部活申請
立木高校生徒会、立木高校の全クラブにとって設立・存続の最も高い壁となる存在。
生徒会とは別の部活動に所属している生徒も存在するが、それはそれとして存続理由の無い部活動は即刻消失する冷酷な集団と言われている。
しかし、ダミーサークルも存在するのだからそこまで不安がる事は無いと思うのだ。ダミーサークルですら許される監視で許されなかった部活動はもう、そこが悪いだろうからだ。
「失礼しまーす」
蘭に首根っこを捕まれながら生徒会室に入室させられる俺、見る人によっては悪事を働いた生徒が生徒会室に引っ張られるように見えた事だろう。
「失礼はすんな。で、何しに来たんだ?一年だろお前ら」
生徒会室に入ると、目の前の椅子に座っていたやや痩せぎすの男がちょっと良いノリで声を掛けてきた。
この男こそ、立木高校現生徒会長、大友 倫音である。
やはり生徒会室、固い雰囲気を纏うその部屋において、冨山 蘭という女はその陽気なノリを変えずに淡々と話を始めた。
「いえね、新しい同好会の設立がしたいんですよー」
「同好会、部活じゃなくてか?」
「部活にするのは人数的に難しいかなぁって」
「へぇ、計画無しの突発的な直談判か。てことは、お前ら二人だな?」
「いえ俺は「そうなんですよ、まだこの二人だけで。三人目は仮設中に見つけられたらなぁって」
否定の言葉を遮る蘭、どうやら俺も頭数に入れられたみたいだ。まあ本人が頑張っているのだから詰むまでは様子見するべきなのだろう。黙ることにした。
「で、何部?カップル談笑部とか言ったらぶっ飛ばすけど」
ニヒルな笑みを浮かべながら大友会長が聞いてくる。
私怨かな?カップルに見られるのは恥ずかしいものもあるが、明らかに男女二人で無計画に入ってきた事に対しての怒りみたいなものを感じられた。
それに対しての蘭の反応と言えば、
「えへへ、カップルだって。どうすりゅ?」
当初の目的を忘れたかのように照れくさく破顔しながらこちらに顔を向けてきていた。
コイツを生徒会室に捨てて帰っても良いのだが、明らかに顔を覚えられた感じもするので蘭を立て直す事にした。
「そんな個人的な話よりも大層な計画があるんじゃなかったか?」
「そうだった!」
俺の声かけに無事元の顔を取り戻した蘭が演説を始めた。
「大友先輩、失礼ですがお聞きします。貴方の志望校はどちらでしょうか?」
「国立大学、立木高校の生徒会長はその殆どが国立大学に進学している。勿論私もそこを目指して行動している」
「ありがとうございます。さすがは生徒会長、立派な志です。その夢が叶うこと、わたしも心より願っています」
「おべっか?」
「違いますよ、話を戻しましょう。そんな先輩ならご存じのはずですが、東京大学並びに京都大学に○ケモンサークルと言うものが存在する事をご存じでしょうか?」
「ああ、ポ○モンのゲームで対戦とかしているサークルだっけ。あんま詳しくないけども」
「そうです、そのポケ○ンサークルですが、似たような事を私達は考えております」
大友生徒会長の顔が強ばる。
「ほお、てことはポケモ○同好会か?にしては数が少ねぇな。ポケ○ンそのものではない。とすると、ゲームの持ち込みか?いや、それも無いな。家庭用ゲーム機が主と言え、うちの高校にはゲーム部が存在している。だったらそっちに入るだろ。ポケモンやりたいと言えどゲーム全体が出来るならそっちに行くはずだ。その上で、立木高校に存在していない部活動……、カードゲームか?」
さすが生徒会長である。少ない情報で直ぐ様答えにたどり着いてしまった。これが、立木高校全クラブにとって高い壁となる生徒会の頂点。恐ろしい理解力と思考力である。
それを受けても蘭は顔を変えずに淡々と話を続ける。
「さすがでございます生徒会長様、では勿論理解していますよね」
「ああ、カードゲーム、特にポケ○のようなトレーディングカードゲームに位置する集金もしくは課金型のゲームは学生が扱うには危険である。ものによっては、対価として金と同じ扱いになるからな」
「ええ、取り扱いには注意するべきです」
「それをわかっていて、何故?」
「カードゲームは確かにパックを引く等でカードを集めることが要求されますが、それでも人と対戦する戦略ゲームの一つでございます。その上、一対一での対戦が基本的ということはコミュニケーションの練習にもなります。カードに書かれる効果の判断をするのも判断力の強化に繋がる事でしょう」
「だが、カードゲーム部はなぁ。あまりにも危ないだろ。値段が高騰した時の場合も考えるべきだ」
「ええ、その心配もごもっともです。ですから提案があります」
「提案?」
「同好会の名前を、トレーディングカードゲーム部ではなく、戦略型紙遊戯同好会とさせていただきたいのです」
うーん、やはり彼女はバカであった。今までの賢い会話が一気に知能指数下がったのが丸わかりである。
先程まで存在の薄さからあまり認識していなかった他の生徒会員達の笑い声が小さく聞こえてきた。あまりの唐突な衝撃に耐えられなかったのだろう。それは、明らかに嘲笑ではなく失笑の笑い。なんなら、一人ツボに入ったのか笑いを止めきれずに難しい顔をし続ける生徒もいた。
よく見ると、その笑ってる生徒は俺と蘭のクラスメイト、板山 花ちゃんではないか。今日も綺麗な形の眼鏡である。生徒会に入っていたのか。
二人に顔を戻すと、どうやら生徒会長も困惑しているようで顔を歪めて聞き直してきた。
「せ、戦略なんて?」
「戦略型紙遊戯同好会です。トレーディングカードに限らないカードゲーム全般の部活です」
「だが、君の、君達のやりたい部活はトレーディングカードゲームの部活じゃなかったか?」
「いいえ、違います。私達がやりたいのはカードゲームそのものの部活です。トレーディングカードゲームだけでは無いのです。先輩は、仮に日本でカードゲームの国技を決めるとしたら何にしますか?」
「唐突だな。そうだな、やはり日本の誇るカードゲームならば、○☆○☆○か?」
「遊○戯○王もご存じとは流石の知識でございます。ですが、残念ながら違います。日本のカードゲームで国技にするなら、それは花札でございます」
「花札?あれって、戦略ゲームだったか?」
「広義ではそうなります。一対一の対戦ゲームなのですから」
そう、蘭が建てた計画とは、花札やトランプと言った買い切り型のカードゲームも纏めた部活を作ることで、実質トレーディングカードゲームも許可させる判断を取り付けるものであった。そして、この立木高校には遊戯系の部活が多数存在すれど、花札を取り扱う部活が存在していないのだ。
「なるほど、確かに花札やトランプを取り扱う部活として認知されるのなら、下手にトレーディングカードゲームが取り沙汰される事は少なくなる訳か。確かに、強引だが面白い考えだ。私は好きだぞ」
生徒会長の表情が明るくなる。これは蘭の計画が上手く行ったと言う事なのだろうか。
しかし、途端に生徒会長の顔が不安になる。
「しかし、カードゲームか。手を出すカードゲームとは何なのかも気になる。オリジナルのカードゲームにせよ既存のカードゲームにせよ、申請の必要は出てくるぞ」
生徒会長の純粋な問いに蘭も首を傾げて考える。
「そうですねぇ、こちらとしてもオリジナルに手を出すのはリスキーですので考えてないですが、古参大手と言うのも少し敷居が。低いように見えて、大きすぎる範囲だと先程までの心配事が降って沸きますからね」
蘭は少し考えて、思い付いたように顔を輝かせる。
「では、オーバートラッパーなどはいかがでしょうか?」
「オーバートラッパー?」
生徒会長が首を傾げる。それは俺も聞いた事の無いゲームだった。いや、蘭が知っていると言うことはマイナーでは無いのだろう。
「オーバートラッパー、まあ簡単に言えばソリティアのスパイダーを対戦で行うトレーディングカードゲームです」
「初耳なんだが、どれくらい人気なんだ?」
「そうですね。具体的に言うと、一昔前のヴァンガードだったり、タイ版のバディファイトくらいですかね」
「「めちゃくちゃ人気じゃないか!」!」
思わず口から声が出た。それは、人気度を現すにはとても大きすぎたからだ。逆に言えば、それを教えなかった蘭の自制が成長出来ていた事に関心もしてしまった。
部室が静かになり、生徒会長が驚きの表情から真顔に戻ると、改めて口を開いた。
「人数は、まあ仮設期間の二週間以内に見つければ良いと言う考え方だったが、当てはあるのか?」
生徒会長の疑問に、蘭が策士さながらの表情で答える。
「ええ、一人、考えが生まれました。ね、板山さん?」
蘭が言い終わると同時に後ろを振り返り、板山さんの方を向くと、板山さんは冷たい陶器で作られた仮面のような固まった表情でこちらをじっと見つめていたのだった。




