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GatePair: Link〜【いいね】で始まる異世界マッチング〜  作者: 愛崎 朱憂
第二章:獣人編

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ep.56[Side H/現代]No Link-02

 四月十八日の土曜日。

 今日は一カ月振りに恋人に会う。


 大学二年生の頃から付き合い始めた、一つ年上の佐伯湊(サエキミナト)だ。

 湊は社会人二年目になる。


 四月は私が入社してバタバタしていたため、中々連絡が取れていなかった。

 付き合って三年近くになる湊としても、会えないなら会えないで大学時代の友達と遊んでいるようだ。

 私が居なくても、世界は楽しそうに回っていく。


 今日は、仕事も落ち着いてきたので両親に何かプレゼントを買おうと思っていた。

 だから、横浜駅で十時に待ち合わせをすることになっている。


 朝七時に起き、買っておいたヨーグルトを食べる。

 洗濯機を回して、お風呂に入る。

 化粧水、乳液、ヘアトリートメント……諸々のメンテナンスを終え、着替えた頃に洗濯が終わる。

 いつもの流れだ。


 メイクをし、髪をアイロンでストレートに……バッグの中身を確認して、家を出る。

 九時。時間ピッタリだ。

 工業街口駅から臨海ターミナル駅まで凡そ三十分。


 今日は、ルミナスの近くのCA4LAで待ち合わせだった。


 所謂、『待ち合わせ場所』と言われるところで待ち合わせをしていると、知らない男の人から声を掛けられることが多いので、いつもどこかのショップ内で待ち合わせをすることにしている。


 自分のルックスに自信がある訳では無く……丁度良い顔。

 私自身、強く断ることも出来ないので、大抵の場合、私が困るのだ。


 CA4LAでキャスケットを試着していると、LINEが通知を寄越す。


『すまん。今、起きた』


 いつものことだ。


『家を出たら教えて』


 返事を返して、鏡を見る。


 中々どうして、可愛い。

 小振りのクラウンが私に合うと感じた。


 白色も試す。

 少し違う。

 白というより、黄みがかっているのかも知れない。


『わかった』


 返事を確認し、既読を付ける。

 『気をつけて』のねこぺんスタンプを返す。


 水色のベレー帽も気になる……手に取ろうとすると、黒の前髪を短く揃えたボブヘアの女性が声を掛けてくる。


「そちら、DANNYですね。定番のベレー帽なんですよ」

「そうなんですね。でも、私、ベレー帽を持ってなくて……」


 そう言うと、スタッフさんは。


「試してみますか?」


 私はベレー帽をスタッフさんに渡す。


「ベレー帽は、被るのが難しいんですが……ホラ」


 そう言って、鏡を見るよう促す。


「……可愛い」


 思わず、口に出た。

 スタッフさんも笑顔で「お似合いですよ」と言ってくれる。


 鏡を見ながら、顔を横に向けたり、上に向けたり、下に向けたり。

 パステルカラーの水色がブルーベースサマーの私に似合っている気がした。


──あぁ、これはダメだ。欲しい。


 ベレー帽を脱ぎ、値札を見る。

 八千円か……両親のプレゼントを取るか、ベレー帽を取るか。


「来月、また見に来て良いですか?残ってたら、検討させてください」


 そう言って、スタッフさんにベレー帽を返す。

 スタッフさんは、笑顔で。


「勿論です。定番商品なので、もし在庫が無くても、取り寄せることも出来ますのでまた寄ってくださいね」

「ありがとうございます」


 私も笑顔で返す。

 とても素敵な女性だなと思った。

 やはり、『大人の他人』は優しいみたいだ。


 湊からの連絡は無い。


 私はCA4LAを出、そのままルミナス一階の帽子売り場の入り口を抜け、化粧品売り場に入った。

 お母さんへのプレゼントに香水を、と考えていた。


『今出た。11:20には着く。ごめん』


 既読をつけて、香りの紙を三本、手に持つ。


 一本目に小さく『フローラル』、二本目に『シトラス』、三本目に『ムスク』。


 確認の時間を置く。

 香りは、待つほど分かる。


『ルミナスの香水売り場にいるよ』


 湊が小走りで来た。

 息を切らして、ポケットからミンティアを差し出す。


「遅れた。ごめん。お母さんに?」


 私は言葉に頷き、手でミンティアを拒否する。

 湊は軽く笑って、一歩近付く。


「で、結論は?どれにする?」

「今、少し飛ばしてて……」

「じゃあ人気のやつで外さないやつ。店員さん、どれが――」


 スタッフさんが柔らかく笑う。


「お母さまの普段の香りや苦手な系統、ありますか?」

「甘いのは苦手。朝に一噴きだけ、多分」


 答えると、湊は腕時計を見た。

 踵が少しだけ浮く。


「十五時に友だちと……ごめん、今日詰め込み過ぎた。ランチも食べたいし。なんでそんなに時間かけるの?って言いたいけど……ゆっくりでいい」


 私はムエットを鼻先に順に寄せる。

 一つ目、華やか過ぎる。

 二つ目、朝に軽い。

 三つ目、夜向き。


「ここでは決めない。二階のマルジェラ見たい」

「オーケー、行こう」


 ガラスに照明が透ける。

 Maison Margiela “Replica / Lazy Sunday Morning”。

 リネンみたいな清潔さが立ち上がる。

 湊が香り見本用の黒いセラミックを手に取る。


「これ、君のお母さんが苦手って言ってた金木犀じゃないね。大丈夫そう」


 覚えていたということが、胸に触れた。


「これにする」


 スタッフさんの包みのリボンを結ぶ手が綺麗だった。


「次、お父さん用は?」

「SABONのファブリックミスト。服に一吹き出来るやつ」

「了解。SABONって……一階か」

「ごめん」

「いいよ。俺が遅れたのが悪いんだ」


 湊は自然に紙袋を受け取る。

 エスカレータの手摺りを、人差し指で二拍だけ叩く癖が出る。

 時間が気になっている合図。


 一階のSABON。私はホワイトティーをムエットに着けてもらい、香りを嗅ぐ。

 湊が私の横顔を見て、苦笑する。


「やっぱ『確認の人』になったね」

「うん。急かされると、選べない」

「俺はすぐ選びたいタイプ。歩幅が違うのかもな」


 小さく笑った後、彼は言葉を探して、それでも纏めてしまう。


「結論は?」

「これ。お父さんにはホワイトティー」


 レジを終えて、階段から二階に上がる。

 通路の端。エレベータ前のベンチは空いていた。


「湊。四月、ずっと思ってた。私、『待ってほしい』って、やっと言えるようになった」

「仕事で?」

「ううん。全部で。私の速度が、一つしかないから」


 湊は紙袋の持ち手を直し、視線を落とす。


「就活のときも、日菜(ヒナ)はそうだった。時間を置いて、正解に寄せる人。……多分、俺は今が多い」


 静かに頷いて、言葉を出す。

 胸の内側で小さく、からんと鳴った。


「別れよう」


 湊は目を細めた。怒らない。


「何で、は訊かないほうが良いか」

「確認の間を、いつも奪われるから。私、上手に急げない」

「了解。既読、ね。俺の悪い癖だな。……直すのは次の相手でやるよ」


 短く笑って、紙袋を私に返す。


「ミンティア、持ってきな。……社会人、頑張れ」

「ありがとう」


 湊の背中が人混みに解けた。

 私は紙袋、マルジェラの文字を指でなぞる。


 呼吸が一つ落ちて、歩き出す。


 家に帰ったら、母に一本。

 父のジャケットに、一吹き。


 そうして、私は泣こう。

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