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GatePair: Link 〜【ブロック】すれば帰れる。──けれど、それは恋の切断だった〜  作者: 愛崎 朱憂
第二章:獣人編

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89/89

ep.89 [Side Y/異世界]Link: 猫又-14

 何で?

 何で笑ってるの?

 鈴ちゃん。ねえ、返事してよ。

「誰か!」

 自分の声だった。

「誰か、お医者さんを呼んで!」

 周りの人達が僕を見る。誰かが何かを叫んでいる。何を言っているのか分からない。

「早く! お願いだから!」

「分かった! 医者を呼んで来る!」

 男の人が走っていく。

 良かった。お医者さんが来る。それなら、鈴ちゃんは助かるカモ知れない。

 猫又だし。人間じゃないし。百歳だし。

 だから、きっと。

 僕は鈴ちゃんの頭を拾った。両手で持ち上げると、黒い髪が指に触れた。

 チリン。

「鈴ちゃん」

 返事は無い。

「お医者さん、来るからね」

 身体の傍に膝をつく。

 頭を戻せば良いのかな。元の場所に戻したら、くっつくカモ知れない。

 でも、どうやって?

 首の向きは? 間違えたら?

 僕は鈴ちゃんの顔を見る。未だ笑っている。

「……鈴ちゃん?」

 目を閉じない。瞬きもしない。

 でも、未だ助かるカモ知れない。

 僕は鈴ちゃんの頭を身体の傍に置こうとした。

「あいつだ! 捕まえろ!」

 顔を上げる。

 道の向こうで、フードを被った人が走っている。

 未だ見える。追えば間に合う。

 僕は立ち上がろうとした。でも、立ち上がれなかった。

 鈴ちゃん。

 鈴ちゃんを置いていくの?

 さっき、一緒に居ようって言ったばかりなのに。

 犯人を追う? 鈴ちゃんの傍に居る?

 どっち?

 どっちが後悔しない?

 分からない。

 僕は鈴ちゃんの身体を抱き上げようとした。着物の背中に腕を回す。

 持ち上がる。

 でも、鈴ちゃんの頭は?

 片手じゃ持てない。

 身体を抱えたら、頭を持てない。頭を抱えたら、身体を持てない。

 何で?

 何で、こんなことも出来ないんだよ。

「ユウキ!」

 誰かが僕を呼んだ。

 振り返らずに鈴ちゃんの身体を下ろす。頭を拾い、もう一度身体を持ち上げようとする。

 出来ない。

 フードの人が遠ざかっていく。

 見えなくなる。

 待って。

 待ってよ。

 僕は鈴ちゃんの頭を胸に抱いた。

 そして、走り出した。

「ユウキ!?」

 誰かが叫んだ。

 構わない。走る。鈴ちゃんを抱えて走る。

 フードの人を追い掛け、人混みを抜ける。

「危ない!」

 誰かにぶつかりそうになった。身体を捻って避け、鈴ちゃんを落とさないように抱え直す。

 チリン。

「鈴ちゃん、大丈夫だから」

 走りながら話し掛ける。

「直ぐにお医者さんが来るから」

 返事は無い。

「だから、未だ死なないで」

 チリン。

 腕の中で鈴が鳴る。

 良かった。

 鈴ちゃんは未だここに居る。僕と一緒に居る。

「きゃああああっ!」

 女の人が悲鳴を上げた。

 何? 何かあった?

 振り返ると、女の人が僕を指差している。

「首! 首が!」

 首?

 僕の?

 違う。鈴ちゃんの。

 そうだ。鈴ちゃんの首が。

「鈴だ!」

「鈴の首だ!」

「何してるんだ、あいつ!」

 皆が僕を見る。

 何で?

 僕は鈴ちゃんを助けようとしているだけなのに。

「誰か止めろ!」

 男の人が道を塞いだ。

「ユウキ! 止まれ!」

「退いて!」

「何してるんだ!」

「犯人を追ってる!」

「鈴はどうした!?」

「分からない!」

 男の人の横を抜ける。

「お医者さんを呼んで!」

「もう呼びに行った!」

「じゃあ、鈴ちゃんを助けて!」

 返事は聞こえなかった。

 走る。走る。

 息が苦しい。

 鈴ちゃんが重い。

 違う。

 軽い。

 こんなに軽かったっけ。鈴ちゃんって。

 もっと重かったよね。

 いつも僕に抱き付いて来る時。布団の中で僕の上に乗って来る時。

 あんなに重かったのに。

 何で?

 何で、こんなに軽いの?

 チリン。

 鈴の音がする。

 僕は腕の中を見る。

 鈴ちゃんの顔。笑っている。

 さっきと同じ顔。

 僕の返事を聞いた時の顔。

「……鈴ちゃん」

 涙が落ちた。鈴ちゃんの頬に当たる。

 慌てて拭おうとした。でも、両手が塞がっている。

 拭けない。

「ごめん」

 何に謝っているのか分からない。

「ごめんね」

 走る。

 フードの人は未だ見える。でも、遠い。

 もっと速く走ろうとした。

 その時。

 鈴ちゃんの身体は?

「……」

 足が止まり掛けた。

 身体。

 鈴ちゃんの身体。

 何処?

 何処にある?

 ……。

 置いて来た。

 あの道に。

 鈴ちゃんの身体を置いて来た。

「……あ」

 戻らないと。

 身体が無かったら、首を戻せない。お医者さんが来ても、身体が無かったら。

 でも、戻ったら犯人を見失う。

 もう追い付けない。鈴ちゃんを殺した人が逃げてしまう。

 どうすれば良い?

 何が正解?

 僕は鈴ちゃんの顔を見る。

 鈴ちゃんは笑っている。

 何で?

 何で、そんな顔してるの?

 僕、何も出来てないよ。

 助けられない。犯人も捕まえられない。

 鈴ちゃんの身体まで置いて来た。

 なのに。

 何で笑ってるの?

「……鈴ちゃん」

 返事は無い。

 道の向こうで、フードの人が角を曲がった。

 見えなくなった。

 追えば、未だ間に合うカモ知れない。

 振り返る。

 鈴ちゃんの身体がある方。

 戻れば、お医者さんが来ているカモ知れない。

 僕はどちらにも走れなかった。

 チリン。

 腕の中で鈴が鳴った。

 僕は鈴ちゃんの顔を見た。

「……どうすれば良い?」

 鈴ちゃんは、何も教えてくれなかった。

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