表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
GatePair: Link 〜【ブロック】すれば帰れる。──けれど、それは恋の切断だった〜  作者: 愛崎 朱憂
第二章:獣人編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

76/82

ep.76[Side M/異世界]Link: 人狼-10

 次の日。

 胸の痛みは未だ残っていた。

 息を大きく吸うと少しだけ痛む。

 でも、昨日よりは楽だった。


 朝ご飯を食べ終えると、大和さんは腰に剣を差した。


「ちょっと行くところがある」


 私は思わず顔を上げた。


「どこに行くんですか?」


 訊いた後で、少しだけ後悔した。

 普段の私なら訊かない。

 誰にだって言いたくないことはある。

 場所を濁した時点で、訊かないでほしいという意味かも知れない。


 でも今日は違った。

 大和さんだから訊けた訳じゃない。

 ただ、知りたいと思った。


「森だ」

「森……私も行ってみたいです」

「危ねーぞ」

「でも……」

「俺が守ってくれると思ってんだろ?」

「はい」


 私は小さく頷いた。

 少しだけ恥ずかしかった。

 でも、大和さんは笑わなかった。


「……そういう約束だからな」

「約束?」

「行くぞ」


 それだけ言って歩き出す。

 私は慌てて後を追った。


 村を抜ける。

 畑を抜ける。

 昨日倒れた場所を横目に見ながら、更に奥へ進む。


 森は静かだった。

 鳥の声。

 葉が揺れる音。

 踏み締める落ち葉の音。

 どれも灯京では聞いたことがない音だった。


「薬草ですか?」

「違う」

「狩り?」

「違う」

「秘密ですか?」

「秘密ってほどでもねぇ」


 その返事だけで終わる。

 私は少しだけ笑った。

 やっぱり説明は少ない。

 でも、嫌ではなかった。


 歩き慣れている道なんだと思う。

 迷いが無い。

 枝を避ける動きも自然だった。


 暫く歩くと、小さく開けた場所へ出た。

 風が止まる。

 木漏れ日だけが静かに落ちていた。


 その真ん中に、小さな墓石が一つあった。

 周りの草だけ綺麗に刈られている。

 花も新しい。

 木の器には、澄んだ水が入っていた。

 誰かが、ずっと手入れしている場所だった。


「……お墓ですか」

「あぁ」


 大和さんは墓石の前へ歩く。

 慣れた手付きで花を替え、水を入れ替え、墓石を布で静かに拭いた。

 何度も繰り返した動きだった。


 私は何も言えなかった。

 全部が自然だったから。


「誰のお墓ですか?」


 大和さんは少しだけ墓石を見つめた。


「永遠名だ。永遠の名前」


 私はその名前を心の中で繰り返した。


「永遠、名……」


 ──日本人の名前。


「もしかして……私と同じ」

「あぁ」


 大和さんは静かに頷いた。


「リンクした」


 私は思わず息を止めた。


「いつですか?」

「五十年前」

「五十年!?」


 思わず声が大きくなった。


 五十年。

 五十年前。

 そんな昔から。


 大和さんは少し照れたように笑う。


「女々しいだろ?」

「……いえ」


 本当にそう思った。

 女々しいなんて思わない。


 五十年も忘れられない人がいる。

 その重さを、私は想像も出来なかった。


「先に言わなきゃいけなかったな」


 大和さんは立ち上がった。

 でも、墓石からは目を離さない。


「俺は永遠名を守れなかった」


 静かな声だった。


「だから、死ぬまで毎週、永遠名に謝りに来る」


 五十年。

 毎週。

 その数字が頭の中で何度も重なる。


「けれど、美憂」

「はい」

「美憂を蔑ろにする訳じゃねぇ」


 私は顔を上げた。


「美憂は生きてる」

「……」

「俺と一緒に今を生きてる」


 その言葉は真っ直ぐだった。

 誤魔化しが無い。


「そして、もし美憂が良ければ──」


 大和さんは少し俯く。


「俺との未来も、あるかも知れねぇ」


 胸が少し熱くなる。

 昨日とは違う痛みだった。


「けど、永遠名は過去で、俺の後悔だ」

「……はい」

「過去の後悔があるから、今の俺が居て──」


 大和さんは少し考える。


「未来の俺が居る」


 それから大きく息を吸った。


「だから……」


 少し黙る。


「だから……だから……?」

「?」

「何、言いたかったか分からなくなった」


 私は吹き出した。


「……ぷっ」

「笑うな」

「すみません」

「あ」


 私は口を押さえた。


「また謝りました」

「癖だな」

「直します」

「それも癖だ」


 私はまた笑ってしまう。

 大和さんも少しだけ笑っていた。


 そうだ。

 今ここに居る大和さんは、五十年前を置いて来た人じゃない。

 五十年前を抱えたまま、生きて来た人なんだ。


 永遠名さんを忘れた人じゃない。

 忘れられなかったから、今の大和さんになった。

 だから私は、この人を今日初めて知った気がした。


 森を吹き抜ける風が、花を少しだけ揺らした。

 まるで誰かが、小さく笑ったみたいだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ