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チャリンコ・チャリオット  作者: 怠慢兎
第1章 ーワンパク ワンダー ワールドー
14/54

12. ご奉仕しちゃうゾ @+

「ン~ガガガ…ン~ガガガ………ンェックショイ!! イチチ…」


 くしゃみと頭痛で目を覚ますと最低限の家具だけが置かれた質素な部屋に寝かされていた。窓の外は薄暗い曇り空だ。


「んあ? どこじゃここは? 飲み過ぎであやつが勝手に宿を手配したんか?」


 憶えている最後の記憶では確か昔馴染みの老騎士と酒場で飲んでいた気がする。

 だが昼間とは言え酔い潰れるほど酒樽を買った覚えも飲み干した覚えもない。

 覚えがないと言えばもう一つ、どえらい事を忘れている気がするが思い出そうとすると途端に頭がジンジン痛みだした。


「相変わらずお人好しじゃが、水か軽い酒位は用意しといて欲しいわい」

「悪かったな、配慮が足りなくて」


 いつの間に入って来たのかつい先程まで一緒に飲んでいた老騎士が花瓶に黄色い花を活けて前を横切った。


「んぬぉ?! ドルモア! ノックくらいしてから入らんかい心臓に悪いぞ」


 ドルモアと呼ぶこの老人は悪びれる様子も無くニコニコと笑って机から椅子をベッドの横に引いて座り込んだ。

 白髪ながら豊かな髪を後ろへ撫で付け、顔には頬の古傷と一緒に年相応の皺が無数に刻まれている。そしてそれ以上の傷をつけた板金鎧(プレートアーマー)の上半身は、自身の役職と地位の高さを窺わせる聖鉄(ミスリル)銀合金製で、実はバウロの手製である。


「酒は無いが水ならあるぞ」

「貰おう」


 有り難い申し出に活けられたばかりの花を抜き取って花瓶を渡してもらう。替えたばかりだった新鮮な水が渇き切った喉を潤す。


「ふぃ~生き返ったわい、女々くさいことしよるが助かった」

「貶すか感謝するかどっちかにしてくれ。ところで、あの少年について教えてくれないか?」

「少年? なんぞ事件でも起きたんか?」

「参ったな、当事者なのに憶えていないのか? 大穴を開ける被害が出たんだぞ。しかしドワーフが頑丈な種族で良かったよ」

「大穴を開ける当事者って、一体何の話をしとるんじゃ?」

「思い出せないのも無理はないか……バウロの兜が凹むほどの拳骨を喰らったんだよ。ほら」


 ドルモアが腰に下げた物入り袋から歪んだ兜を取り出す。

 見間違えようのない突起の付いた兜は、老騎士の鎧と同じくバウロお手製の物だった。


「おいおい魔法陣も仕込んだ帽子じゃぞ?! しかも拳骨じゃて!? 中々の手練れのようじゃな? いや待て、少年じゃと? う、頭が……」

「無理するな、と言いたいところだがまさかバウロが年端も行かぬ少年に遅れを取るとは思わなかったぞ……お互いもう年だな」

「馬鹿言うなぃ! わしゃまだヒトで言えば40越えた程度じゃ! おー痛て……」

「十分だよ、とにかく容疑者が目を覚ましたと報告を受けたから行く前に様子を見に来たんだが丁度良い、一緒に来てくれ」


 どうやら頭の痛みは二日酔いではない、触ったらたんこぶが出来ていた。


「ン~、こりゃまた立派なたんこぶじゃわい。まるでエリーの拳骨を……」


 そうだエリーに使いを頼まれたのにまたいつもの癖で荷物を酒の為に売っちまったんじゃ。必要以上の酒を買って荷物を失わない位の自制は身に付いたが、やっぱり衝動は抑えられんかったか……? いや待て、エリーは留守番の筈じゃろがい。


「………おい、その少年っちゅーのは瘦せているがワシと同じ位の背ぃだったか? 丸腰だったか?」

「ああそうだ。何か思い出したのか?」

「……どうもこうも無いわい! はよ行くぞ!」


 一時的な記憶喪失から回復すると、バウロはベッドから飛び降りて着替えと愛用の水筒を探しに行った。


__________



 二度目の起床で疲れもすっかり快復したが何も口にせずに眠ったので今度は腹が減った。風通しだけは良い場所なので喉も酷く渇いている。


「お~い、だれか~」


 掠れた声とカツーンと手錠を牢に当てた音で見張りに自分が起きたことをアピールした。

 ついでに反響音で間取りを聞き取ろうと耳を澄ましたけど、蝙蝠や魚みたいにはいかなかった。音源を聞き分けたり発信源を特定するのは出来るけど、跳ね返った微妙な変化はまだまだわからないや。

 それでも見えない場所に見張りが居る(牢屋なのにお互いが見えないっておかしいんじゃないか?)のが判り、こちらに気付いたような気配もするのでフニャリと牢の端っこにもたれかかったのが数分前。


 グウゥゥ…


 いくら何でも遅すぎる。さっき二人分の呼吸音が聞こえたのに何をちんたらしとるんだ?

 イライラと格子の隙間から外を覗くが、分厚い格子は正面以外が見えない造りになっている。たかが子供に何でこんなに厳重な部屋を用意したんだ?


 寝起き+空腹+日本人気質? がほんの数分の待機すら許せなくなってきている。自業自得だけど牢屋に閉じ込められているのも原因だろう。

 軽く歌を口ずさんで気を紛らわせていると、サビに入る前に衛兵がやって来た。


 カチャカチャ…


「ムヌ、暫らくぶりだなドワーフの子倅よ」

「如何やらそなたとは縁が深いらしい」


 …ハァー、この聞き覚えのある声は門番のポンコツ兄弟じゃないか。


「随分長い間眠っていたようだから腹が減っているだろう?」

「むむぅ、岩パンですまぬ、だが朝なので馬乳も持って来たぞ」


 そう言って格子下側の差し入れ口からトレイに乗ったコッペパンと馬乳を注いだスープ皿がもたらされた。


 岩パンは文字通り岩のように固いパンだ。昔のパンは固いパンが普通だったらしいけどこんな大理石みたいなのが普通なのか? 馬鹿正直に歯を使おうものなら欠けてしまうかも。

 そのままでは食べ難いので先ずは二つに裂い……さい…


「ムリをするな、指先を強くすれば亀裂位なら入れられるがその手錠は魔吸材(マナスポンジ)だ。それにそんな横着しなくても底からじっくりミルクを染込ませなさい」


 魔吸材とはその名の通り魔力を吸収する素材で、素材ごとに固くなったり熱を持ったりと様々な変化をもたらすのだ。

 幸いなことに錠は手足に装着されているが魔吸材は手錠だけのようだ。


 コッペパンの表面はつるんと滑らかだがこれをひっくり返すとざらざらとした底になる、昔給食のコッペパンを底から刳り貫いてシチューの皿にしたことがあったが今は直接ミルクと唾液で柔らかくしている。


 食べ物に罪は無いので時間を掛けて食べた。食べてる際中は、より美味しい食べ方を考えたていたが粉々のパン粉にして揚げ物にすれば美味しいんじゃないか? 単品で楽しむものでは無いという結論に至りいつか試してやると心に決めた。


 食べ終わる頃になって生来の地獄耳が牢の外から慌ただし気な足音が聞こえてきたのを察知した。

 そして間も無くドアを蹴破る衝撃音と共に年老いた毛玉が走り寄ってきた。


「ンヌオオォォ! エルドワーフ!? なんちゅう有様じゃ?! ちゃんと飯は食ったんか?」

「その前に言うことがあるんじゃないの?」

「ん? 何の……イヤイヤ、スマンかったこの通りじゃ。こういうのはいつもワシ一人でやっとったが、エルドが居たり酒がもう無かったりでいつもと勝手が違うくて錯乱しておったんじゃ。ああいう饐えた匂いはワシも大っ嫌いじゃからのう、門を潜る前に断っておけば未然に防げたかもしれん。ホント~にスマン!」

「………親父とは言え、こんなに自制の利かないヒトだとは思わなかった」

「面目ない」

「エホンッ」


 わざとらしい咳払いで注意を引く爺さんに目を向けると、あの時バウロと一緒に飲んでいた老戦士だった。


「親の身勝手な振る舞いに激怒した息子が父親を懲らしめ反省させて釘を刺して仲直り。良かったな、そちらはそれで解決だ、がこっちはそうはいかん。バウロに対する暴力沙汰は親子喧嘩として流させるが、酒場の件は建造物及び器物損壊罪が適用され罰金及び実刑を科す。何か質問はあるか?」

「ン~修理とかワシらでやるからなんとか軽くは出来んか?」

「目撃者は多数、被害は酒場だけでなく1階にまで及んで深刻、巻き込まれた一般人はいなかったのが不幸中の幸いだった。略式で悪いがそれらを鑑みた上での判決だ。ああ、荷物は生ものを含めて預からせてもらっている。冷蔵機能付きの荷車とはバウロらしいな、アレを譲ってくれるなら罰金その他を軽減してやっても良いぞ?」

「ヌググ」

「大変な騒動を起こしてしまい申し訳ありません。まだ力の使い方を学び始めて日が浅くて未熟ゆえに力加減がわからず暴走してしまいました。賠償金は父が大蛇級を売ったお金から払います」

「フム、値はバウロから聞いて把握している。少し足りないが修繕及び奉仕活動に従事すれば切り捨てて収まるようにしてやろう」

「ハァ……、まさかエルドがあんなにもエリーの影響を受けていたとはのぅ」

「全く、容赦と省みのなさがそっくりだよ。ここに来るまでに聞いた事と反省の色が伺える事から情状酌量の余地有りとして、この少年を釈放する。グルモアは拘束の解除と調書を取った後に倉庫へ、ゴルモアは資材置場へ行きこの紙を渡してまいれ。バウロもこのまま一緒についてきて罰金と修復作業をしてもらう」


 三つ折りの手紙を渡されたゴルモアが駆け足で去って行き、続いてバウロを連れて老(名前なんだっけ?)士が居なくなり、グルモアは牢屋と手足の錠を外してくれた。

 枷が無くなると気力が吸い取られる感覚が無くなり、心身共にずっと楽になった。


 牢屋の格子戸は分厚過ぎて開閉式でなく嵌め込み式になっていて、立方体の金属塊を引き抜いて出来るごく短いトンネルが出入り口になる。

 やけに厳重な構造に感心半分呆れ半分、子供相手にここまでするかね普通?


「何でこんなに面倒な造りになってるの?」

「む? ドルモア隊長がそれだけの脅威と判断したからだろう」

「ドルモア? ゴルモアさんと響きが似てるね?」

「むむ? 名前を覚えていたばかりかそこに気付くとは、フフン、何を隠そうドルモア隊長は我ら兄弟の後見人にして母上の従兄に当る人なのだ」

「へー」

「なので従兄伯父殿の足を引っ張るような真似はするまいと邁進するのだが、これがどうにも上手くいかず…」

「もうここに居なくていいんでしょ? 早く外へ行ってもっと何か食べたい」

「ムアッハッハ、そう焦らなくてもここの食堂は付き添いが無ければ関係者以外立入禁止だから、朝食と話の続きはそこで調書を取りながらにしよう」

(そういう能天気な所がダメなんだよな~)


 保護者が後見人と仲が良かったとしても俺罪人だし、これから実刑で奉仕させられるのに一緒に飯食いながら調書取っててもいいのかね?


 牢屋のフロアからこれまた狭くて急角度の螺旋階段を登り鉄扉を潜ると、漸くの窓とそこから差し込む日の光を目の当たりにしてはじめて解放された心地になった。

 どうやらさっきまでいた場所はかなり深い地下室だったらしい。


「む、グググゥ……フゥ」


 鉄扉も中々の重量級のようで立て付けも悪いのかかなり重そうだ。閉じられるとカモフラージュの為か壁紙が貼られた。でも雑だな…


「むぅ、では食堂へ向かおうか」



 食堂は日が昇ってから暫く、かと言って昼時でもないので閑散としていて時折調理場から小気味の良いリズムが聞こえてくるだけだ。


「むん!! おまかせを一つ頼みたい」


 ビックリした~。人を呼ぶ時も『む』かよ…。

 そうやって大声に反応して奥から顔中に深い皺を刻み、白いTシャツとエプロン、頭にも白いタオルを巻いた気の良さそうな爺さんが出てきた。


「おや珍しい、片割れじゃなくて子供が一緒だ。迷子かい?」

「むや、そうではない。ただ腹が空いているそうなのでここで食事をとらせながら調書を取りたいのだ」

「ああ~、…食べさせるのは結構だが人が居ない内に調書は終わらせなさいよ」

「無論だ」


 呆れた顔をしつつも小言を言って爺さんは奥へ引っ込んだ。

 それから適当な席へ移動して調書を取って飯を食って軽く話をした。しわくちゃのお年寄りの作る料理って何となく苦手だったけど、この食堂の出すミルクブイヤベースはあさっぱり酸味を利かせていて魚貝類の出汁や白身魚なんかが堪らなく美味しかった。


「美味いかい!? この町の特産品、バンバーホースミルクと湖で獲れた魚を使ってるんだぞ~」

「そうですか」

「いや~、ここの連中は堅物が多くて美味いと素直に口か表情に出す野郎が居ないから、坊主みたいに美味そうに食ってくれると嬉しいよ」


 チリリ~ン


「むむ?! 巻黄鳥(イエローロール)が鳴いてしまったな。それじゃあ行こうか」

「ご馳走様でした」

「おう! そうだ、北区の馬卸通りで息子が酒場をやってるが手の込んだ料理も出すからその内食いに行ってみてくれ」

「ああ、白スープの…」

「お!? もう知ってるのか! そうかそうか!」

「むぅん! 早く行くぞ!」



「やっと来たか、押収していた服と鎧だ。随分と丈夫な仕上がりだな?それを着たらそのまま奉仕活動を始めてもらう」


 倉庫に着くとゴルモアが待っており、待たされたせいかすこぶる機嫌が悪そうだ。


「そこの扉から出て外に用意してある資材を運べ、場所は事件現場だわかるな? 途中で逃げ出せば預かっている他の荷物はそのままこちらで処分するので肝に銘じておけ」

「む、運ぶだけなのか? 門に来た時の大荷物を見れば資材運搬ごときは温すぎるのではないか?」

「もちろんそれだけで終わりではないさ、後のことは現場で指示を仰ぐがいい。わかったらさっさと行け」


 サッと着替えて追い立てられるように外へ出てみると太陽が真上で輝き眩しかった。

 太陽! 嗚呼、なんて気持ちがイイのだろうか!


 で、用意されている荷車はまぁ普通の曳くタイプの荷車。ただし取っ手になる2本の鉄棒の間にはベルトが渡され、どう見ても馬などに曳かせる用の車だ。荷台には木の板と中身がパンパンに詰まった麻袋が満載されてかなり重そうだ。

 これを子供一人に運ばせる神経を疑ったが他の(見た目が)同い年くらいの子供にも同じことが出来るのかもしれないのかな? と、この世界の常識に不安を感じて周囲を見回してみて今更気付いたことがある。


 子供が全然いない。元気な子供、遊んでいる子供、友達とはしゃぐ子供、お手伝いをする子供etc……耳を澄ませると偶に赤ちゃんが愚図ったり泣いたりする声が聞こえてくるけれど、喧騒に混じって聞こえる子供達特有の活気が感じられない。かと言って大人たちは当たり前のような顔して普通に仕事に励んだりしているし、15歳かそれ以上の青年位の人達も同様だ。

 ここに来てからゴタゴタ続きで気にもしなかったけどこの土地ならではの風習なのかな?


 気にはなるけれどやらなければいけないことをまずは片づけてからだな。

 ベルトを持つと弛みで持ち上げにくく、両側の鉄棒を持つには体格が足りないので前後逆で荷台を持ち上げて押し運ぼう。

 でもこの方法だと力点が支点(車輪)に近づいて余計に重たくなるんだよね。あ、でも軽いや。


「よっ! いっしょ!」


 グィイ…ギギギギ……


 うわ…何だこの音、倉庫で埃被ってたのを出してきてそのまま使ってるような。持った感触から油も差していないんじゃないか?

 これはヒドイ、陰険だ。待ってる間に機械油を差すくらいやれよ、それか用意しといてくれ。


 うんざりする思いで俺は倉庫を出発した。



 エルドワーフの居た場所は噴水広場の衛兵詰所だった。通りで窓のない地下室で凍えるような寒さが部屋に充満していたかがわかった、傍に川が流れていたからなのね。

 万が一壁を破って脱獄しようにも地下だからずっと地面の中だし、最悪水に押し流されて溺れるかも。やっぱり厳重過ぎやしませんかね?


 石畳の道路上を荷車を押し進んでいると擦れ違う馬車の御者や商人に不思議なものを見る様な目で見られたり、道を歩くあちこちの主婦達からひそひそ話が聞こえてきた。

 曰く、


(こんな時間にあんなところで何をしているのかしら)

(見たことのない子ねぇ、よその子かしら)

(それか向こうの学園からサボってこっちに来た子じゃない? 毎年1人はいるそうよ)

(やだ、不良~!?)


 僕は不良じゃないですよ~。それにしても学校的な施設があるらしい。成程、そりゃ昼間は子供はいないよね。所謂幼年学校? この町の規模とか税率…は分からないけど結構潤っていそうだから公共機関に予算を割いて義務教育を設けているのかな? だとしたらこの世界は結構進んだ世界なのかも! 凄い! ちょっと馬鹿にしてたもん。物はあっても一握りの為のモノでしかないと思っていたから、感心感心。


 そうやって市井の会話に耳を傾けながら進んで到着しました冒険ギルドバンバー支部。

 錆び付いた車輪の金切り声を呼び鈴代わりにギルドの入口の傍に荷車を停めると、中から受付嬢とは色違いの制服姿の若い男性が出てきた。


「おぅ~ようやく来た…かって、一人でか!? ……かぁー、何やってんだよ衛兵は! 子供だからって手抜き過ぎるだろぅ?! ………イヤイヤ待て待て、その荷車、…は!? こんなに積んでるのか!? え!? 一人…なのは見た通りか、でも……マジかよ………」


 着いて早々、一人芝居を始めたこの人はギルド支部の職員さんでエルドワーフの監督官だそうだ。

 黒い髪を後ろへ撫で付けた丸眼鏡の青年で、見た目の割に肩幅が広くてどちらかというと冒険者の方が似合いそうだ。

 メモを片手に荷物に誤りが無いか、何度もメモと荷物と何故かエルドワーフを見比べて確認を終えるとこちらに向き直って自己紹介を始めた。


「どうも初めまして、俺の名前は“ブリンシット”、ブリンとでも呼んでくれ。にしても君みたいな子供があんなことするなんて未だに半信半疑だよ」

「どうも初めまして、エルドワーフと申します。不甲斐ない父に制裁を加えた所、加減を誤りまして大変なご迷惑をお掛けして深く反省しているところです」

「お、おぅ………。まあ、そう堅苦しいのはやめてくれ、とにかくそいつはここに置いとけば中の奴らが勝手に持ってくから、君はこのまま俺についてきてくれ」


 苦笑いを浮かべるブリンについて湖を横目に港を歩いた。こうして眺めると石造りの地面から延びる幾つもの木の桟橋の港と石と木を組み合わせた建造物の町は、はじめに想像していたよりもずっと発展して豊かな町で十分に都会に見えた。前世で言うなら地中海沿岸の港町が一番近い印象かな。


「エルドワーフだっけ? 君のコトは酒場のマスターから聞いたんだけど結構な手練れなんだってね? あの場に居た冒険者達もほとんどが何が起きたかわからないって騒いでいたよ」


 あの時は頭に血が昇ってはいたけど楽しく飲んでいるところを邪魔しちゃいけないなと思った上で配慮して行動したんだ。結果的に大迷惑だったみたいだけど。


「人的被害が君の肉親だけだったのと対応したのがその友人()だけで事足りたのが幸いだけど、何者なんだい? 森から来たって聞いたけど」

「何者って、ただの鍛冶屋の息子で混血児(ハーフ)ですけど」

「いや、その見た目で父親がドワーフならそうだろうけど、そうじゃなくて…うーん」


 キチンと説明するなら母がエルフで父はドワーフのハイブリッド。生まれて十年目の長命種にしては人並み(・・・)に身体は成長しているけどこう見えて素の筋肉は幼児並、代わりに頭の中はキチンと教育を受けた大人並。前世の記憶を持っていて、金物と木細工が趣味の20歳童貞。つい最近4回くらい死に掛けました。……って説明しても殆ど信じてくれなさそうだし、初対面にそこまで長セリフは話せませんよ。


「君の父親の友人ってのが実はこの町の偉い人だからあんまり突っ込んだことは聞けないのがもどかしいよ」

「素直ですね~」

「……よく言われるよ。………おっと、着いたよ、君にはここでソレ(・・)を回収してもらう」


 言いながらブリンが指差す場所は港の端っこ、石段を下りた砂地に並べられた黒い草束を差していた。


「…水草?」

「そう水草。近々港を拡張しようとここらの邪魔な物を撤去していたんだけど、付近の浅瀬に大蛇が住み着いていたようでつい一昨日まで誰もここに近づこうとしなかったんだ。それでも水草さえ除去すれば棲家を失った大蛇は移動せざるを得ないだろうから大金払って冒険者に依頼を出したんだけど…、これっぽっちしか集めない内に大蛇を、しかもなんと番いで討伐したんだと。これで脅威は無くなって除去作業が捗るだろうと思ったけどそうはいかなかったんだ。なんでも番いの大蛇が出たんならその子供達がまだ残っているかもしれない、あんなに草が残ってちゃどこに隠れているかわからない。そんな訳で人夫がなかなか集まらないそうな」


 大蛇級の番い討伐ってこの間白スープの美味しい酒場に来てた3人組が話してたことだ。ぶつくさ言ってた割に中途半端な仕事っぷりだったんだな。


「でだ、また冒険者を雇って調査なり除去なりさせようと思ったんだがあいつらも渋りやがるし、馬小屋の方でつい最近大口の取引があったとかでそっちに人手がごっそり持ってかれたばかりでどこも人手不足なんだよ。だったら犯罪者にさせようって話になってうまい具合に身元の保証されたのがいる、ってことで君をここに連れてきたの」

「はぁ…」

「因みに仕事の内容は水草の除去。途中、蛇が出てこれを討伐或いは捕獲すればその数に応じて罰金の軽減と報酬が発生する。道具はそこの小屋にあるのを使うと良い、特別に使い方を教えてあげるよ」


 階段の脇にぽつんと佇む仮設トイレみたいな小屋の施錠を外し、ブリンが中から持ち出したのは大鎌と革製のオーバーオール。


「一番小さいサイズはこれしかなかったがこいつは服の上から履く為に作られている。こっちは…まぁ見て覚えて」


 一緒にオーバーオールを履いて浅瀬に入る。浅瀬と言っても身体の小さな俺のへそより少し上の深さだ。


「浅瀬に石は無いからこうやって水底を撫でる様に鎌で掬うんだ。そして切って漂う水草を攫って浜に運ぶ、これを日が暮れるまで繰り返すんだ」


 やり方は陸上と一緒のようだ。でもどっからどこまでか範囲の指定はしないのかな?


「おいおい、一日で全部やりきるつもりだったのかい? じゃあこの階段から歩いて溺れない範囲でやってくれたら十分だよ、幅は向こうに打ち込んである杭までね」


 40~50m先に杭が並んで立っている。きっと拡張工事はあそこまでやるつもりなのだろう。


「了解しました」

「俺はここで見張ってるから頑張りな~」


__________



 浅瀬はある程度まで進むと崖のように深くなるので緩く深くなって行くよりも区切り易くて判りやすい。そこまでの距離は30mに届くかという所。そんな広範囲一面が大量の水草で覆われている。

浅いし水草だらけだから無理に切り拓かなくても小魚の養殖とかすればいいのにと思うけど、町の人間でもない罪人なので黙々と作業を進めた。


 水草を刈るコツは刃の高さを変えずにグルンと扇状に一掬いすること、そのまま鎌を元の位置まで戻すと今度は鎌の腹で水草を掬って最後は柄に引掛けて陸へ運ぶ。テンポ良く成功すると楽しいんだなこれが。


 …………グルン、ギュウウウゥ!


 で、水草の中から時たま飛び出すのが今お腹に巻き付いてくる蛇。親ほど大きくないんだろうけど脚程の太さの胴体を持つコイツらは十分に大蛇だと思う。…アイツ(レイク・サーペント)に比べたらチビだけど。

 最初に巻き付かれて以降はずっと全身に気を張っているからこの程度の締め付け今は(・・)何ともない。

 でも人夫さんの噂は的中、前以て身構えていたから落ち着いて対処出来た。具体的にはじっとしていると水面から頭をもたげて鼻目掛けて噛み付いてくるから、以前の湖の大蛇(レイク・サーペント)と同じ様に頭捕まえて脳天に魔力で熱々の指先をブスッと。暴れるのはほんの一瞬、焼き殺すから水中に血も流れないし傷も少ないからきれいに始末できる。


 そうやって昼頃までに10mx30mの範囲と3匹の蛇を討伐した。

__________


巻黄鳥[イエローロール]・・・

挿絵(By みてみん)

濃淡の微妙に違う黄色い尾羽が特徴の家禽類。


全体的に灰色がかった羽毛を持つが尾羽だけが鮮やかな黄色をしている。


巻黄鳥のもう一つの特徴として、尾羽を巻物の様に巻いて一定時間毎に弾けさせる生態がある。


尾羽に付いた虫を払う為、縄張りを主張する為、威嚇の為等諸説あるが、何れにしても1日の間に正確に24回眠っていても尾羽を鳴らすので、時計として古くから生活に利用されている。

弾けた際の音はそれ程大きくないので日中は鈴等を付け、夜間は外しておくのが一般的。


家禽として飼い慣らされているが機嫌を損ねたり命を脅かされると猛然と襲い掛かるのでからかったりするのは絶対に辞めましょう。


ー出典[くらしのまもの]より

__________

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