冒険者なら疲れも相まって余計に判断力が落ちているに違いない。
「なんで買取窓口の人がそんな大金払えるんですか? しかも個人で持ってってどうするつもりです? 研究? コレクション?」
「研究だね。でも骨格とかもあれば別に借金してでも買い取りたいね」
研究……つまり現時点でアレをどっかの業者に卸したりはしないのか? てことは利益抜きで釣り上げられるかな?
「残念だけど大き過ぎて運べないしもう飾っちゃったから。それに個人よりギルドの上限が知りたい、3000はどうかな?」
「とんでもない! ここで出せる上限なんてぶっちぎりだよ、それにここより裕福なところに持ち込んだとしてもそんなに出す所があるとはとても思えないよ…。1500」
「だから個人で買い取ろうと? だったら全部は無理でも、もう幾つか買えたんじゃない?2500」
「酒に飢えたドワーフ相手に欲を出すと碌でも無い事に遭うのは商人なら常識だよ? 1張分の査定時間は我慢できても2つ以上を要求したらあの人達は簡単に得物を抜くよ。つい先日もそうだったんだから信じておくれ。2000だ、これ以上は厳しいね」
ドワーフってどんだけ……、俺も半分混じってるからもしものことを考えて対策をしなきゃいけないかなぁ~? ………めんどくさっ
「うーん、6倍強かぁ………ま、たった一枚でそうなら全部合わせたらもの凄い金額になりそうだなぁ。ただ今は没収されてるから皮算用でしかないけどね。そもそもさっきも言ったけどここで売るつもりはなかったんだよね~」
「ハッハッハッこりゃ失敬、でも一応覚えておいてね。あれはただの大蛇級ではないから」
「どういうこと?」
「全容が掴めないから確信は無いけど…」
「お~い、表で待っててッて言ったじゃないか…な、何だい?その目は……」
「ムム!? 何だここは!? 牧場並に鼻にクるぞ!」
あ~あ、何で大事な事話しそうな時に限って邪魔が入るのかねぇ~? ちょっとしたお約束ってやつですか?
グルモアは変わらず鎧と銃を下げているけど、ブリンシットは完全に私服姿で帰る気満々だ。
「ジルさんなんかしたの?」
「い~や、お話ししてただけ」
「ムゥ、エルドワーフよ、よくもこんな所に長居できるものだな、まだ釈放された訳ではないが寝床を用意したからそこへ行くぞ、さぁ行くぞ」
「またね~、エルドワーフ君」
敢えて名前を伏せていたのにあっさりバラしやがった。名前を覚えられてしまった。
一応頭だけは下げて部屋を出た。外に繋がる倉庫側ではなく受付側だ。
「ムフゥー、たった一枚で空気を換える扉は偉大なものだな!」
「それ換えてるんじゃなくて遮ってるだけだよ」
「今日はお疲れ様でした。君の分の奉仕活動は概ね完了として、後は君の親父さんの分が完了するまで君の身柄は衛兵隊が預かるけど今日の寝床は僕が用意させてもらった。君には迷惑を掛けたからね」
「うん」
「ムム? 囚人だとは言え子供に迷惑を掛けるとは情けないな!」
「ハハッ」(テメーら兄弟が抜かしてんじゃねえゾ)
あ、ブリンの心音が変わった? もしかして怒ってる? 何をされてそんなに嫌いになったのか知らないけど気持ちはわかるよ!
「ムン、それでだな、牢屋に入ってもらうのが一番良いのだが流石に監視も無く外泊はマズいのでこれをつけさせてもらう」
と、取り出されたのは頑丈そうな鉄環。大人用なので若干大きい。
「ムム!? 半ドワーフの癖に細いなお主! もっと食べろ! 仕方ない足につけよう」
大きなお世話だ! 俺ァ、エルフの血も混じってるんでい! 言わんけど
「ムン! これで良し! この鉄環は町の中心、石橋の噴水広場を基点に犯罪者が町の外に逃げないように拘束する魔道具だ。これをつけたまま門や港へ近づくか越えてしまうと鉄環が魔力を強制的に吸収して、最後は命を奪うのだ。丁度町の外へ逃げていた強盗が付けていたのが昼に到着したからある意味タイミングが良かったな、かなり行動は制限されるが町中を自由に行動できるぞ」
それって執行猶予中の仮釈放ってことなの? 有難いのか有難くないのか反応に困る代物だな。その強盗がどうなったかは聞くまでも無いだろう。にしてもこの鉄環重いな、それに今朝つけられてた手錠ほどじゃないけど力が抜けていく感じがする。確かにあちこち出歩く気がしなくなってくるな。
まあ親父と一緒じゃないと町を出る意味がないから、余計なことに巻き込まれない限り問題は無いだろう。
「ム、それではバンバーを楽しむがよい。さらばだ」
どうやらこの鉄環をつける為に来ただけの様だった。囚人には豚箱がお似合いだ! とか言って連行されなくて良かった。あ、でもここなら馬小屋に入れられそうか
「あまり説明しなかったけど一応言っておくと、その鉄環をつけた連中に町の人は良い顔をしない、当然の事だけどなるべく隠しておいた方が良いよ。はい、これが部屋の鍵。ギルドでは宿屋も兼業しててギルドを挟んで倉庫の反対側が宿になっているよ。それからこれは俺個人の迷惑料だ、あの時はすまなかった」
今度はブリンから宿屋の鍵と黒くくすんだ銀貨を10枚渡された。
「金銭含めて全部没収されたんだろ? それだけあれば上でたらふく食える筈だ。じゃ、俺の今日の仕事は終わりってことで、バイバーイ」
言うだけ言ってブリンはあっという間に出て行ってしまった。
ギルド支部は夜の所為か1階に人は少なく入ってきてもすぐに2階の酒場へ向かうのが殆どだ。1階には依頼を終えたばかりのグループか、さもなくば受付嬢を口説いていたであろう冒険者ぐらいしかいない。端っこにボコボコにのされた冒険者風のヒトゴミが固まって積まれていた。
今日も冒険者ギルドの酒場は盛況そうだが、2階から見下ろすように柵に寄り掛かる冒険者達の会話が耳を傾けるまでも無く嫌でも聞こえてくる。
「おい、ありゃこないだのガキじゃねぇか?」
「騎士伯様に喧嘩売ったっつーあの?」
「ハッ! どの面下げてここに来たんだヨ?」
「へッ! ホントにガキじゃねぇか」
「オレならあんなちんちくりん、全裸でも勝てるぜ!」
ギャッハハハハハッッッ!!!
どう転んでもテメェに負ける気はしないが不愉快なので場所を移そう。
アホを無視して外へ出る。外灯の乏しい時代ならではの満天の星空が気分をリフレッシュしてくれる。そして今夜の月は双子満月だ。
この世界では瓜二つの月が、数億年周期でくっ付いては離れ、離れてはくっ付きを繰り返しながら回っているらしい。
お陰で夜なのに外は眩しい位に明るい。しかも祭りでもないのにあちこちでどんちゃん騒ぎをして昼間とは気色の違う活気が町を支配している。
(目指すは馬卸通りの白スープの店だ)
この町に来て最初に立ち寄ったお店で、気前の良い店主に良くしてもらったのに金を払わないわ、荷車を押し付けるわ、挙句お客さんまで巻き込んで迷惑を掛けてしまったのだ。お陰でバウロは見つけられたがしばらくゴタついて間が開いてしまった。諸々を含めて感謝と謝罪をしたいな。
グ~~~
………もちろん晩御飯も御馳走になるけどな!
貨幣・・・ほぼ単一の金属で出来た円形、又は四角い板。高価値な金属塊を手頃な大きさに加工し、物質交流をよりスムーズに行うツールとして全世界で採用されている。大陸や国ごとに刻印された絵柄が異なるが素材だけは概ね同じである。
青銅貨…最低貨幣。上流家庭のお子様の玩具にされることがある。貴族は下賤と言って認知しようとしない。20枚で銅貨1枚分。
銅貨…青銅貨20枚で銅貨1枚。最下層民は銅貨3枚で人を殺す。と言う諺がある。金貨1枚で雇った一人の護衛よりも金貨1枚分で雇った数百人の暗殺者の方が恐ろしいという意味。実際は2枚で悩んで3枚で引き受け4枚で縁起が悪くて追い剝ぎされる。因みに銅貨3枚は一番安いパン1個の相場である。
銀貨…銅貨10枚で銀貨1枚。商人や一般人がよく使う硬貨。買い食いする時は銀貨1枚につき1品と思えば概ね大丈夫。
大銀貨…銀貨5枚で大銀貨1枚。銀貨より一回り大きい長方形の板状の硬貨。大きいだけあってより高度で緻密な偽造防止加工が施されている。商人より貴族や地主の方が持っていることが多い。
金貨…大銀貨10枚で金貨1枚分。貴族や大商人と呼ばれる人がよく使う。一時期金が高騰した際、金貨を固めて延べ棒にした方がより高価になったがすぐに禁止され以来、金貨以上の貨幣には魔法が掛けられた。お蔭でかえって金の延べ棒より金貨5枚の方が高かった時代が存在した。
大金貨…銀貨と同じく金貨5枚で大金貨1枚。あまり見かけない、金貨を基準にした取引が主流の為だ。こちらは正方形の板状で5枚重ねると金の立方体になる。専門家の間では不遇な硬貨と呼ばれている。
白金貨…金貨100枚で白金貨1枚。国や上級貴族かそれらを相手取ることが出来る組織が扱っている。市場にはまず出回らない。白金貨をドワーフに渡すと溶かして鍛冶の触媒にされるので余計に珍しいと専らの噂。
聖鉄貨…ミスリルで作られた大変珍しい硬貨。とある小国が戦争に負けて莫大な賠償金を払う際に、自国の強力な聖鉄製の武器や防具を同価値の硬貨に作り替えて相手国に支払ったという。現在では戦争に負けた国が発行する約束手形という位置づけである。その成り立ちや後世の用途から別名戦貨と称される。
皇甲貨…古文書に記された古代の皇帝・ホモアヌス帝が創らせたというアダマンタイトで出来た伝説の硬貨。円盤状の硬貨の中心に正確に穴が開けられ複雑な意匠も掘り込まれたそれは、古代文明が如何に高度な鍛冶技術を有していたかを窺わせる。古文書には強力な魔法が掛けられ何故か皇帝の名前以外は酷く劣化しており、魔王の協力の下、全部で12枚製造されたことが判明した。その内の1枚がドワーフの地下王国の秘宝として厳重に保管されていて、残りは今もどこかに眠っているのかもしれない。
神貨…神の世界で流通していると云われる伝説の硬貨。材質はオリハルコン製で、地上ではこれを媒体に神に匹敵する程強力な魔道具が製造されている。実は皇甲貨ほど珍しい物ではなく、千年級のダンジョンで幾つか掘り出されている。
木貨…丸く切った紫檀の木目に合わせて彫刻のされた硬貨。過去に財政難による苦渋の選択から本当に流通させた国があったが、当然と言うべきか気候変動による変形と耐久性の問題から国ごと淘汰された。しかし絵の緻密さと繊細さから芸術的価値が高く、魔法による保存技術も発達したのでコレクターの間では最も高い最低硬貨として流通されている。
―出典[コイン白書62-判読不可-訂版]より




