↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
GatePair: Link 〜【ブロック】すれば帰れる。──けれど、それは恋の切断だった〜  作者: 愛崎 朱憂
第二章:獣人編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

84/89

ep.84[Side Y/異世界]Link: 猫又-13

 道場を出る。外の光が少し眩しかった。


「鈴のユウキだ!」


 声がして、振り返る。子供達が走って来た。


「何?」

「さっきの見た!」

「壁斬った!」

「どうやったの?」

「何処で剣習ったの?」

「私にも教えて!」


 一度に喋られて、何を答えれば良いのか分からない。


「待って。順番に」

「鈴のユウキ凄ぇ!」

「だから、順番に」

「剣教えて!」

「僕、人に教えられる程じゃないよ」

「でも強いじゃん!」

「負けたよ」

「嘘!」

「本当」


 頭に竹刀が当たる前にリーニュを使っただけだ。あのままなら、普通に一本取られていた。


「壁も斬れるのに?」

「壁を斬る競技じゃないからね」


 子供達が笑う。困った。どうやって帰ろう。

 そう思って、何となく道の向こうへ目を向けた。木の幹から、黒い耳が少しだけ見えている。その下から、顔だけがこちらを覗いていた。


「鈴ちゃん?」


 黒い耳が動いた。子供達も振り返る。


「あ、鈴だ!」

「鈴ちゃん!」

「鈴のユウキ、凄かったよ!」


 鈴ちゃんは木の陰から出て来ない。僕は子供達の間を抜けて、近付いた。


「鈴ちゃん、どうしたの?」

「……」

「ずっと居たの?」

「ずっとじゃない」

「じゃあ、途中から?」

「……うん」

「何で?」


 鈴ちゃんが少しだけ顔を逸らした。


「鈴のユウキが喧嘩してるって聞いて――」

「助けに来てくれたの?」

「そ、そんなこと」


 鈴ちゃんは木の陰から出て、胸の前で両手を振った。


「助けに来た訳じゃない」

「ありがとう」

「だから、助けに来た訳じゃ――」

「違う」


 鈴ちゃんが止まる。不思議そうな顔で僕を見る。


「僕がお礼を言ったのは、そっちじゃないよ」

「何?」

「喧嘩してても『鈴のユウキ』って言ってくれたことに、だよ」


 鈴ちゃんが少し考える。黒い耳が動いた。それから、何かに気付いたみたいに目を見開いた。


「ち、違う!」

「何が?」

「そういう意味じゃない!」

「どういう意味?」

「皆がそう呼ぶから!」

「鈴ちゃんが言い触らしたんでしょ?」

「違う!」

「昨日、お寿司屋さんで聞いたけど」

「……」

「皆に言ったって」

「昔の話」

「昨日だよ」


 鈴ちゃんの尻尾が忙しなく動く。


「じゃあ、もう僕は鈴ちゃんのユウキじゃない?」


 動きが止まった。


「……」

「違うの?」


 鈴ちゃんは答えない。顔が少し赤い。僕はそれを見て笑った。


「良かった」

「何が?」

「ブロックしなくて」


 鈴ちゃんが僕を見る。


「僕、鈴ちゃんのこと嫌いじゃないよ」

「……」

「朝は、ごめん」

「何が?」

「鈴ちゃんの匂いが嫌だった訳じゃない」


 少し考える。


「でも、濡れてるのはやっぱり気持ち悪い」


 鈴ちゃんの眉が動いた。


「あ」


 言い方を間違えた。


「違う。そうじゃなくて」

「……」

「マーキングされるのが嫌なんじゃなくて、されたまま外に出るのが嫌なの」

「同じ」

「違うよ」

「同じ」

「違うって」

「同じ」

「じゃあ、どうすれば良い?」


 鈴ちゃんが黙る。


「僕は鈴ちゃんと一緒に居たい。でも、毎朝マーキングされたまま仕事には行けない」

「……」

「だから、二人で考えよう」

「二人で?」

「うん」

「ユウキが考えるんじゃなくて?」

「僕だけじゃ分からないから」


 鈴ちゃんが僕を見る。暫くして、小さく頷いた。


「……分かった」

「本当?」

「うん」

「じゃあ、帰ろうか」


 鈴ちゃんの耳が立った。


「帰る?」

「鈴ちゃんの家」

「……私の家だよ」

「知ってる」

「ユウキの家じゃない」

「昨日までは住んでたんだけど」

「今日、追い出した」

「じゃあ、戻して」

「……」

「駄目?」


 鈴ちゃんは少しだけ考えた。


「考える」

「厳しいなぁ」


 僕達は歩き出した。子供達が後ろから手を振っている。


「また剣教えて!」

「僕より道場の人に習った方が良いよ!」

「壁斬りたい!」

「それは習わない方が良い!」


 声を返す。鈴ちゃんが隣を歩いている。

 朝は一人だった道。今は鈴の音がする。

 チリン。

 それだけで、町が少しだけ元に戻った気がした。


「ユウキ」

「何?」


 隣を見る。


「さっきの剣、凄かった」

「見てたんじゃん」

「少しだけ」

「どこから?」

「壁が切れたところ」

「一番派手なところだけだね」

「ユウキが斬ったの?」

「うん」

「シルヴィに教えてもらった?」

「そう」

「……ふうん」


 鈴ちゃんの尻尾が少しだけ膨らんだ。


「何?」

「何でもない」

「シルヴィに嫉妬してる?」

「してない」

「してるでしょ」

「してない」

「耳動いたよ」


 鈴ちゃんが両手で耳を押さえる。


「耳見るの禁止」

「そんなルールあるの?」

「今出来た」

「じゃあ、尻尾見る」

「尻尾も禁止」

「鈴ちゃん殆ど見られないじゃん」

「顔だけ見て」

「それは良いんだ」

「うん」


 僕は鈴ちゃんの顔を見る。


「……何?」

「見てって言ったから」

「ずっと見なくて良い」

「難しいなぁ」


 鈴ちゃんが少し笑った。僕も笑う。

 朝のことなんて無かったみたいに。

 いや。無かったことにはならない。でも、それで良い。

 喧嘩して、考えて、また一緒に歩く。多分、それを繰り返していくんだと思う。


「ユウキ」

「何?」

「鈴とずっと一緒に居てくれる?」


 直ぐには応えられなかった。

 咲希。スタバの隣の席のあの人。シルヴィ。

 鈴ちゃんとずっと一緒に居る。それは、あの人達を全部捨てることなんだろうか。僕に、それが出来る?

 でも、誰となら全部を捨てても良いと思えるんだろう。そもそも恋愛って、全部を捨ててまで手に入れるものなんだろうか?

 ――GatePairは違う。

 相手の世界を選べば、自分の世界を捨てることになる。自分の世界を捨てて、それでも一緒に居たい相手を探す。

 それが、このアプリの前提なんだとしたら。僕はGatePairを使っていて良いんだろうか?

 分からない。

 でも、鈴ちゃんと未だ一緒に居たい。それだけは本当だった。

 ずっと一緒に居られるかは分からない。明日のことだって分からない。

 けれど、今、この瞬間は未だ鈴ちゃんと一緒に居たい。

 それで良いのカモ知れない。


 向こうから来た人と擦れ違う。

 鈴ちゃんの肩が少し揺れた。


「うん。鈴ちゃん、一緒に居よう」


 僕は前を見ていた。だから、鈴ちゃんへ視線を向けた。


 チリン。


 鈴の音。


 チリンチリン。


「……」


 何だ?

 鈴ちゃんが居る。着物。二又の尻尾。肩。

 でも、その上に何も無い。


「……?」


 首から上が無かった。


 何?

 何?

 何?


 音がする。


 チリン。


 足元に目を向ける。


 鈴ちゃんが居た。

 違う。


 鈴ちゃんの顔。

 さっきまで僕を見ていた顔。

 身体だけが、隣に立っていた。


「……」


 悲鳴が聞こえる。

 怒鳴り声も聞こえる。

 周りの人達が騒いでいる。


 僕は声が出ない。


 何?

 何が起こった?


 さっき擦れ違ったフードを被った人が走っている。遠ざかっていく。

 鈴ちゃんにぶつかった。

 それだけ。

 ぶつかって――

 鈴ちゃんの首が――


「……」


 身体が倒れる。

 受け止められなかった。膝から崩れて、地面へ倒れた。

 鈴ちゃん。

 生きてる?

 死んでる?

 助かる?

 首が無い。

 首が無くても助かる?

 猫又だから?

 百歳だから?

 人間じゃないから?

 分からない。

 どうすれば良い?

 首を戻す?

 拾う?

 血を止める?

 医者を呼ぶ?

 追う?

 逃げた人を追う?

 鈴ちゃんの傍に居る?

 何が正解?

 何が一番良い?

 何をすれば……。


 ――今、この瞬間に。


 何をすれば後悔しない?


 僕は動けなかった。


 地面に落ちた鈴ちゃんの顔を、ぼうっと見ていた。


 鈴ちゃんは、嬉しそうに笑っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。