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チャリンコ・チャリオット  作者: 怠慢兎
第1章 ーワンパク ワンダー ワールドー
11/54

10.ザ・トンプソンズ

 あのとんでもなく巨大なサーペント種を討伐してから二日が経った。


 昨日は午前中に倉庫で嵩張る要らない物を整理したり森で薙ぎ倒した樹木を回収したりし、午後からは整理した物と塩漬けの蛇皮を箱に詰めて行商の準備をしていた。


 そして今朝は“蛇と人参のソテー”で腹ごしらえをすれば、いよいよ荷物を積んで森の外へ出発だ! 流石に鉄板曳いて街を歩くとか恥かしいのでちゃんと荷車も用意してある。


 今回の旅はバウロとエルドワーフの二人だけ、エリーとシルバーはお留守番だ。


 この旅の為に服を一新し、ついでに丈夫な革鎧まで繕ってくれた。どれも火に強い素材らしい。

 バウロは普段の部屋着に関節の要所を守るサポーターと鋭い一本角の付いた帽子? を着用し、背中には身長と同じ位の両手斧を背負った格好だ。


「結構な荷物になったが何とか2台に納められたのう」

「はみ出して不恰好だけどね」


 1台目の荷車は蛇皮だけで占められており、巻くにせよ畳むにせよ大きい上に密度が云々かんぬんで、皮一枚だけでもかなり重たいので、車も箱も特別に頑丈で大きい鉄製だ。しかし前後から見ると車輪の幅より荷物の幅の方が大きくて若干不安だ。

 2台目は食糧とバウロの工具を含めた道具数点、あとは倉庫の肥やしになってたバウロの片手剣・計256本。鍛冶の練習がてら作ったはいい物の、どんどん増えてしまったのでこの機会に売り払いたいらしい。

 他にも売れそうなものが倉庫に転がっていたけど、どれも色物過ぎて逆に買い手が無いそうな。


「食糧は日持ちする物ばかりだけどちゃんと現地調達で調整してね? 路銀もあまり無いから無駄遣いをしちゃだめよ? それから…」


 初めてのおつかいで心配なのはわかるけど一人じゃないし、面倒ごとはこっちとしても御免だから安心してほしいと言っても利かないんだろうな。


「……ムカついたからって無闇に殺しちゃダメよ?」


 お母さんが俺を不良どころかもっと質の悪いものだと思い込んでいるようです。



「そろそろ出発するか、ワシはヘビのを曳くからエルドはそっちを持て」

「はーい」


 バウロの曳く荷車がスムーズに動き出す、一方エルドワーフは…


()()()ッ!!?)


 一昨日曳いた鉄板よりかは楽だろうと高をくくっていたけどそんな事は無かった。

 片手用とは言え鉄剣256本に食糧数十日分、更にもしもの為のバウロのアノ(・・)魔導工具と金床まで積まれているので重くない訳がない。

 そもそも人力で運ぶところから正気の沙汰じゃないけど、哀しいかな、本気になるとこの荷車も動いちゃったので文字通り馬車馬になった気分だ。

 それでも文句を言えないのはアレより少ないけれど鉄板に同じ物を載せて引き摺った経験もあって、バウロの堆く積み上げはみ出した蛇皮入り箱と鉄車がどれだけの重さか知っているからだ。


「気を付けてねー!」


 母の声を背に手を振る余裕は無かったが何とか振り返って笑いかけることが出来たので良しとしよう。


__________



 木々を薙ぎ倒し、鉄板で無理矢理舗装された林道は、荷車を曳くバウロとエルドワーフが並んで歩いても余裕のスペースがあった。

 この道幅はそのまま一昨日の夜にエリーが曳いていた鉄板の幅と同じなのだ。

 あの人エルフとか絶対嘘だ。エルフの皮を被った鬼だ。


 バウロは自分の水筒の中身をエリーに黙って酒で満たしたので早速一杯引っ掛けている。

お酒は嫌いじゃないけど酒臭いのは勘弁してほしいぞ。


「親父ぃ、飲み過ぎは臭いから今だけにしてよ」

「なんじゃ、やめろとは言わんのか?」

「まだ6口でしょ? 旅の始まりは目出度いとかって本に書いてあったから、めでたいならのまなきゃね」

「ンアッハッハ…ようわかっとるじゃないか!」

「ただしこの道を抜けるまでね」

「何? ってもうすぐそこじゃないか!?」


 道は入口と出口でお互いは見えないが中間地点で両方が見えるような湾曲をした一本道になっている。

 既に中間を越え家とエリ-が見えなくなっているので油断したバウロが焦っている。


「ちょっとペースを落とさんか?あまり急ぐ旅でもないしのぅ」

「皮腐ったらどうするの? 塩漬けでも限度があるんだよ? 全部なくなる訳じゃないしキリが良いんじゃないの?」

「ぐぬぬ…(グビグビ」


 焦ってそんなに飲みまくるとホントに無くなるよ? まあどうでもいいか。


 そしていよいよエルドワーフは森の外へ足を踏み出したのだった。



 森を抜けた外はどこまでも続くかのような草原に覆われている、実際は凸凹とあちこちに丘が出来ているので見える印象程広大でもなさそうだ。

 丘を越えた先に川が、更に下流に村があるらしい。


「この辺りは今でこそこんなんだが昔はもっと平坦で、今でも馬が駆け回っとるはずじゃ」


 これだけ豊かに生い茂った草原には当然それを餌にする生き物が生息している、ぶっちゃけ倒木を拾いに行った時に道の出口まで来た時に遠くに馬が走っているのが見えたから知っていた。


 森を出て右前方、方角だと南西方向にある丘を目指す。

 例の湖から流れる川は東寄りに緩やかに南下して一旦沼が出来、そこに小規模の村が出来ている。


 最後に訪れたのは40年前なので大分様変わりしているか最悪、消滅しているかもしれないとのことだった。


「まあ、大丈夫じゃ。一応王都公認の開拓村で騎士も派遣されとるはずじゃし」


 バウロはスイスイ丘を登って行くがこっちは地面を抉って何とか頂上まで来れた。


「へぇ」

「フンッ、人間ちゅーのはたった数十年でこうも変えちまうんか」


 丘の上から見下ろしたその()は約5mの壁で囲われ、内側にも大小様々な建物が立ち並び、話に聞いて想像していた村とは到底思えなかった。

 とは言え、王国公認なだけに発展の見込める土地であったのだろうし、当然と言えば当然だろう。


 壁の周辺にはたくさんの厩舎と所々に家屋が建てられ、牧畜業が盛んな町なのだと推測する。


「なんとなく繁盛してるのはわかるが、はてさて……ワシの知っとる場所かどうか」


 心なしか動揺を滲ませるバウロは突っ立っていても埒が明かないとばかりに丘を降りていく。

 一方エルドワーフは荷車に轢き潰されないように車を先行させて、勢いがつかないように踏ん張りつつも引き摺られる格好で降りていく。


__________



 丘を降りていくらか歩くと草が刈られて地面が剥き出しになった道が現れた。と言ってもあまり使われていないのか獣道の一歩手前な有様だが。

 自家製の道路とは違い狭いので一列に並んで歩く、手で押すより腹で押すように心掛け、空いた手でバウロの荷車を掴んで少し楽をしてみた。

 周りに目を向けると風で小波を立てる草原の上を馬の群れが駆け回っている。自由に走らせる為か柵らしい柵が無く、見える範囲に危険な生物が見えないとは言えこれは無用心過ぎないか?


「おうい! そこの…待て!? 何故逃げるんじゃ!?」


 バウロの怒号に何だ? と思って覗こうにも荷物が邪魔で見えやしない。

 大きな荷車を曳くバウロ達に気づいた第一村人が警戒して逃げたのだろうと想像してみる。厳つい小さいおっさんが自分よりも何倍も大きな荷車を自分の腕力だけで押している姿にちょっと笑ってしまった。


「ワシは何もしておらんのになぜなんじゃ?」

「怖いからでしょ?」

「ワシのどこが怖いのじゃ!」

「…酔ってるの?」

「……酔ってはいないがワシらの方が風上じゃからもしや酒臭かったかのう? ………お? 戻ってきたが増えとるぞ?」


 よく考えると家族以外ではこれが初めての外部との交流になるのか? なんだか緊張してきたな。


「動くな、おい、お前は何者だ? その荷物はどうしたんだ?」

「おいおいご挨拶だのお。いきなりそんなものを突き付けて、野盗じゃあるまいし名乗るならそっちから名乗らんかい」

「む、俺たちはここバンバーで門番をしているグルモアとその弟のゴルモアだ」

「ワシらは近くの森で暮らして居るバウロっちゅーもんじゃ。そんで…何隠れとんじゃ?」


 荷物と荷車が邪魔で抜け出せないだけで隠れている訳じゃないよ。

 取り敢えずなんとか荷車の手摺りと蛇皮入り鉄箱の隙間を縫って這い出し、ちょっとドキドキしながら鉄車の横から身を乗り出した。


『は…初うぇmしてぇ…』

「あん? 何を言っとんじゃ? ああ、倅のエルドじゃ」


 やっちまった。噛んだのは初対面だからしょうがないとして、日本語で話してしまった。

 耳の先までひっくるめて全身から火が出るような気分だ! 畜生!

 恥ずかしくて手で顔を覆った。


「むむ、ドワーフの子? それにしては……いや、ハーフか」

「それよりも『近くの森で暮らしている』だと? この近くで森と言えばゴブリンの森しかないぞ」

「むむむ、ならばおかしい、あそこは50年前から人の立ち入りは禁止されている筈!」

「あそこにはワシの親父の代から住んでいるわい。ざっと数百年は下らん、今更そんな数十年前に決まったことなぞ知らんわい」

「むむぅ、なら仕方ないか」

「……兄上がそれで納得するならそういうことにしておこう」

(それでいいの? …って!?)


 剣呑な雰囲気から一転して気の抜けたオチで和んだ所で相手を見ようと顔を上げて驚いた。


 被り物は無いがどちらもブラウンの髪を短く刈り揃えている。古ぼけたブレストプレート、指先の出た革手袋、足には膝・脛・足の甲を守る鉄板をブーツとズボンの上からベルトで固定している。あとは腰にポーチが巻きついた格好だ。

 兄弟だという彼らは背格好が非常に似ており、顔も一目では見分けがつかないことから双子だと思われる。

 兄のグルモアは口を真一文字に結びやたらと『む』を連発する。弟のゴルモアは口をへの字に閉じてこちらは落ち着いて会話が出来そうだ。

 でも驚いたのはそんな事じゃない、2人が其々両手で抱えている物……


 黒光りする細長く一直線に繋がった丸と四角の筒、筒の下から突き出た円盤、手と体で支える部分には木で出来たパーツを用いているソレはもしや…?


「むむ? ドワーフの子倅よ、これを見るのは初めてかな?」


 ジャキ…


「おい! それをこっちに向けるなと言うたじゃろが!」

「む!? 王都印の“カラシニコフ”に暴発はありえん!」


 ズルッ

(“トミーガン”じゃないのかよ!?)


 俺の知る限り彼らが手に持っているのは“トンプソン短機関銃”、禁酒時代の頃の米国で生まれたサブマシンガンだ。

 因みに、彼らの言うカラシニコフは“AK-47”、酒精(アルコール)を摂取する為なら靴磨きのペーストからでも摂取する露熊が旧ソビエト時代に生み出した傑作銃の筈だ。


 素人目にはどっちでも同じに見えるが、何がどうなってその名前になったのやら……

 いや、重要なのはそこじゃないな。むしろ大事なのはこの世界には同郷(・・)が存在していることだ。

 その人がどこの国の人かはわからないが、カラシニコフなんてあからさまな名前が付いている位だからそういう知識を持った人が類似品を普及させたんだろう。


「落ち着け兄上。こちら側から人が来ることなぞ着任以来聞いた事が無かったもので、ましてドワーフなんて…いや、失礼。で? どういった目的でこちらへ参られたのかな?」

「フンッ、商いじゃよ。鍛冶師の端くれとして作ったもんが溢れてきたのと蛇の皮が沢山採れたからそれらを売るんじゃ」


 ぶっきらぼうに答えるバウロ。そりゃ銃口向けられながらじゃそうならざるを得ないか。


「むむ、ならば正しい荷物であるか改めさせてもらうぞ」

「………構わんよ」


 外部から怪しい荷物を流入させない為とは言え、折角きれいに詰め込んだ荷物をいじくられるのは良い気がしない。

 土足で荷車に上がって食糧の袋口を開けたらそのままだし、鉄箱と木箱を下すのはこっちにさせて戻す手伝いもしない。

 人通りが多いならまだしも滅多に来ないならちょっとくらいサービスしてくれてもいいんじゃないか?

 確認の時も、


「むむぅ、確かに蛇皮のようだが……こんなに分厚い物なのか?」

「剣がこんなに…個人向けに売るんじゃないのか?」

「む? ところで馬が見当たらないがここへは馬を買いに来たのか?」

「そういえば食糧の量からしてもっと遠方へ行くのだろう? バンバーには最高の馬が多いがロバはいないぞ?」

「まさかずっと手押しで行くわけではあるまい、ムハハハハ!」


 大きな御世話だ! こちとらこれで野を越え丘越えここまで来たんだよ。


「一通り見た所怪しい物も無いようだし、このまま門までお送りします。滅多に人が来ないので呼ばれて慌てて来ましたが、一応我々は“門番”なのでね」

「先に戻っていても構わんが?」

「むむ! 先程は失礼したが本音を言えば暇なのでご一緒したいのだ」


 いや、戻って仕事しろよ。そんなんだから閑職に回されているんだろうね。


 荷物を積み直して再出発、連結されてもいない後ろの荷車をエルドワーフが当然のように引き出すと二人は目を丸くして驚いていた。


「ほほぅ、これはまた素晴らしい荷車を使っているようですな! こんなに軽々運べるなら馬もロバもいらなさそうだ」

「ああ、じゃからとっとと戻ってもらって構わんというたじゃろが」

「むぅぅ、随分と嫌われたようだ。仕方ないゴルモアよ、戻って報告書を作成するぞ」

「わかりました」


 やっと鬱陶しいのが居なくなって清々した。舌出す変顔で見送ってあげた。


「全く近頃の若者はなっとらんのぅ!(グビリ」


 まだまだ子供ながらに同意する。百歩譲って荷物を荒らしたのには目をつむるが、仕事に対する適当さは見ていて腹が立って来た。


 そんなこんなでようやく門に到着。

 人の少ない裏門かと思いきや、ぶっとい木材とでっかい鋲で補強された立派な門だ。

 と、いきなり怒鳴り声が響いてきた。


「こんのボンクラ共がァー!! 勝手に持ち場を離れて、ただ立ってる事も出来んのかぁー!!?」

「「申し訳ありません!!」」


 ああ、こりゃさっきの二人組のことだろうな。

 直接見えはしないけど、まだ町に入ってすらいないのにもううんざり気分が悪い。


「底辺貴族のボンクラ兄弟が! 誰のお陰でこの仕事を任されているのかわかってんのか?! それをほっぽり出して、しかも2人揃ってだとぉう!? 舐めてんのか!!」

「「申し訳ありません!!」」


 あんなところを通らないといけないのか…。

 前を進むバウロの溜息と自分の溜息が同時にこぼれた。

 仕方ないとばかりに進むがやはり横まで来たところで呼び止められた。


「お、ちょっと待った」

「むむ、先程のドワーフの親k…」


『む』が多いボンクラが上司らしき人に一睨みされ慌てて黙り込んだ。


「えぇと? アンタは行商目的でここへ来たと?」


 この上司はまだ(・・)まともそうで安心した。

 口頭で目的の再確認をされたが要点だけ聞かれてあっという間だった。


 兄弟より10は年を喰ってそうな赤髪の壮年で、2人と同じ装備+剣を一本腰に、それと首にはレンズの付いたマスクがぶら下がっていた。


「お前ら荷物の確認はしたのか? (双子が頷く)…そうか、じゃあ身分証を……」


 身分証なんて持ってたっけ? と荷車の陰から様子を見ていると、バウロはひげもじゃで隠れた首から金属製タグの付いたペンダントを引っ張り出しタグだけ取り外して渡した。

 へぇ~あんなのが身分証明になるのか。そういえばエリーも首飾りをつけてるけど、いつも服の下に入っているからあれもタグが付いているのかな?


 渡された上司さんはポーチから大きなホチキスのような道具を取り出し、紙と一緒にタグをバチンッと挟むとタグだけ返して一礼した。


「ようこそ“バンバー”へ、そちらの潜り戸を通ってお進みください」

「はいよ」


 こんな田舎者にわざわざ一礼するなんて良くできた人だなあ。

 流石にあの立派な門をわざわざ開けてはくれなかったけど、馬を主産業にしているからか脇の潜り戸でも十分荷車は通れそうだ。

 バウロに続いて一人で荷車を推し進めると、やっぱり上司さんも目を丸くして驚いていた。



 潜り戸を抜けるとそこは……くっさ!?

 馬牧場から直通だからか入ってすぐに厩舎がズラッと、中の馬も大きく立派で素晴らしいけどここはとにかくクサイ! ……ってバウロがもうあんな遠くに?!

 慌てて追いかけようとするも地面がぬかるんで進み難いし臭いしとで半泣きになりながらもなんとか門と厩舎から抜け出せた。


__________



 前途多難な出だしでなんとまだお昼にすら到達していない。せっかく新調した服も語るに無残な有様で涙を禁じ得ない。


「マスター! 一番キツイの!」

子供(ガキ)が粋がっちゃいけねえ、それよりその臭いをどうにかしろよ」


 あれから俺はバウロとはぐれてしまった。

 しばらくは泥に残った車輪の痕を追っていたが厩舎区画を抜けた所で見失ってしまった。

 しょうがないので酒場にでも行けばすぐに見つかるかと思って来てみたが鉄車は見当たらず今に至る。


「うちのスライム貸してやるからいっぺん裏の井戸へ行って来い」

「荷車が心配」

「なら一緒に裏行きゃいいだろ」


 飲食店で饐えた臭いのままで居るのも失礼なのでご厚意に甘えるとしよう。

 この酒場、表からはわからなかったけど裏に回ると畑があって傍に井戸とここでも厩舎が建てられていた。


「ほら、大事に扱えよ」


 と言って手渡されたのは両掌に収まる石鹸のような乳白色のスライム。

 どうやらモンスターであるスライムを使って身体を清潔に維持するのは一般的なことだった。

 家でも水銀スライムのシルバーに突っ込まれていたけど、ここではちっちゃなスライムが全身をナメクジのように移動するか汚れている部分へ押し付けて食べさせるか、或いは両方で済ますのだ。


 さっぱりはしないけど匂いも汚れもこの一匹で綺麗になった。ありがとう、酒場のスライム。


「でだ、マスター。一番キツイの!」

「何が『で』だ。ガキはこれでも飲んでろ」


 そう言って差し出されたのはミルク。


「………馬ミルク?」

「よくわかってんじゃねぇか、まあ当然か厩舎を通って来たみたいだから文字通り身に染みて覚えているってか? 朝一で採れたもんだ。サービスしとくからそれでも飲んでろ」

「……じゃあサービスついでに人参ケーキとかない?」

「………スープ出してやるから大人しくしてろ」

「いやー、アンタ良い人だねぇ」

「るっさい!」


 いやー言ってみるものだね。ここまで良く無い事続きだっただけにこの酒場が天国に思えてきた。

 腹ごしらえを済ませたらここに荷物預けてバウロを探しに行こう。


 憶えてろよクソ爺ぃ。

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