336.思い出した事
水の中…黒い、何か……すごく、怖かった…。
引きずり込まれると、思った…。
「池に落ちた時、見た…あれが、隆延…?」
自然と口から出た言葉に、自分でも驚いた。
池に落ちた時に見た事もそう…。
あの池、足首ほどの深さしか無いのに何で沈んだの?
……まぁ、神様の力か何かに決まってるか。
〖よく、思い出してくれた…。〗
〔結希の記憶を覗いた時に少しだけ見えたから、
頑張れば思い出せる記憶だと思ってたんだ。
あの場所こそ怨霊の封じられている場所であり、
全てを終らせる事の象徴となる場所…。〕
……いや、なら最初から言えばいいじゃん。
これが全てで心からの本音…なのだが、
同時に“神様からは言えない事”なんだろうとも思った。
私が、私の意思で、私の行動で、知るべき事なんだと。
なんて迷惑な、なんて面倒くさい話…。
私に対しての水神様の口ぶりだと、絶対に知っていた。
それなのに、今までずっと黙ってたって事?
「え、よくずっと黙っていられたね。」
その事自体は、別に怒っているわけじゃ無い。
逆に感心してしまったのだ。
あの水神様が今まで黙っていられたって事実に。
よくポロリしなかったな…と思い、つい言ってしまった。
〖何だ急に…失礼だろう!!〗
「「〔そんなわけはない。〕」」
〖………。〗
この件は散々やったからもう流していい。
それに私は嫌みで言ったわけでもないし、
皆同じ思いでいるみたいだから。
重要なのはこっち。
神様達は知ってて黙ってた…のはわかった。
今まで素知らぬ振りで私の側に居たことだろう。
それを今、私がようやく知ったという事。
何度も言うが、別に怒ってはいない。マジで。
ほぼ無意識で言った事だけど、
本当にあれが…隆延なんだ。
あんなの、あんな…バケモノみたいなのって…。
「もうあれ、怨霊じゃないの?
私っていうか、義伯父さんで…対応できるやつ?」
「義兄さんねぇ…。どうだろう?一応、宮司だよ?
え、そんなにヤバいやつなの?僕見てないけど…。」
「ヤバい。ヤバいどころじゃない。
私…池の底にいる黒いものを見た時、
『あ。死ぬ』って…思ったもん。手が…伸びてきて…。」
思い出すと震える体を摩りながら、そう言った。
池の中で動けない状況も相まってたんだろうけど、
あれに引きずり込まれたらもう戻れない。
…そんな感じがしたのだ。
それにしても…、
さっきから神様達は何をしてるんだろう?
ずっとコソコソしながら喋り続けているけど…。
そんな気持ちでいる私の視線に気づいたのは、
瑞樹様だった。
〔結希…あの…、話を、聞いてくれるか?〕
恐る恐る私に尋ねる姿には、いつもの覇気がない。
何を気にしてるのかは知らないけど、
重要な話なら大歓迎だ。
「何?」
〔隆延の事…。
結希に、思い出してもらった事…なんだがな?〕
「うん。」
〔水神は…最初の頃は、忘れていたそうなんだ…。〕
「その話はもう終ったと思ってたんだけど…、で?」
〔いや、知ってて側にいたってわけじゃない…らしい。〕
そんな事は、どっちでもいい。
大方、私が知らぬ間に何か言ったんだろう…。
それについての…弁明。言い訳、かな。
でも知ってて黙っていようが、忘れていただろうが、
どうせ“私には話せない事”には違いないだろう。
……ちょっと待って。
自分で封印しておいて忘れていた…は無いだろう。
言い訳するな!…と全否定するわけじゃ無いけど、
流石にこれは酷いんじゃない?
封印って意識的にやるものでしょ?
私達にかかる3つの呪いを杭にするくらいだしさ…。
それとも無意識でやったってか?そんな馬鹿な…。
でもそんな問答している暇はない。
私はさっさと済ませて終らせたいんだから…。
「別にどっちでm「そんな無駄話はいい。」…?」
…いつになく怖い叔父の声。
適当に流そうとした私の言葉を遮り、続けて言った。
「人に全てを押し付けておいて、
忘れていただなんて馬鹿な言葉で済ませるな。
水神の封印がある以上、『忘れていた』はおかしいだろうが!」
………思った事、全部言ってくれた。
でも面倒くさいから黙ってたんだけど…とは言えない。
それに私のためと言うより、
本人が神様の態度にイラついただけだろうし。
“様”まで消えちゃってるし、
変に止めるより黙って聞いておいた方がいいか…。




