表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
チャリンコ・チャリオット  作者: 怠慢兎
第1章 ーワンパク ワンダー ワールドー
10/54

9. 胃袋アイアンクロー

_―_―_―_―_



「ムキ――!! どうして妾が居る時に限って昇ってこんのじゃ!?

 妾も襤褸雑巾の如き愉快な童を見たかったのにぃー!」

「(ボロぞうきんって…)今回はどうやら気絶はしたけど踏ん張ったようですね。ふぁ…

 でも貴方、私たちの中で一番休みが多いんですから、ホワ~ン

 その内また昇って来るかもしれませんよ。…ポッ」

「五月蠅いのじゃ廃煙家(チェインスモーカー)め!

 次に来たら妾が来るまで引き留めておくのじゃぞ!」

「それをすれば死んじゃいますから貴方の頼みでも今は(・・)無理ですよ。スー…

 最低でも前世の寿命二十年分は生きてからでないと…、ツゥー…

 契約違反になっちゃいますからねぇ。ブクブク…」


 ジャ~


「あ~、ごっついの出たけど流れてくれて良かったわ~」

「不潔なのじゃ!? 手を洗ったんかお主?」

「あほか! トイレ入って速攻洗たわ!」

「出る時も洗って下さいよ! ブハァー!」



 わいのわいのわちゃわちゃ……



―_―_―_―_―



 寝たふりするつもりが、つい寝入ってしまった。

 よく考えると生まれてから早起きしたのは初めてだからしょうがないか。


 焚き火の爆ぜる音に目を開けてみると、エリーとバウロが心配そうな顔をして覗き込んでいた。

 一糸まとわぬフリチンだったのに服を着ているからわざわざ一回戻ったのか?ならその時一緒に連れて帰ってよ!

 空は茜色に染まって夕暮れ時なのを知らせてくれる。


「よかったぁ~」

「ほ、ほれ見ろ!霊薬を使ったんじゃからもう心配する必要はないというたじゃろう!」

「だってぇ~、3本使ったって言った時のアナタの拳骨、本気で痛かったし目も合わせてくれなかったし~」

「バカモーン!! それはそれ、これはこれじゃあ! 昔から錬金術以外のさじ加減が滅茶苦茶なんじゃよ」

「うぅ…」

__________


霊薬[エリクサー]・・・


貴重な素材を惜し気も無駄もなく調合して完成する最も高価な薬の1つ。

生産は勿論、素材の入手一つ取っても難易度が高く、一番簡単なのでも魔獣化した人参(マンドラゴラ)を丸ごと一体分の栽培である。


効果は魂が記憶している本来の形を復元し、再生させる。下級、中級、上級があり、最低でも欠損した一部位が元に戻ったり、本来あるべき機能を取り戻す。

上級ならば斬り落した生首からの蘇生すら可能とまで噂されている。


以上の効果を持ちながら副作用の類は一切報告されていないことから国では生産流通を厳しく管理している。

いざという時に命を落とす危険が少ないと言うことはその国の騎士達も相応の強力な力を振るえるのだ。


―出典[戦士の風・戦時特別号]より

__________


 エルドが死闘を繰り広げた大蛇は3m幅の輪切りにし皮は剥がされドミノ倒しのように並べられていた。

 殆どは肉が付いたままで血抜きも放置されるがままだが、あれだけ巨大な怪物から一体どうやったのかすべての皮を剥ぎ取られた状態だ。

 その皮は美しい藍色をしていて反物のようにくるくるとまとめられ反りの付いた鉄板にロープで固定し載せられている。

 輪切りドミノに沿った夥しい量の血の河の先にはもう一つの湖が出来上がっていた。

 なぜかその湖の中でシルバーが水遊び(・・・)に興じている。


「まぁ、どうやら無事なようじゃしゆっくり休めと言いたいところじゃが、あんなバカデカいもんから大量の蛇皮が採れたでな。肉は多すぎるからほとんどは捨て置く、それでもエルドも手伝って運んでくれんと一回では済まんのじゃ」


 バウロは素材運搬用の特製荷車に積んだ蛇皮を指さし肩を竦めた。

 いや荷車と言うには語弊がある。3台用意されているがどれも大量の荷物を運搬する為に巨大な鉄板の 前方に反りとロープを付けただのソリだ。車輪すらない。

 車輪発明以前の大型貨物運搬にこのような方法を用いられたのは事実だが、これは車輪が存在しないからではなく車輪付はあるが数が足りなくてあっても無理に乗せると車軸が耐えられそうにないので諦めたそうだ。

 確認の為に2往復したそうなので間違いないだろう。


「その前にエルドちゃんは遅めのお昼ご飯を食べないとね。ついでだから皆で晩ご飯にしちゃいましょう~」

「酒も無しに肉を食うのはつらいのぅ」


 切り出した輪切り肉を4分割し、更に丁度良い大きさに切り分け表面を塩で擦ったらバウロが豪快に精霊の炎でこんがりと焼き上げた。

 普段は家でエリーが手の込んだ料理を作ってくれるがこんな野性味溢れる料理は新鮮で味は美味しかった。


 俺が引っ張るソリでさえ数百kgは積まれているはず。

 バウロは隣の倍多いソリを、エリーは後ろの残りの皮全部と輪切り一切れ分に無傷の眼球|(直径2m弱)一個とetc...が載ったソリを引くそうだ。


「さーて、お母さん頑張っちゃうから前の二人は地均しお願いね」


 あまり勾配のきつくない緩やかな地面だが所々石は転がっているし凸凹もしている。

 ソリを引き易くするなら滑らかな地面に均す必要がある。

 それでも重質量的に魔力で強化しても厳しいと思う程には(うずたか)く積み上げられたソリをエリーは本当に引き摺って行くというのか。

 そう思って眺めているとバウロが持ってきたらしい荷物からきれいな色彩に控えめな装飾の施された鉄仮面? を取り出して被った。

 異様な魔力と興味に引き寄せられて近づこうとしたらむんずと腕を掴まれた。


「エルドや、わしらはこれからケテルの森との境目まで戻りそのまま森に向かって右へ走り続けるぞ

 わしが曲がれと言うまで森の中へは入らんからな、森の中ではわしが先行する。邪魔な木はどかすからちゃんと付いてくるのじゃぞ」

「ほへ?」

「ぼさっとするな! 轢き潰されても知らんぞ!」


 一息に言ってしまうと慌ただしくロープを担ぐので俺もそれに習う。

 これから家に帰るのは分かるがエリーの張り切り様とバウロの態度から察するに避苦肉(ピクニック)不意奈荒(フィナーレ)は楽しい事になりそうだなー(白目)。


__________



 お家に帰るまでがピクニック、歌を歌いながらさあ帰ろう!

 タイトルは『母上狂走曲(エリーザカプリッチオ)



 ズリリリリリッッッ!!

 ゴゴゴゴゴゴゴッ!!!


「うわっち!?」

「エルドッ!! (つまづ)く位なら蹴り壊してしまえ!! その方が早い!」

「あははは! ペースが落ちてるわよ~、ほらほら手が届いちゃうわよ~」


 エルドワーフは今、今日一番の死に物狂いで気を張り、地を蹴り、鉄板を引っ張り、力の限り走り続ける!


 ズゴゴゴゴゴゴゴッッッ!!!!

 パァンッ! メシメキッ! ズゴーン…!


 空気を殴る乾いた音と共に進路上の障害物が吹っ飛ぶ。

 エリーは化物じみた強さを持っているが、夫であるバウロもまた空を衝き、己の伸ばした腕より遠くの障害物を吹き飛ばす。

 エリーはエリーでかなり興奮した様子で笑い声を上げて楽しそうだ。でも仮面を被ったエリーからは異様な魔力と殺気の混じった気配を発しててとんでもなく恐ろしい!


 薄暗闇の中で全神経を集中して最適な足場と足運びを意識して背後の脅威から逃げ駆しる!

 かなりのペースで走っているのに足の短いバウロは当然のように併走するし、エリーは殺気をばら撒きながら追走する。


 さっきから全力で走っているのに冷や汗が止まらないのは当然だし、ふと首のすぐ近くにエリーの息遣いを感じて目を遣ると当然だけど居ない、そしてつんのめる。

 時々喉元に手刀や貫手を突き付けられているかのような錯覚を起こすし、死を連想させる強烈な気をぶつけて脅かしてくることもあって心臓がマッハです。


「曲がるぞエルドゥッ!!」


 ケテルの(ゴブリン)森は大木の一大密集地だ。当然ここをソリで突っ切るなら何本もの樹木を倒すのは必然なので最短距離を行く必要がある。


「ワシが先行する! ンァッハッハッハッ!!」


 何が可笑しいんだこの親爺、気でも触れたか?

 前も後ろも蛇皮の荷物で視界が遮られているが足元のや前方の障害物を気にしなくてよくなった分、背後からのエリーのプレッシャーが更に攻撃的になった。

 見えないだけマシな様でいて全然怖く無く無い。寧ろ暗黒の中エリーの出す嬌声の様な笑い声が恐怖心を煽り立てる!


 それから暫くして倉庫搬入口前に到着した。

 森から抜け出しても辺りはすっかり暗くなっていた。


__________


 ………ハァ。

 疲れて呼吸さえ億劫だ。

 今日はいろいろあり過ぎだ。


 魔法のお勉強と言われて玄関出たら巨大倉庫に怪物博物館。

 外出たら1死目、そして気功(魔力?)を体得。

 森では焼身、生き埋め、全身骨折。

 湖では自業自得だけど2死目、極めつけに大蛇と闘って3死乙。

 仕上げに輓馬(ばんば)の如く重量物を背負わされながらの追い駆けっこから帰還したのがつい先ほど。


 大分端折っているが概ねそんなところ、疲れていない訳が無い。

 瞼を閉じる行為すら面倒で、今はただただ脱力に身を委ねたい。

__________


 帰ってきて早々、椅子に沈み込むようにどっかりと背もたれに体を預けたエルドワーフはそのまま魂が抜けたかのように動かなくなってしまった。

 疲れからかぼんやり呆けているかと思えばその瞳は光を失い虚空を見つめているように見えて何も見ていない姿がバウロには痛々しく思えた。

 なんせ数百年エリーと付き合い同じ様な目に何度も遭った自分もまた気持ちが痛いほどよくわかるのだ。


 当のエリーはといえば、こちらは楽しそうにキッチンに立って何やら料理を作っている。

 鼻歌交じりで普段は使わないバターや砂糖を混ぜているからお菓子を作っているのか? 台所の食材に膨張剤や燈人参(オレンジマンドラ)が寝そべっているが大丈夫だろう。

 バウロはエリーが超一流の錬金術師(料理人)である事を己の胃袋でよく理解している。


(さて、エリーなりにエルドワーフを労うようじゃから、ワシも一つ何かせんとならんのぅ)


 ドワーフらしくいつもがぶ飲みするエールではなく、特別な日に飲むためのコレクションの中から甘い菓子に合いそうな酒を探しに席を立った。

__________


 今日は良い事も悪い事も併せて驚くべきことが沢山起きた。

 特に息子であるエルドワーフには流石我らが一族に相応しい成長ぶりを目の当たりにしたのだ。

 でもその息子を3回も死にかけさせたのは己の監督不行き届きである。

 申し訳ない気持ちが沢山あるが、まずはそんな窮地を乗り越えた息子を労わろう


♪~~~


 冷蔵庫のレシピ、色褪せた鉛筆、青いインクでウサギちゃん

 貴方の得意な料理を作ろう、甘くておいしく出来るでしょ?(キャピッ☆)


 温いバターと白いお砂糖、高速回転グ~ルグル(ギュゥイーンッ!)

 白くなったらドロドロ卵をゆっくり垂らしてしっかり混ぜよ(ガチャガチャ)


 柔らか小麦粉ふっくら粉、上からポンポンふるい入れ(トントン)

 切って混ぜて切って混ぜて、おろしマンドラ入れたらまた混ぜる(断末魔)


 全~部混ざれば型|(型紙入り)に移して、空気を抜いとこ(ガツンッガツンッ!)

 オーブンお願いキッチリ焼けよ、じっくり焼いたら出来上がり(チーン)♪


 完成ッ! エリー特製『人参(マンドラ)ケーキ』~

 やっぱり疲れた時は甘いものだよね~。

 エルドちゃん喜んでくれるかな~?

__________



 コト...。


「今日はゴメンね~エルドちゃん。お母さん張り切り過ぎちゃってちょっぴり(・・・・)反省しているわ~

 疲れたでしょう? 疲れた時は甘いものが良いって証明されてるからコレ、食べてみて~」


 エルドワーフは極限の疲れから無意識に目と耳の感覚を遮断していたが、機械的に繰り返す呼吸によって嗅覚だけは機能していた。

 焼きたてのニンジンケーキが発する甘い香りがエルドワーフの鼻をくすぐり、虚ろだった意識を覚醒させる。

 いつものくり貫いた木皿でないバウロ自作の磁器が燈色を際立たせ、焼いた砂糖と人参の香ばしい匂いが食欲を刺激する。

 目の前に差し出された燈色の焼き菓子のシルエットが以前の自分(・・・・・)ですら朧気にしか思い出せない古い記憶を蘇らせる。


『ニンジンケーキ、作ってみたの食べて~』


「(フンフンッ)・・・・・(ゴクリ…)」


 食卓に並べられる4皿のケーキとフォーク。


「あ、シルバーにフォークは要らないか...って呼び戻すの忘れてた!?…まぁ、その内来るか」

「おい、グラスも3つ用意してくれ。ブランデーを飲むぞ」

「この子には早くない?」

ワシ(ドワーフ)の血も流れとるんじゃから大丈夫じゃろ」


 怠そうだったエルドワーフの目はケーキに釘付けだ。横に置かれたよく磨かれた銅のグラスに上等なブランデーが注がれても気付かない。


「これはニンジンケーキって言って、昔友達に教えてもらったのを作ってみたの~

召し上がれ」


 エルドワーフの小さい手には丁度いい、三又の小振りなフォークを燈の丘に突き立てる。

 スポンジほどふっくらとしていない、しっとり中身の詰まった弾力が指先を伝って感じ取れる。

近くで見てより強く感じる人参の香り、大きく口を開けて一口目。


(モクモク・・・・・モクモクモク)


 噛む度に広がる味と香りをもっとよく味わう為に更に噛む。

 咀嚼を繰り返す頭はリズミカルに前後に揺れ続け、一心不乱に堪能。


(モクモクモク・・・・・ゴクリ)


 十分以上に噛み砕かれたケーキを惜しむようにゆっくりと飲み下す。

 口と鼻の残り香による余韻が思い出の味覚と合致した。


 ポロッ…ポロポロ…


 どうしてだろう、なぜなんだ?あんなにも違うのに違わない

 厳しいけど優しくて、勝手なんだけど正しくて、作り方は違うのに同じで


 ボロボロボロ…


 前世を振り払ったつもりでいても、記憶や経験は残り続ける。

 ましてや思い出が消える筈がない。

 エリーの作った思い出の(おふくろ)の味と出会って堰が切られたように感情が込み上げてきた。


「うぅー…」

(泣くほど美味しかったんだ)

(泣くほど辛かったんだのぅ)


 いつの間にかシルバーも帰ってきていて自分のケーキをペロリと平らげている。

 銀色のボディが食べこぼしと涙を拭い去っていく。


「少しは落ち着いたかの?」


 コクンと小さく頷く。


「今日はいろいろあったらしいがのぅ、何も悪い事ばかりでもない」

「うんうん」


 バウロがギロリと睨むとエリーは小さく縮こまる。


「あーとにかく、エルドワーフが魔法を覚えたことと大型の大蛇(サーペント)を討伐しためでたい日じゃ! 祝い事は飲まにゃぁいかん! グラスを持てぃ!!」


 親子3人それぞれの杯を掲げる。


「エルドワーフの強さを祝して…」


「「「乾杯!!!」」」


 全員グイッと一杯、それから一言


「かぁー、美味い!」

「ん~クル~」

「このジュース美味しいね」

「「え?」」



 あの後何時から普通に喋れるようになったかだの、上等な酒をジュースに例えるとは流石ワシの(せがれ)じゃだのと盛り上がった。

 湖の傍で夕食を食べている時に魔力を使っていて思った、身体能力の強化を喉にも適用すれば喋れるんじゃね?ってのがきっかけだった。


「舌っ足らずなのが可愛いから教えなかったのに、凄いんだけど寂しいな」

「魔力使わなきゃこんなやでん?」

「あー! エルドちゃん!!」

「ンァハッハッハ、となると移動も受け答えも大丈夫じゃし街にでも行ってみるか!」


 おお! 街だと!? ワクワクキーワードキター!


「十分すぎるくらい蛇皮が手に入ったし、倉庫整理を兼ねて遠出してみるか」

「じゃあついでに塩とお砂糖買ってきて、皮にストックの4分の3使っちゃったし砂糖は少しでいいから」

「了解」


 なんだかおつかいに行くみたいな感じだし実際そうなんだけど、売りにも行くから少し違うか。

 俺にはまだまだ知らないことだらけだから、しっかり社会勉強してこよう。

 今日の出来事が嘘のように街へ行くのが楽しみだ。


やっとひと段落着きました。

プロローグ入れて2桁投稿に突入しましたし、これも読んだりブクマや評価を付けて下さった方々のお陰です!

次回はついに家族以外の人々が登場する予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ